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終戦

「コーネリア!」


 皆一様に空を見上げ、驚く。

 そこには、小わきに何かを大きな袋のような物を抱えたコーネリアが空に浮いていた。


「貴様ーーー!師匠の腕をよくも!!私の魔法で吹っ飛ばしてやるーーー!」

 ココが杖をかざし、魔法の唱え始める。


「おっと……攻撃するんですか?私は大丈夫ですが……この子が死んじゃいますよ?」

 コーネリアがゆっくりと地面に降りてくる。


 そして、小わきに抱えた袋の中から女の子を取り出した。


「!?……ココ!やめろ!!あれは!!」


「そんな…バカな!!なぜ、ユリアが!?」

 マウントシュバッテン王は感情の高ぶりを抑えられず叫けんだ。


 俺とマウントシュバッテン王以外はキョトンとした顔をしている。

 それもそのはず、コーネリアが抱えた女性は、他ならぬマウントシュバッテン王の妹…ユリア・ローリ・フォン・マウントシュバッテンだったからだ。


 マウントシュバッテン王はかなり狼狽し、ワナワナと震え膝を地面につけた。

 その姿を見て、みんな訳が分からず困っていた。

 仕方なく俺が、みんなに聞こえるように叫んだ。


「コーネリアが抱えているのはマウントシュバッテン王の妹だ!絶対に手出しをするな!」


「な…っ!」


皆一様に驚きコーネリアを睨む。


「このクズ野郎!お師匠様だけでなく、王の妹さんまで何かするつもりか!?」

 ココが魔法をやめ、杖をコーネリアに振りかざしながら言った。


「その言葉は心外ですねぇ……これから、行うのは救済の儀式だというのに」

 ニタリとコーネリアが笑った。


「救済?」

 俺は思わず呟いてしまった。


「ええ……カール君。いや今はスベロンニア王ですか?ご存知でしょう?光の鎧の特殊スキルを?」


「ああ……たしか、『すべての厄災から身を守る』だったか?装備しているとバッドステータスを受けない状態になるんだったな?」


「ええ、そうです。……では、これはご存知でしたか?バッドステータスを受けている者に光の鎧を着用するとバッドステータスが回復することができることは?」


「!?…そんなことが!!」


「要するに……光の鎧をユリアさんに装備させれば、私が調合した毒も治癒できるということです」


 コーネリアの言葉を聞いて、マウントシュバッテン王はワナワナと震えながら語りだした。

 その言葉はいつもの丁寧な口調ではなく、感情むき出しの言葉だった。


「貴様……いま、なんて言った?」


「私が調合した毒を治癒できるといいましたよ?……ああ!なるほど!マウントシュバッテン王はそのことでマッケイヤーを恨んでいましたねぇ?…あれは私が画策したんです」

 ニタニタと笑いながら語るコーネリア。


「貴様!!!よくも!!」


 マウントシュバッテン王が感情に身を任せコーネリアに向かおうとする。

 俺は前に立ち、止めた。


「お待ちください!!……やつは危険です!悔しいですが…しばらく辛抱を!!」


「クッ!」


「……今だから言えますが、あなたを引き立てるようマッケイヤーに進言したのは私です。そして、妹さんだけ違う毒を飲ませ、あなたの恨みをマッケイヤーに向けるように計画したのもね?おかげさまで無事に曽祖父の装備を返してもらうことができましたし、マウントシュバッテン王も3か国…いえ、魔界も含めた4か国の盟主として君臨できるのですから良かったじゃないですか?」


 その言葉を聞いたマウントシュバッテン王はショックを受け、震える声で呟いた。


「そんな……僕は…お前の…手の中で……踊らされていたと…!?」


「閣下!!お気を確かに!!」

 俺は思わず叫んだ。


「そんなに気を落とさないでください……お互い良いことがあったんですから、win‐winでしょ?そういう合理的な判断がお好きだったじゃないですか?」

 ヤレヤレといったジェスチャーをするコーネリア。


「愚弄するのもほどがあるぞ!!コーネリア!!」

 俺は思わず叫んだ。


「ふふっ!何とでもどうぞ?……さて、本題です。今のままでは、彼女に光の鎧は装備できません……だから、マナの力でちょっと細工をします」


「そんなことができるのか!!」


「ええ……あなたは知らなかったでしょうねぇ?これも、偉大なご先祖様が残してくれた日記があったからこそわかった事ですから」

 不敵な笑みを浮かべ、魔力を放出するコーネリア。


 そして、眩い光がコーネリアを包んだと思ったら、目の前に光の鎧が現れた。


「……これで、よし!アーハッハッハ!!」

 コーネリアは高笑いしながら、ユリアを光の鎧に近づけた。


 眩い閃光が光の鎧中心に起こり、皆の目がくらむ。


 しばらくすると見えるようになり、コーネリアの隣には、色白で腰まで伸びる美しい金髪を無造作にたなびかせる、荘厳な鎧を着た18歳ぐらいの美少女が立っていた。


 ユリアが目を開ける。

 美しい碧眼のその眼は、空虚で感情を感じさせなかった。


「ユリア!?」

 マウントシュバッテン王は叫んだ。


 しかし、ユリアは無表情のまま立っていた。


「ちょっとした細工をしましてねぇ……私以外の声は届かないようになっています。彼女には、私の護衛兼妻として一緒に来て頂きましょう。いいですか?」


 コーネリアの問いに、ユリアはコーネリアの方を向き呟いた。


「……はい」


「ユリアーーー!!」

 マウントシュバッテン王は思わず叫んだ。


 しかし、その声は届かなかった。


「さて……しもべがもう少し欲しいところですねぇ。ああ!あれなんて丁度いい!!」

 コーネリアの目線の先には、ギリムの死体があった。


 コーネリアとユリアはゆっくりとギリムの死体に近づいた。


「貴様!なにするっすか!?」

 リリーが思わず唸りながら叫んだ。


「復活の魔法……マナ・エッセンスでしたか?試してみようと思いましてねぇ」

 ニタリと笑うコーネリア。


「なっ!どこまで知識を持っておるのじゃ!?しかし……アレをすると…周辺のマナを吸い尽くして、この辺すべてが死地と化すぞ!!」

 ルシフルエントが叫んだ。


「それは良いことを聞きました。こちらとしては好都合です。フフッ」

 コーネリアがそう呟いて魔力を集中する。


 魔力の渦がコーネリアを中心に巻き起こり、突風が起こる。

 ユリアはそのコーネリアを守るように構えた。


「いかん!防御魔法じゃ!!マナを吸い尽くされるぞ!!みな!近うよれ!!」

 ルシフルエントが防御魔法を唱える。


 それに合わせて、連合軍の魔族や魔導師たちも皆を守るように防御魔法を張った。



 魔力放出の閃光が辺りを包む。



 俺が目を開けると、防御魔法圏外の地面は赤茶色の砂漠に近い状態に成り果ててた。

 連合軍は何とか、防御魔法のおかげで犠牲者は少なかったが、帝国軍は前線の多くの兵士がマナを吸い取られ、息絶えた。


「フッフッフ!……アーハッハッハ!」

 コーネリアが高らかに笑う。


 コーネリアの前には人間体系のギリムが横たわっていた。

 胸がかすかに上下しており、復活しているようだ。


「これで良し……では、我々はこれで失礼するとしましょう」


「まて!!ユリアを……どこに連れて行く!!」


「それは我々の勝手でしょう?シスコンも度が過ぎると嫌われますよ?お義兄さん?」


「コーネリア!!必ずっ!必ずユリアさんを返してもらって報いを受けてもらうぞ!!」

 俺は叫んだ。


「フフッ!魔族がせいぜい足掻くといい……私は光の勇者コーネリアだ!魔族なぞ蹴散らしてくれよう!!」


 コーネリアはそういうと、転移魔法を唱え、ユリアとギリムと共に消えた。



 空を急速にどんよりとした雲が覆いだし、ポツポツと雨が降り出す。



「くそっ!くそぉーーー!」


 コーネリア達が消えると、マウントシュバッテン王は泣き崩れ、砂漠となった地面を何度も何度も叩いた。

 雨は次第にひどくなり、服がどんどん濡れていったが、マウントシュバッテン王は構わずその場にいた。

 このような姿を見るのは初めてだったので、俺は寄り添い、肩を持つことしかできなかった。



 しばらくして、両軍は本国に撤退し、後味の悪いかたちで終戦を迎えた。



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