魔法勝負2
試合開始の合図と共に繰り出される二人の最大級の魔法。
「エクストリィィム・タイダル・ボォアアアア!」
「エクストリィム・バーストォォ!」
魔力で具現化される、水の壁と業火の壁。
ぶつかり合う魔力が拮抗し、一進一退の攻防を繰り広げる。
魔法はコロシアム全体を閃光と轟音で包み、激しく振動させた。
激しくぶつかり合う魔法は無数の流れ弾となって飛び散り、コロシアムの魔法防御壁にぶつかる。
そのたびにバチバチと激しい音と振動をまき散らして消える。
「クッ!これはきついぞ!近くで見るんじゃ無かったわ」
ルシフルエントは不敵に笑いながら防御する。
バチバチと魔法の壁が音を立てて震える。
俺は呆気にとられて声も出なかった。
轟音と閃光をまき散らした魔力衝突は、しばらくして終わる。
すさまじい一撃がぶつかり合い、コロシアムの地面は剔れ、石は溶け、外壁はヒビが入っている。
一瞬の静寂がコロシアムを包んだ。
その中心で二人の魔導師は肩で息をしながら不敵に笑っていた。
「ハァ、なかなか……ハァ…やるわね」
「ハァハァ……そっちこそ、なかなかよ。褒めてあげるわ」
「オォオオーーー!!」
お互いの称賛に呼応するかのように会場中が沸いた。
「氷の精霊よ……我の呼びかけに答え、荒ぶるその力を……解放せよ……」
ホウデガーが呪文を唱える。
「煉獄の業火よ……私の呼び声に答え……その力……顕現せよ……」
ココも杖を構え、呪文を唱える。
「アイシクル・ブリザードォォ!」
「フル・フレイムゥゥ!」
二人の魔法が同時に放たれる。
また、魔法がぶつかり合い一進一退の攻防が繰り広げられる。
バチバチと閃光と轟音が響き渡る。
「これじゃあ決着がつきそうにないなぁ」
俺にはそう見える。
お互いの魔法は拮抗し、激しくぶつかり消える。
端から見れば互角の戦いだった。
「ホウデガーは自ら魔導将軍を名乗る生粋のロードウィザード……こんなモノではないぞ?」
ルシフルエントは含みのる言い方で俺に言う。
「?」
俺にはよくわからなかった。
「アイシクル・バーストォ!!」
ホウデガーは笑いながら呪文を唱えた。
すると、無数の氷柱の渦がココに向かって飛び出す。
「!?」
ココも驚く。
ココの魔法では対応しきれず、数本の氷柱がココを襲った。
「あうっ!!いったーー!」
そのうち数本ががココの腕や肩、腹をかすめ、服を裂き、血が流れる。
また、しばらくして魔力衝突が終わり、静寂の時間が訪れる。
しかし、今回は様子が違う。
肩で息をするホウデガーは先ほどと同じだが、ココはホウデガーの二つ目の魔法で負傷している。
思わずかしずき、汗がしたたり落ちるココ。
血も少しだけ地面に落ちた。
「ハァ…そんな……魔法を出してるのに……もう一つの…はぁ……魔法がくるなんて」
ココが思わず呟いた。
「フフフ……悠久の時の中で、数多の修行や実戦を経験し、並列魔力回路を手に入れた……世界広しといえど、魔法の同時展開ができるモノなどそうは居まい」
「並列魔力回路だって!!」
俺は初めて聞く言葉に驚く。
「ホウデガーの強みはそれじゃ。たしか、クップメントが『漆黒の四人衆』を操る姿を見て思いついたと言っておったのう。分裂して、4つの魔法を出せるのなら、一人で2つ以上の魔法を同時展開できるのではないかと考えたらしい」
「でも……それって、同時に強力な魔法を出すって難しいんじゃない?」
「それはそうじゃ。1つの魔法を唱えて発揮するだけでもかなりの集中力がいる。同時に2つ以上など、最悪な場合、集中力が保てず威力が極端に弱まり本末転倒じゃ……じゃが、ホウデガーは並々ならぬ努力でそれを克服した。じゃから、妾もやつが魔導将軍などと勝手に名乗っておるのを許したのじゃ。本来は四天王として元帥を名乗るべきじゃからな」
「なるほど……魔導将軍の肩書きは伊達や酔狂じゃないって事か」
俺は納得した。
単純な魔法の威力なら限界がある。
同時展開という個性を磨いたからこそホウデガーは強いのだ。
「クックック……さて、ココ・ラクエンド・フォン・フリュー。貴様は強かった、しかし、終わりにしよう。私のこの能力を最大限に発揮した究極合体魔法を喰らうがいい」
「合体魔法!?」
「そうだ……貴様のように強くなければ、この切り札は出さずにすんだが……私もそうは言ってられない。残念だが手加減はできない、死ぬかもしれんが……恨むなよ。そして、光栄に思うがいい。この私に最大級の技を出させた初めての人間だという事を!!」
ホウデガーは両手を高々と上げ、目を瞑る。
その両手からは同時に2つの魔法が顕現する。
「呪文も唱えないで……エクストリーム級を2つも同時に展開するなんて!?」
ココが驚く。
みるみるうちにホウデガーの魔法は強くなる。
魔力の渦もホウデガーを包み込み、姿が霞んでいる。
「ココ……死ぬなよ」
ルシフルエントは思わず呟く。
「ココ!」
俺も思わず呟いた。
あれだけの魔法はホウデガーでも制御はできないと思う。
生きるか死ぬかの時に出す必殺技だ。
俺はココを見る。
ココは……諦めていなかった。
帽子を脱ぎ捨て、杖を構えるココ。
「!!!」
なんだ……あれ。
あんなココは見た事がない。
それぐらい、ココの姿は神秘的だった。
魔力の渦が輝き、ココの回りを包む。
「なんじゃ!?あの魔力放出は!!」
ルシフルエントも驚く。
それぐらい、不思議な光景だった。
究極合体魔法が霞むぐらいに。
「煉獄の業火よりも熱く……大地の底で煮えたぎる力よりも強く……全てを燃やし尽くす紅蓮の炎よ……我の呼び声に呼応し……顕現せよ」
ココの髪は逆立ち、魔力の渦は黄金色に輝きながら包み込む。
そして、魔樹で作られた杖は目映い光を放っていた。
見れば、ホウデガーも動揺している。
「なに!?なんだ……新たな魔法!!くっ!このホウデガーを舐めるなぁぁぁ!!!」
ホウデガーは叫ぶ。
「ダブル・エクストリィィム・フル・ブリザード・ウェイブゥゥゥ!!!」
両手から放たれる地吹雪と洪水の渦がココを襲う。
あまりの強烈な魔力放出に地響きと突風が起こり、魔力障壁が大きく揺れる。
「くっ!ココ」
俺の口から声が漏れる。
「エクストリィィム・フル・フレイムゥ・バーストォォ!!」
ココの杖から紅蓮の業火が放たれる。
その炎は神秘的な輝きでホウデガーに向かう。
ホウデガーの究極魔法とココの最大魔法がぶつかる。
激しい閃光と爆発音が響き、一瞬、会場全体が眩む。
しかし、紅蓮の炎は全てを飲み込んだ。
「ぐあああああぁぁぁ!」
ホウデガーの叫び声が聞こえる。
俺たちは会場を見た。
黒く煤けたホウデガーが倒れる瞬間だった。
ホウデガーが倒れると同時に後ろに待機していた救護班が駆け寄る。
ココは勝った。
「ココーー!!」
俺は走って駆け寄る。
「ふぅ~」
ココは息を吐く。
そして、足下から崩れた。
俺は何とか間に合い、抱き寄せる。
「大丈夫か!!!ココ!」
「うん……ちょっと、疲れちゃった」
にっこり笑うココ。
ルシフルエントも駆け寄る。
「流石は、第2夫人じゃ……よくやったのう。ココ」
ルシフルエントもにっこり笑う。
しかし、ココは悲しそうな顔で俯いた。
「どうかしたかえ?ココ」
思わずルシフルエントは心配そうな声で問いかける。
「ごめんね……アレ、とっておきだから制御が効かないの、もしかしたら、あんたの部下は……」
「大丈夫じゃ。ホウデガーはしぶとい。……見たところ死んではおらん。回復にはしばらくかかるじゃろうが……心配するな」
「そう……よかっ…た」
そういうと、ココは安心したように気絶した。
「ココ!!」
「大丈夫じゃ、おまえ様。急激な魔力損耗で疲れただけじゃ。少し寝かせよう」
「良かった……じゃあ、ベッドへ」
「こっちじゃ」
俺と、ルシフルエントは気絶したココを連れて、青の宮のベッドに向かった。
俺は少し憂鬱だった。
さっき、ホウデガーが尋ねてきた。
「おねーさまは!!おねーさまは何処ですか!?」
ホウデガーは目をキラキラさせながら俺に尋ねる。
「おねーさま?」
俺は見当がつかなかった。
「ココおねーさまの事です!!!わたし!感動しました!!ぜひ一緒に魔法の修行をしたいんです!!」
「ああ……でたのう~。ホウデガーのマゾ体質が……」
ルシフルエントは呆れながら言う。
「え!……何それ?」
「ホウデガーは強い者に極端に弱い。男でも女でも。いくら叩かれようがぶたれようが嬉々として付いてくる。じゃから、クップメントは半ば強制的に卒業させたと聞いておるぞ」
「あのピリッ!としてビビビー!とくる魔法は初めて喰らいましたが……もうメロメロです~~!!おねーさまと一緒に修行したいです!!できれば……もっと、打たれたいです!!」
目をキラキラさせ、ハアハアと興奮し、よだれを少し垂らしながら叫ぶホウデガーに俺は恐怖する。
『変態だ……変態がいる。ココも大変だな』
俺は溜息をついた。
ホウデガーはココを見つける。
まだ、起きてはいない。
「ああ!麗しのおねーさま!!……可愛らしい。ちょっとペロペロさせてください~!!」
そう言うと、俊足でベッドに潜り込み、頬をペロペロする。
「う~~ん!!カ~ルゥ!!舐めるなぁ!!」
寝ぼけたまま、ホウデガーを叩くココ。
パチィ!
意外といい音が響いた。
「ああ!!もっと!!もっと叩いてぇ!!」
ますます息が荒くなり興奮するホウデガー
心なしか、頬も赤くなっている。
「はぁ~」
思わず顔を覆い、溜息をつくルシフルエント。
『というか、ホウデガーの方が絶対年上なのにおねーさまは無いだろう……』
俺はそんな事を思いながらココとホウデガーのやり取りを見る。
「う~ん?か~るぅ?……え!?何であんたがここにいるの!?」
ココが起きて驚く。
「おねーさま!!私を弟子にしてくださ~い!!ペロペロ」
満面の笑みで興奮しながら舐めるホウデガー。
「ひゃあ!!ちょっと!何すんの!!助けなさいよ!!ルフェちゃん!!カールゥ!!」
涙目になりながら助けを乞うココ。
「無理だ……諦めてくれ」
「妾もそう思う。頑張るのじゃ。第2夫人」
「そんなぁ~!!!」
ココは泣いた。
そんなココにお構いなしに抱きつくホウデガー。
俺はココの無事を祈った。




