表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/83

イスポワール王国

ギルムアハラントに戻り、緊急で会議をすることになった。


「みんな。仕事中に集まってもらってすまない。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。あまりいい話ではないんだけど……」

会議室で立ち上がりハッキリとした声で言う。


会議室には、夫人達や、キルにホウデガーと主要な魔族や王様から派遣されている人間が数人いた。


一斉に俺に耳を傾ける。


俺は少し緊張したが、ライハンからの情報をそのまま伝えた。


「あ~、とうとうやっちゃったっすか?たぶんギリム兄と取り巻きの4体っすね。馬鹿な兄貴っす」

リリーはあっさりと言った。


「なんじゃ……意外とあっさりしとるのう。リリーよ」

ルシフルエントは意外そうに言う。


「じーちゃんと喧嘩ばっかりしてたっすからね。スーモーウも私より弱いのに『新しいコロニーを持ちたい!』って喚き散らしてたっすから。退位騒動の隙をついて出て行ったんすよ」


「殺すかもしれんぞ?龍族はそれでいいのか?」

ホウデガーは睨みつつ言う。


「べっつにいいっしょ?龍族は去る者追わずって感じっす。特に人間に利用されるような馬鹿は帰ってきてほしくないっす。盟約にも反するし、一族の名折れっす。死んでほしいっす」

段々と言葉がエスカレートしていくリリー。


「まあまあ。まだ決まったわけじゃないからね?」

俺は苦笑いを浮かべてリリーをなだめた。


「序列的にはどれくらいなのじゃ?」


「ギリム兄は3位っす。あとの4体は20位以下のカスっす」


「しかし……人間相手ではかなり強い部類に入るでしょう?」

王国から派遣されている一人が言った。


「そうっすね。取り巻きのカスでも兵士100人ぐらいだったら瞬殺っす」


「まあ、マウントシュバッテン王に伝えとこう。……責任取らされて倒すことになるかもしれないから、黒龍にも言っとかなきゃ」

俺は腕を組んで呟く。


「じーちゃんには言っとくっす」


「すまないけど、頼むね」


「あの~、昨日王様から書状が届いたので披露して良いですかぁ?これは良い話ですよ!」

嬉しそうにアルシュタインは言った。


ルシフルエントもニヤニヤしている。


「なに?」


「2か月後、カール様の戴冠式がツタン城で行われることが決まりましたぁ!」


「おおー!」

会場がどよめいた。


そして、一斉に拍手が起こる。


「え!?何!?タイカンシキ?戴冠式!!」

俺は少し状況が把握できず驚く。


「これで、れっきとした王様ですぅ!」


「保護国扱いなのが癪じゃが、まあよい」


「いろいろまだ決めることが沢山ありますけどぉ……とりあえず、国名を決めませんかぁ?」


「ああ……そういえば、そうだった。そもそも国名ってどうやって決めるの?」


「一般的にその地に由来する地名だとかで決まっていますぅ。グレートアルメラント王国の場合、アルマ王国がメラニアル王国を統一したので、そのような名前にしたと言い伝えられていますぅ」


「リヒテフント帝国の場合は人名じゃな。700年前のリヒテフント大帝という者が起こした帝国じゃからそうなっとる」


「アスラムル宗主国は宗教だったわよね?たしか、唯一神アルスを信奉する国家群で指導者による合議制の国だってお師匠様から聞いた気がする」

ココは人差し指を顎につけながら言う。


「おお!馬鹿魔導師にしては博識じゃのう?そのとおりじゃ」


「馬鹿は余計よ!馬鹿は!!」

ココがすぐさま食いついた。


「……なんだか色々だね」

俺は頭が混乱する。


「ちなみに……ホホロン様が生前書き記した、独立した際の国名候補は、グレートサタニス王国。バールゼバブル王国。ルシフレント帝国。ギルムラント皇国などがあります」

キルが本を取り出し言った。


「……そんな事も考えてたんだ」


本当に大元帥ホホロンという男はなんでも先回りして考える男だ。

改めて、俺は思う。


「変わった国名では……希望をもじったイスポワール王国というのもあります」

キルがペラペラと本を捲って言う。


「希望……希望か。ホホロンは何を思ってたのかなぁ?」


「さあのう?まあ、やつの事じゃ。魔族の希望が叶う国という意味を込めて書いておるんじゃろう?」


「ここには走り書きで、『願望…望み…将来の希望』と書いております」


「そうか……将来の希望…か。良い名前じゃない?これにしない?」

俺はみんなに問いかけた。


「イスポワールってなんか間が抜けてて可笑しくない?」

ココが頬を緩めながら言う。


「そうっす!もっとかっちょいい、強そうなやつがいいっす!ガチムキ帝国とか、無敵王国とか!」

リリーは素っ頓狂な事を言った。


「なんともネーミングセンスが無いのう……あと、第2夫人よ。反論があるなら対案を出さんか?せっかくおまえ様が案を出したのに失礼じゃぞ?」

ルシフルエントが溜息をつきながら呆れるように言った。


「うっ……ごめん」

ココがしおらしく俯く。


「そうっす!!エクストリーム・強いぞ王国とか、フル・フレイムでっちゃうぞ帝国とかそんな感じで対案が欲しいっす!!」


「……リリーは少し黙っとけ!」

ルシフルエントは少し怒る。


「……はいっす」

リリーもしおらしく俯く。



沈黙が会議を支配する。


「では……イスポワール王国でいいですかぁ?」

アルシュタインはみんなに問いかけた。


「異議なし」

会議参加者は口々に言った。


俺は満足して、うんうんと首を縦に振った。




「あとぉ……この際にみんなにお知らせしたい事があるんですけどぉ」

アルシュタインは立ち上がって言う。


「なに?」


「イスポワール王国のお金についてですぅ」


「金じゃと?別に王国の金貨とか銀貨とかを使えば良かろう?」


「それだと、いつまでも王国の保護国を抜け出せないと思うのでぇ……紙幣を導入しようと思うんですぅ」


「紙幣って何?紙のお金?」


「そうですぅ!紙で作ったお金ですぅ!」


「紙でどうやって価値をつけるの?金貨だって基本的に金だからみんな信用して使ってるんでしょう?だから、少々だったら他国の金貨でも使えるのに……」

ココは強い口調で言う。


「これは金本位制度って言って、金と交換できる紙を発行してそれを通貨の代わりにしてしまうんですぅ!」


「へぇ~。金と交換できる紙かぁ……それなら価値はあるね。発行するのが国なら信用力もあるし」


「はい~。実はマウントシュバッテン王も導入しかけたんですけどぉ、利害関係が入り乱れて無理だったんですぅ」


「王国が取り入れる理由がわからんのぅ?」


「貴重な貴金属が通貨に使われて、摩耗するからですぅ。あと、貨幣自体に価値があるのでぇ貯めこむ人が多くて、経済を拡大させるためには改鋳とかしないと需要が賄い切れないんですぅ」


「妾達が導入するメリットは?」


「お金は今後、他の国と交流するにあたって必要になると思うんですぅ。でも、王国の通貨を使うにしても、数が圧倒的に足りません。なので、採掘できる金を担保に自国紙幣を発行したほうが効率がいいんですぅ。通貨が出回っていない…利害関係がない今だからできる政策なのでぜひともお願いしたですぅ」


「そういえば、妾達は金なぞ使わんからのう……本当に、人間世界の理とは難儀なモノよ。……おまえ様?よろしいか?」


「ああ。アルが言うんなら間違いないだろう。いいよ。調整大変だろうけどお願いしていいかな?」


「はい!粉骨砕身で頑張りますぅ!……それで、印刷するための大量の印刷機を発注したいのですが…この間の金貨の残りを使っても良いですかぁ?」


「もちろん。足りる?」


「なんとか、足りると……あ!でも、輸出は順調に始まったのでそこから回しますぅ」


「うん。よろしく」


「カール様……まもなく日も暮れますので、他に緊急の議事が無ければ終わりませんか?私達はかまいませんが……疲労も溜まってる者もいますので」

キルが立ち上がり言った。


よく見ると、他の列席者も少し疲れの様子が見える。


「そうしようか……じゃあ、みんな。よろしくお願いします」

俺は深々と頭を下げる。


「おまえ様。こういう時は国王らしく『よろしく頼む』と言えばよい。そんなに下手に出ると下の者が混乱する。そろそろ練習をしてはいかがかのう?」

ルシフルエントはハッキリという。


『……しまった』

俺はまたやってしまった。


周りを見ると、確かに少し混乱しているように見える。


「…えっと!……じゃあ、改めて……よろしく頼む!」

俺はハッキリと前を見据えそう言った。


「わかりました」

列席者の多くが声をそろえて言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ