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皇帝の決意3

 まつりごとに疎いルビンでもわかる。

 現状の帝国は四面楚歌だ。


 目の前の二人を見ればわかることだが、王国と宗主国は蜜月関係だ。

 とても、叔父さんの考えている作戦計画のようになるとは思えない。

 むしろ、速攻で戦線は瓦解するだろう。

 待っているのは泥沼の持久戦だ。


 いや…持久戦だって持ち込めれば万々歳だろう。


 王国と宗主国には魔族の国が味方に付いている。

 しかも、魔族の国の王様はあの本にもなっている元・光の勇者カールで、王妃が魔王ルシフルエントとの話だ。


 物量や国力のみならず、勇者と魔王が攻め込んでくるなんて……帝国はどうやって立ち向かえばいいのだろうか?


 もはや帝国の終わりは見えている。

 蹂躙されて焼け野原となった首都ツアイスが目に浮かんだ。


 先輩から話を聞けば聞くほどルビンはそう思った。



 しかし、先輩は本当に合理的で理知的で先進的だ。


 普通なら大きないくさに発展するような事態でも、こんなに鮮やかにまとめてしまう方法を考え付くなんて常人なら無理だろう。



 ましてや、敵国の皇帝まで巻き込むなんて本当にどうかしてる。



 目の前で一生懸命に語る先輩の姿は、その昔に大学で出会ったときと同じようにキラキラしていてルビンには輝いて見えた。

 しかし、大まかな作戦内容と自分の役割を聞いたとき、ルビンは驚きとともに少しだけ恐怖心が沸いた。


「そんな……そんなこと本当にできるんですか!?」

ルビンは思わず口元を隠し驚く。


「やるよ……それが一番の解決法だからね」

マウントシュバッテンはそう言ってルビンを見つめた。


 ルビンの役割は、叔父であるハウントが戦争の首謀者であると断罪し、罷免。そしてすぐにルビンが政権の奪取し、すぐに王国と停戦を行うと宣言するというとんでもないモノだった。


「でも……私…そんなことできる自信がありません…それに、叔父様に全ての罪を擦り付けているようで」

ルビンは困ったような顔をして俯く。


 マウントシュバッテンはヤレヤレといったように困った顔をして小さくため息をついた。


「あそこまで傀儡として冷遇されているのに……君は優しいなぁ」


「そんなことは……」

ルビンは少し恥ずかしくなり頬を染める。


「でも……ここまで事態が悪化してるんだ…誰かが責任を取らないといけない事ぐらい大学で僕と一緒に学んだ君ならわかるだろう?」

マウントシュバッテンは真顔でそう言った。


「……はい」

ルビンは困ったように俯きながら小さくそう答えた。


「そして、犠牲者が増えれば増えるほど、その責任は重くなるんだ……処遇については最大限努力するとしか、僕の口からは言えないね」


「……」

何か言いたげに口を開けはするが、言葉にならず、黙り込むルビン。


「そして、ルビン……君はもうちょっと自信を持つべきだ。自分の置かれている立場を考えれば、そんな事を言っている時じゃないことぐらい聡明な君ならわかるだろう?」

問いただすように語るマウントシュバッテン。


 ルビンはとうとう、口を真一文字に結び、黙ってしまい俯いてしまった。



 ルビンの胸中は複雑だった。


 作戦がうまくいけば、戦争は早期に終結するし、犠牲者が少なくなるし、ルビンも晴れて本物の皇帝として帝国を平和的に統治できる。


 普通に考えれば非常に魅力的な提案ではある。


 しかし……ルビンが望むものはそうだっただろうか?


 憧れの先輩と同じ地位に就くことが幸せなのだろうか?


 ルビンは納得できなかった。



 マウントシュバッテンとルビンの沈黙を破ったのはフスハーンだった。


「マウントシュバッテン王……そんな言葉で麗しの皇帝閣下に声をかけるなんて無粋にもほどがありますよ?」

「はぁ~」と小さくため息をつきながらフスハーンは言った。


 マウントシュバッテンとルビンはキョトンとした顔になった。


「どういうことだ…フスハーン?」

怪訝な顔でマウントシュバッテンは言う。


「女性に言葉をかけるのに、感情論や利害を説くなどナンセンスです……もっとムードをださないと」


「ムードぉ?」

思わず、マウントシュバッテンは素っ頓狂な声を出した。


 しかし、フスハーンは何もなかったかのように優雅に、部屋に置いてある花瓶から真っ赤な可憐な花を一輪取って、マウントシュバッテンに恭しく渡した。

 マウントシュバッテンは不思議そうな顔をしたが、思わず受け取った。


 フスハーンは大きく息を吸って、まるで一人演劇でもしているかのように忙しなく身振り手振りを大きくしながら語りだした。


「王は、その花を差し出し閣下にこういうのです…『僕の大事な後輩よ……困難な道だが正義を貫くため協力してほしい。君の力が必要なんだ!』すると閣下はこういうでしょう…『ああ!麗しの先輩……あなたの為なら例え叔父さんと戦う事になっても喜んで一緒に戦いましょう!』と…」


「……」

ルビンとマウントシュバッテンは乾いた目線でフスハーンを見つめていた。


「……そして王は、彼女の両手を固く握り、見つめあい、こういえばいいのです…『ルビン…この作戦がうまくいったら婚約しよう』と」

フスハーンは恭しくそう語った。


「はぁ!?」

「ぴぇ!?」

怪訝な顔のマウントシュバッテンと、急に顔を真っ赤にしたルビンが同時に変な声を出した。


「愛こそ、この世の何物にも勝る理……唯一神アルスも愛の理が最も大事と説いています」


「だからって!何も未成年のルビンにプロポーズしないでもいいだろう!!」

マウントシュバッテンは思わず強い口調で言い返した。


「いえいえ……私は皇帝閣下のお気持ちを汲んだまでですよ?ねぇ?」

ニヤニヤしながらフスハーンはルビンを見る。


「ひぇ!ひゃい!!……いえ!そんなことは!」

顔を真っ赤にしてギクシャクと変な動きをするルビン。


 恥ずかしさで頭から湯気が出そうなくらい熱くなっていた。

 しかし、妙に嬉しさがこみ上げてくるのも確かだった。


 言葉が思い付かなかったので、ルビンは思わず上目づかいでマウントシュバッテンを見た。


 マウントシュバッテンは、そんなルビンの様子を横目で見て、眉毛をハの字にして思わず頭を掻いた。

 そして、小さくため息をついて、ルビンに語る。


「……そういうことが望みなのか?」


「えっと……たぶん」


「たぶん?」


「私もよくわからないんです……先輩に憧れてるのは確かですし、そういった言葉をかけてもらえると天にも昇るような嬉しさがこみ上げるのも確かです。ただ…」


「ただ?」


「その…私の一方的な想いなので……先輩に迷惑ではないかなぁと」

そういうと、ルビンはモジモジと手遊びを始めた。


「なんだかよくわからないなぁ……」

マウントシュバッテンはそんな様子のルビンを見つめ、困ったように呟いた。


 二人の間に微妙な空気が漂い始めたとき、またしてもフスハーンが語りだした。


「では閣下……私と一緒になるのはいかがですか?」


「えっ!」と口から音を漏らし、ルビンは固まってしまった。

同時にマウントシュバッテンがフスハーンに怒ったように語る。


「フスハーン!お前は何を言ったかわかっているのか?」


「はは!冗談ですよ!冗談。……しかし、王がそう怒ることも珍しいですね?」

ニヤニヤと饒舌に語るフスハーン。


「フスハーン!」


 声を荒げるマウントシュバッテンをよそに、フスハーンはルビンに語りかける。


「閣下……叶わぬ恋ではなさそうです。私は協力は惜しみませんよ?なんでしたら、いくさが終わった後にでも改めて仲人をいたしましょうか?仲間の幸せの為に働けるのであればアルス神も喜ぶでしょう」


「えっ!」

「こらこら!僕の居ないところで勝手に話を進めるな!」



 そこまで和やかにニコニコ話していたフスハーンが急に真顔になり、ルビンを見つめる。



 異様な視線に寒気を感じたルビンは姿勢を正しフスハーンを見つめた。


「ですが閣下……仲間でないというなら話は別です。すぐにでも我々独自の作戦に移らせてもらいます。ここは首都ツアイスのモルト城では無いことをお忘れなく」


 ルビンは一気に緊張する。

 変な話の流れだったので忘れかけていたが、元々は私が王国と宗主国の作戦に協力するか否かの話だった。

 決して色恋沙汰の話ではない。


 砂漠の民は敵対者に対して容赦はしない。

 しかも、ここは辺境の砦で宗主国との共有地だ。

 今すぐにでもルビンを軟禁することぐらい簡単なことだろう。


 フスハーンの眼光鋭い目線はルビンに決断を迫っていた。


 その視線に気が付いたのか、静かにルビンとフスハーンの間に手を入れて邪魔をするマウントシュバッテン。


「フスハーン!まったく……無粋なのはどっちだよ?」

マウントシュバッテンは呆れたように静かに語った。


「いえいえ!私は前途有望な若人の背中を押してあげようとしただけですよ?」


「余計なおせっかいだ!」


「それは申し訳ありません。しかし、私のような年齢からすれば閣下たちの甘酸っぱい恋模様は、非常にもどかしくてついつい余計なおせっかいをしたくなるのですよ?」

フスハーンは恭しく頭を下げた。


「まったく……ルビン?大丈夫?」

優しくルビンに語りかけるマウントシュバッテン。


「…はい」


 困惑するルビンの様子を見て、マウントシュバッテンはゆっくりと語りだした。


「ルビン……僕は君が思ってるような強くてカッコいい人間ではない」

そうはっきり言って、一呼吸置いた後、言葉を続けた。


「僕は信じる道の為なら魔族だって巻き込む。だから敵も多いし、時には犠牲だっていとわない。君と別れた後、この手を血で染めることだってあった。このフスハーンとだって戦後の経済協力のことで有利に運ぶように協定を結んでるからこその関係でもある」


「私はそれだけの関係とは思っていませんけどね」

フスハーンは絶妙なタイミングで語った。


「まあ、ともかくこの話はどう転んでも君の国が負けなければ成立しない事だ。その点で利害関係もある。昔と同じ純粋な人間ではないということは覚えておいてほしい」


「……はい」

ルビンは少しだけ困ったような顔をする。


「それを踏まえたうえで、自分の立場を考えて判断してほしい」


 ルビンは両手を胸のあたりで強く握り、語る。


「私は戦争で犠牲者を出さないように努力する先輩はすごいです!素晴らしいことです!……本当は私がしっかり叔父さんを諫めていればこんな事態には…」


「たらればを言えばきりがないよ……しょうがなかったんだ」


「それでも!私は荒廃する祖国を見たくありません!……私も先輩に…協力します!」

ルビンははっきり言った。


「叔父さんや側近たちの訴追は免れない。場合によっては厳しい判断を突きつけることもある。それでもいいの?」


「はい……その時は私の処遇も含めて、覚悟を決めます。でも私は先輩を信じています!」


「う~ん……そういわれると困るなぁ…まあ、可愛い後輩の頼みだ。頑張ろう」

少しだけ困ったような顔をしてマウントシュバッテンは答えた。


「仲人の件は?」

フスハーンはニヤニヤしながら言った。


「ぴぇっ!…そ…それは!?」

顔を真っ赤にしてモジモジと言葉を濁すルビン。


「まあ、その話はいくさがうまく終わって、気が変わってなければ改めて聞いてあげるよ。それでいいかい?」


 その言葉を聞いたフスハーンは驚いたように大きな声を出した。


「おお!なんという前向き発言!やはり王はもともとそういうおつもりで……」


「フスハーン!」

言葉を遮るようにマウントシュバッテンはフスハーンの名前を強い口調で言った。


「あっ!あの!!」

ルビンは二人の間に割って入るようにはっきりと言う。


「?」

思わず二人はキョトンとする。


「私は!今でも先輩を思う気持ちに変わりはありません!たぶんいくさが終わっても!」

ルビンは立ち上がり、顔を真っ赤にしながらハッキリと言った。


「おお!それは素晴らしい!私は協力を惜しみませんよ!」

フスハーンは手を握ってニコニコしながら言った。


 ルビンはドキドキしながらマウントシュバッテンを見つめる。


 マウントシュバッテンは非常にバツの悪そうな顔をして、頭をかきながら言った。


「まあ……ルビンの気持ちは聞けて嬉しい。……その話はまた改めてしよう。準備もある。気持ちが変わってなければ……前向きに検討しよう」


 ルビンは思わずマウントシュバッテンに抱き付いた。


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