王都2
「ご機嫌麗しゅうございます。マウントシュバッテン閣下」
俺は儀礼的な挨拶をする。
「そんな堅苦しい挨拶も抜き抜き!まずは状況を報告してよ」
「え!あの……その…」
俺は突然のことで声がでなくなる。
この王様……なんだろう?不思議な感じだ。
「ああ!そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕はグレートアルメラント王国第32代、王のマウントシュバッテンⅢ世だよ。先代の31代が世話になったね。君たちに会うのは初めてだけど、僕は知っていたよ」
「あの…少し質問してよろしいですか?」
ココが恐る恐る言う。
「いいよ!答えられる事は全部答えてあげる」
王様はニコニコしながら肘をついて話す。
「その……いつ先代王は御隠居されたのですか?」
「2年前ぐらいかなぁ。突然の病で、王様とご子息が軒並み崩御されてね。残った男子は僕だけだったからここにいるんだよ」
俺は、その言葉を聞いて少し違和感を覚える。
確か、王様は中年ではあったが突然死するほど老いてはなかったはずだ。
息子も3人はいたはずだし。
それがいきなり崩御なんて不自然だ。
「あと、もう一点。よろしいですか?」
「いいよ」
「秘書のご老人がいなかったようですが……どちらへ移動なされたのでしょうか?いささか私達が来たときよりも仕組みが変わってまして……」
「ああ、そんなことか。あんな役立たずはクビにしたよ。変態だし。評判も悪かったからね。この2年でだいぶ変わったでしょ?僕が人事を含め全てに力を入れて、聖域無く改革したからね。やっと使える人材が増えてきて頑張って良かったなーって思ってるところなんだ」
王様は淡々と語った。
「ほほう。なかなか見込みのある奴じゃな」
ルシフルエントは立ち上がる。
衛兵が瞬時に動くが、王様がニコニコしながら手で止める。
心なしか少し目を開き、睨み付けるように見ていた。
「えっと……魔王ルシフルエントでよかったかな?初めまして。褒めて貰って嬉しい限りだよ」
「妾は魔王などとおもっとらんがな……まあ、世間一般ではそう呼ばれとる」
「そうなんだ。これは失礼。じゃあ、なんて呼べばいいのかな?」
「ルシフルエント。そう妾を呼ぶがよい」
「じゃあ、ルシフルエントさん。報告によると、カール君と結婚したいんだって?」
「ああ。妾が娶るに足る力のある者は、世界広しといえど、光の勇者、カール・リヒター・フォン・スベロンニアしかおらん。譲れ」
「はは!面白いねぇ。いいよ」
「えっ!!」
ココが素っ頓狂な声をあげる。
「??」
王様は不思議そうな顔でココを見る。
「いえ……すいません」
さすがのココもしおらしく謝った。
「それで?どうするの?また僕に弓を引くの?」
「いや、それさえ呑んで貰えれば妾の領土など、おぬしにくれてやってもよい」
「えっ!!」
思わず俺が素っ頓狂な声をあげてしまった。
そんな、簡単に領土を渡しても良いのだろうか?
「??」
王様は俺を不思議そうな顔で見る。
心なしかイライラしているような目線だ。
「……申し訳ありません」
俺も素直に謝る。
「でもね~。ちょっとな~。あそこは未開の地だからなぁ~。魔族も多いんでしょ?」
王様が腕を組み、ワザと考えるように呟いて言う。
「それはそうじゃ。代々魔族が支配していた、かの地じゃからの」
ルシフルエントはわざとらしく言う。
「効率が悪いんだよね。引き続いて統治してよ。属国でも何でもしてあげるからさ」
王様はさも興味なさげに言った。
「ほう……人間にもこのような話しのわかる王がいるとは驚きじゃの」
ルシフルエントは不敵に笑う。
「お褒めにあずかり光栄です。ルシフルエントさん」
王様も不敵に笑う。
なんだ……この駆け引きは。
まるで見えない魔法でお互い打ち合っているような殺気さえ感じる。
先代の王とはまるで違う。
この王様は俺より若く見えるのになんて胆力なんだ。
「しかし、妾は引退する。それは決定事項じゃ」
「ふ~ん。引退しない方が、効率が良いじゃないの?」
「ならん。妾は可愛い奥さんになりたいのじゃ。それは譲れん」
「はは!!可愛い奥さんだって。外見だけ見たら十分、可愛い奥さんになれるよ!」
「ふん、称賛だけは素直に受け取るとして。そこでじゃ、このカールを妾の領地の新領主としてはどうじゃ?こうすれば、褒美など細かいことも気にせなんでよいし、わざわざおぬしが出なくてもよかろう?」
「ほうほう。カール君を領主にして王国の領地とする……うん。悪くない提案だ。今後の効率もいいし」
「自治さえ貰えれば、魔族は抑えよう。共存協和の精神じゃ。もう、人と魔族が争う時代はまっぴらじゃ」
「なるほどね。ルシフルエントさんの真意はだいたいわかった。いいよ。全て思い通りにやったらいいさ。こっちにも利があるようにせいぜいよろしく頼むよ」
「ふん。油断ならん奴じゃの」
「よく言われる。ああ、カール君!」
「はっ!はい!!」
突然呼ばれて思わずうわずった声で答える。
「君の着ている光の装備は返してもらうよ。討伐は終わったからね。あと、いきなり領地経営なんて難しいと思うからさ、優秀な人材を貸してあげる。これは僕からのささやかな褒美だ。……これ、アルシュタインを連れてこい」
王様は衛兵の一人を指さし、命令する。
「はっ!」
衛兵が返事をして退席する。
しばらくして、アルシュタインと呼ばれる人を呼んできた。
「お初にお目にかかりますぅ~!アルシュタイン・カルスト・アタラシア・フォン・イルマルクと言いますぅ~……ふぇ~!本当に魔族さんだぁ~!すご~い!」
開口一番、何とも気の抜けた返事をするアルシュタイン。
俺たちは唖然とする。
「こんな天然な感じだけど、執政官としての能力は僕が保証しよう。アルシュタイン中心に30名程度の秘書官を貸してあげるから領地経営頑張ってね。税とか諸々はアルシュタインに言っておくから」
「あ…ありがとうございます」
「よろしくお願いしますぅ~!カ~ル様ぁ!」
アルシュタインが深々とお辞儀をした。
「じゃあ、これで謁見は終わり。頑張ってね。カール君。いままでご苦労様」
王様は最後までニコニコしながら颯爽と奥に行った。
そして、光の装備を返したり、諸々雑多な事をして、俺たちは城を後にした。
送りの馬車で城を出ることにはもう夕方になっていた。
『なにが、どうなったんだ?』
俺はいまだに状況が理解できずにいた。
9月5日タイトル変更
10月15日一部改稿