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エピローグ

 戦いから数か月たった。


 講和と、4か国の国際法廷も無事に終わってハウント達不穏分子も裁きが下り、極刑とはいかなかったものの、それ相応の禁錮刑や流刑などの処罰が下り、二度と政治に参加できなくなった。


 それと並行して、滞っていた内政……特に、元魔界の開放が進み、イスポワール王国もようやく普通の国として動き始めた。


 しかし、マナの木から放出される魔力の影響かそこまで人間の転入は進んでいない。

 まあ、一応平和な世の中になったので時間をかけて発展していってくれればと思う。



 うれしい話題が二つある。


 一つはルシフルエントに待望の第一子、ホロン王子が生まれた事。

 それはもう溺愛っぷりが半端なく、俺はいつも苦笑いを浮かべている。


 あと、二つ目はアルシュタインも懐妊しているということが分かり、二人は日々ママ友談義に花が咲いている。



「な~んで、私にはコウノトリが来ないのかしら?」

 ココは肩肘をついて二人のうれしそうな光景を眺めている。


「まあまあ……私もいないっすから!!」

 リリーがそんなココの背中をバンバンと叩く。


「イタッ!ちょっと!痛いわよ!!というか!あんたまだ寵愛を受けてないでしょ?できるわけ無いじゃない?」


「ちょうあい?……そういえば、そうっすね。でも、親父曰く、チューや近づいただけでも子供ができるって言ってたっす。それならあるっすよ?」


「バカッ!そんなんで子供ができるわけないじゃない!!アレよ!!…その…」

 ココは急に顔を真っ赤にして押し黙った。


「アレ?……ああ!あのスーモーウっすか?いや~あんなドッタンバッタン大騒ぎしないといけないなんてめんどくさいっすね~」


 両手を頭の上にのせて背伸びをするようにリリーは呟いた。

そんな時、いつの間にか近くにいたゼロがココに向かって語る。


「ロリおんなは遺伝的に着床しにくい体の構造をしている。しかし、周期法の確立やマスターの頑張りしだいで自然妊娠は可能」


 ココはジト目でゼロを睨む。


「ロリおんなって……私のこと?」


「おんなではなかったか?私のバイタルチェックではそのような数値が出たが……もしや、この世界では男という可能性も!?」


「お・ん・な・よ!」


「周期法?よくわからないっすね~……まあ、適当に頑張れッす!」


「あんたも頑張るのよ!!」


「へいへ~い!……まったく、姉御はうるさいっすね~」

 リリーは聞こえないように小さい声で呟いた。


 平和になったギルムアハラントでは日々このようなどうでもいい会話が繰り広げられていた。



◆  ◆  ◆



 マウントシュバッテン王は4か国の盟主として矢継ぎ早に政策を打ち出し、実行していた。

 その様子は傍から見れば、鬼気迫る勢いで何かに取りつかれたように仕事に打ち込んでいた。


 そのおかげで4か国の国際協調スキームが実施され、オラステア大陸北部国家連合経済圏ともいうべき強固な枠組みが完成された。


 その骨子は自由貿易の推進と通貨の統合である。

 経済によって結びつきを強め、強国同士の自滅を防ごうというのが狙いだ。



 一つだけうれしい話題がある。


 マウントシュバッテン王とルビン皇帝の婚約が決まったことだ。


 今後の両国家の枠組みがどうなるかはこれから決めるらしいが、政略ではなくお互いの思いが成就しての婚約という話だったので、俺としては素直に喜ばしいことだと思った。



 そんな時、マウントシュバッテン王は視察と称してギルムアハラントにやってきた。


「やあやあ!調子はどうだい?モルト城で会って以来だから……3か月ぶりかな?」

 護衛を引き連れたマウントシュバッテン王は、いつもの調子でそう言った。


 いくさが終わった直後、マウントシュバッテン王はユリア様を守れなかったことを悔やみ憔悴がひどかった。

 毎晩うなされていたようで、家臣団もかなり心配していた、


 しかし3日後、突然起き上がり遅れを取り戻すように仕事に打ち込みだした。


 その姿はまさに鬼気迫る勢いで、筆頭執事でさえいつ寝ているかわからないほど昼夜を問わず仕事をしていた。

 また、家臣からの話によれば、ユリア様の名前を一切言わなくなり、まるで最初から居なかったかのような口ぶりらしい。


 俺たちが3か月前、ハウントを裁く国際裁判で会ったときは、すこしやつれてて目の下のクマがひどく大丈夫だろうかと心配したが、今はそんな風には見えなかった。



 順調に視察を済ませたマウントシュバッテン王は、ギルムアハラントの応接室でナナちゃんが入れた紅茶を優雅においしそうに飲んでいる。


「しかし……ホロン君の誕生とアルシュタインのご懐妊はめでたいことだねぇ~。こんど御祝いを贈るよ」


「ありがとうございます。こちらこそ……ルビン閣下とのご婚約、おめでとうございます」


「ありがとう。本当はルビンもこの視察に来たがってたんだけど……帝国のゴタゴタがまだ収まってなくてねぇ…伝えとくよ」


「そうですか……」


 帝国は長らく鎖国状態だったので開放政策の余波で混乱が続いている。

 しかし、グレートアルメラント王国やアスラムル宗主国の経済援助、ルビン皇帝の先進的な経済政策によって雇用や国民所得が上向きになり始め混乱も徐々に沈静化してきている。


「帝国の科学力は非常に特筆すべきものだ。知ってる?帝国が短期間にゴール平地に50万人も兵力を集結できた理由を?」


「いえ……魔法ですか?」


「ブッブー!正解は、内燃機を利用した『鉄道』という交通機関を使って大量に人を運んだんだ。あれはすごいよ!速さでは魔法に劣るけど、何百人という人を同時に移動できるんだ。帝国にはそういう技術が山のようにある。非常に面白い!」

 大げさな身振り手振りでキラキラとした笑顔のマウントシュバッテン王は語った。


 王の言葉に「へ~!」と感心している俺たち。

 しかし、俺の隣に座るルシフルエントが優雅に紅茶を飲みながら別のことを語りだした。


「マウントシュバッテンよ……なにかほかに妾たちに言いたいことがあるのではないかえ?正直に申してみよ?」


「!?」


 俺や同席していたココやアルシュタインやリリーは驚く。

 一瞬の静寂の後、困った顔をして苦笑いを浮かべながら語りだした。


「いや~……困ったな。流石はルシフルエントさん。わかる?」


「そなたは、何かを隠してるときオーバーリアクションになるのでのう?お見通しじゃ」


「えっ!そうなの?」

 俺とマウントシュバッテン王は同時に驚く。


「妾の推測じゃがの?で、何用じゃ?」


「う~ん……実は、王様をやめて旅に出ようと思ってるんだ」


「えーーー!!」


「それで、妹を探しに行くのかえ?」


「あらら……本当にルシフルエントさんは何でもお見通しだね?」


 マウントシュバッテン王は苦笑いを浮かべて紅茶を一口飲んだ。


「それしか理由はあるまいて……で?協力してほしんじゃろう?」


「そうそう!……本当は誰にも迷惑をかけずに僕一人で行こうと思ってたんだけど……武芸はからっきしでね?ほかに頼れる人を知らないからお願いにきた」


「大丈夫ですか!?今後のグレートアルメラント王国は?」


「とりあえず兼務でルビンに任そうと思う。もちろんちゃんと結婚を済ませてから出ようと思ってるよ!!」


「はぁ……」


 マウントシュバッテン王の強い意志を感じる顔に俺は言葉を詰まらせた。

 しかし、ルシフルエントは優雅に紅茶を飲みながら尋ねる。


「妹探しに妾たちを協力させる見返りは?」


「保護国扱い及び不平等条約の破棄。そして、対等の同盟でどうかな?」


「はっ!大傾き者じゃのう?グレートアルメラント王国が妾たちに対して唯一持っている外交カードをここで切るとはのう……」


「僕もそれほどの覚悟の上だよ。唯一の肉親を諦められるものか」

 マウントシュバッテン王は不敵に笑った。


「ふむ……妾はその覚悟を決めた顔は、嫌いではないのう。……しかし、最後に問おう」


 少しだけ頬を緩めるルシフルエント。しかしすぐに真顔になりまっすぐ顔を見つめ、言った。


「……ルビンは納得したのかえ?」


 その言葉を聞いたマウントシュバッテン王は少しだけ驚いたが、すぐにはにかんだ顔で答えた。


「生きて帰ってくることを条件に…ね。泣かれたけど、納得してくれたよ」


「ふむ。夫婦で意思疎通が取れておるならばよい。……しかし、光の装備を使うコーネリアは強い。何とも難題じゃのう」

 ルシフルエントは腕を組みながら考える。


 皆が一様に難しい顔で黙り込んだ。


 俺も考えたが、光の装備に対抗できる術は一つしか思い浮かばなかった。

 それに、マウントシュバッテン王の決意と気持ちを考え、協力してやりたいと思った。


「その……俺が行こうか?」


 俺のその提案に夫人たちは各々バラバラに意見を述べ始める。


「ふぇ~!!こっ…困りますぅ~!」


「はぁ!?カールが!本当にバカじゃないの!?王様としてどうかしてるわよ!!」


「本当におまえ様は優しいのう~……じゃが、危険すぎる。妾は反対じゃ」


 第1~第3夫人までは要約すると反対らしい。

 しかし、第4夫人だけは違った。


「いいんじゃないっすか?旦那が行くんなら私も行くっす!くそ野郎が生き返ったから今度こそ私がぶち殺したいし~」


「リリーよ……お主は本当に軽いのう」


「そ~よ!国の政策はどうするのよ!王様不在の国だなんて聞いたことないわ!」


「ふぇ~……色んな意味でぇ~困りますぅ~」


 一斉に集中砲火を浴びるリリー。

 しかし、元来の性格なのか全く動じず、口笛でも吹きそうなくらい軽い調子で反論を述べる。


「でも姉御たち。それを言ったらそこの人間の、グレート何ちゃら王国はどうなんっすか?今や盟主の国なんっすよね?それに、ちょいちょい見てるっすけど……旦那がまつりごとに口出しすることなんてなかったすよ?全部、姉御とアルの姉御が決めてたから問題ないっしょ?あと、光の剣に対抗できる武器なんて魔剣しかないと思うんっすけどね?」


 リリーの言葉は的を得ていて、思わず皆が押し黙ってしまった。

 そんな中、ルシフルエントが「はぁ~」とため息をつきながら語りだした。


「う~ん……確かにそうじゃのう。しかし……妾は育児で出ることができんしのう~。心配じゃのう~」


「じゃあ、ココの姉御とゼロっちとホウちゃんを連れてくのはどうっすか?これだけいれば大丈夫っしょ?いざとなればホウちゃんの転移魔法で帰ればいいだけの話だし」


「ふむ……そうせざるえんか」


「ふぇ~!!いいんですか!ルフェちゃん!!」


「アルよ……致し方あるまいて。コーネリアのヤツを放置すればどのような厄災を振り撒くかわからん。それこそ今までの努力が水の泡になってしまうからのう」


「そうよね~……コーネリアなんて完っ全に魔王だし!放っておいても絶対何かしてくるわよ!経験上!」


 皆の空気が一様に重くなる。


「じゃがの……条件がある」


「条件?」


「王の職務放棄は問題じゃ。それはマウントシュバッテン……貴様にもいえる。じゃから、職務はこなしつつ、冒険してまいれ」


「え~~~!どうやって!!」


「決まっておろう?ホウデガーに転移魔法を使わすのじゃ。あと、ツタン城にも転移専用のロードウィザードを配置して、仕事の時だけ帰ってきて、あとは自由に冒険するがよい」


「それは……なかなかだね」

 俺とマウントシュバッテン王は苦笑いを浮かべそう呟いた。


「エゴを通すには苦労が付き物じゃ。特におまえ様は子供に長期の間、顔を見せんなぞ教育上良くない!これが最大級の妥協点じゃ……どうじゃ?」


 皆が俺とマウントシュバッテン王を睨みつける。

 俺たちは苦笑いを浮かべ言った。


「……わかった」



 こうして、俺たちは王様を兼務しつつ冒険の旅に出ることになった。



◆  ◆  ◆


 俺たちは、リヒテフント帝国を西側にあるアルデール山脈の谷間にある炭鉱都市グルムフルトの宿屋にいる。

 これからアルデール山脈を越えて、エルフが住んでいると噂されている未開の大森林『世界樹の森』をめざして進むつもりだ。


 マウントシュバッテン王の情報網を使って、コーネリアの行方を調べているが有力な情報はあまり見つからなかった。

 そのなかで唯一それらしき噂である『世界樹の森』で閃光が走り異変があったようだという情報を頼りにここまで来たのだ。


 正直、確証はないが、こういう情報を一個一個しらみつぶしに確認していかないと目標にたどり着けない。

 冒険者時代の経験から俺はそう思う。


 しかし、こういう冒険は嫌いではない。

 むしろ、俺は好きな方だ。


 宿屋に入ると、リリーはすぐに布団に入った。

 その瞬間「ゴー!ゴー!」といびきをかいて寝てしまった。


 俺たちパーティーはその姿に苦笑いを浮かべながらも、夜も更けていたため、体を清め、寝る準備をする。


「なんだか、冒険者時代に戻ったようね~」

 ココはニヤニヤしながら俺に引っ付き、そういった。


「そうだな……なんか。ワクワクするな!」


「さっすがカールだわ!」

 そういうとココは抱きついてきた。


「あ~あ……お熱いことで。それともそういう趣味かな?」

 マウントシュバッテン王はジト目で俺たちに嫌味を言う。


 彼はこういう旅路には慣れておらず、今日もヒィヒィ言いながらなんとかついてきた感じで、かなり疲労が溜まっているようだった。


「すいません……今日はツタン城には戻らないんですか?」


「これから戻るよ……本当に疲れる!あんな約束するんじゃなかった!!」

 子供のように文句をいうマウントシュバッテン王。


「人間……用意ができたぞ?早くしろ!」

 ホウデガーがつっけんどんな口調で言った。


「ねぇ?……そろそろ、名前で呼んでよ?一応まだ王様なんだけど」


「断る。私は師匠やおさが言うから貴様の相手をしているだけであって、本来であれば口もきかん所だ。感謝しろ」


「はいはい……まったく。難儀なパーティだね」

 マウントシュバッテン王は文句を言いながら転移魔法で一時帰って行った。


「マスター。今のところ敵影なしです。ごゆっくりお休みください」

 ゼロが深々と頭を下げる。


「ありがとう……これだけ優秀なパーティーがいれば楽ちんだね?ココ」


「そうね……でも、私としては…二人っきりの方が…」

 ココは尻すぼみのように小さな声で呟いた。


 俺は最後の方が聞こえなかったので「なに?」と聞き返した。


「なっ!何でもないわよ!!おやすみ!!」

 ココはそう怒って寝てしまった。


 俺はよくわからなかったが、疲れていたのでベッドに入ることにした。



 こうして、俺は条件付きながらまた冒険者となり、また冒険の旅をすることになった。


 コーネリア達はどこにいるかまだ検討がつかないが、この旅路が終わるまで、俺の本格的な元魔王の領地の統治はしばらくお預けらしい。


『というか……されど統治はルフェちゃんやアルがやってるんだよなぁ。俺の嫁さんたちは優秀だからやることないんだよ。まあ、こういう冒険者家業の方が俺にはあってるし、しばらくは羽を伸ばさせてもらおう!』


 俺はココに抱きつかれながらそう思い、寝た。


最後までご覧いただきありがとうございましたm(__)m


もし、お時間よろしければ、ほかの連載作品もよろしくお願いします。

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