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魔界出陣

 ギルムアハラントから、指定された戦場までは3日はゆうにかかる。


 戦場に赴く魔族の士気は非常に高い。

 すでにいつでも出発できるように街道近くの平野に全員が整列して出陣の号令を待っている状態だった。


 各部族長クラスも俺の近くでかしずき、命令を待っている。


 俺はココと黒龍とホウデガーとアッカイマンとゼロを呼んで話をしていた。


「ココ…別行動になるけど、くれぐれも注意しながら行動してほしい」


「任せといて!なんたって私は勇者の相棒なんだから!!」


 ココは杖を高々と掲げて語気を強める。


「黒龍さん……ココやホウデガー、アッカイマン……その他、魔族をよろしくお願いします」


 俺は人間体系に変身メタモルフォーゼしている黒龍に頭を下げた。


「任せておけ。ワシも含め、わが部族より精鋭30体の龍が出陣する。大船に乗ったつもりでいるがよい。……ところで、防寒対策は大丈夫か?特にココ嬢はどうだ?か弱き女性の身だから、体が冷えてしまっては一大事だ。今回は雲より高く飛ぶからのう」


「魔法の防寒マントを全員に渡してますから大丈夫です」


「そうか。では、一度、アスラムル宗主国に寄って、作戦を遂行する。カールも気を付けろよ……死んだりして、ココ嬢やルシフルエントを悲しませる事がないようにな。そちらの上空援護には別に100体いるから安心せい」


 「ありがとう」と黒龍にお礼を言って、少し離れたところで部下と話しているホウデガーに話しかける。


「ホウデガーは主に制圧任務だから……できれば、犠牲者は少なくしてほしいけど……仲間の命が最優先だからね」


「お任せください!私も含め、わが部隊は精鋭ぞろいですから、きっとカール様のご期待に添えます!あと……そちらのほうの飛行ウィザード達をよろしくお願いします。カール様の一声があればすぐにでも華々しく散る覚悟ができてますので、遠慮なくご命令ください!」


 ホウデガーはそういって、頭を下げた。


「あ、ああ…ありがとう。でも全員無事に戻れるように最善の努力はするよ」


 俺は苦笑いを浮かべてそういった。


「もったいなきお言葉!ありがとうございます!!」


 ホウデガーはキラキラした瞳で俺の両手を掴み感激した。


 そうして少し離れたところで緊張した面持ちで立っているアッカイマンと、巨大な鞄を背負いメガネに何やらピカピカと表示を映しながら立っているゼロに話しかける。


「捕縛その他、遊撃任務で大変だろうけど……ゼロは優秀だから任せるよ。アッカイマンも帝国での道案内をよろしく」


「お任せくださいマスター。私の持てるすべての力を使い任務を遂行します」

「はい!帝都の道案内は任せてください」


 無表情のまま恭しく頭を下げるゼロ。

 アッカイマンも笑顔を見せる。


「あ……でも、あの何とかカッターは人に向けて使わないでね」


「はい……人間に対してはオーバースペックなので、主に城壁破壊などに使います。ご心配なさらずに、マスター」


「うん。よろしく」




 一方そのころ、黒龍はリリーに近づき話しかけていた。


「リリーよ。一族の恥を徹底的に潰すのだ」


「おうよ!ギッタンギッタンのベッコンベッコンにして、ギロギロのブチブチにしてやるっす!!」


 リリーは地団太を踏み、何かを引きちぎるようなジェスチャーをしながら語気を強めてそう言い放った。


 そんな黒龍たちにルシフルエントは近づき話しかける。


「黒龍よ……万が一リリーが窮地に陥った場合はおまえ様が助け船を出すぞ。良いか?」


「ああ。迷惑をかける」


 黒龍はルシフルエントに頭を下げた。

 リリーはその光景に少し驚きながらも、ルシフルエントに反論する。


「姉御!ぜったいそんな事にはなるわけないっす!ギリム兄はそこまで強くないっす!」


「リリー……敵を侮るな。ギリムの奴はお前の強さをよくわかっとる。だから、何をするか予想がつかん。戦いは敵を侮ったほうが窮地に陥る。特にお前は第4夫人でもあるから命を落とすわけにはいかんのじゃ」


「そうだ、リリー。ルシフルエントの言う通り。ギリムは、できればワシが直々に殺したかったが……第2夫人であるココ嬢をお守りしないといけないという重要な任務がある。しっかり頼むぞ」


「……わかったっす。まあ、私が完膚なきまでにぶち殺せば文句はないわけっすから大丈夫っす!うおー!燃えてきた!!」


 リリーは拳を天に突き上げ叫んだ。


 ルシフルエントが俺に近づいてくる。


「さて、おまえ様。そろそろ出発の号令でもかけるかのう?」


「ああ……そうしようか」


「キル!傾注させい!」


 ルシフルエントがそういうと、キルがコクリと頷き、声を張る。


「全員!傾注!おさよりお言葉を賜る!」


 一斉にすべての人間が俺のほうを向き、恭しく頭を下げた。

 俺は緊張しながらも声を張る。


「……必ず!全員が、またこの地に帰ることを願う!それでは出陣!」


「おーーーー!!!」


 平野中に響き渡るように魔族たちの叫び声が響いた。

 しばらく咆哮が続いた後、先頭の部隊から移動を開始し始める。

 各部族長は自分の部族と共に徒歩や騎馬で移動する。

 ルシフルエントや俺たちは移動用の馬車に乗って移動することになっている。


 別部隊である黒龍たちの部族は少し離れた場所で龍に変身メタモルフォーゼして、順次、移動用の座席をかるい、背中にアッカイマンやホウデガーたちを乗せていた。


「きゃっほー!私はここー!」


 ココが嬉々とした声でそう叫んだ。

 そして、ココは黒龍の頭の上に乗った。

 心なしか、黒龍の顔がにやけてるような気がする。

 俺はその光景を遠めで見ながら苦笑いを浮かべた。



 最後にキルに話しかける。


「キル……ギルムアハラントをよろしく頼む」


「……正直、仲間と共に戦場に向かえないことは残念ですが、アルシュタイン様やこの地の護衛という重要な任務があります。何かありましたらすぐにご連絡をします」


「ありがとう……頼むね」


「はい……では、早くカール様も移動用の馬車へどうぞ。お気をつけて」


「ああ。では、留守を頼む」


「お任せください」


 そうして、俺たちはギルムアハラントを出発した。


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