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結婚式2

地下に入ったであろう場所に目的地はあった。


途中の螺旋階段にも重厚な扉があり、その都度ルシフルエントが特殊な魔法を唱え、開ける。


魔法のランタンがあるため明るいが、あまり気持ちの良いところではない。


ルシフルエントから伝わるぬくもりが唯一の救いだ。


「なあ……まだ奥があるのか?」


「なんじゃ?おまえ様……もしかして怖いのか?」

ふっ!と鼻で笑う。


「まあ、気持ちの良い所ではないわな……少し寒気もする」


「まあ、そうじゃろう……ここは墳墓じゃ」


「墳墓?」

聖域と言ったり、試練と言ったり、墳墓と言ったり……一体ここは何なんだ?


そんなことを考えていると、ひときわ大きい両開きの扉が見える。


「!!」


扉の隙間から禍々しい魔力放出も見えた。

俺なんかの一般人が見えるぐらいの魔力放出は非常に珍しい。


『前に見たのは……大魔導師ホルス様の時かな?』


俺は少し身構えた。


「安心せい。おまえ様。ここは魔族の聖域。代々の魔王が眠る墳墓じゃ」


「え?」

俺は言葉を失う。


ルシフルエントが扉に手をかざし、短く呪文を唱える。


すると、扉が開いた。


扉からはすさまじい魔力の放出が起こる。


「クッ!」

俺は目を瞑った。


本当に手を繋いでいて良かった。


この暖かみがなければ倒れそうな勢いだった。


「おまえ様!?大丈夫かえ!?おまえ様!!」

ルシフルエントはこちらに向かって問いかける。


俺はゆっくりと目を開ける。


「ああ……大丈夫って!……なんだ!……こりゃ」


心配するルシフルエントの顔に安堵したのもつかの間、目の前に広がる光景は俺の想像を遙かに超えていて驚く。


そこには巨大な木の根が生えていた。


その木の根に飲み込まれるように何体かの魔族の石像が食い込んでいる。


しかし、その石像は非常にリアルで、まるで生きているようだった。


「こ…これって」


「そう……歴代の魔王ルシフルエントじゃ。そこの真ん中の格好付け取るのが妾の父君。先代の魔王ルシフルエントじゃ」


そこには確かに拳を天に掲げている巨大な二本の角を生やした魔王然としたフルプレートの男が石像になっていた」


「父君の本当の姿は巨大な鬼での。身長はおまえ様の3倍はあった。しかし、母君に義理立てして、人間の男の姿を好んでしておった。大元帥ホホロンはいつも嘆いておった。人間なんぞに義理立てしてっとな。でも……」


ルシフルエントの独白は続く。


「でも……妾はそんな父君が大好きだったのじゃ。しかし、100年前の勇者に深手を受け、魔王の定めとして、ここに眠ったのじゃ」


「この木は……一体」


「これは魔族の地を守護するマナの木。魔王はこのマナの木を守護する代わりに強大な魔力を得る。そして、マナの木の洗礼を受けた各魔族も強大な魔力を得るのだ」


「しかし……なんで、石像なんかに」


「マナの木はその膨大な魔力と引き替えに贄を必要とする。代々魔王の血筋はその贄の血筋でもある。最後はあのように石像にならんといかん運命なのじゃ」


「でも……勇者に倒されたりしたこともあるだろう?そのときはどうなるんだ?」


「マナの木が守護する地域が少なくなる。それはその地域に住む魔族の死に繋がる。先ほどの本をよく見るといい。人間の支配地域が広がっておるじゃろう?そういう結果になるのじゃ」


やっと、魔族の内情が分かった気がする。部族の結びつきが強いのも、ルシフルエントが自動的に魔王になるのも。


「まあ、父君はよく『魔王なんて悪者みたいで嫌だ。俺は魔族の長だ!』と言っておった変わり者でな。人間とよく交流しておった。だから、最後も人間の姿で逝ってしまった」


「なるほど……あの姿にはそう言う意味合いがあったのか」


「父君は妾にも、自由に生きろと言ってくれてた。大元帥ホホロンは苦虫を噛みつぶしたような顔をしとったがな!あっはっは!」


「ハハ!」

俺は大元帥ホホロンの顔を想像して少し笑った。


「さて、思い出話はあとでじっくりするとして、重要なことしないといかん!」

ルシフルエントが改めて俺の顔をみて言う。


「なにをするの?」


「結婚式じゃ!」


「え!?け……結婚…式?」


「そうじゃ。魔族には残念ながらそう言う風習は無い。しかし、書物に寄れば人間世界ではあると言うではないか。妾は父君の前で結婚式をしたいのじゃ!」


「結婚式って……もっと大勢の人の前でするもんじゃないかなぁ?」


「残念ながらそれはできん。このマナの木の場所は代々魔王の口伝によって伝承される門外不出の聖域。おまえ様以外の人間を連れてくることぞなぞ不可能じゃ。……それとも、嫌か?妾と一緒になるのは?」

潤んだ瞳で俺を見つめるルシフルエント。


俺は頬を緩めルシフルエントの肩を抱いて語る。



「俺は……ルシフルエントの事が好きだ。だから、俺の嫁になってくれ!」



俺はハッキリと、力強く言った。


ルシフルエントは最初は驚いていたようだが、次第にその瞳から大粒の涙をポロポロと零す。


そして、袖口で涙を拭きながら笑った。


「なんじゃ?おまえ様。いきなり大声をだされるとビックリするであろう?」


「プロポーズのつもりなんだけどな……普通、結婚前にはするものなんだよ。大体男性の方から女性に対して……」

俺は無性に恥ずかしくなって天井を見ながら頬を掻く。


「そうなのか!?それは知らなんだ。そうか……そうか……妾はプロポーズされたのか……嬉しいのう」

ルシフルエントは大粒の涙を更に零す。



「受け取ってくれるかな?」


「もちろんじゃ!」


ルシフルエントは俺に抱きついた。



そして、見つめ合い、キスをした。



それは、長いようで短い時間であったが、俺たちは父親の前で誓い合った。

ルシフルエントを娶ることを。



しばらく抱き合あっていたが、急にルシフルエントは離れる。


「さて、おまえ様。これは指輪の代わりに受け取って欲しい」


俺はルシフルエントが行った方向を見る。


そこには、禍々しい魔力を放つ剣がマナの木に刺さっていた。


「魔剣ルシフル。代々魔王を継ぐ者のみが持つことが許される魔王の剣」


「それは……名前を継ぐルフェちゃんが持つべき物じゃないのか?」


「妾は嫌じゃ。こんな物、持っておっては可愛い奥さんになれん!」


俺は苦笑いを浮かべる。


「安心せい。石像にはならん。魔剣の所有者と贄の血筋は別物じゃ」


「でも……」


「この魔剣を持つ者は絶対的な力を手に入れる。あの光の聖剣なんかにも負けんぐらいにな。だから……おまえ様に持っていて欲しい。この力を使って、必ず生きて帰ってきて欲しいからな」


「わかった」

俺は、ゆっくりと剣を引き抜いた。


「……!!」

何かが体の中に入ってくる感じがする。


禍々しい魔力が体を駆け巡る。


『不思議な感じだ』

ふわふわとした感覚だが、体の底から力が吹き出てくる。

絶対的な力の固まりが体の中に融合したようだった。


「おまえ様?大丈夫かえ?」

ルシフルエントは心配そうに見つめる。


「ああ。大丈夫だ。じゃあ、俺もこれをルフェちゃんに……」


そう言って、俺は左手薬指にはめていたアダマンタイトの指輪をルシフルエントの左手薬指につけた。


「いいのか?」


「ああ。これは俺の母親の形見だ。マジックアイテムでもあるからサイズは大丈夫だと思うけど……大丈夫?」


「ああ!ぴったしじゃ!一生外さん!アハッ!」

ルシフルエントは左手を高く上げて、指輪をのぞき込む。


そして、子供のように笑った。



魔族の聖域で挙げる二人だけの結婚式。

こうして、俺たちは夫婦になった。

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