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アッカイマン

手を折られて、悶える戦士を横目に、俺は全体を見回す。


『戦士の攻撃に合わせた盗賊の礫や魔法がやっかいだな……どうにかして、盗賊を倒しとかないと』


チラチラと横目で位置を確認する。


「フッ!」

盗賊達が一斉に何かを投げた。


その瞬間、ゼロが隣に出てきて、右手を肩の辺りまであげる。


パチ!パチチ!パチチチ!

見えない壁に盗賊の礫があたり跳ね返る。


「ありがとう。暗いから助かったよ」

俺はゼロに感謝した。


「迎撃も可能です。マスター。いかがいたしましょう?」

ゼロは無表情で答える。


「いや…ゼロが出るほどでは無いよ。それより、今みたいに何か飛んできたら防御よろしく。暗くてよく見えないから」


「はい。マスター」


見えないシールドで守られる俺に対し、焦る冒険者達。


「クソ!舐めやがって!!」

戦士は剣で突いてきた。


俺とゼロは半身でかわす。


背中めがけて、強めに打ち込む。

ゴスッ!

「ウッ!」

戦士は白目をむいて倒れた。


パチ!パチチ!!

盗賊の礫は、また見えない壁に阻まれる。


「くそう!!なんだ!どうなってやがる!!」

思わず悪態をつく盗賊達。


「氷の精霊よ……契約に従い。我に力を貸し、氷柱の絶望をあたえたまえ……アイシクル・バースト!」

アッカイマンは魔法を放つ。


地吹雪と共に凄い勢いで飛んでくる無数の鋭利な氷柱。


しかし、当然ながら見えない壁に阻まれて消滅する。


「ウソ!なんで!!」

アッカイマンも驚く。


「悪いねぇ~。ゼロちゃんは優秀だからさ」

俺は安堵感からにやける。


「あの嬢ちゃん……ただもんじゃねぇ」


「噂の大魔導師『炎獄のココか』?」


盗賊達は口々に言った。


『ココは防御魔法なんて覚えてないんだけどなぁ…まあ、いいか』

俺は、そんなことを思いながら、どうにかして降伏させようと試みる。


「アッカイマン……もう止めないか?俺も怪我させるのはいい気分じゃない」


「依頼完遂のためそれはできません!それが、例え絶対的不利な立場でも!!」

アッカイマンは叫ぶ。


『なかなか骨のあるやつだな』

俺は少しだけ見直した。


しかし、容赦はできない。


「どりゃーー!!」

気合いの入った声で大上段に構えながら攻撃してくる戦士。


同時に、アッカイマンは魔法を、盗賊は煙幕で攻撃してきた。


『いいコンビネーションだ……利用させて貰おう』

俺は、本気を出す。


煙幕が狭い視界を完全に奪う。


ブン!

戦士の剣は、カールのいたところを正確に振り下ろしたが、なぜか空を切った。


「手応えがない!!何処に行った!!」

戦士は焦る。



「ぎゃあ!」

「うぉっ!!」

後方の盗賊二人の声がした。

同時にドサリと倒れる音もする。


「ケルサー!ホーミー!」

アッカイマンは叫ぶ。


依然として煙幕で視界は完全に見えない。


「うわ!!」

戦士が声をあげ、倒れる音がした。


「ラーンド!」

アッカイマンは訳がわからず混乱する。


次第に、煙幕が晴れてきた。


そのとたん、アッカイマンの肩に鞘に入った剣が置かれた。


その先を見ると、カールが笑いながら立っていた


「これで、続行不可能だ」


「くっ!」


「大人しく引いてくれると助かる」


俯くアッカイマン。


煙幕が完全に晴れた。



しかし、様子がおかしい。


さっきまで悶えていた腕を折った戦士を始め、全員がグッタリして物音一つたてていない。



そして、ゼロが俺の横に来てアッカイマンを含めた3人分の広さのシールドを張る。


すると、パチ!パチ!パチ!という音を立てて何かを弾いた。


「なんだ?」

俺とアッカイマンは辺りを見回す。


「敵です。マスター。吹き矢のような物が無数に飛んできています。倒れてる冒険者はその吹き矢の毒により死にました」


断続的にパチ!パチ!パチ!と何かを弾く音が響く。


「死んだ!?」


「そんな!何でそんなことを!!」

アッカイマンは俺の襟首を掴み叫ぶ。


「俺じゃない!!俺だったら攻撃されてない!!」

俺は必死に弁明する。


「洞窟の奥、距離50メルテ先に生体反応3体。そいつらが犯人です」

ゼロが冷静に言う。


「ちくしょう!!魔法で!!!」

アッカイマンは魔法を唱えようとする。


「ちょっと待て!!向こうに魔法を撃てばリッチ達を刺激する!!」

俺は止める。


「じゃあ!どうすれば!!」

アッカイマンは俺に噛みついてくる。


「くそ!……」


パチパチと断続的に吹き矢が飛んでくる中、俺は焦る。

ゼロの攻撃も刺激する可能性が高い。

打開策が何も浮かばなかった。





「おや?大変そうだねぇ……手伝おうか?」

後ろから女性の声がする。


聞き覚えのある声だった。


振り向くと、そこには軍服姿の長身の女性が馬用の鞭を持って立っていた。

傍らにはココと7号もいた。


「ホルス様!!あと、ココとナナちゃん!!」


「久しぶりだねぇ~。フフ!しかし、ずいぶんな惨状じゃないか?それでも勇者かい?」

回りの状況を見て不敵に笑うホルス。


「ホルス様~、彼らを捕まえるのが先ではないですか?」

ココが冷静に言う。


「おお!そうだった、そうだった!ほらいけ!私の可愛い木偶達……」

ホルス様はそう言うと、笑いながら右手を肩口まで挙げる。


そうすると、ホルスの後ろから、木偶人形2体が四つん這いの不規則な動きで飛び出した。



瞬く間に木偶人形は闇の中に消えて行った。



ゴス!ゴス!ゴス!と鈍い音が響く。


「おや~?死んだぁ。毒でも飲んだか?」

ホルスは怪訝な顔で呟く。


「え!」


「あ~あ。せっかく、この鞭でいたぶれると思ったのに……自殺しちまうなんて面白くない」

鞭で遊びながらつまらなそうに呟く。



俺とアッカイマンとゼロは急いで見に行くと、四つん這いで不思議な動きをしながら、3体の死体の回りを回る木偶人形がいた。


そこら中に酸っぱい匂いが充満している。

死体はローブを深く被っており顔までは見えない。


俺は死体を起こし、ローブを剥いで顔を確認しようとした。

しかし、腐敗が酷く顔の輪郭さえわからない状態だった。


「これじゃあ……」


「こっちもダメです。強力な毒ですね」

アッカイマンは思わず鼻をつまむ。


そこに、ホルスとココと7号が歩いてくる。


「こいつらはねぇ、3日前に私らを殺そうとして、魔樹の森に来た奴らの生き残りだよ」


「心当たりは?」


「わからない。ただ、変なことに巻き込まれたことだけは確かよ」

ココが言った。


「そこでだぁ……カール君。ココと7号をお前さんの領地に連れてってくれないかい?もちろん、手を出そうと、部下にしようと、殺そうと何してもいいからさぁ?」


「お師匠様!?」

ココは本気で驚いている。


ホルス様の口調はいつも通りだ。

その昔、ココをパーティーに入れたときも同じ事を言われた。


「いいですけど……ホルス様はいいんですか?」


「無駄飯ぐらいだからねぇ……おや?不思議な人形をお持ちだね?これと7号を交換してくれないかい?」

ホルスはゼロの頬を撫でながら言う。


「お師匠様!?」

今度は7号が泣きそうな顔で叫ぶ。


「それは……ちょっと」

俺は苦笑いを浮かべる。


「しょうがないねぇ……この人形の名前は?」


「ゼロです。お見知りおきを……」

ゼロは俺が言う前に、優雅に挨拶をした。


「はは!本当に良くできてる!!すばらしいねぇ。魔力反応も無いし、不思議な金属だし……創作意欲が沸いてくるねぇ」

ホルスは不気味に大きく口を開けて笑う。


「ハハ…はぁ~」

俺はだんだん疲れてきた。



とりあえず死体と共に洞窟をでた俺たち。

死体は木偶人形が颯爽と持っていってくれた。


「カール君。とりあえずギルムアハラントまで案内して貰おう」

ホルス様はつまらなそうに鞭で遊びながら言う。


「はい。こちらです」

俺はウィザードがいるところまで案内しようとした。


その俺に、アッカイマンが立ちふさがる。

そして、跪き懇願した。


「カールさん!!僕も!仲間に入れて下さい!!」


「どうして?危ないよ?」


「……仲間を……殺した奴らを…突き止めたいんです!!お願いします!!」

ポタポタと涙を流しながら懇願するアッカイマン。


「……約束を守ってくれるならいいよ」


「はい!どんな約束でも誓います!!」


「一つ目は魔族を敵視しないこと。二つ目は魔族の言うことも聞くこと。三つ目は魔族と仲良くすること…とりあえず大きな事はこれくらいかな?」


「なんだ。魔族のことばっかりじゃないか?」

ホルスが呟く。


「はい。俺は次期魔族の長なんで」

俺は胸を張って言った。


「はっはっは!!面白い。これからが楽しみだぁ」

ホルスは高笑いを浮かべた。


「わかりました。よろしくお願いします!カールさん!!」

アッカイマンは立ち上がり、着いてきた。



しばらく歩いて、転移魔方陣が見えてくる。

俺たちは晴れないモヤモヤとした物を抱えながらギルムアハラントに戻った。

9月12日サブタイ変更

9月14日小改稿

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