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皇帝の決意2

 晩餐会は非常に豪華な物であった。


 噂に名高いアスラムル宗主国の料理の数々は見栄えも内容も純粋に凄かった。


『飾り付けも…ボリュームも…なんて豪華なの?このキラキラしたのは…金粉?』

ルビンは目を輝かせて料理の数々を眺めていた。


 王国留学でも見たことがない料理の数々に、帝国側の出席者は驚きすぎて口を開けてポカーンとなっていた。


『私でも驚くのだから……生粋の帝国人ならこんな感じになるよね~。国力の違いだわ』

ルビンは帝国の出席者を眺めて思った。



 フスハーン議長の挨拶で晩餐会が始まり、すでにだいぶ時間が過ぎた。



 しばらくは緊張していた帝国の出席者だったが、おいしい料理に盛大にお酒が入ったところから状況が一変する。


 大抵の帝国人はお酒好きである。

 普段は一切、酒は飲まないが、飲み始めると止まらない。


 特に、宗主国のお酒は度数が高いことで有名なので一気に酔っぱらってきた。


 ルビンは未成年なので難を逃れたが、他の帝国人はすでに呂律が回っていない。


 宗主国の参加者もノリがいいので、弦楽器や打楽器なんかを持ち出して、帝国の人たちと輪になって共通の古い歌なんかを歌っている。


 すでに晩餐会と言うより、さながらお祭りのような雰囲気を醸し出している。


 しかし、流石は砂漠の遊牧民がルーツの宗主国の人たちだ。

 お酒の席での盛り上げかたを熟知している。


『なんだか……戦争前の緊張が嘘みたい』

ルビンはそんな様子を感慨深げに見ていた。


『なんで、こんな人たちと戦わないといけないんだろうか?』

ルビンはさっぱりわからなかった。


 気付けば、広間の中央にスペースが設けられて、宗主国、帝国双方の人が踊り始めた。


 これでは舞踏会だ。


 ただ、列席者の中で女性は少ないので、少ない女性を帝国、宗主国双方の男性と代わる代わる踊っているような格好になっていた。


 しかし、ルビンは女性であるが誘われなかった。


 周りが忖度して遠慮しているのだ。



「皇帝閣下……よろしければ、私と一曲踊りませんか?」

宗主国伝統の衣装を着た若い青年がルビンに声をかけてきた。


 ルビンは驚く。


 それは、聞いたことある人の声だったからだ。


 白い布の中を覗くと、ルビンは確信する。


 髪は黒く染めていたが、碧眼の端正な顔つきの青年がニッコリと笑って手を出していた。


 その青年はマウントシュバッテンだった。


「……はい」

ルビンは驚きすぎて、そう答えるしかできなかった。


 マウントシュバッテンは勢い、ルビンを引っ張り、広間の中央に連れ出して優雅に踊る。


 ルビンは踊りながらバレてはないかと心配になり、周りを見渡すが、帝国の出席者はすでに酔っぱらっていてまったく気付いていない。

 それどころか、「皇帝閣下が踊っているぞ!」と「私らも負けておられん!」などと口々に語り、男同士だろうが関係なく踊り出す始末だ。


 その状況を盛り上げるように楽器の演奏がより激しい演目に変わる。


 ルビンは安心して目の前の憧れの存在を見つめる。


 その視線を感じてか、マウントシュバッテンも満面の笑みで答えた。


 つかの間の至福の時だった。



 そんな、舞踏会も終盤を迎え、ゆっくりな曲調に変わる。


 二人は中央のスペースから流れるように離れた。


「いや~!実にお見事!流石は皇帝閣下!」

パチパチと拍手をして迎えるフスハーン。


 しかし、フスハーンの声はルビンには届かなかった。


「……」

ルビンは顔を真っ赤にしてマウントシュバッテンを見つめていた。


「ありゃりゃ……これは、これは…私の連れに興味津々ですねぇ?…なんとも羨ましいことで」

フスハーンは大げさに呟いた。


 マウントシュバッテンはムッとした顔をするが喋らなかった。


「ご興味がおありなら、あちらの個室でお茶でもいかがですか?……ああ!もちろん間違いが起こらぬよう、不肖このフスハーンがご一緒させていただきます!よろしいですか?」

フスハーンは大げさに頭を下げて語った。


 ウンウンと勢いよく、ルビンは頭を縦に振った。


「おおー!若いと言うことはなんと素晴らしい!帝国の方々!よろしいですか?」

フスハーンは大げさに言った。


 会場からは指笛と共に「いいぞー!」とか「ついに婚約かー?」とか言う酔っぱらいの合いの手が聞こえる。


「ではでは、皆様!ごゆっくりご歓談下さい!不肖このフスハーンが皇帝閣下をご接待させていただきます!」

フスハーンはそう言うとルビンとマウントシュバッテンを連れて広間に繋がっている個室に入った。


 ドアを閉めるまで、拍車や指笛が盛大に聞こえたが、閉めた後は段々と静寂が戻ってきた。



「フスハーン!なんだあの台詞は!?」

ドアを閉めると同時にマウントシュバッテンはフスハーンに苦言を垂れる。


「いいではありませんか?皇帝閣下もまんざらではなさそうですし」

フスハーンはいやらしい笑みをたたえながら語る。


「ルビン……気分を害したのならすまない。…本当にこのフスハーンはお調子者でなぁ…」

マウントシュバッテンはそう呟き言葉を紡ごうとしたが、ルビンの行動で言葉を止める。


 ルビンが抱きついたのだ。


 マウントシュバッテンはその行動に驚いた。


 しかし、声を押し殺すように泣き出すルビンを思いやって静かに抱きしめ、頭を撫でた。


 その姿にフスハーンはいやらしい笑みをさらに深めて何か言いたそうだったが、マウントシュバッテンに睨まれたため、何も言わなかった。


 ひとしきり泣いた後、ルビンは顔を上げてマウントシュバッテンに「なんで先輩がいらっしゃるのですか?」と質問した。


 マウントシュバッテンは思わず笑い出した。


「なんでって……手紙でも書いてただろう?話を詰めるために会議を行うって」


「でも……わざわざ直接くること無いじゃないですか!本当にビックリしたんですよ!」


「僕の性格は知っているだろう?人を介した話し合いなんて時間の無駄だよ。直接話した方が効率がいい」


「でも……」


「あ~……皇帝閣下におかれましては色々話し足りないとは思いますが、積もる話はまた今度でお願いできます?」

フスハーンがニコニコした笑顔で割って入ってきた。


「それもそうだな……ルビン。ちょっと離れてくれない?そこに座ってお茶でも飲もう?」


 ルビンはハッとして気がつく。

 自分はマウントシュバッテンに抱きついているのだ。

 勢いよく離れたルビンは顔を真っ赤にして俯く。


 そして、言われるがまま応接セットの椅子に座る。

 お茶はフスハーンがいつの間にか入れてくれた。



「さて……本題に入ろう。ルビン?心の準備はいい?」


「…はい」

ルビンは深呼吸して落ち着かせる。


 この日に向けて何度となく頭の中でシミュレーションしたのだ。

 「このまま一緒に来てくれるか?」「はい!」という感じだろう。

 なんだか、冒険小説の囚われの姫様と王子様のような台詞だが間違っては無いはずだ。


 ルビンは固唾をのんで聞いた。


「状況が変わった。開戦当初に、僕に捕らえられて欲しい」

マウントシュバッテンはルビンを見つめて真顔で語った。


「……はぇ?」

ルビンは耳を疑った。


『あれ?おかしいなぁ。亡命するっていう話じゃなかったっけ?』

ルビンは混乱した。


「はぁ~……それでは皇帝閣下が混乱すると思いますよ?」

フスハーンは頭を抱えて言った。


「説明は後でする。……ルビン…すまない。混乱しているだろうが、協力して欲しい。ルビンの協力がないと犠牲者が多くなるんだ」

マウントシュバッテンは俯きながらそう語る。


 ルビンはマウントシュバッテンを見つめながら冷静になる。


『先輩が冗談でこんな事言うはずがない……深い理由があってのことだろう』


 深く深呼吸をしたルビンは、マウントシュバッテンを真っ直ぐ見つめた。


「……理由を教えて下さい」


 ルビンは浮かれていた自分を戒める。

 そう、この話は皇帝と王との密会なのだ。

 話は摂政である叔父のハウントの計画している戦争のことになる。


 恋物語の主人公とヒロインでは済まされない現実がある。

 亡命すれば終わりではないのだ。


 ルビンはそう思った。


「いい顔になったね……じゃあ、説明しよう」

マウントシュバッテンは懐から地図を取り出し、語り出した。

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