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宣戦布告状2

 腕を組み、何かを考えながらルシフルエントは口を開く。


「ふむ……別件は?……マッケイヤーの件はどうなっとる?やつは手先じゃろう?」


「その点に関しては問題ない。コーネリアの狙いは最初から光の装備を強奪する事だったらしいからね、『腰掛けですから煮るなり焼くなりどうぞ?』って言われたさ……実際、マッケイヤーのアジトを監視しているが動きが全くない。別件に関しては滞りなく進めることはできる」


「なんと……奴は一体何物じゃ?」


 ルシフルエントの問いにマウントシュバッテン王が何か資料をペラペラめくりながら答える。


「不遇の勇者ロック・ベルベルド……そのひ孫だそうだ」


「おお!父上が返り討ちにしたというヤツか!名前だけは知っておる」


「返り討ちになったせいでお家断絶になったらしいけどね。記録によれば。なんとも時代錯誤な話だね。まったく……僕だったらたかだか魔王を倒せなかったからってこんな扱いはしないけどなぁ」


 「はぁ~」とマウントシュバッテン王はため息をつく。

 そして、ホルス様が補足を語りだした。


「彼の一族はそのせいで帝国に行き、実力で貴族となった。しかし、親父さんの代で家は取り潰しになり、一家離散の目にあったらしい。彼はずいぶん酷い目にあって、その恨みを晴らすべく、光の剣を使い、曽祖父が成し遂げられなかった魔王を討伐したいんだって」


「なんとも変な話じゃ。では目標は妾かえ?」


「いや、君は宣言してるじゃないか?現魔族の長はカール君だって。だから、カール君を狙ってるようなことを言っていた」


「ええっ!そんなぁ~」


「……ただ、コーネリアはこうも言っていた。『目標は希望を潰すこと』ってね。まるで、人間すべてを敵に回すように。ハハ!……もはや常軌を逸してる。彼は狂人と化した」


「まるで魔王の言葉じゃな……妾でも言ったこと無いぞ」


「それほどまでこの世界が憎い……ってことか。光の剣が絡んでる分、かなり厄介かも、この俺の持ってる魔剣みたいなもんだもんね」


「ふむ……魔剣は人々の希望になり、聖剣は闇に落ちる…か。なんとも不思議な因果じゃのう」


「カール君にはすまないと思っている。コーネリアがそんなことするなんて僕は思い至らなかった。てっきりマッケイヤー絡みで近づいていたと勘違いしていた。しかも、易々と光の装備を強奪されるなんて……」


「しょうがないですよ。……では『浄化作戦』に変更は?」


「そのあたりはそのまま進めようと思う。ただ、コーネリアの動きには注意してほしい」


「見つけた場合はどうするのじゃ?ホルスの言う通り生け捕りかえ?」


「いや……即刻殺して構わない。いいだろ?ホルスさん?」


「ああ……肉があれば贄として利用できる。生きていようが死んでいようが構わないから私にもらえないかねぇ?」


 ホルス様はニタニタとお道化るように笑った。

 マウントシュバッテン王は「ああ。いいよ」と軽い口調で返答する。


 ココはその笑顔を見た瞬間、体がビクリと跳ねて震えた。

 俺は思わず耳打ちする。


「どうしたの?」


「今の顔見た?あれ……本当にヤバい時しかしない顔だよ?もう怖くって、怖くって」


「そう?確かにすごい殺気がするけど……」


「殺気って……カールは知らないからそんな呑気な感じしかわからないのよ!魔族とバトルしすぎて感覚がおかしくなってるんじゃないの?」


「そうかなぁ……まあ、俺にはこの魔剣があるし、安心してるのかも」


 そこまで、言うとルシフルエントが横から小声で話しかけてきた。


「お前さまよ。光の装備は剣のみならず防具もある。これは厄介じゃ」


「ああ……確かに、あれは本当に硬いもんね」


「光の装備は唯一の魔剣に対抗できる人間界の至宝。そして、同じマナの分身じゃ」


「やっぱり……どうりで似たような伝承が伝わっていると思ったんだ」


 俺は、光の勇者の洗礼を受けた時の話を思い出し、合点がいった。


「後で詳しい説明はするが……もしコーネリアに出会ってしまったら、決して一人で何とかしようとは思わんことじゃ。妾からのお願い、聞いてくりゃれ?」


 ルシフルエントは真顔でそう嘆願する。

 俺はルシフルエントらしからぬその言葉に驚いてしまった。


「光の剣で……身内や知り合いが斬られるところを見るのはもう嫌じゃ。父上やホホロンはまだ宿命として我慢できるが……お前さまが、あのような事になったら、妾は生きていけぬ」


 目に涙を浮かべ、語るルシフルエント。


 ルシフルエントは目の前で、あの光の剣で近しい人を何人も殺されたり、深手を負わされたりしている。

 聖剣と魔王との宿命と言って自分に納得させているが、心の奥底では深いトラウマを抱えているのだ。


「……約束する」


 俺はハッキリとそう言った。



 様子をうかがっていたマウントシュバッテン王が口を開く。


「ルシフルエントさん……迷惑をかけるね」


「まったくじゃ!まあ、話をまとめたお前さまの顔もあるから協力はする……マウントシュバッテンよ、お前さまに感謝するのじゃぞ?」


「ああ……恩に着るよ。しかし、コーネリアの行動は僕ら……いや、魔界を含む全てに対して宣戦布告でもしているようでなんだか嫌な気分になるよ」


 マウントシュバッテン王は独り言のように呟いた。

 俺もため息交じりに独り言のように呟いた。


「まるで二通目の宣戦布告状みたいだなぁ……争いを起こさないように頑張っているのに、気が滅入るよ」


「まったくじゃ……まあ、奴はそれほど絶望したのじゃ。この世界にな」


「少なくとも……『浄化作戦』がうまくいけばマッケイヤーとリヒテフントは何とかなる。引き続き協力を頼むよ。カール君」


 マウントシュバッテン王は疲れたように笑顔を浮かべる。


「はい。微力ながら頑張ります。では、準備がありますので私たちはこれで。前日に合戦場所で会いましょう」


「ああ。よろしく」


 そうして、俺たちはツタン城を後にした。


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