第二話 7
サンタ・クロース制度は崩壊した。同時に増え過ぎたナイトメアを処理しきることができず、人々は次々と死んでいった。
あの日の直樹の言葉は、このことを指していたのかもしれない。俺は今も一人、ナイトメアと戦い続けている。しかしもう何日も、他に人を見ていない。みんなみんな、死んでいった。
ある時を境に、ナイトメアに取り付かれていない人さえ死を選ぶようになった。また、自らナイトメアに取り付かれることを望む人も少なからずいた。彼らは皆、笑っていた。
あの日からちょうど五年、誰一人として祝う事のないクリスマスがまたやって来た。迫りくるナイトメアを見境なく倒し続けても、終わりは見えない。やがて体力が底をつき、その場にへたり込む。
「なあ、俺は何で戦っているんだ?」
奴らにそう問いかけてみたが、返事は無い。
しかし諦めて目を瞑った時、遠くから懐かしい声が聞こえた。あの日、大切にしたかった声、あの日、愛おしいと感じた声、あの日、手放してしまった声。ああ、そうか、戦う意味なんて、最初からなかったのかもしれない。ただ、強いて言うならば、よりよくその日を迎えるためのものだったのだろう。だから、そう……。
○
「……どうでしたか? 堂嶋さん。私の作った転生世界は」
私はそれなりの自信をもってそう訪ねてみたのですが、彼からの反応は予想していたものよりも大分ひどい物でした。
「何というかさ……たぶんこの気持ちを最も正確に表す言葉は、全然分からない、だと思う」と堂嶋さんは言います。
「え? それは申し訳ありません……。あの、具体的にはどの辺が」
私には悪い所が全く見当つきません。ええ、実際に口で言うのは憚れるのですが、私はこれ以上ない自信作としてこの世界に彼を送り出したのです。設定、キャラクター、世界観及び雰囲気、どれをとっても今までにない世界でしょう。
「うーん、何と言うかまず、何でサンタを題材にしたの? これ別にサンタじゃなくても何とかなったよね」
「えぇ、そこは重厚な世界観とファンタジー要素の融合という真新しさを求めた結果ですよ」
当然理解しているのだと思っていました。
「それに、何で人がポンポン死ぬのかな、それも意味深長なセリフを残して」
「ええっとですね」
申し訳ありません。そればかりは精査してみると私の趣味としか言えません。
「そして最後に、果たしてこの世界に転生したとして喜びがあるかどうか、という所だよね」
「はぁ」
言われてみればそういうものなのでしょうか。
「私としては、あれは最後ハッピーエンドなのですが……」
「え! そうなの? ……どの辺が?」
「まあ、平たく言うとあれは最終的に生、社会、役割、そういったものからの解放を表したラストですね。目的も無く生きる人が多い昨今、それを改めて考え直し、自身を見つめ直し……え? 伝わっていませんでしたか」
「うん、まあ、全く理解できなかった」
そう彼に言われてしまい、私は大層気が滅入ってしまいました。これ、私のどこがいけなかったですか