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表と裏

「おまえ様よ。ホウデガーに話をつけて部族をギルムアハラントに移動させぬか?」

ルシフルエントが神妙な顔で俺に言ってきた。


俺は最近の毎晩の日課である、ルシフルエントのお腹を撫でている最中だったので少しだけ驚いた。


「どうしたの、急に?」


「やつの魔導師達の実力は王国の魔導師達とは比にならんほど高い。また、飛行魔族も多い。ここから王都までじゃったら救援も容易い。先のことを考えると今の内に動かすべきじゃろう」


「なるほど……でも、青の宮は?」


「管理だけじゃったら10人も居ればできる。防備はミレの部族に頼んでわけてもらえばよかろう?」


「わかった……でも、話してくれるかなぁ?」


「どうしたかえ?また何か文句を言ってきとるのかえ?」


「まったくそれは無いんだけど……どうも最近、ホウデガーから避けられてる気がするんだ」


「まさか……手を出したりしとらんじゃろうな?」

ルシフルエントの視線が冷たい。

顔は笑っているが、目はマジだった。


「それは絶対に無い!」


「そうじゃろうな……直接に妾が聞こうかえ?」


「いや……これも俺の仕事だから頑張るよ」


そう言うと、俺は立ち上がろうとするが服を引っ張られたため立ち上がれなかった。


引っ張っていたのはもちろんルシフルエントだ。


「どうしたの?」


「ん!」

拗ねたように唇をとがらせてこちらに向け、目を瞑るルシフルエント。


俺はそっと頬に手を添えて、キスをした。


少し長めの唇の重ね合い。


名残惜しそうにお互いの唇は離れた。


「頑張るのもほどほどにな?妾はいつでもおまえ様の味方じゃ。甘えたいときはこの胸に飛び込んでまいれ」

優しい笑みをたたえるルシフルエント。


「……ああ。そうするよ」

俺もほほえみを返した。




次の日。


ココとホウデガーを大陸地図の部屋に呼んで、昨晩ルシフルエントと話した事を相談する。


ココと俺はホウデガーの対面に座る。

心なしか、ホウデガーは緊張しているようだった。


なんだか少しだけ違和感があるが、その違和感の正体がなんなのかよくわからなかったので話を進めることにした。


「……という訳なんだけど、ホウデガーの意見を聞きたいんだ」


「意見など不要です。ご命令いただければ即刻全部隊ギルムアハラントに移動します。また、周辺の平地をお貸しいただければ各個人テントを装備しておりますので宿なども要りません!長の役に立てるとあらば、我らにとって至上の喜び。いかようにも対応いたします!」

座ったままビシッと敬礼をするホウデガー。


「さすがねぇ~……ところで、青の宮は大丈夫なの?」

ココが呆れながら質問する。


「青の宮は専属の部隊が交代で休まず管理していますので、その部隊は残そうと思っています。まあ、20体ぐらいなので問題ありません。護衛はご提案通り、ミレの部族にお願いしていただければ……」


「わかった、こちらからお願いしとくよ」


「ねえ……ホウデガーさあ……」

ココがホウデガーを真っ直ぐ見つめる。


「はい!師匠!」


「……なんで、カールを見て話さないの?」


ココは淡々と話す。その口調は冷たい。

俺は話し始めた時の不思議な違和感の正体を知った。


しかし、なぜココの口調は冷たいのだろうか?

俺にはよくわからなかった。


「いや……そっっ!そんな……ことは!」

ホウデガーは明らかに動揺している。

色白の顔がみるみる真っ赤になっていった。


「温泉行ったときから、ど~も変なのよね……まさか…」


「ふぇっ!しっ!師匠!!それ以上言わないでーーー!!」

顔を真っ赤にして両手を突き出し恥ずかしがるホウデガー。


俺にはなぜホウデガーがそこまで恥ずかしがるのか意味がわからず小首を傾げる。


「はぁ~~。カール、ちょっと席外して。今の内にキルにさっきの話を言ってきたら?」

盛大に溜息をつきながら片手で額を覆い頭が痛いようなジェスチャーをするココ。


「あ……ああ、そうさせてもらうよ。ホウデガー……大丈夫?」

俺は立ち上がるついでにホウデガーに問いかける。


「ひゃ!ひゃい!!大丈夫れす!!」

いきなり立ち上がり顔を真っ赤にしながらカミカミで返事をするホウデガー。


正直少し引いた。


「そ……そう?じゃあ、ココ。よろしく」

俺はそそくさとその場を後にした。





玉座の間でキルとアルシュタインを見つけて先ほどの相談をする。


「わかりました。ホウデガー様と相談して、いつもの場所に来てもらうように手配しましょう。ミレ様にも私から連絡しておきます」


「いつもの場所って?」


「魔族の長が各部族の緊急招集を行うとき、ホウデガー様の部族の場合ギルムアハラントの北西の平地に参集するように約束されています。ちなみに、ミレ様の部族は北東。クップメント様の部族は南側と場所が決まっております」


「なんでその場所なの?」


「ホホロン様曰く、北東と南側は人間世界との国境が近いので肉弾戦が主の魔族を配置したとおっしゃっていました」


「もしかして、これもホホロンが決めたの?」


「はい。たしか900年前ぐらいに。それまでは個々の部族が雑多に参集していたので効率が悪く、度々勇者の侵攻を許していたので変更したとおっしゃってました」


「龍達は?」


「龍達は上空警戒のためゴール山脈に拠点を置く予定です。まあ、ホホロン様も『さすがに人間相手に考えすぎかなぁ?』と笑っておられましたけどね」


俺は苦笑いを浮かべる。


『流石はホホロン……900年前からすでに、空からの侵攻を予測していたとは……というか、俺とココはよくギルムアハラントまで進入できたもんだ』

そう、思った。


「カール様ぁ!ちょっといいですかぁ?」


「なに?アル」


「明日ぁ、王都から仕立屋さんが来るのでよろしくお願いしますぅ」


「仕立屋?なにか服を作るの?」


「決まってるじゃないですかぁ!戴冠式の衣装ですよぉ!ついでに儀礼用の服もいくつか作る予定ですから。まさかとは思いますけどぉ、鎧を着て受けようとか思ってませんでしたかぁ?」


「う……ちょっと、思ってた」


「はぁ~……まあ、カール様らしいですね。……私がちゃんと王室御用達のテーラーを手配しましたから。おまかせ下さい!」


「わかった。その辺の事は本当に疎いから凄く助かる」


「ついでに……私達のドレスも良いですかぁ?」


「もちろん!アルに任せる」


「わかりましたぁ!」



しかし、しきたりというのは本当に面倒でお金のかかることが多い。


『交渉と宣言だけで済んでしまう魔族とはえらい違いだなぁ』

正直いえば俺的には魔族の方が性に合っているが、そんな事を言っても始まらない。


『なんにせよアルが居て本当に助かった。これから少しずつでもしきたりを覚えていかないとなぁ……子供に見せる姿がない』


そう、俺は子供ができるのだ。

親父として恥ずかしくないように振る舞えるようにしなければ示しが付かない。


少しだけ憂鬱になりながらも、気合いを入れ直した。



◆  ◆  ◆



午後、ココが俺を呼ぶ。


ココの居室に入ると、ホウデガーも居た。


応接セットの対面に座っているホウデガーの様子はまるで震える子犬のようにビクビクとしていて普段と雰囲気が違う。

しかし、顔は紅潮し愁いに満ちた表情はなんだか妙な気分にさせる表情だった。


俺は隣に座るココに小声で呟く。


「……何したんだ?」


「別に何もしてないわよ。根掘り葉掘り聞いてたら、こんな感じになったの。たぶん私の予想は間違ってないと思うけど……直接本人同士で話した方がいいと思ったから来てもらったの」


なるほど……言葉で攻めても興奮するのか。

本当になんというか……変態だ。


ココの予想がなんなのか気になったが、話が進まないのでホウデガーに聞いてみることにする。


「ねえ?ホウデガー」


「ひゃいっ!」

ビクッと体をビクつかせカミカミで返事をする。


なんだか頭が痛くなってきた。


「最近……俺を避けてない?」

単刀直入に聞いてみた。


「いえ!しょんな事はありません!!」

いきなり立ち上がり敬礼をするホウデガー。


俺はビックリして思わず椅子にもたれかかった。


「どうしたの?いつものホウデガーらしくないよ?」

極力優しく諭すように言う。


「それは……その……」

いきなり、両手の人差し指をクルクルしだすホウデガー。


「何でも言って欲しい……俺たちは仲間なんだから!」

努めて優しく、努めて笑顔で言う。


「実は……あの…温泉のとき……以来、カール様を……意識してしまって」

両手を両頬にあて、湯気がでそうなくらい顔を真っ赤にするホウデガー。



『薄々は感じていたが……これは恋愛の不味いパターンではないか?』

俺は少しだけ背中に冷や汗をかいている。


彼女は目上に対して非常に従順だし、ちょっと性格に難アリだけど魔導師としての才能や部族を率いる統率力は他の魔族に比べて抜きんでている。

しっかりした彼女の姿は非常に頼もしく、俺は頼りになる仲間のように接していた。


だが、立場的に恋愛感情があったとしても彼女を正妻にすることはできない。

俺の心情的に彼女を婚外ハーレムにするなんて選択肢も考えられない。


彼女は眉目麗しく魅力的だが、俺はそう言う関係を彼女には望んではいない。

あくまで、頼りになる仲間として一緒にいて欲しいと思う。


もし、彼女が俺の事を好きだと言ったらどうだろうか?

俺は誠意を尽くしてお断りするしかない。


しかし、いくら優しく言っても拒絶は拒絶。


その事が原因で彼女の部族が離反する可能性もある。

何とも難題だ。




ホウデガーの言葉は続く。


「その……あの……温泉での…視線が…忘れられなくて」


『ん?』

俺は違和感に襲われる。


「師匠に言われて…初めて、気がついたんです。……最初は私の能力を評価してくれる優しい目線と……思っていたのですが…」


『いやいや……今でもそういう気持ちなんですけど』

思わず心の中でツっこんでしまった。


「私の体を見ている…カール様の……瞳の奥に宿る…欲情の炎を感じまして……一体カール様の頭の中で私がどのように弄ばれているかと……考えれば!考えるほど!!興奮するんですぅ!!!」

ホウデガーは鼻息荒く、叫んだ。


俺は本当に引いた。

思わず額を押さえ、天を仰いだ。


「やっぱりね……もしかして、カールの事を好きになったんじゃないかと思ってたけど、なんか違う気がしたのよ。私の予想は的中したわ」

ココが腕を組んで、溜息をつきながら言った。


「好きだなんてとんでもない!!私の立場はわきまえてます!!……はっ!叶わぬ恋に、強大な主人……そして、その狭間で弄ばれる私……いい」

妄想がどんどん飛躍していくホウデガー。


「ド変態だな!!」

俺は思わず突っ込んだ。


しかし、すでにホウデガーは妄想の世界に旅立っており、俺の突っ込みは届かなかった。


俺は立ち上がり、ふらふらとココの部屋を出ようとする。


「ちょっと!こいつどうするのよ!!」

ココが思わず追いかけてくる。


「師匠が何とかしてくれ……俺には無理だ」


そう言い残し、追ってくるココを残して扉を閉めた。


「ちょっとーーー!」


扉の中からココの声がしたが、俺は心労のため部屋に戻った。

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