告白
夜の街では歓楽街を中心に探す。
『ああいうココは飲んだくれるからなぁ』
何度か旅の途中でも爆発したことがあるココのヒステリック。
そう言うときは大抵、飲んだくれて見つかっている。
『ここか?……居ないか』
しかし、王都の歓楽街は非常に広く、飲める場所と言っても多岐にわたる。
しばらく一帯をくまなく探しているが一向に見つからない。
人通りも多く絶望的な気分になる。
しかし、俺は諦めずに探した。
「嬢ちゃん!!飲み過ぎだよ!!」
そんな迷惑そうな怒声を耳にする。
俺は何かを感じて声の方向に急いだ。
「うっさいわねぇ。お金払ってるんだからいいでしょ!?」
ココだ。間違いない。
「歩けなくなるまで飲んだらダメだよ!ほら、肩貸してやるから、手かしなって!」
ウエイターとおぼしき、おっさんが手を引っ張る。
「あー。私の胸見たでしょ?絶壁だって思ったでしょ?」
ああ!始まった。ココ得意のスーパー因縁!早く行かなきゃ。
「そんなこと思ってないって!」
「いーや。思ってる。許さない。魔法で……吹き飛ばしてくれる!!」
「いいっ!」
ウエイターのおっさんの顔が引きつる。
「大地の…ヒック!底で煮えたぎる…ヒック!炎の力よ……ヒック!我の呼び……むがもご!!」
俺はすんでの所でココの口を塞ぐことに成功した。
「おっさん!すまない!!俺の連れが迷惑かけた。これは迷惑料だ!」
俺は金貨1枚を投げる。
「あ…ああ。大丈夫だ。……また来てくれよ」
「すまない」
そう言い残すと、俺はココを担ぎ、走って逃げた。
しばらく走ると、ココが文句を言い出したので、おんぶをしてやることにした。
「なんでー……来るのよ~!」
「なんでって……お前は」
「ル~フェちゃんと、イチャイチャしとけばいいんですよー!!イチャイチャー!!」
背中で暴れるココを両手でしっかりホールドする。
「あ~、気分悪い。吐きそう」
「な!!ちょっと待てって!すぐ降ろすから!!」
俺は焦る。
「ウソでしたー!キャハハ!」
「お前な……」
不意にココが背中にもたれかかる。
「おい……」
「いいじゃん。最後なんだし」
「最後?」
「討伐も終わったし。パーティー解散だよ。解散」
「そんな、寂しいこと言うなよ」
「嫌。もう決めたの……も…う、決め……たんだもん!」
背中から嗚咽と共に、生暖かい液体の感触が伝わる。
「私の気持ちに気付かないバカな勇者は嫌い!のじゃ姫の魔王はもっと嫌い!勝手に結婚許しちゃう王様も嫌い!みんな、みんな、だいっ嫌いだー!」
吐き出すように言葉を紡ぐココ。
俺は聞いてやることしかできなかった。
また、しばらく歩く。
「降ろしてカール」
「はぁ?宿屋はまだ先だぞ?」
「さっき言ったでしょ?私は宿屋に戻らない。だから降ろして」
俺は渋々ココを降ろす。
「何処行くんだ?ココ」
「私はお師匠様の所に戻る。もうちょっと修行してみようかなって思ったの」
「そうか」
「うん。何か困ったことがあったら来て。昔のよしみで、金貨10枚で助けてあげるわ」
「高けーな」
「当たり前でしょ?私は光の勇者の相棒で、大魔導師ホルスの一番弟子なんだから。プレミヤよ。プレミヤ」
「そうか。じゃあ、困ったら頼みに行くよ」
「カールも気を付けて。死んじゃったら……許さないんだから!」
ぷいっと腕を組みながらそっぽを向くココ。
「はは。俺は150歳まで生きるらしいぞ。魔王のお墨付きだ」
「あー。また魔王の話して。私はあの、のじゃ姫は嫌いなの!……でも」
「でも?」
「あの自分を偽らない素直な感じは好き……かな。それに、一生懸命だし。下手な人間よりよっぽど話しやすいわ」
「そうだな」
「今にして思えば、大元帥ホホロンも見かけによらず、かっこいいおっさんだったよね?」
「ああ。やつは正々堂々と戦うまさに騎士の鏡のようだったな。魔族なのに」
「そうそう。案外、魔族の方がカールにはあってるかもよ?性格的に」
「うん。実はちょっとそんなことも思い始めていた」
「はは。影響受けすぎー!勇者なのに」
「俺も、もう勇者は終わりだよ。今度は領主様だ!」
「そうだね。ねえ?カールはいいの?」
「領主になることか?」
「違うって!ルシフルエントと結婚すること!」
「……正直、迷いはある。でも、あいつの気持ちは本物だし、支えてやりたいと思ったからさ」
「……そっか。じゃあ、ここでお別れだね」
「そうか?もう少し話してもいいだろう?」
「ダメ!これ以上一緒にいたら……離れ…られなく……なっちゃうよぉ!」
そういいながらココは俺に抱き付いてきた。弾みで帽子が地面に落ちた。
「ずっと……ずっと好きだったんだから」
俺は何も言えず、ココの頭を撫でた。
「これ以上、浮気したら許さないんだからね!」
「ああ。努力する」
そういうと、ココは離れた。
「のじゃ姫魔王なんかより魅力的になってやるんだから!見てなさいよー!」
ココは天に拳を突き上げ宣言する。
「それまで絶対死んだらダメだからね!二人とも!」
「ああ。それは俺の名に誓って約束しよう」
俺は胸を張って言う。
「アハッ!勇者でもないカールに誓われたって説得力ありませんよーだ!」
ココは笑いながら森の方に進む。
「おいおいそりゃねーぜ」
「でも……信じてあげる。だから、バイバイ!」
ココは振り向き、笑って手を振った。
俺も笑って手を振った。
ココは転移の呪文を唱え、消えた。
俺はルシフルエントが待つ宿屋へ急いだ。
9月5日タイトル変更