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マナ・エッセンス

クップメントから『マナ・エッセンス』の準備ができたと連絡を受けたので、ココとホウデガーを連れて向かう。


ルシフルエントは転移魔法が胎児に影響することを心配して不参加だ。


黒の宮に着くとライハンが恭しく出迎えてくれた。


「お待ちしておりました……こちらです」


一礼すると、すぐに踵を返し先頭を歩く。

俺達はついていった。


大きな魔方陣が書いてある広場に入る。


魔方陣の中央には、宝珠の代わりに台の上に置かれたアッカイマンがいた。

傷は全て塞がっていたが、土気色の顔色をしていて、無表情なのが逆に痛々しい。


「……お待ちしておりました。ホウデガーも久しぶり」

クップメントは近づいてきて恭しく礼をする。

そして、立ち上がり、ホウデガーにも軽く挨拶をする。


「師匠……いや……元師匠!!お久しぶりでございます!!今はこのココのおねーさまに師事しております!」

敬礼をして答えるホウデガー。


「……うん。知ってる」

短くそう答えたあと、ココに体を向けて深々と礼をする。


「……変態だけど、よろしく」


「うん。もう知ってる。クップちゃんも大変だったね」

そう言うと、ココは握手を求めた。


クップメントはすぐに握り返した。


「50年……大変だった」

無表情でココを見つめるクップメント。


言葉は交わしてないが目で語り合っていた。


「あれ~?何だか私、悪者ですか~」

ホウデガーは二人の様子を見て焦る。


「うん」

ホウデガーの問いに即座に答えるクップメント。


「酷い!!」

ホウデガーはショックを受けた。


そのまま、部屋の隅っこで両足を抱えたまま座り込んで泣くホウデガー。


「さあ、アッカイマンを復活させましょう!!」

そんなホウデガーを無視するようにココは明るく言った。


「……いいのか?」

流石に俺は可哀そうになり、ココに尋ねる。


「いいのいいの……知ってる?ホウデガーって、あの紐で縛る魔力回路矯正術を気に入って、いまだに服の下にしてるのよ?ハアハア言って興奮するやつを、毎日縛る私の身になってよ。いい薬だわ」

呆れたように言う。


「今も!!」


「そう、今も」


『そういえば温泉に行った時もうっすらと紐の跡があったような……』

俺は思い出しながら苦笑いを浮かべた。






そんな、話は置いておいて、アッカイマンにマナ・エッセンスを放つ準備をする。

魔方陣の四方では『漆黒の四人衆』が胡坐をかき呪文を唱えている。

各々が真剣で、額には球のような汗を浮かべている。



俺はクップメントの指示に従って、魔剣を取り込んだ。


アッカイマンの前に立つ。

そして、手を顔の前に掲げる。

そして、目を瞑った。


クップメントが俺の後ろに立ち、背中を触る。


『黒の宮に溜まっている魔力を感じてください』

頭の中にクップメントの声が響く。


俺はイメージする。


すると、角のあたりが少し共鳴したようにむず痒くなり、頭の上に大きな水の塊のような物が見えた。

そして、その水が俺の角にジャージャーと流れてくる。


実際には水はかかっていないが、そんな感覚を受けた。


『意識を集中させ、魔剣に魔力を流し込み、凝縮します』


先ほどの水を魔剣に流し、凝縮させ、一滴のエッセンスを絞りだす感じだろう。


マナ・エッセンス……名は体を表すとはこのことだ。

俺はイメージする。

そして一気に水を吸い込み、凝縮する。


『……!!』

クップメントは焦っているようだが、もう引き返せない。

俺は一気に力を開放し、マナ・エッセンスをアッカイマンに放った。


目を開けると、魔方陣の要所要所にある宝石がひび割れ、何かしらの爆発が起きたかのように皆が防御姿勢を取っている。


元の場所に立っているのは俺とクップメントのみ。


クップメントの様子を見ると、肩で息をしていた。


「クップメント!大丈夫か!?」


「……少し…魔力充填が足りなかったようです。でも大丈夫。問題ありません」


「そうか……アッカイマンは?」

俺はアッカイマンをじっくり見る。


胸のあたりが少しだけ上下していた。


「成功か?」


「はい」


「よっしゃーー!」

俺は思わずガッツポーズする。


そして、駆け寄って来たココとハイタッチをした。


「彼が意識を取り戻すにはもうしばらくかかるでしょう。バットステータス等も調べないといけません。起きたら私が事情説明し、弟子としてしばらく鍛えます」

クップメントは俺をまっすぐ見つめながら言った。


「ああ。よろしく頼む。落ち着いたらギルムアハラントに連れてきてくれ」


「……はい」

クップメントは深々と礼をした。




黒の宮で少し遅い昼食を取りながら休憩する。


すると、『漆黒の四人衆』が入って来た。

そして、4人全員が部屋に入るなりかしづき、頭を垂れる。


みな一様に長い黒髪で執事服を着ており、長身で美麗な男性だった。

髪の結び方は人それぞれで、ポニーテールをしていたり、三つ編みにしていたり様々な方法で仕事に支障がない様にしていた。


しかし、4人とも色白で美男なので、そのような奇抜な髪形をしていても似合っていて少し羨ましかった。


代表してライハンが喋る。


「お仕事後のご休憩の最中に申し訳ありません。辺境眷属より気になる情報を聞きましたのでクップメント様よりお知らせするようにと言われましたので」


「気になる情報?……ああ!楽にしていいよ!」

俺の言葉で立ち上がり、優雅な動きで報告するライハン。


「かなり前に、ガルガン山脈より5体の龍がリヒテフント帝国方面に向かいました。襲撃かと思われましたが、リヒテフント帝国側に動きは無く、国境付近の長城も滞りなく築城しています。たぶん、仲間になったのではないかと……」


「そんな馬鹿な!あの黒龍の一族だぞ!!ありえない!!」

ホウデガーは思わず立ち上がり叫んだ。


ライハンは微動だにせず語る。


「私達もそう思い色々と手を尽くして情報を集めましたが……そのように結論付けるしかない状況でして。もちろん私も信じておりますが、なにぶん状況が状況なのでお耳にはさんでおくべきかと思い報告している次第です」


『そういえば、何体かの洞窟が空だったよなぁ……リリーはたしか、ギリム兄とか言ってたなぁ』

俺は先日の黒龍達のコロニーの事を思い出した。


「魔族を統べるカール様に何たる侮辱!!即刻この私が魔法で消し炭にしてくれよう!!」

ホウデガーは激高している。


「ホウデガー。少し落ち着くんだ。事実は事実として受け止めないといけないけど、まだ確定ってわけじゃない。もう少し様子を見よう」


「は!了解しました!!」

踵を鳴らし、直立不動で敬礼するホウデガー。


「きな臭いわね……はぁ~、まったく」

ココは肩肘をつき溜息をついた。


ライハンはさらに語る。


「リヒテフント帝国が作っている長城もかなり急ピッチで進んでいます。それに伴い威力偵察も増加中です。この調子だと1年以内には完成すると思います」


「ルフェちゃんが命令した、こちら側の拠点は?」


「順調に推移しています。2~3か月あれば完成します」


「できれば、もう少し早めにできないかな?回り込まれないように罠や配置転換とかも考えたいし……」


「お任せください。眷属の量を増やし対応します」


「うん。よろしく。また途中経過でもギルムアハラントに教えに来て欲しい。できる?」


「仰せのままに」

深々と礼をするライハン。


「なんだか……本当に攻めてきそう。嫌だわ」

ココが呟いた。


「本当に……なんで争いが起こるんだろ?」


「長い歴史の中で、人間達が争いをしていない時期の方が珍しいですよ?」

ライハンは呟く。


「そうかな?」


「クップメント様と意識を共有している我々が、今までの人間達の興亡史をご説明しましょうか?」


「何年分ぐらい?」


「ざっと5万年分ぐらいですかね?」


「はは……遠慮しとく」

俺は苦笑いを浮かべて濁した。




しばらくライハンたちと談笑した後、俺達はギルムアハラントに戻った。

そして、持ち帰った情報を供給するために会議を開くことにした。

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