表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/83

会食の罠

王都2番街に『ロザン亭』という城のような料理屋がある。

そこは、グレートアルメラント王国随一と言われる最高級料亭で、貴族のみならず王室も利用するほどの店だ。


王室専用の個室も完備しており、密室なので会議や接待などにも利用される。

城ではできない非公式な会談も頻繁に行われており、夜の会議室とも揶揄されるほどの政治と密着した店なのだ。


そんな王室専用の個室に、俺と夫人達全員が招待された。

アスラムル宗主国の代表と親睦を深めるため会食をしようと、王様からのお達しだからだ。



俺たちは身なりを整えて、迎えの馬車を待っている。


そんなとき、ルシフルエントが俺に言ってきた。


「さて、おまえ様よ。これからマウントシュバッテンとアスラムル宗主国の代表と食事をするわけだが……必ずや同盟の話になるはずじゃ。心しておれよ?」


「え!なんで?同盟の話だったら城内の会議室とか、この領事館とかでするんじゃないの?」


「そういう公式な話はまとまってからするモノじゃ。非公式な駆け引きがある。じゃから会食なんというまだるっこしい話になるんじゃ」


「そうですねぇ~。たしかぁ『ロザン亭』って夜の会議室って言われるぐらい貴族達の秘密の会合が開かれている所ですしぃ~。その可能性は高いですねぇ~」

アルシュタインは頬に手を当てて言った。


「私達で言う酒場での決め事みたいなモノよね~。まあ、何処の世界でも往々にしてある場所って感じね」

ココが腕を組んで言った。


「メシ屋ならメシ食えって思うっす。面倒くさ!」

リリーが溜息をつきながら言った。


「おぬしらも努々気を付ける事じゃ。3大国の内、2カ国の代表がおるんじゃからな……できれば喋るな。特にリリー……よいかえ?」


「了解っす!姉御!メシを上品に食うことに専念するっす!」

リリーはビシッと敬礼をする。


「そうよねぇ……下手なこと言ってカールを困らせちゃ悪いし」

「そうですねぇ~。やっぱりルフェちゃんは頼りになりますねぇ~!交渉事になったらお二人におまかせしますぅ~」

ココとアルシュタインも同意する。


「で?どういう話になりそうなの?」


「たぶん、同盟を組んで一緒に戦えという話になるじゃろう。しかし、それはいかん」


「なんで?一緒に戦えば相手も怖がって戦いを止めるかもしれないじゃん」


「個人対個人だったらそういうこともあり得るが……戦争とはそんな単純な話では終わらん。考えてもみよ?軍隊同士の戦闘じゃぞ?大勢傷つくし、大勢死ぬ。それが国のトップが終わらすまで続くのじゃ」


「……」

俺は自分の浅はかさを思い知らされた。


「イスポワール王国は魔族の国でもある。そんな国が人間同士の戦いに首をつっこむとどうじゃ?より深い憎悪の対象になる……負の連鎖が容易に起こる」


「……確かに」


「じゃから、徹底的に拒否じゃ。そして、交渉が成り立たんというところを見せねばいかん」


「でも、保護国扱いなんでしょ?命令されたら従わないといけないんじゃない?」

ココが腕を組みながら難しい顔で言う。


「潜在的に言えば王国も妾達が怖いのじゃ。リヒテフントよりよっぽどな。じゃから、奴らも無理は言えんはず……限定的な戦闘はせなんどいかんがの」


「限定的な戦闘?」


「龍退治じゃ。アレは魔族側の落ち度。やらねばなるまい」


「迷惑をかけるっす」

リリーがしょんぼりと言った。


「そう上手く行くかなぁ?」


「……マウントシュバッテンは手強い。妾も言いくるめられそうなほど用意周到じゃ。感情に流されず慎重に事を運ぶしか手はない」


「たしかに……お師匠様も『食えない餓鬼』って言ってたし」

ココが唸るように言う。


「まあ、とにかく拒否じゃ。流れを見よう。アスラムル宗主国の奴の動きもわからんしな。……そうやって、時間を稼げば帝国も考えを変えるかもしれん。まあ、望みは限りなく薄いがのう」

ルシフルエントは顎に手をあて考える。


コンコンと部屋がノックされた。


「失礼します。皆様、馬車が到着しました」

護衛のウィザードが入ってきて、そう告げた。


「よいかえ?おまえ様?」

ルシフルエントは俺を真っ直ぐ見つめる。


よく見ると、みんな心配そうな眼で俺を見つめていた。


「ああ。……ルフェちゃんごめんね。俺に経験が無いばっかりに心配させちゃって」


「何を言うか……妾達は夫婦。お互い助け合いながら生きていくモノじゃ」

「そうよ!戦いの時は私に背中を預けてもいいのよ?何たって第2夫人なんだから!」

「国内のことはぁ、私におまかせ下さい~」

「え?わ……私は空は任すっす!飛ぶっす!」

夫人達はみな口々にそう言ってきた。


俺は嬉しくて泣きそうになる。


「……みんな」


「さあ、行くかの?」

ルシフルエントはそう言って扉を開ける。


「ああ。行こう」


俺たちは迎えの馬車に乗り込んだ。



◆  ◆  ◆



豪華なテーブルには洗練された料理の数々が並ぶ。


その料理に先に座っているのが、マウントシュバッテン王とアスラムル宗主国統合議会議長を務めていると紹介されたフスハーン・カン・デュラン・イル・アスラムールという30前後と思われる青年だ。


長身に肌は褐色で、かなりの美男子。

黒髪を短く切りそろえた頭には、砂漠の民にふさわしく白い布を黒い輪っかで縛り、被っている。

服装も砂漠の民にふさわしいゆったりとした白い布で構成された服装だったが、品のある刺繍が所々にされており、位の高さを伺わせた。


食事も大体終わりにさしかかる頃合いに、フスハーンが俺に話しかけてきた。


「いやはや何とも羨ましい……これほどの麗しいご婦人方を一人の男性が独占していようとは……神の悪戯にもほどがある」

にっこりと微笑みながらお世辞を言う。


典型的な砂漠の民だと俺は思った。


元々アスラムル宗主国の源流は砂漠の民と呼ばれる、中央に広がる大砂漠を渡って交易を行う商人の人々に由来している。


なので、全ての物事は合議で決める傾向の国民性がある。

必然的に幼い頃から交渉の場数を踏んでいるので口が上手い人が多い。


『お世辞も交渉術だが……彼のような美男子だと得だよなぁ……どんなクサイ台詞でもサマになる』

そう……彼の美しい顔立ちに、さわやかな声音でささやかれれば男でも世辞を真に受けてしまいそうなほどの美男子なのだ。


「……フスハーン議長はお一人なんですか?」


「残念ながら……まだまだ若輩者の身なので父が許してくれません。本当に羨ましい」


そう言うと、フスハーンはルシフルエントを見つめた。


「なんじゃ?妾の顔に何かついとるかえ?」

ニヤリと笑いながらルシフルエントが答える。


「いえ……かの有名な魔族がこれほどの美貌をお持ちになっているとは知りませんでしたのでいささか驚いております。下卑た視線をお許し下さい」

立ち上がり恭しく頭を下げるフスハーン。


「何とも世辞が上手い……まあ、悪い気はせんのう。で?何か話があるのじゃろう?」


「流石は魔王……私の本意をお見据えとは」

ワザと驚くフスハーン。


「魔王などとは一度も言ったことがないがのう?まあ、良い。どうせ同盟を結び、一緒に戦ってくれと言う話なんじゃろう?」


「何とも話が早い。マウントシュバッテン王の言う通り、聡明なお方だ」

大げさに驚くフスハーン。


「言っておくが、おぬしら。断りを入れる相手を間違っておるぞ?今の魔族の長はこのカールじゃ。妾の傀儡と思っておるのじゃろうが……名実共に主導権がある。妾はオブザーバーにすぎん」


「それは失礼しました。カール様……平にお許し下さい」

恭しく頭を下げるフスハーン。


「いえ……そう思われるのも仕方ありません。で、ご用件は?」

俺は少しだけ困った顔をして聞き返す。


「先ほどルシフルエント様がおっしゃられた通り、我々と対リヒテフント防共同盟を結んでいただき、一緒に戦っていただきたい」

ハッキリとフスハーンは言った。


「妾は反対じゃな……王国と宗主国。『3大国』の内の2国が手を結んでおる現状で負けることはなかろう?人間世界の厄介ごとなぞ妾達には無関係じゃ」


「夫人の意見に賛成です。私達が戦う理由を見いだせない」

俺はハッキリとそう答えた。


交渉の主導権を取った気がする。

この流れは領事館を出る前に話したとおりだ。


「そうもいかない……君達も知っているだろう?龍達が寝返ったことを?これは……」

マウントシュバッテン王は余裕の笑みを浮かべながら言っていたが言葉を遮られる。


「知っとる……そして、王国の光の剣があれば撃退できるのも知っておる」

ルシフルエントはマウントシュバッテン王の言葉を遮るように言った。


「その使い手は目の前にいるカール君なんだけどね?まあ、いい……」

マウントシュバッテン王は溜息をつきながら言葉を続けた。


「君達が危惧していることはわかる。魔族が人間の戦いに手を貸すリスクも織り込み済みだ。しかし、ことここに至っては頼まざるをえない」


「どういう事ですか?」

俺は聞き返す。


「単純にリヒテフント帝国は強いってことさ。そして、今回の戦いに国の存亡をかけている。今までの武力衝突とは比較にならないほどの規模で計画は進んでいるんだよ。彼らは……ん~、なんと言えば良いかなぁ?……言うなれば『総力戦』をやろうとしている」


「総力戦?」


「そう……様々な情報を元にそういう結論になった。正直異常な規模で作戦は進行中だ。このままだと王国だけでも犠牲者は100万人を超える。軍属のみならず一般市民も含めてね」


「100万人!しかも、一般人を巻き込むなんて!なぜです!!」

俺とココとアルシュタインは驚いて思わず身を乗り出した。


「……これ以上は機密だ。軍事作戦上の重要な案件にも抵触するから協力国しか教えられない」

マウントシュバッテン王はハッキリと言った。


「ぐっ……」

俺は奥歯を噛みしめる。


「マウントシュバッテンよ……そのようなまだるっこしい言い方をせんでも、妾達は保護国扱いなのだから命令すればよかろう?」

ルシフルエントは真顔で見据えながら答える。


「それもそうだね~。……でもね、僕はそんな交渉はしたくないんだ。お互いが納得しあえる関係でいたいからね」

にっこり笑いながら答える。


「やっと消えたはずの潜在的な敵を蒸し返さないためかえ?」


「まあ、それも否定できないけど……単純に僕の考え方なんだよ。そうやって遺恨を残すと後々面倒だからね。極力納得させたい」

ニヤリと不敵な笑いをするマウントシュバッテン王。


「させたいか……なるほど。おぬしは本当に食えぬ奴よのう」

溜息をつくルシフルエント。


「よく言われる」

満面の笑みでマウントシュバッテン王は言い放った。



一瞬の静寂が場を支配した。



俺は考えを巡らしたが、どうしても100万人の犠牲と言う言葉が頭から離れなかった。


なぜこうも貴族という人種は安々と人が死ぬことを許せるのだろうか?


1人の命だって重い。

ルシフルエントのお腹の中には俺の子供がいる。

その子がこんな話し合いの結果、死ぬことになりましたなんて言われたらどう思うだろうか?


俺は我慢できない。

救えるなら救いたい。


そうして我慢できなくなり、俺は声を発してしまった。



「ルフェちゃん……やっぱり俺は……むっ!」

『見過ごせない』と言おうとしたらルシフルエントに手で制止された。


「みなまで言うな。……ちゃんとわかっとる」

ルシフルエントは優しくそう言った。

そして、残念そうに少しだけ頬を緩めた。



交渉の流れが変わった。

その感じは鈍い俺でもわかった。



畳みかけるようにマウントシュバッテン王は話し出した。


「……見過ごせないだろう?流石は元光の勇者だ。君が参加してくれれば大勢の人が救えるんだ。……助けないのかい?今さら嫌だとは言えないだろう?勇者ならさ」

マウントシュバッテン王の笑みが深くなった。



……俺は感情に流され全てを台無しにする言葉を発したのだ。



「……マウントシュバッテン王よ。条件がある。良いかの?」

ルシフルエントは真顔で見つめ言った。


「いいよ。できる限り聞いてあげるよ」

ニコニコしながら答える。

その笑顔は本当に楽しそうで、少し恐ろしかった。


「妾達を極力人間同士の戦いに巻き込まないで欲しい。ただでさえ魔族は人間から恨まれておるからのう。これ以上憎悪の感情を向けられるのも困る。……それでよかろう?おまえ様よ」


「あ……ああ。お願いしたい」

俺は自分のうかつな発言に放心状態になっていたためそう答えるのがやっとだった。


「場合に寄るけど……何とか調整しよう。いいよね?フスハーン?」

隣に座るフスハーンに確認を求める。


「はい。流石はマウントシュバッテン王。その交渉手腕……参考になります」

ニコニコしながら世辞まで言うフスハーン。


その態度から、まるでこういう話になることがわかっていたかのような口ぶりだった。



俺は顔から血の気が引くような気がした。

そんな俺をルシフルエントは心配そうに見つめてきた。

よく見ると、他の夫人達も心配そうに見つめていた。


俺は申し訳なく思い、俯いてしまった。


「どうしたの?なんだか元気がなくなったね?まあ、カール君の気持ちも痛いほどわかるよ。でも、カール君が決断してくれたおかげで100万人の犠牲が20万人ぐらいには減ったよ?君は80万人も救ったんだ!大英雄じゃないか!……まあ、帝国の人はその分、沢山死ぬけど仕方がないよ」

マウントシュバッテン王は淡々と言う。



その言葉は俺に追い打ちをかける。


そうなのだ、戦いは相手がいる。

こちら側の犠牲が減ったら、相手の犠牲が増えることだって大いにあるじゃないか。

なぜそこまで考えなかった?


人間同士の戦争なのだ。

どちらかを助ければ、どちらかを殺すことになるかもしれない。

だから、徹底的に拒否するって話し合っていたのに俺はなんてことを言ってしまったんだ?


俺は自分の思慮の浅はかさを悔いた。



そこからは、あまり覚えていない。


覚えているのは楽しく談笑するマウントシュバッテン王の顔とフスハーン議長の顔。

そして、心配そうに見つめるルシフルエントをはじめとした夫人達の顔だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ