自信
日課であるお腹ナデナデタイムの時に、ふいに、ルシフルエントから「おまえ様よ……話がある」とまじめな顔で言われた。
「どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもあるか!マウントシュバッテンにまんまと嵌められておまえ様は悔しくないのかえ?」
怒ったように少しだけ語気を強める。
「う~ん……なにもないと言えば嘘になるけど、なんというか、俺が感情に任せて言葉を発してしまったのが原因だから、情けないというのが正直な所かな」
「妾は悔しくて仕方がない……おまえ様の優しさに付け込んで約束を取り付けるなぞ言語道断じゃ!」
「……ごめん。俺がもうちょっと考えてれば魔族を巻き込まずに済んだのに」
俺は本当に申し訳なくて俯いてしまった。
「おまえ様は悪くない!悪いのはマウントシュバッテンじゃ!!……しかし、悔しい事じゃが本当に弁が立つ。どれほど先読みしとるかわからんぐらい頭の回転が速い男じゃ。ホルスが嫌がるのも無理はない」
「あれが王様の資質ってやつなのかなぁ?本当にすごいよ」
俺は腕を組み考えてみたが想像すらできなかった。
「正直おまえ様はああなってほしくないがの~。やつは周りの誰もを信用していない悲しい男じゃ。じゃから他人がそう動かざるをえない状況に追い込む話し方をするのじゃ。妾……いや、魔族共通じゃが、もうちょっと信用して腹を割って話せと思うのう」
腕を組み溜息をつく。
「俺もその方が性に合ってる……しかし、じゃあ、王様は俺達にどう動いて欲しいんだろうか?」
「実はな、おまえ様……奴の行動は一貫しとる」
「そうなの?」
「ああ。やつは徹底した合理主義者じゃ。合理的かつ自分が優位に立てるならどんな事でもするタイプじゃ」
「……確かに」
「じゃから、妾はどうもよくわからん。そんな奴が妾達まで巻き込んで本気で戦争をするのかと思ってな」
「でも、帝国が侵略してくるんじゃしょうがないんじゃない?」
「あれだけ頭のキレる奴がそんな非合理的な事を放っておくとは考えれん。妾達まで巻き込めば帝国には余裕で勝利できるじゃろうがその後の混乱は必須じゃ。妾はどうも裏があるような気がしてならん」
「裏?王様も動かざるえないような?」
「ああ……思い出さんか?アッカイマンを殺して妾達と帝国を戦わせようとした奴ら……マッケイヤー一族の名前を?そいつらが怪しい」
人差し指を俺に向けて話す。
「あの、大陸の裏を牛耳る一族ってやつらか!」
俺は思わず立ち上がり語気を強めた。
「ああ……最初は帝国の領土を広げるための策略かと思っとったが、最近の事を思えばむしろ逆だったと思うのう」
「逆?」
「帝国を地図上から消したいと考えとるんではないだろうかえ?」
「そんな!リヒテフント帝国は3大国の一つだよ!!」
「裏の組織からしたら国の大小はあまり関係ない。仲違いしたから潰す。そんな感覚じゃろう」
「酷い……それで、どれだけの人が亡くなったり、困ったりすると思ってるんだ!」
俺は思わず奥歯を噛み締める。
「落ち着け!おまえ様。これはあくまで妾の邪推じゃ。……じゃが、そう考えた方がマウントシュバッテンの言動や、ここ最近の出来事に説明がつきやすい。正直、リヒテフント帝国ごときが妾達魔族の国や王国に攻め込むなぞ狂気の沙汰じゃからな」
「そうなの?」
「ああ。科学がいくら進んでいようが魔族の優位は早々崩れんし、物量においても、王国……いや、宗主国と含めて王国連合と言った方が適切じゃが、そいつらには到底かなわん」
「でも、龍が4体もいるよ?今は状況が違うんじゃない?」
「今をもってしてもそうなのじゃ!龍が全て黒龍並みの強さであれば別じゃが、リリー以下の雑魚が4体なぞモノの数ではない。ココ一人でも屠れる。……まあ、王国だけだと厳しいものがあるが、必殺の光の剣があるからのう。帝国は完全に詰んどるんじゃ」
「なるほど……でも、じゃあ、なんで魔族まで巻き込むんだろう?」
「これも妾の邪推じゃが、この行動はマウントシュバッテンの独断専行でないかえ?」
「独断専行?」
「ああ。王国の犠牲を少なくするため……と言うのは建前で、何か秘策があるはずじゃ。そして……」
「そして?」
「マウントシュバッテンは大陸の裏を牛耳るマッケイヤー一族を出し抜こうとしとるのではないかのう?もしかしたら、壊滅させるつもりかもしれん」
「え!なんで!」
「性に合わんからじゃろう?やつは合理主義者。戦争などと言う非合理的な事は絶対したくないはずじゃ。そうでなければ、もう妾達魔族と一戦やっとるはずじゃ」
「たしかに……国まで作ろうとしてるもんね」
「そうじゃ。合理的に共存できそうなら魔族だろうと組み込む。まったく人間らしからぬ発想する男じゃ。しかも、手段を択ばん。……じゃから戦争をしようとしとるやつを気に食わんのは当然の成り行きじゃ」
ルシフルエントは立ち上がり、語気を強める。
「なぜ料亭などと言う場で、あんなおまえ様の優しさに付け込んだ言い方で、無理やりに協力を取り付けようとするのか?そして、皇帝亡命計画を妾達に話すのか?すべてはマッケイヤー一族を出し抜くため。……どうじゃ?話が繋がらんか?」
「じゃあ、亡命計画は戦争回避のための布石?」
「その可能性は高いが……正直、妾が自信をもって言えるのはこれくらいまでじゃ。じゃから……」
「だから?」
「おまえ様は自信を持って良い!これからの話を持っていくためには協力国として王国と宗主国の中に入っていかんとわからんからな。そして、いけ好かないマウントシュバッテンに腹を割った話し合いをさせんといかん。妾が言っていた絶対拒否の姿勢では手遅れになるところだったぞ!流石はおまえ様じゃ!!」
ルシフルエントは座っている俺の肩をバンバンと強めに叩く。
「もしかして……今までの話は俺を勇気づけようするための話かな?」
俺は少し驚く。
ルシフルエントは少し頬を赤らめてツンとした態度で言う。
「そっ!そうではない妾は冷静に分析して情報を共有しようと思っただけじゃ!そのうえで妾の誤った指示でおまえ様に迷惑を……!」
俺はルシフルエントの唇に人差し指をつけて、喋らせないようにする。
「大丈夫!全部言わなくてもわかってるよ……夫婦だもんね?」
俺は満面の笑みでそう言った。
「……!」
ルシフルエントは目に涙を浮かべている。
俺はそっと立ち上がり、ルシフルエントの唇から手を放して真正面で頭を撫でる。
「……ありがとう」
そう言うと、ルシフルエントは抱き付いてきた。
「もう大丈夫かえ?なんだったら、こんな小難しい人間の理なぞ無視して、世界征服に方針転換しても良いんじゃぞ?」
「俺は元勇者だよ?できるだけ犠牲を出さないように混乱を治めたい。お腹の子供の為にもね?」
「うれしいぞ!流石は妾が見込んだだけの事はある!」
グリグリと顔を押し付けてくるルシフルエント。
俺は頬を緩めて頭を撫で続けた。




