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ルビンの様子

正直、青天のへきれきだった。


『まさか現皇帝に亡命しないかなんて。流石はトーケル先輩……いや、今はマウントシュバッテン王だったっけ?』

ルビンは自室のベッドにゴロゴロしながら考える。


本日は体調不良でお休みという事にしたので、この居室に侍従の出入りは少ない。


『ストレスで気分が悪いのは本当だし……王国との連絡役の人も来るからこうするしかないよね?』

ルビンは自問自答して納得させる。


ルビンは大きめの枕を引っ張ってギュッと抱きしめる。

そして、少しだけ恥ずかしそうに物思いに耽る。


『トーケル先輩……教授より博識で…常に先頭で私達を引っ張ってくれてたし…頼りになる人……もしかして、私の事……す…好!』

ルビンは布団の中で顔を真っ赤にして悶える。


そして、抱きしめていた枕をさらに強く抱きしめて顔を埋める。



コンコンコン!と、部屋をノックする音が聞こえた。


「うわぁ!はい!空いてますよ!」

ルビンは突然現実に引き戻され少しびっくりして、うわずった声で答えてしまった。


「ご機嫌いかがでございましょうか?朝食のお片付けとご様子を見に来ました」

侍従の女性が恭しく頭を下げて入室する。


「ありがとう……調子はだいぶいいので明日には公務に戻れそうです」

何とか平静を取り戻し、上体を起こして、にっこりと返答するルビン。


「……おや?顔が少しばかり赤いようですが大丈夫ですか?」

優秀な侍従のようでルビンの些細な変化も見逃さなかった。


「だだっ!大丈夫!大丈夫!ちょっとウトウトしてて火照ってるだけだから!」

両手を使って身振り手振りで拒否するルビン。


「??わかりました。何かありましたら何なりと御用を申し付けてください」

少し不思議に思いながらも侍従は手早く片付けて、頭を下げて部屋を出た。


「はぁ~……びっくりした」

ルビンは安堵の溜息をついて、昔を思い出す。



大学時代のルビンは、ありとあらゆる学問に手を出しており、知識の量は他の学生より頭一つ分抜きんでていた。

なので、教授からは重宝されたが、他の学生からは浮いた存在だった。

しかも、飛び級なので周りは年上ばかり。

内気なルビンは声をかけて友達を作ったりすることなどはできなかった。


留学当初は寂しい大学生活を送ることになる。


ある日、講義の後に声をかけてきた金髪の美男子がいた。


「やあやあ!君が噂の『帝国の天才』だね?僕はトーケル。トーケル・ラインハルト・フォン・マウントシュバッテンだよ。しがない辺境伯の次男坊だ。よろしく!!」

そういってにこやかに握手を求める。


いきなりの事でルビンはビックリしたが、しなやかで綺麗な手はルビンを救ってくれる神の手のように見えたので思わず握ってしまった。


それが、トーケルこと現マウントシュバッテン王との出会いだった。


トーケルは金髪で綺麗な顔立ちのしている美男子で論文も先進的で面白い。

その上、気さくでフランクな人柄で面倒見も良い完璧超人のような人間だった。

ルビンが憧れを抱くのは当然の流れだった。


それぞれの事情で離ればなれになった現在ではその憧れはより強くなり、初恋と思われる感情を抱くようになった。


『あっ……でも、トーケル先輩って重度のシスコンって噂だったっけ?』

ふと、トーケルの過去を思い出して少し落ち込む。


ルビンの記憶では当時、妹が一人いたはずで毎日会いに行っていたと記憶している。


『病気だったかなぁ?……いまいち思い出せないや』

ルビンは小首を傾げて怪訝な顔をした。



コンコンココン!と、部屋がノックされた。



ルビンは少しだけ髪をとかし服の乱れを直す。

この特徴的なノックは使者の合図だからだ。


「どっ…どうぞ!」


「失礼します……ご体調はいかがでございましょうか?」

物腰柔らかな侍従の服を着た女性が入ってくる。


「体調は……快方に向かっています。市況の様子はいかがでしょうか?」

ルビンは言葉を選びながら話す。


この返答はもちろん暗号。

快方は亡命の意思を示し、市況の様子は亡命に向けての状況を聞いているのだ。


「はい……では、わたくしがまとめた書状をお持ちいたしましたのでお傍にお持ちいたします。よろしいですか?」


「……よろしく」

深々と頭を下げるルビン。


侍従は扉を閉める。

そして、一通の書状を持ってルビンの傍に向かった。

ルビンは書状を受け取り、ペーパーナイフで封を解く。


そして、頬を緩ませ笑った。


「トーケル先輩……嬉しい」

思わず書状を抱きしめ、嬉しさのあまり声が漏れた。


その書状はマウントシュバッテン王からの直筆の手紙だった。


「……返答を書きたい。しばし待ってくれるか?」


「もちろんです……ペンはこちらに」

侍従の服を着た女性はペンを渡して、深々と頭を下げる。


サラサラとすぐに手紙を書き終えたルビンは署名捺印し、綺麗に折りたたんで元の封筒に戻す。


「承りました……詳細な事は追って連絡いたします」


「……よしなに。トーケル先輩にはくれぐれもよろしく」

頭を下げるルビン。

その目は何かを決意したように力強く輝いていた。


「はい……では、ご自愛を」

侍従の服を着た女性は深々と礼をして外に出た。


女性が出た瞬間、ルビンは顔を真っ赤にして枕を抱きしめる。

そして、またゴロゴロと悶えた。


『……また二人で会える日を楽しみにしてるだって!きゃーー!恋文みたい!』

ルビンはマウントシュバッテン王の手紙に書かれていた最後の一文を反芻し心が躍っている。


決してそういう意味で書かれていないことはルビン自身もわかっているが、恋する乙女の脳内回路が勝手に変換してしまうのだ。


しばらくゴロゴロ悶えた後、ルビンはふと冷静になる。


『私はこのまま流されていいんだろうか?』

天井を見つめ考える。


まつりごとに疎い私でもわかる。

この国は戦争を起こそうとしているのだ。


その中心に私は居る。


『でも……私は叔父さんの傀儡……何もできないし』


本当にそうだろうか?


ルビンは両手で耳を塞ぎ恐怖する。


私は多くの人を見殺しにしようとしているのではないかと思ったからだ。


そう思った瞬間、背筋に寒気が走り、体がブルッと震えた。


ルビンは布団のなかで丸くなり、震える。


そして、考えるのを止めた。



◆  ◆  ◆



ツタン城のマウントシュバッテン王の居室。


豪華な応接用の椅子と机で、フスハーンとマウントシュバッテン王が優雅にお茶を楽しんでいた。


「さて……ルビンちゃんは動きますかな?」

フスハーンは不敵な笑みを浮かべながら言う。


「彼女は動かなくても対処はできる。でも個人的には来て欲しいけどね」


「それは嫁候補と言うことですか?」

ニヤニヤと笑うフスハーン。


「そんなつもりは無いよ。……まあ、その方が統治に都合が良いならそうするかも」


「お!前向き発言……まあ、妹さんと歳も近いですしね」


「フスハーン!……まったく。僕のプライベートをあれこれ詮索しないで欲しいなぁ。僕はね合理的に、どうやったら後輩が頑張れるかを考えただけだよ!他意はない」


「ふふ!……まあ、独身貴族の嫉妬とおもって笑って許して下さい。私もマウントシュバッテン王ならそうだろうと思っていました」

恭しく頭を下げるフスハーン。


「冗談が過ぎるよ。まったく……それより、カール君の方が心配だよ。ヤケとか起こさなきゃいいけど」


「演技にしては楽しそうでしたね?」


「そうでもないさ!彼らが動いてくれないとマッケイヤー一族を出し抜けないから仕方なくだよ。……彼を脅さないと奥さんが動かないからね。難儀だよ」

呆れたように言う。


「妻子持ちも大変ですね……いくら美人でも、ああも尻に敷かれるのは性に合わない。フフ!」


「まったく同感だね……ところで、そっちの様子は大丈夫なの?」


「様子とは?」


「とぼけなくていいよ!帝国が片づいたら国がバラバラになるんだろ?掌握できるの?」


「もちろん!その為の統合議会議長ですから……すでに、我がアスラムール国が無ければアスラムル宗主国は成り立たないほど物心両面掌握していますよ。ご心配なく」


「流石はフスハーンだ。僕の眼に狂いは無かったよ」


「ええ……その節は本当に助かりました。しかし……マッケイヤー一族を滅ぼしていいのですか?彼らのネットワークは本当に凄いですよ?おかげで、我らもこうして出会えたというのに……」


「僕は彼らの上から目線のお小言が嫌いでね。上の方は、帝国亡き後100年は2大国体制を続けたいんだろうけどさ……身勝手にもほどがあるよ。まさに老害だ。老害!」


「はは……帝国の分割統治案でしょう?アレには参った。まだ王国は陸続きだからいいじゃないですか?私達なんて、飛び地ですよ?」

呆れたように話すフスハーン。


「ホントに……内政をまったくわかってない。だから、ご退場願うんだ。まつりごとはクリーンな方が良いからね」


「たしかに……しかし、できますか?」


「すでにホルスに協力を取り付けた。彼女ならできるよ」


「ほぉ~。あの小難しい大魔導師を味方につけましたか……流石はマウントシュバッテン王。魔族の扱いが実にお上手だ。」


「たまたまだよ。たまたま。敵の敵は味方ってね」


「そのマッケイヤーに負けない情報網……ぜひ、ご教授いただきたい!」


「フフ!計画が上手くいったらそのうち教えてあげるよ……そのうちね」


マウントシュバッテン王は笑いながら優雅に紅茶を一口飲んだ。

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