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第二話 6

       ――現在――



「なあ」と直樹は言いかけたが直ぐに「いや、何でもない」と自己完結した。


「なんだ、気になるじゃないか」と俺は問い返した。


「いや、……そっちには敵影が無いよな」


 そう聞かれ辺りを見渡してみるが、やはり敵の姿など無い。


「周りには居ないな。……やはり変か?」


「いや、だったら良いんだ。気にせず配達を続けてくれ」


 直樹の反応はどことなくおかしいように思えたが、こちらからそれを判断する術は無いためとりあえず言われた通りにすることにした。


 東京の虚空を少しでも埋めるべく、直樹とは他愛も無い話をし続けていた。最近見た映画の事、テレビタレントの話、大学で学んだ学問について……。そんな矢先、唐突に直樹はまた風変わりな問いを投げかけてきた。


「なあ、ナイトメアってのは何で現れると思う?」


「どうした、突然」


「いや、何となく気になったんだ。子供の頃に愛情が不足して、そのまま大人になってしまうとナイトメアが生まれる。俺らはそう習ったし、それが社会の常識とされている。でもな、だったら何でナイトメアは俺らを襲うんだ?」


 直樹はそう言ったが、俺にはその意味が良く分からなかった。いや、正確に言えば、言っていることは理解できたのだが、それに同意の意志を示し、自身の考えの中に組み込むことができなかった。


「奴らが何で生まれたのか、その理由が何にせよ、襲ってくるからには倒すしかない」と俺は言った。


「ああ、そうか。そうだな。すまないな、変なこと言って」


 まったくだ。その言葉はあえて口に出さなかった。



 最後のプレゼントを配り終えた時、直樹から新たな指令が入った。


「なあ、良く聞け、今から本部には戻らず、そのまま東北地方へ向かえ。できるか?」


「……できるかどうかと聞かれたら、もちろん可能だが、どうしてだ?」


「どうも向こうの方でナイトメアが大量発生しているらしい。だからお前はそっちの援護を頼む」


「……そうか、分かった」と俺は言った。「今までこんなこと無かったのにな」


「ああ、本当にな」と直樹は言った。「東北地方に行くとこちらからは指示を出せない。だから東北支部の指令に従って行動してくれ」


「分かった」


「あと……、これから色々大変かもしれないが、俺を恨まないでくれよ。これも仕事の内なんだから」


「……初耳だな。お前が仕事熱心だったとは」


「へっ、勝手に言ってろ。……ただ、お前の言う通り、俺はやっぱり適当な仕事のほうが性に合うよ」


「違いないな」


「あまりマジで言うなよ。まあ、俺は他にやることあるからあとは適当にやってくれ」


 直樹はそう言うと一方的に回線を切った。


「はぁ。くっそ、寒いな」


 一人ぼっちの東京の空は、どこまでも透き通っていて、俺の小さな独り言さえも遠く遠く響き渡らせた。その声が水平線の彼方へ消えると、後に残るのはほんの少しの物音だけだった。上空から聞く東京の声は、あの日のホワイトノイズのように一定で、静かで、耳に痛かった。



 指示に従い東北まで行ったのだが、道中、到着後、どこにもナイトメアは居なかった。しかしながら東北支部の建物内は妙に騒がしく、皆が皆慌ただしく走り回っていた。


 職員の一人に声をかけ状況を聞くと、そこで初めて、東京本部がナイトメアによって陥落されたと知った。


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