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ロック・ベルベルド

魔界を解放する光の勇者伝説は古くから存在するが、正式な記録が付けられたのはグレートアルメラント王国の前身である、アルマ王国に光の剣が帰属したときから始まる。


 その後、メラニアル王国を統一し、後世に作られたとされる付随する装備の、光の鎧や光の盾を接収し、光の勇者になればその3つを装備する最強の存在となる。


 強大な魔族に対抗できる人間である光の勇者は人間界の希望であり負けることは許されない存在なのだ。


 歴代の勇者はその義務を見事に果たしてきた。


 魔界は徐々に縮小していき、比例するように人間界……特に、アルマ王国の後身であるグレートアルメラント王国は繁栄を謳歌するようになった。



 しかし、グレートアルメラント王国の歴史の中で唯一魔王討伐に失敗した勇者がいた。


 ロック・ベルベルドである。


 彼は元々騎士で、武勇誉れ高く、特に対魔族や対魔導師に対して無敗を誇る存在だった。



それは、彼の生まれつきの特殊スキル『邪眼』があったからに他ならない。



魔力放出を感じ、不可視化を見抜き、相手の魔法の威力や特徴、軌道まで見抜けたと言われているが公式な資料は残されていない。


 それは、魔王討伐を失敗したため、王国から永久追放されたからだ。

……光の勇者、ロック・ベルベルドは王国の記録から抹消された存在なのだ。



◆  ◆  ◆



「曽祖父は王国を追放された後……当時戦争中だった帝国に逃げ、ベルクンベルド家を興しました。そして、下級貴族まで成り上がったのですが……父の代で帝国からも粛正に合いました。……何とも運がない。それ以来、私達一族は流浪の民です」


コーネリアは淡々と微笑みながら言葉を続ける。


「領土を拡張できない帝国はジリ貧……新興の貴族など風に舞う木の葉のように吹き飛んでしまう存在ですからね……しかし、凡庸な父はそれにすがるしかなかった。挙げ句の果てに大きな借金まで作って、地位を失った父は発狂し、自死。母と妹達は女衒に連れさらわれて行きました。今は何処で何をしているのでしょうかねぇ?」


「……」

ホルスは足を組んだまま、淡々と無言で聞く。


「私は命からがら逃げ出して、裏社会で生活していたらマッケイヤー一族に拾われました。……そして、チャンスを得た」


「だから、現魔王であるカールを殺すと?」

ホルスは冷たく言った。


「はい……曽祖父が成し遂げられなかった悲願を達成しようかと思いまして」


「いまいちメリットがわからないなぁ……殺したって、名誉は回復できないばかりか、王国の盟友である王を殺すなんて犯罪以外何者でもない」


「ホルス様にはメリットはあると思いますがねぇ?あなた様がお守りする魔樹は、人間世界の負の感情……不安や混乱、怒りを取り込んで魔力とするんでしょう?彼が亡くなれば魔界を巡って魔族と人間の争いが再び始まる……絶好のチャンスでは?」


「ふん……残念。全然面白くないねぇ。それより……」


ホルスは呆れたようなジェスチャーをした後、急に愛用の鞭を取り出し、コーネリアに突きつけ、語る。


「そのギラギラしたお前さんを、御神木の贄にしたらさぞ良い栄養が出てくるだろうねぇ?」


 ホルスは口を大きく開き、いやらしく笑った。

 うしろに居る、木偶人形はすでに戦闘態勢を整えていた。


「残念ですねぇ。私の崇高な志に理解を示されないなんて……大魔導師ホルス様も落ちたモノだ」

コーネリアは余裕の表情で呆れるようなジェスチャーをする。


 ホルスは立ち上がり、冷静な口調で言い返す。


「お前さん……自分の考えがただの妬みだって事わかってるのかい?何もかも上手くいってるカールに対してのさ」


「そうかもしれません……ただ、私は彼だけ特別強く憎んでるわけではありません。世界全てに平等に憎しみを持ち合わせていますよ?」


「はぁ?」


「私の目標は希望を潰すこと……この、光の剣でね?」

コーネリアの笑みが深くなり、懐から剣を取り出した。


 それは、ツタン城の宝物庫で厳重に保管されているはずの光の剣だった。


「なっ!」

ホルスは驚き、うしろに飛んだ。


コーネリアが立ち上がり、光の剣を抜き、切り上げた。


 剣は空を切ったが、衝撃波が起こり、直線上に居たモノは真っ二つになった。


「ハァ……ハァ…」

着地したホルスの息は荒い。


 衝撃波の一部を喰らったためだ。

 右肩辺りが赤く染まり、指先からポタポタと血が滴り落ちていた。

右腕は動かないのか、ダランと力なくぶら下がっている。


「う~ん……木偶人形2体を真っ二つにしただけですか…。こんなモノでは無いはずですけどねぇ?曽祖父の日記では」


「日記?」


「ええ……曽祖父の人柄が偲ばれる貴重な物ですよ。そこに光の剣の使い方等も書いてありました」


「じゃあ、なぜ私に聞こうとする?」


「取り込むというのは案外難しくてですねぇ……未だによくわからないんですよ?だからほら……」

コーネリアは左手を見せた。


「はは……何とも醜い」

ホルスはその光景を見て、笑った。


「でしょう?」

コーネリアも笑った。


 ……左手の甲から突き出す光の剣の刃を見て。

 光の剣の根本は左腕と同化していた。また、左腕全体に異様な赤黒い血管が浮き出ており、ドクドクと脈動している。太さも1.5倍は太くなっているだろうか?まるで左腕が腫れているかのように歪な形をしていた。


「日記には……曽祖父に手ほどきしたのはホルス様だと書かれていました。どうかよしみでお教えいただけませんか?」

演技のように恭しく、困ったように言う。


「良いこと教えてやる」

ホルスは直立不動で呟く。


「?」

コーネリアは怪訝な顔をする。


「あんたの曽祖父……ロックは、あんたみたいにスカしてて、プライドの高い奴だったさ。才能はあったが、今のおまえさんと同じで要領だけ得ようとしててねぇ……修行も途中で抜け出したんだ。あんまりその日記を信用しすぎると…痛い目を見るぞ?」

ホルスはいやらしく笑いながら言う。


「言いたいことはそれだけか?」

コーネリアは真顔で聞いているが、ギリギリと奥歯を噛みしめる。


 光の剣の刀身からは禍々しい魔力放出が起こっていた。


「ふん……わざわざ、忠告してやったのに…つれないねぇ」


 ホルスの言葉が終わると、コーネリアが一足飛びで距離を詰める。


同時に、ホルスの木偶人形がコーネリアに襲い掛かる。


コーネリアが木偶人形に切りつけようとするが、木偶人形は空中で匠に姿勢を変えて避けた。


そして、4体の木偶人形がコーネリアに抱き付いた。


「……くっ!」


「さらばコーネリア。右腕の事はツケにしといてやる」

ホルスはニタリと笑う。



そして、木偶人形が爆発した。



屋敷の中が煙に包まれた。



 しばらくすると、煙は無くなった。


リビングは無残にも壊滅状態だったが、火の手は上がっていないようだ。


「結界を張っておいて正解だったな……しかし、流石は大魔導師ホルス様。この結界の中を逃げるとは…」

コーネリアは灰燼に帰したリビングで立ち尽くしていた。


爆発の影響で服はボロボロになっていたので半裸状態だ。しかし、そのぼろ切れの隙間から見える皮膚は人間の物では無かった。


 コーネリアの体は鱗のような白銀の文様が体中にビッシリ刻まれ、金属のような光沢をしていた。


『光の鎧や盾を取り込んでいて良かった……生身だと死んでいた』

コーネリアは思う。


「フフ……ハハハッ……アーハッハッハ!」

コーネリアは顔を抑え狂ったように笑いだす。


そして……曽祖父の日記を持ち、家を出て闇夜に消えた。

その日以来……コーネリアを見たものはいない。

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