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宣戦布告状1

 ツタン城へと続く街道が突貫工事で出来上がった。


 従来は獣道があるだけの道だったが、道幅を馬車10台分とって、かなりの余裕を持たせるだけでなく、標高が高い場所ではトンネルを掘り、できるだけ高低差をなくす工事も行われた。


 このアイデアはマウントシュバッテン王が「今後はこの道を様々な物資や人々が往来する。大量の物資が素早く移動するためにはできるだけ障害は少ないほうが良い」といって工事費が高くなっても譲らなかったモノだ。

 かなりの難工事で本来であれば完成を喜び、盛大な式典でも開くような事ではあるが、リヒテフントの件が切迫したためツタン城で簡素な報告だけで終わった。


 領事館の執務室で、俺は思わず呟く。


「しかし……こんな立派な道を最初に通るのが戦闘に向かう軍隊だなんて、なんだか悲しいなぁ」


「仕方なかろう?タイミングを計ったかのようにこのようなものが送られてきたんじゃからなぁ……まあ、早々に『大魔会議』を開いとったおかげで各部族予定通り参集しとるからのう…問題なかろう?」


 ルシフルエントの手にはリヒテフント帝国から届いた宣戦布告状と白い手袋があった。

 これは街道工事が完成する2日前、ツタン城に届けられたものだ。


 宣戦布告状には、騎士道精神にのっとり、最初の合戦場所と時間が書かれた書状と白い手袋を入れることが通例である。


 その昔は領主同士の決闘沙汰から大規模戦闘に発展することが多く、その時の名残からこういう風に行うことになっている。


 合戦場所はアルメラント王国側ゴール平地、日時は6日後の日の出とあった。


「まあ、日時や場所は予想通りじゃの。しかし……これほど情報が筒抜けでよういくさなんぞ行おうと思うのう。将兵や軍団規模、陣地まで筒抜けではないか?」


「これについては、マウントシュバッテン王の間者が優秀だったと言わざる得ないねコーネリアを筆頭に完璧な布陣をひいてたらしいから」


「ああ……しかし、あのコーネリアがのう、あのような事をしでかすとは、何かしら裏があるとは思っとったが…人間というのは本当によくわからん」


「……たしかに」


 隣に座るルシフルエントが腕を組みながら考え込んだ。


 宣戦布告状をマウントシュバッテン王から受領したあと、わざわざ別室に俺と夫人達が呼ばれ、コーネリアの一件について説明を受けた。



◆  ◆  ◆



 ツタン城小会議室に俺と、夫人達は非公式でわざわざ呼ばれた。

 会場は人払いがされており、重苦しい雰囲気を醸し出していた。


 ココは何か視線を感じるようでキョロキョロと落ち着ていない。

 ついには、俺に話しかけてきた。


「ねえ……なんだか変な感じがしない?」


「ん?別に?」


「忙しいな第二夫人……落ち着かんかえ?」


「だって……なんだか嫌な気配がするんだもん」


「嫌な気配?」


「そう!たとえて言うなら……師匠が私にお仕置きする前の雰囲気に似てるっていうか…なんというか」


「ここはツタン城だよ?」


「そうなのよ!だから変な感じなのよ!」



「ほう……なかなかいい感覚をしているねぇ?流石は私の弟子だ」



 突然、俺とココの隙間からヌッと顔を出して、喋るホルス様に俺達は驚く。


「ホルス様!?」


「やあやあ、なんだか随分と久しぶりのような気がするねぇ……そうだ、カール君は王様になったんだって?おめでとう」


 そう言って、左手を俺に差し出すホルス様。

 俺は思わず握手をしたが、すぐに変化に気付き、驚いた。


「ホルス様!その……右手は?」


「あーーー!師匠!どうされたんですか!?」


 ココは心底驚いたようで、思わず立ち上がって叫んだ。


「あ~…バレちまった。ったく、恥ずかしいね」


「お主ほどの者がこれほどの手傷を負うなんて珍しいのう……何かあったか?」


「これはアンタらにも関係してくる話だからね……だから、この場がある。詳しくは後で説明しよう」


「ふむ……嫌な予感しかせんのう」


 ルシフルエントは終始真顔で返答する。


「あの……なんと言ったらよいか…お手伝いをできることがあれば何なりと言ってください」


「フフ……カール君は本当に優しいねぇ。でも、もう私の出番は終わった。あとは君たち次第という感じかなぁ?ああ……できれば生け捕って私にくれると助かるよ。あいつは良い贄になると思う……フフッ!アハハッ!」


 ホルス様は堪え切れない様に笑い出した。

 その笑い声にはホルス様の憤怒にも似た感情が混じっているようだった。

 ココは笑い声に終始びくつき、思わず俺に耳打ちしてきた。


「……ヤバいよ。師匠、相当怒ってる」


「……だろうね。でもホルス様にあれほどの手傷を負わせるなんて、信じられないよ」


 俺はホルス様に尋ねてみた。


「誰にやられたんですか?」


「フフ……すぐ説明するよ。私は何度も同じ話をするのは好きじゃない」


「やあやあ遅くなってすまない。情勢が切迫しているからね……手短に行おう!」


 マウントシュバッテン王がお供を引き連れて忙しなく会場に入ってきた。

 俺たち全員が立ち上がり、会議が始まった。


「さてさて、もしかしたらホルスさんから聞いたかも知れないけど、別件で重大な事件が発生したので情報共有の意味でこの場を持った。もちろん今から報告されることは他言無用でお願いしたい。いいかな?」


 皆が無言で頭を縦に振る。


「よろしい。じゃあ、ホルスさん。よろしく」


 ホルス様は真顔になり、ゆっくりと語りだした。


「……筆頭執事コーネリアが謀反を起こした。しかも、勇者のみが持つことを許される光の剣以下、武具一式を強奪した」


「えーーー!」

「なんじゃと!では、お主のその傷は!?」


 ルシフルエントが珍しく声を荒げて強い口調で問いただす。


「ああ……奴に切られた。流石は光の剣だ、回復すらままならん……今は義手を作ってる最中だよ」


 ホルス様は左手だけの体で肩をすくめる。


「なん……だって!?」

「嘘っ!」


 俺とココは唖然として、それ以上の言葉が出なかった。

 ルシフルエントはすぐに腕を組んで何かを考えているようだった。



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