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暗躍する世界

転移魔方陣でギルムアハラントに戻り、ルシフルエントを交えて話をする。

ちなみに、アッカイマンや7号の事は、この部屋に入る前に紹介した。


「さて……唐突だけど、あの毒で死んだ奴らの死体は私が貰うよ。調べることがある」

ホルスは机に座るなり、口火を切る。


「……情報は教えて貰えるんじゃろうなぁ?」

ルシフルエントは鋭い目つきでホルスを睨む。


「ああ、いいよ。ルフェちゃんが思ってる通り、私達の共通の敵だからねぇ」

肘をつき、両手の上に顎をのせ笑うホルス。


「共通の敵?」


「あれは戦争を起こそうと暗躍する奴らが使わした刺客じゃろう。妾達が邪魔するのを見越して、冒険者を殺し、妾達のせいにして帝国を動かす口実にするためにじゃ」


「そんな!!」

アッカイマンが悲壮な表情で叫ぶ。


「残念じゃが、そなた達は利用されたのじゃ」


「……どおりで、破格な条件なわけだ」

気を落とすアッカイマン。


「どんな条件だったの?」


「他言無用でお願いしたいのですが……『ゴール洞窟で、できるだけ多くの魔族を集めて倒してくれ。前金で200金貨やる。成功報酬はさらに200金貨だ』といった話でした」


「400金貨!!」

俺とココは思わず叫んでしまった。


「冒険者組合を通さない裏の依頼だったので怪しいなぁとは思ったのですが……正直、金額が凄くて、みんな二つ返事で了承しました。僕がもうちょっと反対していれば……」

悔しがるアッカイマン。


「どんな依頼人だった?」


「薄暗くてよくわかりませんでしたが、絵に描いた富豪の貴族でした」


「まあ、変装じゃろう。あの毒で死んだ奴らの服装もよく知らん……しかし、特殊な毒で死んだのう。すぐにあのように腐乱するなぞ、珍しい」


「たぶん。マッケイヤー一家じゃないかねぇ?あんな、毒を作れる奴らなんざ、この大陸ひろしといえども、奴らの一族以外ありえんねぇ」

含み笑いをしながらホルスは語る。


「マッケイヤー?」


「大陸の裏を牛耳る一族よ。暗殺を専門にしてる正体不明の毒使い。先代王が亡くなってたでしょ?あれもそいつらの仕業だって噂があるわ」

ココが腕を組みながら言う。


「そう言えば、魔樹の森は大丈夫だったんですか?」


「3日前に100人ほど、あの服装の奴らが魔樹の森に来て、火を放ったんだ。幸いぼやで済んだが、私は本当に激怒してねぇ~。ついつい正体も暴かず八つ裂きにしちゃったんだぁ……ただ、あの3人は囮に使おうと泳がしてたら、あそこに逃げちゃったんだよ。……後は、そこの冒険者達が入っていって、カール君が来たって言う順番さねぇ」

鞭で遊びながら、ニヤニヤ笑い話すホルス。


心なしか、ココと7号の顔色が悪い。


「そ……そうなんですか」

俺は苦笑いで濁すことにした。


「ふむ……これは平定を急がんといかんのう。今のままでは誰がどんなことをしてくるか予想がつかん。このままではいいように使われてしまう」

ルシフルエントは顎に手を当て考える。


「だからさぁ、ルフェちゃん……ココと7号をここに置いといてあげる。カール君は了承済だ。……駒は多い方が良いだろう?」


「それは妾に献上するということか?」


「君とカール君の子供にも興味があるが……私は、ココとカール君の子供にも興味がある。君にはあげれない。カール君にあげよう。それでどうだい?」

ニヤニヤ笑うホルス。


「お!お師匠様!!勝手に物のように扱わないで下さい!!」

ココは顔を真っ赤にしながら立ち上がり叫ぶ。


「変な子だねぇ?……お前はカール君に惚れているのだろう?何を躊躇する?」

ホルスは首を傾げ言う。


「ホルスの言う通りじゃ。前にも言ったが、妾はお前が娶られることも賛成じゃからな」


「ルフェちゃんも話がわかるねぇ……ぜひよろしくぅ!ふふ!ふふふ!!」

笑いを堪えきれないように零すホルス。


「……マッド」

ココはぼそりと言った。


「ココ……今度、帰って来たら、お仕置きしてあげる」

冷酷なホルスの声が部屋に響いた。


「ひぃ!!申し訳ありません!!お師匠様ぁ!!!」

立ったまま頭を机にこすりつけながら謝るココ。


「謝るぐらいなら言わなければよかろう?やはり、馬鹿・ロリ魔導師じゃの」

溜息をつきながら呆れるルシフルエント。


「そう思うだろう?私も苦労しててねぇ……嫁に出せてせいせいするよ」

呆れたというポーズをとり、同調するホルス。


「ははは……」

俺やアッカイマン達は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「7号は、戦うことはできないが、家事手伝いとかは完璧だから、ココの嫁入り道具としてカール君にあげるよ」


「よろしくお願いします」

深々と頭を下げる7号。


「ああ、またよろしくね。ナナちゃん」


俺は単純に嬉しかった。

7号の料理の腕前は、以前に魔樹の森でごちそうになったことがあるのでわかる。

本当に完璧なのだ。


『ルフェちゃんの料理指導係にぴったりだ』

俺は心の中でガッツポーズをとる。


「なんだかの~、メイド服がまた増えた……紛らわしいのう」

少しだけ気怠そうなルシフルエント。


「あの……ルシフルエント様、カールさん。改めまして、アッカイマン・クリークも微力ながらお力になれればと思っています。よろしくお願いします」

丁寧にお辞儀をする。


「ああ、勘違いするなよアッカイマン。今の領主はこのカールじゃ。妾にお伺いなぞたてずともよい。『魔族のためにその身を捧げよ』妾から言うことはそれだけじゃ」


「はい!頑張ります」


「じゃあ、アッカイマンに最初のお願いがあるんだけど?」

俺は改めて言う。


「はい!なんでしょう?」


「仲間達の遺骸なんだけど、家族の元に届けてもらえるかなぁ?この地で埋葬っていうのも違う気がするし、身元を詳しいのは君しかいないからさ。お願いできる?」


「はい……私もそう思ってました。前金の200金貨は、分けて家族に渡そうと思います」


「ああ、そうしてくれると助かる」


「転移魔方陣で国境に向かい、移動すればよい。おぬしが帰るまで魔方陣は維持しておく。……キル、いいか?」


「仰せの通りに。配下のウィザードにやらせます」


「本来ならば食事でもと思っておるところじゃが、事態は喫緊でな……すまぬが、ここで解散ということでよいか?おまえ様」


「そうだね、みんなには俺から言う」



俺は立ち上がり、みんなに語りかける。


「みんな!来てもらったのに、もてなしもできないで申し訳ない。今日はここで解散にするが……きっと平和な世の中にして、みんなで杯を交わそう!それまで、どうか……無事でいてくれ」


ホルス以外の全員、無言で頷き、同意の意思を示す。


「はは!なんとまあ、本当に領主みたいだ!!楽しみにしているよぉ!カール君」

ホルスは恭しく礼をして数体の木偶人形と共に部屋を出た。


「では、私も、仲間を連れてリヒテフントの故郷を回ってきます」

アッカイマンも軽く礼をして、部屋をでる。



俺は、ゼロのいる方へ向かった。


「ゼロちゃん。今日はありがとう。おかげで怪我無くうまく運べた」


「お褒めに預かり恐縮です。マスター」

恭しく礼をする。


「本当にゼロは役に立つ。……その点、そこにおる馬鹿・ロリ魔導師とは違うのう」

ルシフルエントは嫌みったらしく言ってのけた。


「誰が馬鹿よ!誰が!」

ココがルシフルエントに食ってかかる。


「お前以外おるまい。このような重大な席で、あのような教養のない発言をするとは……おぬしは第4夫人ぐらいじゃな」


「なんでよ!というか、第2、第3は誰よ!!」


「第2はアルシュタイン。第3はそこのゼロじゃ」


「何でよ!!あんたアルシュタインは間者とか言ってたじゃない!」


「気が変わった。というか、もうおぬしなんかより、ずっと長く一緒におるからのう……降格じゃ。降格」


「何から降格なのよ!」


「まあまあ、ココさん……落ち着いて…ね?」

7号が見るに見かねて、止めに入る。


「うむ。馬鹿なんかより、ナナの方が嫁に向いとる。おぬしが第4夫人で、馬鹿は奴隷がせいぜいじゃ」


「きーーー!誰が奴隷よ!だれが!!……というか!もうロリも魔導師も消えて、馬鹿だけじゃない!!」


「なんじゃ?ロリが気に入っておるのか?成人しておるのに不思議なやつじゃのう?」


「気に入ってなんかなーーーーーい!!」


大げさに叫ぶココ。

間に入り、苦笑いを浮かべながらなだめる7号。


『ナナちゃん大変だなぁ~』

俺は人ごとのように机に座って待つことにした。


この二人の、喧嘩のようなじゃれ合いは、終わる気配が無い。


『……本当にこいつら仲がいいなぁ』

俺は呆れて苦笑いしか浮かべられなかった。

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