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クップメント元帥1

転移魔方陣のある部屋。


「そういえば、クップメント元帥ってどんな魔族なの?」


「クップメントは、寡黙なやつでな、本当に喋らん。配下の魔族の半分は自らが召還した眷属じゃ。強くはないが、数が多い。疲れも知らんし、様々な面で良い兵隊と言えるな」


「それで、アンデット系って倒しても倒しても出てきたのね。なんか納得」


「我が魔族の中でも、ホホロンより年上はこのクップメントのみ……まあ、いつから存在しとるのか考えたこともなかったが、代々我が血筋に仕えておる」


「なんで反対してるんだろ?やっぱりメラダーの時と同じで脆弱だと判断されたのかな?」


「知らん。あいつはただ一言「反対です」と述べて帰ってしもうたからなぁ。聞くしかあるまい」


「それもそうね」


「よし、じゃあ、行こう」


俺たちは転移魔方陣の中に入った。




転移魔方陣でクップメント元帥の支配地域に飛ぶ。


着くと、メラダーの時と同じように、両端に魔族が整列し、出迎えてくれていた。


しかし、あまりいい光景ではない。


整列している魔族がグールや、スケルトンなどのアンデット系魔族だからだ。

両脇を埋め尽くすように群がる死霊系魔族。

正直ちょっと怖い。


そうこうしていると、案内役であるローブを深くかぶった魔術師のような魔族が来た。


ぷかぷかと浮かんでいる宝珠の上に乗っており、ローブの隙間からは白い骨のような物が見える。


「どうぞ……こちらへ」

骨のような口からどうやって喋っているのかわからないが、端的にそういって、振り返り、進んでいく。


埋め尽くす死霊系魔族達の口々から「ぐうぅぅぅ」とか骨がぶつかり合う「カツカツ」といった音が響く。


その声なき声の中を俺たちは進む。


しばらく歩くと、メラダーの時と同じように、大きなドーム上の建物が見える。


「黒のきゅうじゃ。ここがクップメントの居城じゃぞ」


重厚な両開きの扉が開き、俺たちは中に通される。


魔法のランタンは灯っているが、あまり明るくない。


「ちょっと暗いね」

思わず呟いてしまった。


「アンデット及び死霊系魔族は明るいと逆に動きが鈍る。目が眩んだような感じじゃな」


「だから、外も少し薄暗いの?」


「そうじゃ。この黒の宮から放出される魔力を操作し、常に薄暗くしておる」


「へぇ~、常時そんな事してるなんて大変ね」


「ほぼ、クップメントの特別な配下である『漆黒の4人衆』が管理しとるがのう」


「ふ~ん」


そうこうしていると、また重厚な両開き扉がある。


配下のスケルトンが扉を開く。


広い空間がそこにあった。


床には大きな魔方陣が描かれており、うっすらと青白い光を放っている。


魔方陣の上には規則正しく、様々な色や形の宝石が置かれており、薄い光を放っていた。



その中でも中心にはひときわ大きな丸い宝珠が鎮座しており、そこに、クップメントとおぼしき人影が見えた。


背は小さい。

だいたい、ゼロと同じぐらいだろう。


しかし、漆黒のローブに身を包んでいるため姿はよくわからなかった。


人影はゆっくりとこちらに向かってきた。


そして、ルシフルエントの前まで来て、かしずく。


そして、ローブをとった。


「え!」

「ウソ?」

俺とココはその姿を見て思わず驚きの声をあげる。


そこにいたのは、黒髪を短く切った、端正な顔つきの子供がいた。

男の子とも女の子とも取れる、中性的な顔つき。

ローブの隙間から見える体の線も細く、どこからどう見ても子供だ。


とても、2万歳を超えるホホロンより年上とは思えない。


「わざわざお越し頂き恐縮です。ルシフルエント様」

恭しくかしずいたまま挨拶するクップメント。


その声も子供特有の声そのものだった。

しかし、その落ち着いた口調は、どこかゼロを彷彿とさせる淡々とした大人の口調だった。


「うむ。いつもご苦労。おもてを上げよ」


「では、失礼します」

クップメントは立ち上がり、可愛らしい瞳でルシフルエントを真っ直ぐ見つめる。


「早速本題じゃが……妾達がきた理由、わかるな?」


「はい」


「では、改めて言わせてもらおう……クップメントよ。妾は引退し、このカール・リヒター・フォン・スベロンニアがこの地を統べる。協力せよ」


「反対です」


「理由を述べよ」


「……」


クップメントは何も喋らない。

ただ、真っ直ぐにルシフルエントを見つめていた。


沈黙する。

一向に話す気配がない。


「ねぇ……どうなってんの?」

思わずココが耳打ちしてくる。


「さあ?」

俺も耳打ちする。



「……なんとか、述べよ。クップメントよ。人間だから嫌なのかえ?」


「そうではありません」


「では、なぜじゃ?」


クップメントは俺の顔を見つめた。


「??」


「……私には彼に仕える理由がありません」

そう言うと、またルシフルエントを見た。


「理由とな?この地を治める者が変わる為では不服かえ?」


「……はい」


「では、どうすれば協力する?」


クップメントは、俺を指さし、まっすぐ見つめる。

その目は非常に達観しており、外見に似合わない無機質な目をしていた。


「彼が……私を統べる者ならば、答えは運命によって導き出されるでしょう」


俺は、緊張からか生唾を飲み込んだ。

背中からもじっとり、汗をかく。


殺気ではない、クップメントの存在に圧倒されたのだ。


外見こそ子供だが、今の彼ならホホロンより年上と言われても納得する。


そんな、存在感がある。



「ふむ……なんとも、雲を掴む様な話じゃのう。クップメントよ、答えを導き出すために数日滞在するがかまわんか?」


「……いかようにも。御用は配下の者に申し付けてください」

恭しく礼をすると、一人の執事のような男が前に出てくる。


「ルシフルエント様。皆さま。御用は私に申しつけください。ライハンと申します」

俺達の前でかしずき恭しく挨拶するライハン。


俺と同じぐらいの身長と年の様な外見で、長い黒髪をポニーテールにしている端正な顔つきのイケメンだ。

黒い執事服が非常によく似合っている。


「よろしく頼む」


「では、滞在中の居室に案内します。どうぞこちらへ」



ライハンは流れるような華麗な仕草で案内してくれた。



リビングと個別のベッドルームがある部屋に案内された。

ライハンは、指を鳴らすと、魔法のランタンが明るくなる。


「では、私は下がります。何か御用の時はお呼びください」

ライハンは深々と礼をして、扉の外に出た。



「彼も眷属なの?」

俺はリビングの応接用の机に座りながら、ルシフルエントに言った。


「ライハンは、さっき言った「漆黒の4人衆」の一人じゃ。他は、レフハン、ライレグ、レフレグがおる。恰好はどれも一緒じゃ」


「特別な配下だったっけ?何が特別なの?」

ココが俺の右隣に座りながら言う。


「やつらは実はクップメントの四肢だったとホホロンから聞いておる」


「四肢!?」


「じゃから、やつらは特別なのじゃ。他の眷属に比べ能力もけた違いに高い。まあ、クップメントの分身みたいなものじゃから当たり前か」

そう言うと、ルシフルエントは俺の左隣に座る。



「……あの、なんで、両隣りに座るの?」

二人の視線からか俺は緊張して姿勢を正す。


「なにか問題があるのか?おまえ様よ」

ルシフルエントは肩肘をついて、妖艶に笑う。


「そうよ。両手に花じゃない。喜びなさいよ」

ココは腰に手を当て、説教するように言う。


俺は苦笑いを浮かべた。


「変な笑顔じゃの?嬉しくないのかえ?」

ルシフルエントの冷たい視線が刺さる。


「そうよ!そうよ!何かいう事があるでしょ?」

ココもジト目で抗議してくる。


……というか、なんで俺は責められてるんだ?


「ホントに……二人の美人な奥さんを迎えることができて……俺は嬉しいよ」


二人は同時に抱き付いてきた。


「さすがはおまえ様じゃのう!」

「うふふふ!」


俺は、この3人だけで来たことを少し後悔した。


『しかし……理由か。難題だなぁ』

抱き付かれて四肢の自由を奪われながら考えてはみたが、答えはすぐには見つかりそうになかった。

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