敵
リヒテフント帝国。
ザノバ村郊外。
夕暮れ時で、空は赤く染まっていた。
村の中にある標準的な農家の家からアッカイマンが出てくる。
「本当に申し訳ありません」
アッカイマンは深々と謝った。
扉の側には老齢な男女がいた。
ホーミーの両親だ。
「いえ……冒険者になると言って、この家を出て16年。いつかはこういう時が来るのではないかと思っていました。悲しいことではありますが……遺体もない最悪な状態ではなく、綺麗なままで帰って来ただけ息子は幸せでしょう。最後の様子も知れて良かったです」
父親はアッカイマンにそう力なく呟いた。
「本当に……私が至らないばっかりに……」
「そう、気を落とされないで下さい……あなたはまだ若い。ホーミーの分まで生き延びて下さい」
父親はそう言って深々と礼をする。
母親も泣きながら「ありがとうございました」と小さな声で呟きながら深々と礼をする。
「ありがとうございます。では、失礼します」
アッカイマンも深々と礼をして、扉を閉めた。
とぼとぼと宿屋に向かう。
「最後……か。『氷の牙』も終わりだな」
寂しさが胸に去来する。
冒険者組合からミスリルランクに認められるまで平均して6年はかかる。
しかし、『氷の牙』は結成して3年。
仲間達が頑張ったおかげで、異例の早さでミスリルランクまで上り詰めた新進気鋭のチームだった。
今はもう無い。
「みんな……頑張ってくるから」
アッカイマンはうっすらと見える一番星に向かって決意した。
「残念……君はもう頑張れない」
突然行く手を塞がれる。
人気のない街道沿い。
空はもう暗く、人影もない。
「誰だ!!」
アッカイマンは焦る。
ここまで接近されるなんて初めてだ。
行く手を阻んだ男をよく見ると、『氷の牙』に依頼をした富豪だった。
「貴様!!依頼者の!」
アッカイマンは叫ぶ。
「そう叫びなさんな……ちゃんと金は払っただろう?命の対価の200金貨を」
富豪は笑う。
「命の対価だって!!冗談じゃない!氷の精霊よ……ウッ!!」
アッカイマンはいきなり、背中を強く打たれ倒れる。
そして、そのまま気絶した。
いつの間にかアッカイマンの後ろには洞窟で毒の吹き矢を放っていた男達と同じ服装の奴らがいた。
男達はアッカイマンを担ぐ。
「では行こうか……魔界へ」
富豪は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
そうして、アッカイマンを襲った奴らは、風のように消えた。
カール達が黒の宮に来て、7日が経った。
彼らはまだ、答えにありついていない。
仕方がないので、クップメントを観察することにする。
クップメントを観察して2日目。
彼は意外と自由に行動していることに気付く。
時には、外にでて散歩をしたり、黒の宮の裏の畑で作物を植えたり。
宝石を使ってお手玉をしたり、たまに、スケルトンの骨を拾ってはジャグリングをしたり、かなり器用に色々と遊んでいる。
無表情だが意外とお茶目なクップメントの姿は観察できたが、肝心の答えの方はヒントすらわからなかった。
今は、ココも混じって宝石でお手玉をしている。
無口だが、不思議と教え方がうまいクップメント。
最初は、2コの宝石すら回せなかったココが、クップメントから手ほどきを受けると、かなりぎこちないが回せるようになっている。
「みてみてー!回せるよーー!!」
子供のようにはしゃぐココ。
「はいはい」
俺は苦笑いで返事をする。
ルシフルエントなんて、腕を組みながらジト目で抗議の視線を送っていた。
クップメントは無表情ながら軽く拍手をしていた。
そんなとき、ライハンが慌てた様子で近づいてくる。
俺たちは一斉にライハンの方を向き緊張する。
「皆様、申し訳ありません。……正体不明の集団がコッポリ平原に進入しました」
「……そう」
クップメントが興味なさそうにそう言った。
「クップメントよ……いいのか?」
ルシフルエントが思わず聞いた。
「……はい」
クップメントはルシフルエントを真っ直ぐ見つめ言った。
「カール様……その」
ライハンは申し訳なさそうに言う。
「どうしたの?」
「その集団の中に……この間の冒険者がいるのです。気絶しているようで担がれています」
「ええ!!アッカイマンが!!なんで?」
「詳細は不明です」
「おまえ様よ……あまり、状況は良くないようじゃ、行くぞ」
「ああ……クップメントさん。もしかしたら戦闘になるかもしれない……許してくれるかな?」
「……はい。ご自由に」
興味なさげに言った。
「クップメントよ……とりあえず、お前もついてこんか?不測の事態があるといかんからのう」
「ルシフルエント様がそうおっしゃるなら」
恭しく礼をする。
「よし!じゃあ行くわよ!!」
ココが張り切る。
「なぜココが出しゃばるのじゃ?」
「いいじゃない!急いでいくわよ!!」
「今は急ごう!アッカイマンが心配だ。ライハンさん案内お願いできるかな?」
「はい。こちらです」
恭しく礼をして、振り向き、走り出す。
俺たちも付いていった。
転移魔方陣を通ると、そこはコッポリ平原と呼ばれる広い草原地帯に出る。
小高い平地を登り切ると、その集団はいた。
数は50人はいるだろうか。
特徴的なローブを被っている。
「あの服装は!!」
そう、ゴール洞窟や魔樹の森に現れた正体不明の敵と同じ服装だ。
集団の先頭で担がれているアッカイマン。
集団は俺たちとは、かなりの距離を保ち、真正面で止まった。
あいだを一陣の強い風が通る。
砂埃が舞った。
嫌な予感しかしない。
「魔族に魂を売った、元勇者カールよ。同胞の敵である。前へ出ろ!!」
先頭の男が叫んだ。
「何が敵だ!!一方的に攻撃してきたのはお前達だろ!?」
「魔族に魂を売った者に情けは無用!攻撃されるのは必然。貴様はあのまま死ねば良かったのだ!!」
「な!!なんて論法なの!!ふざけてる!!!」
ココは肩を振るわせて叫んだ。
「おまえ様!ココ!奴らの挑発にのるでない!ワザとじゃ、ワザと怒らせて、先に攻撃させようとしているんじゃ!!」
ルシフルエントは強い口調で言った。
その声で、冷静になる、俺とココ。
「ふん!魔王がでしゃばりおって……おい!あれを置け」
「は!」
男達はアッカイマンを地面に置いた。
アッカイマンは後ろ手に縛られている。
「うう……」
絞り出すような声が漏れた。
「アッカイマンに何をする!!」
「こいつは冒険者でありながら依頼を完遂せず、あまつさえ、魔王軍に取り入った、よって、この場で矯正する!!」
男はそう言うと、アッカイマンの腹を蹴る。
「うっっっ!!げは!」
思わず、吐き出すアッカイマン。
「やめろーーー!!」
俺は思わず魔剣を抜いて、飛び出そうとする。
しかし、ルシフルエントに服を掴まれて止められた。
「まて!!罠じゃ!!」
「でも!!このままじゃアッカイマンが!!」
「この!!クソやろう!!私の魔法でぶっ飛ばしてやる!!!」
ココが魔力を溜める。
「バカ者!!アッカイマンごと燃やすつもりか!!」
ルシフルエントは叫んだ。
「ぐにゅにゅ~!!卑怯だーーー!!」
ココが叫んだ。
俺は一歩近づく。
「おっと!!それ以上近づくな!!刺すぞ」
男はロングソードをアッカイマンに近づける。
「ぐっ!!」
俺は悔しくて奥歯をかみしめた。
心の奥底に、どす黒いモヤモヤが溜まっていくような感じがする。
「はは!こういう所は御しやすいな。おい!!やれ!」
「は!」
男達は、アッカイマンを囲み、また蹴り始めた。
所々で、悲痛な叫び声が聞こえる。
『くっ!!何とか!!打開策はないのか!!』
俺は奥歯を強くかみしめながら回りを見渡し考える。
いつの間にか、噛みしめすぎて口の奥から血の味がする。
どす黒いモヤモヤはすでに臨界点まで到達しそうな勢いだった。
俺の感情に呼応するように魔剣は静かに形を変えていった。




