ガルガン山脈の黒龍
尾根をまっすぐ進む。
依然として厚い雲と吹雪の為、視界が悪い。
「これは一種の結界じゃ。龍のコロニーに入れぬよう黒龍が張っておるのじゃ。あまり離れるなよ……滑落して死んでしまうからな」
ルシフルエントの言葉に、俺達はできるだけ離れないように進む。
「マスター……あと、100メルテで広い大地に着きます。生体反応あり。巨大生物がウヨウヨいます」
眼鏡に色々映しながら喋るゼロ。
「いよいよだな」
俺は少し緊張する。
雲を抜ける。
太陽がサンサンと降り注ぐ広い大地が広がっていた。奥にはまだ高い山がそびえ立つ。
とても、万年雪が降り積もる山を抜けてきたとは思えない光景だった。
そこには確かに巨大な龍がいたるところに居る。
「あーらよっと!!」
突然声がしたと思ったら、空から赤い髪の人間が降って来た。
くるっと一回転して着地する。
着地の衝撃で地面が少しひび割れ、すごい音がした。
その女性は長い赤髪を無造作に伸ばした感じの髪型で野性的な印象が強い。
顔立ちは整っているが、赤い太い眉に吊り上がった強そうな赤い瞳が特徴的な17~8歳ぐらいの若い女性だった。
ぼろ切れを纏ったようなワンピースの上からでもわかるスレンダーな体つきをしておりお尻の当たりから大きな尻尾を生やしていた。
肌の色は褐色で、全体的な雰囲気は、どことなくルシフルエントに似ていた。
「久しいのう……リリー」
「久しぶりっす!姉御!ホウちゃんも久しぶり~!」
片手をあげてウインクをして、ラフに挨拶するリリー。
俺らはゼロ以外、唖然となる。
「安心せい。こやつはリリーと言って黒龍の孫じゃ。見ての通り火を操る龍じゃ。なぜかいつも人間体型に変身しておる変わり者じゃ」
「ちーっす!よろしく!」
ラフずぎる挨拶をするリリー
俺達は挨拶もかねて、初見3人の自己紹介をする。
「よろしく。俺はカール。カール・リヒター・フォン・スベロンニア」
「おお!姉御の旦那さん!あのホホ爺をぶっ殺した人間でしょ!?よろしく!」
俺の手を取りぶんぶんと勢いよく握手するリリー。
「私はココ。ココ・ラクエンド・フォン・フリューよ。一応、第2夫人です」
「知ってる知ってる!ホホ爺をぶっ殺した片割れのロリ体系魔導師だよね」
俺の時と同じようにブンブンと握手をする。
「誰がロリ体系よ!!」
ココは吠えたが無視された。
「ゼロです。マスターの忠実な僕です」
「おお!!ピカピカだー!!金属!?貴金属なの!?」
ゼロの手を見たリリーはキラキラした目をしながら興奮する。
「ただの金属です」
「そうか~……ん?どこかで見たような……まあ、いいや!よろしく!!」
少し考えるしぐさをしたがやめて、俺達と同じようにブンブンと握手をする。
「本当に龍というのは光り物に弱いのう……ほれ、チップをやるから早く黒龍の所に案内せい」
ルシフルエントは宝石をリリーに渡す。
「うっす!こちらにどうぞ!姉御とそのハーレム達!」
そう言うと先頭を意気揚々と歩き出した。
『何というか……自由だなぁ』
俺は苦笑いを浮かべた。
更に高い山に向かって全員が歩く。
コロニーには無数の洞窟があり、大体の洞窟には龍が鎮座していた。
大きさも数もまちまちだったが、たぶん家族だろうと思う。
しかし、ある一角の数体分の洞窟が空になっていた。
「ねえ、リリーさん。なんであそこの洞窟には龍がいないの?」
「あれー?あそこはギリム兄達の家だよなー?なんでいないんだろ?」
リリーは不思議そうな顔をする。
「どこか出かけとるんじゃないのか?気分転換じゃろう?」
「そうかも~……まあしばらく見てないからわかんないや!」
リリーはあっけらかんと答える。
俺たちは考えても答えは出ないので先に進むことにした。
さらに歩き、山に近づくと、ひときわ大きい洞窟が見えてきた。
たぶん、あの洞窟だろう。
近づくにつれて洞窟から何か漏れ出しているのがわかる。
黒い靄のようなモノだった。
「流石は黒龍……死の匂いがプンプンする」
ルシフルエントは不敵に笑う。
「死の匂い?」
「やつは元々リリーと同じ火龍じゃった。しかし、火龍の寿命は500年ほど……じゃが、やつはマナの挿し木を取り込み、アンデットと化した。全身は黒く変色し、自慢のブレスもこの通り、死をまき散らす凶悪なモノに成り果てた。寿命を超越し、やつは唯一無二のロードドラゴンとなったのじゃ」
俺は少しだけ背筋が寒くなった。
そうこうしてるうちに、洞窟の前まで来る。
「じっちゃーん!姉御が来たよーーー!」
ハッキリとした声でリリーが洞窟に向かって叫ぶ。
地響きがする。
心なしか黒い渦も濃くなってきたような感じがする。
一歩一歩歩くような地響きは次第に強くなり、ついに姿を現した。
「!!」
俺とココは思わず身構えた。
今まで見てきた巨大な龍を3倍ほど大きくしたような体躯の黒い龍がそこにはいた。
黒い鱗は太く大きい。
首も長く太い。
全身から放たれる黒い靄は、ルシフルエントのいう死の匂いをまき散らしているという表現がぴったりのモノだった。
その目もどす黒く、睨むだけで普通の人間だったら怯えて動くことはできないんじゃないかと思われるほど鋭い。
『さすがにこれは……恐ろしい』
武者震いがする。
こんな感覚はホホロン以来だ。
流石は伝説のロードドラゴン。
「黒龍よ!盟約に従い参った。話をしようぞ!!」
ルシフルエントは叫ぶ。
ギロリと俺を睨む黒龍
「この体では話づらい……しばし待たれよ」
老齢な落ち着きのある声だった。
そして、巨体は洞窟の中に入る。
しばらくする。
洞窟の奥から、軽い足音がした。
そして、洞窟から姿を現す黒龍
俺は、その姿を見て驚く。
「きゃー!!可愛い!!」
ココが真っ先に反応した。
そこには、4頭身ぐらいにデフォルメされた可愛らしい龍がそこにいた。
大きさも人の頭ぐらいの大きさになって何とも愛らしさが滲み出ていた。
「おまたせー!僕は黒龍よろしくね!」
声も口調も体に合わせて何とも若々しくなっている。
『……さっきの姿はなんだったんだよ?』
俺は頭が痛くなった。




