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黒龍の正体

洞窟の奥には、石で作られた簡素な応接セットがあり、そこにみんな座っている。



「なあ……本当にあれが伝説の龍なのか?」

俺は思わずルシフルエントに呟く。


「あー……そうじゃの~。なんだか違う気がしてきたの~」

片肘をついたルシフルエントはジト目で黒龍こくりゅうらしき生物を見ながら言う。


視線の先の黒龍こくりゅうはココと仲睦まじく遊んでいた。


デフォルメされた黒龍こくりゅうはココの膝の上に乗ってキャッキャウフフとじゃれ合っている。


「かわいー!さっきの姿が嘘みたい!!」

ココはツンツンと腹を触る。


「コレが僕の本当の姿だよ!!もっと触って!!」

少しだけ鼻息を荒くした黒龍こくりゅうは一生懸命可愛らしさをアピールしていた。


「あんな、じーちゃん……初めてっす」

リリーも何だか呆れている。


「さすがは師匠!溢れ出る人徳から黒龍こくりゅうさえも手なずけてしまいましたか!!」

ホウデガーはキラキラして目で語る。


「……各種バイタル上昇……どうやら、性的興奮ですね」

ゼロが診断する。


「……なんだかなぁ。はぁ~」

俺は呆れて溜息をついた。


昨日までのドキドキ感や恐怖心の入り交じった感情、出会ったときの武者震い……これぞ冒険と思っていたのに。

俺の感動を返して欲しい。


ココと黒龍こくりゅうの席だけ異空間が広がっているので、話がまったく進まない。

ルシフルエントは我慢の限界に達したようで俺に話しかけてきた。


「どうも先に進まん……おまえ様。黒龍こくりゅうと3人で話さんか?」


「お願いできるならそうしてくれる?俺はこの光景を見るのは飽きてきた」



しばらくして、ココから引きはがされた黒龍こくりゅうと別室で話すことにした。


洞窟の奥にはいくつも部屋があり、その中の一つで話し合いの席が設けられる。



扉が閉められ、話し合いが始まった。


「あ~……うん!失礼した。つい取り乱したようだ……許せ」

黒龍こくりゅうは先ほどの若々しい声でなく老齢な声で話す。


「なんでそんな姿なんじゃ?前にギルムアハラントに来たときは、もうちょっとましな人間の姿で来たであろう?」


「それはな……ココ嬢に気に入られるためだ」


「はぁ?」

俺とルシフルエントは同時に素っ頓狂な声を出した。


「あの体躯。そして、完璧なる胸囲。なまめかしい大人の足……そして、幼さを残した色香漂う雰囲気。……まさに完璧。完璧な女性が目の前に現れれば気を引こうと行動起こすのが男というものではないか?」


「ゼロではダメなのか?」


「彼女も捨てがたいが……体躯が幼すぎる。やはり、20ぐらいの感じなのにあの体型というのがいい。子供のような大人……素晴らしい」

鼻息を荒くして語る黒龍こくりゅう


俺は思わず手を額に当てて頭を抱えた。



ああ、なるほど何となくわかった。

こいつは貧乳好きの変態って事だな。

たぶん、初めてあったとき俺を睨んでいたのではなく、隣のココを見ていたんだ。



俺はルシフルエントに耳打ちする。


「頑固爺じゃなかったの?」


「妾と話すときは本当に頑固なのじゃ!」


俺たちを無視して黒龍こくりゅうは語る。


「すでに人妻の身ということが本当に残念だ……しかし、真の紳士は愛情をもって愛でるのが鉄則。ああ……この恋い焦がれ、身を焦がす感じ……たまらん」



前言撤回……こいつはただの変態なんかじゃない。

ホウデガーと同類のド変態紳士だ。



俺とルシフルエントは呆れて帰りたい気分だったが、話が進まないので黒龍こくりゅうを見る。


タイミングを見計らったかのように黒龍こくりゅうも話しかけてきた。


「ルシフルエントよ……遅くなったが話を聞こう」


デフォルメ姿で何とも不思議な感じだが、真面目モードに戻ったようだ。


「妾が話すことはただ一点。次期魔族の長となるこのカール・リヒター・フォン・スベロンニアに協力せよ……それだけじゃ」


「ふん……本当は絶対に拒否する所だったが、ココ嬢と会えなくなるのはワシの本意ではない。チャンスを与えよう」


「……なんとも俗物な理由じゃのう」

思わずルシフルエントは呆れる。


「仕方あるまい?今までワシが協力していたのは、お前とは親戚関係だったからに他ならない……お前の祖母はワシの妹だ。その赤髪、赤眼が何よりの証拠」


「な!!なんじゃと!妾の中に変態一族の血が流れとるのか!?ショックじゃ~」

ルシフルエントは俯き、本気でショックを受けている。


『ああ……だから、リリーと雰囲気が似てるんだ。そう言えばこの自由奔放さもどことなく似てるような気がする』

俺は少しだけ合点した。


「変態という単語は少々聞き捨てならんが置いておこう……ワシは縁もゆかりもないただの人間に協力してやる義理はない。本来ならばお前らがこの地に足を踏み入れた段階で全面戦争を起こすつもりだったが……気が変わった。カールよ。ワシと勝負をしろ」


『親族以外は話を聞かない……確かに頑固爺だ』

俺は黒龍こくりゅうの正体がわかった気がした。


「望むところだ。どんな勝負でも受けて立つよ」

俺はハッキリと言った。


「死体を返すわけにはいかんから、古代より我が一族に伝わる伝統的な勝負で決着をつけよう。まあ、瀕死にはなるかもしれんが、回復魔法もある。その点は我慢しろ」


「大丈夫だよ。伝統的な勝負って?」


「ああ。スーモーウという力比べだ。お互い両手を組んだ状態から始め、背中を土につけた方が負けといういたってシンプルな勝負だ」


「わかった。いつやる?」


「こちらの伝統的な勝負だから少々練習が必要だろう?5日後、中央広場でやる。それまでリリーや他の龍を使って練習して構わん」


「わかった」


「おおそうだ。噂によれば、お前は魔剣を取り込めるのだろう?ただの人間ではワシに力比べで勝つのは不可能だ。ハンデとして魔剣を取り込んでもかまわんからな?」


「おぬしはマナの挿し木を取り込んどるからのう……」


「まあ、そういうことにしといてやる。では、5日後中央広場で会おう。ここでの世話役はリリーに任せる。何でも言うがよい。部屋は客人用の洞窟を使え。たしか、先代が遊びに来たときのベッドとかが残っていたはずだ」


「ああ。では、5日後だ。よろしく」


俺は黒龍こくりゅうに握手を求めた。


「ふん……まあ、よい。せいぜい楽しませてくれよ?」

デフォルメされた手だったが握手をしてくれた。


握手をすると、俺は感じ取ってしまった。


『コレは……やべーな。ホントに強え』


黒龍こくりゅうのデフォルメされた目からは尋常ならざる殺気が放たれ、背筋が寒くなる。

手も小さいが、そこから感じ取れる魔力のような力の渦は半端がない。


『ド変態紳士でも、やはり伝説の龍……か』

俺は、気を引き締めて練習することにした。



黒龍こくりゅうと別れ、リリーの案内の元で客人用の洞窟に向かう。



「ここがその洞窟っす!ちなみに、私の家は隣だから用があったら声かけて欲しいっす」


「早速で悪いんだけど、スーモーウの練習がしたいんだけど?」


「う~ん……じゃあ、私の舎弟を呼んでくるんで少し待ってて!」


「ごめんね。よろしく」


「うわ!何コレ!!きったなーーい!!」

ココは洞窟の奥で掃除をしている。


さすがに何百年放置されたベッドなどは埃まみれですぐには使えそうにはなかった。


「妾はカールを見ておく。ココ……部屋は頼むぞ?」


「わかったわよ!回復魔法を使えるのはルフェちゃんだけだから頼むわね……ゼロ!ホウデガー!しっかり掃除するわよ!!」


「はい!!」

「……はい」

ホウデガーとゼロは掃除を始めた。



「おまたせっす!この子は舎弟の丸ちゃん!まだ20歳の超若手っす。最初はこれぐらいで修行するっすよ!」


「よろしくお願いします」

ドラゴン姿の丸は人の3倍ほどの大きさがあった。


変身メタモルフォーゼすると、俺のような大きさの人間になった。


「よろしく!じゃあ、修行するか」


俺とルシフルエントは中央広場に向かった。

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