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風雲モルト城

 決戦の日。


 日はすでに上っており、開戦予定時刻はとうに過ぎている。

 首都ツアイスにあるモルト城の会議室では宰相以下閣僚の多くが集まり、朝食をとっていた。


 勲章を多くつけた参謀と思しき中年のいかつい男性が、はばかる様な小さな声で、隣にいる宰相ハウントに話しかける。


「さて……そろそろ最初の戦いにも決着がついている頃ですかな?」


「そうだな……最初にギリムが一撃を加え、帝国空軍と主力部隊による魚鱗陣形による突撃が行われている頃だろう」


「速報では、あの龍が同族と戦いになったと報告がありましたが?」


「まあ、裏切り者であるからなぁ。情報によれば、イスポワール王国……魔族共はグレートアルメラント王国の保護国なのだろう?討伐隊が出てもおかしくはなかろう」


「ふむ……しかし、そういえば出陣の際ギリムの様子がおかしくなかったですか?」


「そうか?」


「全身に赤い炎のような刺青が浮き出て、目も血走ってましたよ?あんな禍々しい雰囲気は初めてです」


「ワシはあれが龍族の戦闘モードだと思ったが……」


「それにしてはなんとも違うような……まあ、そういうことにしときましょう」


「他の龍たちは?」


「行方不明です。数日前に会議と称して話に行ったきり、どの部隊にも目撃がありません」


「逃げたか?まあ、しょせんは魔族。あてになぞしておらん」


「はは……まあ、そうですなぁ。ところでハウント宰相」


「なんだ?」


 参謀らしき中年の男はニヤニヤしながら耳打ちした。


「……天下を取った気分はどうですかな?」


 その言葉を聞いて、ハウントは思わずにやける。


「なに……まだ、決まってはおらんよ」


「しかし、うまくルビンも前線に行ってくれましたなぁ?」


「皇帝として当然であろう?リヒテフント帝国の総力を集めて行う最大規模の作戦だ。前線に出ないわけにはいかん」


「しかし、反宰相派の貴族をまとめて最前線へもっていくなど……その手腕、恐れ入ります」


「彼らは憂国の志士達だ。皇帝陛下の御旗のもと、最前線でさぞ死力を尽くし活躍することだろう」


「適材適所ということですか?」


「さよう。帰って来れたら勲章の一つでも授与しないといかんなぁ」


「皇帝として……ですかな?」


「予定ではあるな」


「ふふ……流石はハウント宰相ですなぁ。野心を隠そうともしない」


「当然であろう?マッケイヤーの抗争に巻き込まれ兄の一家がまとめて崩御して、ようやくワシにもチャンスが廻ってきたと思えば、あんなやる気のない小娘が残ってたんだ……この1年間は本当に大変だった」


「確かに……ルビンは内政政策の一部の政策については特筆すべき能力を有していると思いますが、いかんせん大局的な観点が欠如しておりますからなぁ」


「あの開放路線はグレートアルメラント王国の考えであろう?全く外国かぶれ甚だしい政策だ。現場を知らんのだよ現場を。しょせんは頭でっかちの小娘にすぎん」


「はは……まあまあ。それももう終わりますから。しかし、報告が上がってきませんなぁ」


「総兵力60万の大軍だ。現場は混乱しているのであろう。果報は寝て待てだ」


「……そうですなぁ」


 その時、ワーワーと叫び声が城内に響く。

 そして、慌ただしく兵士が動き出す。


 そして、ハウントたちのいる会議室にも報告が上がってきた。

 若い兵士が息を切らしながら会議室の扉を開ける。


「報告!!敵襲です!!」


 その報告を聞いたハウント達は立ち上がり、顔を青ざめる。


「なっ!なんだと!!敵は!敵はどこから来た!!」


「空からです!龍が……龍が数十体!その後、乗ってきた魔族と思しき部隊が城内の出入り口を強襲!戦力の総数は不明」


「応戦だ!何としても食い止めろ!我らは指揮所を移動する」


「はっ!了解しました!!」


 兵士は敬礼をして部屋を出る。

 閣僚たちはオロオロするが、ハウントが一喝した。


「うろたえるな!より安全な場所に移動する。地下会議所だ!あそこなら市中に逃げれる抜け道もある」


 閣僚たちからは「おー!」という歓喜の声が漏れる。

 ハウントたちは急いで移動した。



◆  ◆  ◆



 地下会議室に移動してしばらく経った。

 最初うちは兵士たちも頻繁に報告に来ていたが、だんだんと来なくなり、ついには報告が来なくなった。


 ハウントは報告が来なくなったことにだんだんとイライラして部屋中をウロウロする。


「どうした!?なぜ報告が来ない?第2城壁まで占領されてどうなったのだ?」


「ハウント宰相…少し落ち着きましょう?」


「これが落ち着いていられるか!鉄壁の最終城壁がそう簡単に破られるとは思わんが……あれを突破されるとなると、このモルト城は落ちたも同然だぞ?」


「特殊鋼鉄でできた城壁ですから安心してください。それよりも退路は?」


「ああ……あの奥の暖炉だ。いざとなったら…!」


 その時、会議室の扉がドンドンと叩かれる。

 なにやら外では「ここで合ってるの?」とか、騒がしい声が聞こえる。


 門番の兵士は手順通りに合言葉を要求する。



「えー!面倒くさ!ぶっ飛ばしてやるー!小規模爆裂魔法フルバースト!」



 そういう言葉が聞こえた。

 兵士は顔を青ざめた。


 次の瞬間、大きな爆発音がして、扉は木っ端みじんに破壊された。


 扉の残骸を踏みながら現れたのはココと人間に変身メタモルフォーゼしている黒龍とアッカイマンだ。


「げほっ!げほ!ちょっと!ここ埃っぽいわよ!!ちゃんと掃除しているの?」


「ココ嬢!大丈夫か!!……人間風情が!許さん!!御身に何かあったらどうしてくれる!!」

 黒龍が中にいる人間に向かって敵意むき出しで叫んだ。


 ハウント以下中にいる人間は唖然として言葉を失った。


「まあまあ……落ち着いて」

 アッカイマンは苦笑いを浮かべながら言った。


「そうよ!黒龍ちゃん!私は大丈夫だから!」


「御意……ココ嬢がそういうなら許す」


 ハウントがココという名前を思い出し叫んだ。

 

「ここ?……ココ!煉獄の魔導士!ココ・ラクエンド・フォン・フリューか!」


「今はココ・ラクエンド・スベロンニアだけどね~」

 ココはニヤニヤしながら言った。


「あいつだ!あの真ん中で叫んでるのが宰相のハウント・マルクルブ・リヒテホーヘンです!」

 アッカイマンがハウントを指さして叫ぶ。


「なっ!くそ……魔族がぁ!」


「さあ!観念しなさい!悪の親玉!この勇者の相棒であるココ・ラクエンド・スベロンニアが来たからにはもう逃げられないわよ!!」


「小癪な真似をする小娘が!」


「なにーーー!誰が無い乳娘だーーー!」


「ココ嬢……そんなことは言ってないぞ…むしろ、それが良い」


「二人とも……真面目にしましょうよ?」


 ココ以下3人は漫才をくり広げている。

 ハウントは隙を見逃さなかった。


「バカめ……」

 ハウントは抜け道のある奥の暖炉の中に走って逃げた。


「あっ!逃げるなー!!!」


 ココはそう叫んだが逃げ足の速いハウントは瞬く間に暖炉の中に入っていった。

 まさに脱兎のごとく。

 ほかの閣僚は置き去りにされた。

 ココはハウントを追いかける。


「さて……ほかの皆さんはどうされますか?抵抗するなら命の保証は……」


 アッカイマンは置いてきぼりにされた閣僚たちにそう言いかけた。

 しかし、アッカイマンの言葉を最後まで聞かずに閣僚たちは両手をあげた。


「あっけないものよのう……人間というのは。一族のために最後まで戦おうという気概はないのか?」

 黒龍はため息をつきながら呟いた。


 アッカイマンは苦笑いを浮かべた。



◆  ◆  ◆



「まてーー!観念しなさーーーい!」


 ココの叫び声は狭い通路にワンワンと響く。

 しかし、ハウントはすごいスピードで逃げる。


「逃げ切らなければ……せっかくのワシに廻ってきたチャンスが!!」

 ハウントは独り言のように嘆きながら走る。


 距離は縮まらない……いや、少しずつ距離が広がっているようだった。


「ハハ……やはり小娘だな。もう少しすれば…出口だ!」


 ハウントの視線の先には出口である明かりが見えた。


「あっ!しまった!待ちなさーーーーい!!」

 ココが叫ぶ。


「さらばだ!ココ・ラクエンド・スベロンニア!ワシの野望はまだまだ続くのだ!」

 ハウントは逃げ切ることを確信し、笑みを浮かべながらラストスパートをかける。



「残念……あなたの野望はここで終わり」


「はぁ?」


 ハウントは驚く。

 突然目の前に緑色の髪をした丸眼鏡をした少女が現れた。

 ゼロが出口で待ち構えていたのだ。


 ゼロはハウントの腹に正拳突きをする。


「ぐっ!」

 ハウントはそういって悶え、気絶した。


 すかさずゼロは紐でハウントを縛った。


「ご苦労!ゼロ!でもよくここがわかったわね?」

 息切れをしながら追い付いたココがゼロに言った。


「もしかしてと思い、城内を透過スキャンしたら見つけた。作戦目標のハウントがこんな原始的な抜け道を使うとは思わないが……ところで、こいつは誰だ?第2夫人?」


「あんた……わかってないのに捕まえたの?」


「目の前で、『ワシの野望がっ!』とかいう悪人っぽいやつは捕まえるべき……で、誰だこいつは?おんな?」


「おんなじゃなくてココ!あんたわざとでしょ?……あと、そいつがハウント宰相だから!」


「なんと……この世界の人間はこんなに単純なのか。驚いた」

 ゼロが珍しく驚いたように呟いた。


「一緒にしないでほしいけど……まあ、いいわ。これで任務完了よ!ウィザードにお願いして転移魔法を作ってもらってすぐに行くわよ!ゼロ!ついてきなさい!」


「了解した……マスターのおんな」


「マスターのおんなって……まあ、間違ってないけど、なんか釈然としないわね?まあいいわ」

 ココはそう呟きながらハウントを連れてモルト城に戻った。


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