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グレートアルメラント王国

「ところでコーネリア。帝国は予定通り動いてくれてるの?」


マウントシュバッテン王は自室で爪を研ぎながら軽い調子で言った。


王の居室らしく非常に豪華で広かったが、その場には王以外に一人しかいなかった。


他ならぬ、筆頭執事のコーネリアである。



「はい。それはもう喜び勇んでおります。本当に馬鹿共は哀れで可愛い……」

ニヤリと口元を歪め不敵に笑う。


「さすがマッケイヤー一族。頼りになるね~」

王は手をかざし、爪を整えながら言った。


「ときに王は戦端が開いたときはどうなさるおつもりで?」

コーネリアは笑いながら言う。


「最初は攻められるがままにしとくよ。穀倉地帯の半分と王都城壁ぐらいまで攻め込まれるだろうけど無駄な貴族の粛正と、今後の政策のために我慢だ」


「何万人ぐらいの犠牲で済みますか?」


「ざっと50万人ぐらいじゃないかな?極力配置転換とかしてるけど、あんまり思い切ってやったらバレちゃうし。しょうがないんじゃない?」


「これはこれは……さすが、我がマッケイヤー一族が認めた王。その決断力は素晴らしい」

パチパチと軽く拍手をするコーネリア。


「……最初に青写真を広げたのはどっちだよ?」

王はジト目でコーネリアを見る。


「いえいえ……我がマッケイヤー一族は自浄作用を失った利用価値のない帝国に消えてもらいたかっただけですので」

コーネリアは深々と頭を下げる。


「その為に北方の辺境伯になる予定だった僕を担ぎ出したんだから……まったく大したものだよ」

軽く溜息をつく。


「しかし、流石はマウントシュバッテン王……帝国との事のついでに懸案事項だった魔界まで平定するとは、我が一族の長も大層喜んでいますよ?」


「あれは、たまたまだよ。前王が勝手に事を荒げてたから、ああするしかないじゃん?」


「しかし、勇者を利用するとは……」


「それもたまたまだよ。ルシフルエントが話のわかる魔族だったし、勇者が欲しいって言ったから恩を売るチャンスだからあげただけだよ」


「それにしても、国まで作らなくても良かったでしょう?」


「今後のことを考えたらあった方が便利だよ。勇者が魔王になるよりはずっとね。……交易とかは嬉しい誤算だったし、ちゃんとアルシュタインも思った通りに動いてくれてるから王国は益々繁栄を謳歌する予定だよ」


「もしかして、アルシュタインが王妃の一人になることも想定の範囲内で?」


「さすがにそこまでは考えてなかったけど……まあ、結婚適齢期もとうに過ぎてたし、丁度いいんじゃない?」


「それもそうですね……王国であぶれてた優秀な若者の仕官先も確保できますし」


「戦争が起こると、無駄飯ぐらいの貴族がいっぱいいなくなる予定だし、領地も広がる予定だからあんまりいなくなるのは困るけど……まあ、想定の範囲内で収まると思う」


「足りなくなったら魔族でも貴族にしますか?」


「それもいいかもね?話しを聞けば優秀だし、長生きだし。永遠の主従関係って憧れない?格好いいなぁ……いいなぁ。カール君」

羨ましそうに虚空を見つめ頬を緩める王。


「しかし、マウントシュバッテン王も楽しそうですね?」


「当然さ。世界を僕の自由にできるんだよ?こんなに楽しいことはないよ!」

立ち上がり、拳を掲げる王。


その表情は普段は見せない感情を露わにした王の素顔だった。


「しかし……待ち遠しいですねぇ。帝国が攻めてくる日が……しかし、魔族は動きますか?やつらは人間世界に干渉することを本当に嫌いますから……」


「その為に龍族を離反させたのだろう?必ず動かざるをえないさ……そうそう、話は変わるんだけど一人帝国から逃がして欲しいのだけど?」


「誰でございましょう?」


「現皇帝のルビンちゃんだよ」


「なぜです?」


「帝国が滅亡した後、彼女にまたあそこの領地を任せたい。元皇帝の方が民衆も動かしやすいだろうからね?」


「反乱の可能性は?」


「無いよ。今の彼女の境遇を考えれば願ったり叶ったりなんじゃない?それに……」


「それに?」


「個人的な事を言えば、彼女は大学時代の後輩なんだ。飛び級で入ってきた秀才でね。良い統治者になると思う。滅亡後の帝国を任せるにはピッタリの逸材だよ?」


「なるほど……マウントシュバッテン王がそこまで言うならそうなのでしょう。わかりました。手配しましょう……少々手荒でも構いませんか?」


「まともな思考ができるなら手足の1本ぐらいならしょうがないかな?でも、できれば怖い思いをするぐらいで止めて欲しいね……僕は後輩の悲しむ顔は見たくないよ」


「了解しました。では、しばらくお待ちください。手配します」

恭しく礼をするコーネリア。


「よろしく」

王が片手を挙げると、コーネリアは音もなく部屋から消えた。




マウントシュバッテン王は椅子に深々と座る。


そして、誰にも聞こえないように小さく小さく呟いた。


「さて……奴らともこれで縁の切り時かなぁ?」



「ほぉう……それで、私を呼んだのかい?」


カーテンから声がする。


ふわっと、カーテンがたなびくと、大魔導師ホルスが現れた。


「ビックリするなぁ……まあ、話す手間が省けて助かるけど。まあ、座りなよ。おばさん」

ニヤリと笑う。


「ホントにいけ好かない餓鬼だねぇ……まったく」

ホルスは遠慮無く王の対面に座り足を組む。


「薄々は気付いてたんでしょ?……そして、僕が頼むことも」

椅子の縁に肘をつき、不敵に話す王。


「……まあね。ホントはあんたみたいな餓鬼とは組みたくないんだけど~」

呆れたようにホルスは言う。


「いいじゃん。志は一緒なんだからお互い協力しようよ?おばさん」


ホスルは真っ直ぐマウントシュバッテン王を見据える。

まるで目線で射貫くような殺気混じりの目線だ。


王もさすがに少したじろぐ。


「あんたの目的はなんだい?私は奴らに魔樹の森を何回も土足で荒らされて頭にきてるからだ。それ以上でも、それ以下でもない……」


「流石は魔樹の防人……身も心も森の番人だ」

呆れたように王は言う。


その瞬間、ヒュッと鞭が飛ぶ。

その鞭は王の鼻先で止まった。


「そうだよ。私は魔樹の森の番人だ……そして、私を甘く見ない方がいい。本気を出せば王国ぐらい5日で潰すことなんざわけないんだよ」

ニヤリと不敵に笑う。


王は少し緊張しながらも笑った。


「まあ、いろんな理由があるけどね~……もう200年も裏の世界を牛耳ってる連中には、この世界からご退場願ってクリーンな政治をしたいって言うのが本音かな?じゃないと王国が覇権国家になれない。僕もいつ暗殺されるかと思うと心配で心配で……」

深々と椅子に座り身振り手振りを使って流暢に語る王。


そんな言葉を無視してホルスはしゃべり出す。


「……そう言えば、あんたの妹は……」

「……関係ない!!」

ホルスは王の怒声に言葉を遮られた。


王はいつの間にか身を乗り出し、ホルスを真正面から見据えて叫んだ。


「ふ~ん、そうかい。あんたはそんな目をするのか。……面白い。協力しよう」

ホルスは笑いながら立ち上がり、窓の傍に立つ。



「……報酬は?」

王は深々と椅子に座り呟くように言う。


「今後とも魔樹の森と良い付き合いをしてくれればそれでいいさ……あと、おばさんじゃないホルスだ」

ホルスは少しだけ振り返るがすぐに元に戻った。


「了解りょ~かい……じゃあ、よろしく。ホルスさん?」


ホルスは返答をしないまま、風のように消えた。


「あ~あ。格好悪いったらありゃしない……まあ、結果オーライかな?」

王は背伸びをしながら立ち上がった。



そして、仕事を全うするため長い長い廊下を歩き出した。

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