最終試験
次の日から2日間ほどは段階を追って強い相手を紹介してくれたリリー。
俺は魔剣を使わずとも何とか勝利した。
『総合的な力も何だか上がってるなぁ……龍と互角に力比べができるなんて思ってもみなかった』
俺は少しだけ自信がついて来た。
しかし、その小さな自信もすぐにポッキリと折れてしまう出来事がおこる。
それは、リリーが用意した最後の練習相手が強すぎたからだ。
その練習相手はリリーだった。
「さあー!もう終わりっすか?まだ全然余裕っすよ?」
余裕の表情でリリーは腕をぶんぶん回している。
「はぁ……はぁ……」
それに対して俺は言葉が出ない。
力比べをしたら腕を折られ、投げられてはろっ骨を折られ、吹っ飛ばされる度に体中に裂傷ができたりと、1回の練習の度にどこか怪我をしている。
そのたびにルシフルエントの回復魔法をかけてもらっては治し、また練習するの繰り返しだ。
30回を超えたあたりから、もう数えることはしていない。
ルシフルエントも心配そうな顔で見ている。
「言い忘れてたっすけど、このコロニーでの序列的には私は2番っすからね~……まあ、ダンチでじーちゃんが1番っすけど」
『おいおいマジかよ?……2番でこれなのに、段違いって、どれだけ強いのか見当がつかない』
俺は少しだけ焦る。
しかし、負けるわけにはいかない。
俺は両手を組み、構える。
そして、始まりと同時に力でなすすべもなく押され、吹き飛ばされた。
気が付けば、ルシフルエントに膝枕で回復魔法をかけてもらっていた。
「おまえ様……そろそろ魔剣を使ってはどうかえ?」
「……まだまだ大丈夫だよ。アレ無しでリリーには勝てないと、黒龍には勝てない」
「そうかのう?しかし……見てるこっちは忍びない……泣きそうじゃ」
目に涙を浮かべながら回復魔法をかけるルシフルエント。
「もう少しで……コツがつかめそうだ。次は……あつつ!」
俺は立ち上がろうとしたが、バランスを崩し、跪く。
そんな様子を見て、リリーが叫ぶ。
「もう日も暮れるから続きは明日っすよ!ゆっくり休むといいっす!!」
「そうする!今日はありがとう!!また明日もよろしく!!」
俺はそう叫んで、ルシフルエントに肩を借りて帰った。
リリーは、カール達が見えなくなるまで見送る。
本当はすぐにでも帰って、ココ特製の夕食にご相伴与りたかったが、少しだけ休憩した。
それは、興奮しすぎて帰れなかったのだ。
思わず両手をクロスして自分の肩を抱く。
そして、笑いだした。
「くっくっく!……強い…あんなに強い人間初めてっす。肩が外れてもげるかと思ったっす……流石は姉御の旦那様」
不敵に笑うリリー。
尻尾をバンバンと地面を打ち付け興奮している。
リリーは相手が強ければ強いほど興奮する戦闘狂。
カールは、その戦闘狂を本気にさせたのだ。
リリーはその余韻に浸っている。
「明日は抑えられるか自信ないっすね~……しかし、ホントに後半の伸びは凄まじすぎるっす。思わず本気出ちゃった……ああ、興奮して眠れないっす」
身震いするリリー。
しばらく余韻に浸り、今夜もご相伴に与かるためルシフルエント達のいる洞窟へ急いだ。
次の日。
俺は朝から気合いを入れて望む。
着替えているとふと、鏡が目に止まった。
「あれ?なんだか角が伸びてる気がする」
俺は角を触る。
感触は同じだが指二本分ぐらい伸びていた。
『なんだろう?』
俺は気になったが、リリーを待たせるのも申し訳なかったため、急いで部屋をでた。
広場では、リリーが仁王立ちで待ち構えていた。
「さあさあ!いざ尋常に勝負っす!」
尻尾をバンバン地面に打ち付け叫ぶ。
「望むところだ!」
俺は気合いを入れて、両手を組んだ。
本日は最終日とあって、ギャラリーが多い。
ルシフルエントのみならず、ココやゼロやホウデガーはもちろん、丸くんや他の龍達も見に来ていた。
「ほう?黒龍も気になるかえ?」
ルシフルエントはカールの姿を見ながら呟く。
ルシフルエントの隣には長身で筋骨隆々の中年がいた。
黒髪を乱雑に肩まで伸ばし、口の周りを覆うように黒々としたもじゃもじゃの髭を生やした男だ。
胸板も厚く、横幅はカールの2倍はありそうだった。
丸々と盛り上がる体はまさに全身筋肉の塊である。
上半身は裸で、立派な黒い腰巻きだけしている。
これが、黒龍の人間型の変身であった。
「人間らしからぬ力の流れを感じたのでな……しかし、さすが勇者と呼ばれただけはある。なかなかの強さだ」
「称賛するぐらいじゃったら初めから協力してくれればよいものを……」
「誇り高き龍族の長としてそれはできん相談だ。それに、やつはまだまだ力の使い方を知らん。良い練習じゃろう?」
「ほう?ではココの話は演技かえ?それにしては楽しそうだったがのう?」
「アレも本気だ。あれほどの完璧な体は希少価値すらある……最近はリリーの変身も年齢にそって、各部が出てきだしてのう、悲しい限りだ」
「……はぁ~」
ルシフルエントは溜息をついて、手を額に当てる。
号令と共に練習は始まった。
力と力の真っ向勝負だった。
しかし、リリーの力は強い。
俺は押され、強制的に跪かされた。
「アッハッハー!もう終わりっすか?念願の押し合いっすよ?やっぱり人間ごときには勝てないっすか?」
不敵に笑うリリー。
尻尾をバンバンと地面に打ち付け、明らかに興奮している。
「くっ!」
俺は奥歯を噛みしめる。
「さあ!終わりっす!あーはっはっは!!」
リリーの目が赤く輝き燃えるようだった。
それと同時に圧力は更に強くなり、両手の骨がミシミシと不吉な音を出していた。
俺の両足が地面にめり込む。
『やべー……負けそうだ』
俺は観念しかけている。
頭の中では走馬燈のようなモノが流れ出し、時間の流れがゆったりと感じられた。
「おまえ様!!」
ルシフルエントは思わず叫ぶ。
俺は横目で見た。
今にも泣きそうな目で見つめるルシフルエントとココの姿に、俺は正気を取り戻した。
「ま・け・て……たまるかーーーー!!!」
叫んだ瞬間、体中に力があふれ出る感じがした。
まるで、魔剣を取り込んだときのような感覚だった。
押し返す。
ただただ力の限り押し返した。
「うっ!!なんっすか?何が起こったっすか?」
リリーは驚き、おもいっきり押すが、ビクともしなかった。
形勢は逆転し、今度はリリーの方がかしずいた。
周囲は無言で固唾を呑んで見守る。
そして、俺はリリーを押し倒した。
その瞬間、土煙が舞い、視界が悪くなった。
思わず俺は目を瞑った。
「むーーーー!むーーーー!」
俺は唇に振動を感じて目を開ける。
俺とリリーはなぜか唇を重ねていた。
俺はビックリして慌てて起き上がる。
どうやら押し倒した拍子でぶつかったようだ。
幸いお互いの歯は無事なようだった。
顔を赤らめるリリー。
「ご!ごめん!!不可抗力だから!忘れてよ!!」
土煙で視界が悪い中、俺はリリーに謝る。
「……忘れないっす…だって、じーちゃん以外に初めて負けたやつっすから」
俯き呟くリリー。
「え?」
「責任とるっす!!」
「責任って……」
俺はしどろもどろになる。
「絶対に勝つことを約束するっす!じーちゃんに負けたらただじゃおかないっすからね?そしたら……」
少し拗ねたように頬を膨らまし言うリリー。
「そしたら?」
「……それは、勝ってからのお楽しみっす!!」
そう言うと、リリーは立ち上がった。
「はは……わかった。約束しよう。責任はとらないとね?」
俺は笑う。
リリーも笑った。
土煙はちょうど晴れて俺も立ち上がる。
「おまえ様!!」
ルシフルエント達がかけてきた。
俺は両手をあげて迎えようとしたが、腕が上がらなかった。
すぐに、回復魔法をかけるルシフルエント。
「あれ?角が伸びてない?」
ココが角を指さし言う。
「そうかな?まあ、なんにせよ、両手が動かないから後で確認してみるよ」
「前日より、3ミリメルト伸びてます。ちなみにここに来たときから換算すると5ミリメルト伸びてます。マスター」
「ミリメルトがどれぐらいかわからないけど……やっぱり伸びてたんだ。何でだろ?」
「たぶん魔力回路が強化されたと考えるべきじゃろうな……でなければ、あのような異常な成長は起きん」
ルシフルエントは角を見て言う。
「ふ~ん……カールの魔力回路は身体能力強化に成長するんだ。まあ、辻褄は合ってるわね、魔剣取り込んでできた角だし」
「よし。回復完了じゃ。今日の午後は休息がよかろう。明日は大一番じゃからな」
ルシフルエントは手をはたきながら言った。
「そうしよう。とにかく疲れたよ……」
俺は痺れる手を動かしながら言う。
「リリーも食べるでしょ?お昼」
ココは近づいてきたリリーに言う。
「モチのロンっす!いや~連日ありがたいっす!」
「おや?リリーも両手が複雑骨折しとるではないか!?すぐ回復魔法をかけてやるぞ!」
ルシフルエントはプラプラしてるリリーの腕を見て驚く。
「大丈夫っすよ、姉御ー!夜には治ってるっす。龍族の回復力を舐めないで欲しいっす!」
あっけらかんと答えるリリー。
『……アレが夜には治るんだ』
俺は驚いた。
洞窟に戻る。
そして、午後は言われたとおり休息時間にして、明日への準備をした。
といっても、あまりすることはないので、食って寝るのが主な仕事だった。
『明日は黒龍か……頑張ろう!』
俺は気合いを入れ直し、早めに就寝した。




