修行?
ココとホウデガーがあのような状態になったため、サクッと協力の約束を取り付け、次の日にはギルムアハラントに戻ってきた俺たち3人。
しかし、玉座の間では想定外の事態が起きていた。
「なあ……なんで、ホウデガーが付いてきてるんだ?」
俺は目の前で繰り広げられている惨状を、玉座に座りながらルシフルエントに聞いてみる。
「何でも、ココに弟子入りするらしいぞ。妾に懇願してきたが……さすがに妾の一存では決められん。青の宮と部族の管理を徹底するのと、ココの承諾さえあれば良かろうと言ったまでじゃ」
「へ~。それで、逃げ回ってるんだ」
俺は玉座に肩肘をついて言う。
目の前ではココが広間中、逃げ回っている。
「おねーさまー!待って下さいよー!!」
「嫌よ!早く青の宮に帰りなさいよ!!」
「私はおねーさまと修行するんです!!許可を下さ~い!!」
「イヤーー!!」
叫び回るココとホウデガーに対し、ルシフルエントは眉間に皺を寄せている。
よく見ると回りの魔族も、王都から来た人間達もその光景には苦笑いか呆れた様子しかしていない。
『ここは……助け船を出しておくなかなぁ』
俺はそんな風に考えた。
「なあ、二人とも……そろそろ止めないか?」
俺は聞こえるようにハッキリと言った。
ココとホウデガーは、息を荒くしながら止まる。
「では!許可を頂けるんですか!!」
キラキラした目で俺に聞くホウデガー。
「嫌よ!絶対にイヤ!」
ココは譲らない。
「はぁ~……とりあえず、別の部屋で話し合ってよ。回りをよく見た方がいいよ?」
ココとホウデガーが回りを見渡す。
そして、恥ずかしくなったのか顔を赤くした。
「なんだったら、妾が仲介役をしてやろうぞ!!ついてこい!!」
眉間に皺を寄せてルシフルエントが笑いながら言う。
明らかに怒っていた。
「……はい」
二人はルシフルエントに連れられてどこかに行った。
「カール様ぁ!今よろしいですかぁ?」
アルシュタインが機嫌良く聞いてくる。
心なしか、報告を待ちきれなくてスキップをしているようだ。
「どうしたの?機嫌がいいね?」
「はい!王都から召喚状が届いてますぅ。陳情していた、武器・防具商組合と貴金属組合とコンタクトを取ってもらえるそうですぅ」
「ホントに?でも……まだ売り物が……」
「こういうのは、交渉して卸すモノですよ。あと、幸いドワーフさん達が、昔から作っていた物を頂きましたぁ。貴金属や宝石の類もかなりの量がありますぅ!あと、報告では試作坑道も順調に終わりそうで、7日後には生産に移れるそうですよぉ!」
「そうなんだ。流石アルシュタイン……準備がいいね」
「えへへ~。褒められちゃったぁ!」
頬を染め、喜びを表現するアルシュタインは可愛かった。
「じゃあ、準備をよろしく。いつ出発するの?」
「できれば早めに……明日とかはいかがでしょうか?」
「良いよ。また、みんなで行こう」
「はい!ルフェちゃんに言っときますね!」
そう言うと、アルシュタインはルシフルエントを追って玉座の間をでる。
俺は背伸びをした。
『そう言えば……ホウデガーって以外と整った顔つきをしていたなぁ』
背伸びをした拍子でふと思い至る。
軍服姿に、あの言動のせいでそこまで考えが至らなかったが、色白で、やや勝ち気な顔つきだったが、先ほどのココを追いかける表情はどことなく子犬のような愛らしさがある。
少し線は細いが、ココよりは出るところは出ている。
『まさかこのまま流れ的に……いや、まてまて、魔王と配下が同列の夫人になるか?ありえないなぁ』
貴族の領主がメイドや配下に手を出したというのはありえる話だ。
しかし、その後、結婚したという例は非常に少ない。
大抵、屋敷を追われるか、殺されるか、よくても監禁されるかのどれかだ。
アルシュタインやココのケースは稀なのだ。
『第1夫人が寛容だからできる芸当だよなぁ……まあ、流石にホウデガーは無いか』
流石にそんな事はないだろうと思い、考えるのを止めた。
『そういえば……黒龍のこと聞くの忘れてた。ちょっとルフェちゃんの所に行ってみよう』
俺は最後の平定先の情報を聞くためにルシフルエントのいる場所へと向かった。
ルシフルエントの居場所をキルに聞くと、ココの居室にいるとのことだった。
俺はゆっくり向かう。
ココの居室の方から走ってくる音がする。
「?」
それはアルシュタインだった。
しかし、様子がおかしい。
なんで、泣いているんだろう?
「アルシュタイン?」
俺は声をかけようとしたが、少し手前の階段を降りたため声をかけられなかった。
イヤな予感がする。
俺はココの居室に急いだ。
「むーーー!むーーー!」
ココの部屋の前まで来ると中からゴソゴソと騒がしい上に、変な声が聞こえる。
バン!
俺は乱暴にドアを開けた。
「大丈夫か!!ココ!!」
思わず身構えて叫ぶ。
そこには、ルシフルエント、ココ、7号、ホウデガーの4人がいたが、大変な状況だった。
俺は唖然とし、思わず外に出る。
「なんで!ホウデガーが下着姿で縛られて吊されてるんだーーー!!」
俺は叫んだ。
ココの部屋ではホウデガーが下着姿で麻の紐で特殊な結び方で縛られ、吊されていた。
おまけに口にはタオルが巻かれている。
「おお!おまえ様。これは興味深いぞ!」
「何が!」
「これは私が最初にやった矯正の修行なの」
「何を矯正するんだよ!むしろ変な癖がつくだろ!!」
そういえば、王都でもそのような人種がいるというのも聞いた事がある。
人から鞭で叩かれたり、殴られたりするのが快感なんだとか……俺には一生わからない感覚だ。
「変な癖?」
ココが不思議がる。
「まあ、おまえ様の言いたい事はわからんでも無いが……ナナも証人じゃ。確かにやっとたらしいぞ。3日3晩もようやるのう」
「3日も!!」
「そうなんですよ。厠もこのまま私が連れて行きました!」
ナナちゃんが明るく言う。
「はぁ~。ナナちゃんまで……」
俺は溜息をついた。
何となく、アルシュタインが泣きながら走ってた理由がわかる気がする……いきなりこんな姿を見たら俺だって泣きたくなるよ。
「おまえ様。なにか話があるんじゃろう?別の場所で聞こう。さすがにこの姿は毒じゃ」
「そうね……なんか喜んでるし。じゃあ、ナナちゃん!よろしく!!」
「はい!おまかせ下さい!!」
『喜んでる?』
俺は気になってチラ見する。
そこには恍惚の表情で、息を荒くして吊されてるホウデガーがいた。
俺は見なかった事にした。
俺たちは別の部屋に移る。
ついでに、先ほど話せなかったであろうアルシュタインも呼ぶ事にした。
俺たちは大陸地図の部屋に集まった。




