冒険者
朝になり朝食をとる。
だだっ広いテーブルに座り、少し待っていると、メイドが食事を運んできた。
「どうぞ……マスター」
後ろから声がしたが、どうやらゼロのようだ。
無機質ながらも年相応の高い声、動くたびにピョコピョコ動く緑色の髪、ガラスでない丸めがね。
服はいつの間にかメイド服を着ていた。
「そのメイド服はどうしたの?」
「なんでも、アルシュタイン様の幼少期のメイド服らしいです」
『一体いつからメイド服着てるんだ?』
俺は少し疑問に思ったがすぐに忘れることにする。
俺は少し行儀が悪いが、朝食を食べながら聞くことにした。
「前の服は?」
「だいぶダメージがあったので、自己修復させてます」
「自己修復?」
「はい。表面のナノマシンはシールドの役割以外に、原子変換ができる汎用品ですので重金属さえ与えれば自己修復できます」
「……はぁ?まあ、なんかあげれば直るんだ」
俺は意味不明な単語の羅列に困惑しながら言う。
「そういう認識で構いません。マスター」
「背中に背負ってた鞄は?」
「あれは鞄ではありません。攻撃ユニットです」
「攻撃……ユニット?」
「私は汎用アンドロイドです。直接の武器は3連バルカンと極近接用対戦車ナパームしかありませんので、接近戦でしか能力を発揮できません。なので、中遠距離用攻撃ユニットがあのフルホイールユニットなのです」
「距離で役割を分けてるんだ」
「その認識でかまいません。マスター」
ゼロは話を続ける。
「フルホイールユニットは表面にナノマシンを塗布しておりませんので、自力修復は不可能です」
「へー。ゼロちゃんが直せば直せるの?」
「フルホイールの残りと、部品の残骸と、再生用の重金属があれば、私に内蔵されているナノマシンを塗布すれば直ります。しかし、現状では数年かかるでしょう」
「そうなんだ。まあ、いらないけど、残骸だけでも回収しとくかな?」
「そうして頂けると助かります。マスター」
「そう言えば……バルカン、だっけ?とかナパーム?とかも、そのナノマシン……で作れるの?」
「はい。口から重金属を摂取し、残弾を回復できます」
「へー、魔法みたいに便利だね」
「魔法というモノは、私達の作られた世界ではありませんでしたのでよくわかりません」
無表情ながらも小首をかしげるゼロ。
「そうなんだ。不思議な世界だね。まあ、頑張って仕事してね」
「はい。マスター」
優雅に足を曲げて挨拶し、下がるゼロ。
『魔法でないなら、どんな物を使って、あんな人間みたいな人形を作ったんだろ?無表情だけど仕草は本当に人間そのものだし……』
動作の節々をよく観察するが、どう見ても人間だ。
表面が金属のようにツルリとしているが、色合いは皮膚そのものだったので遠目ではわからないだろう。
『ホルス様の木偶人形も見たときはビックリしたけど、これはこれでかなりビックリだよなぁ……今度、時間があるときにホルス様に見せてみようかな?』
そんなことを考えながら俺は朝食を終えた。
テーブルを立とうとした直後、慌てた様子で犬のような魔族が入ってくる。
「カール様。お食事お済み間もなくで申し訳ありませんが、来て頂いてよろしいでしょうか?」
頭を垂れて恭しく言う魔族。
「ああ。でもよければ、少し着替える時間をくれたら嬉しいんだけど……」
俺は苦笑いで答える。
「わかりました。お急ぎ願えれば幸いです」
「ああ。わかった。急ごう」
俺は急いで居室に向かい、着替えたり準備をして、魔族と共に大陸地図がある部屋に向かった。
そこには、ルシフルエントとキルが居て、何か話していた。
「ごめん。遅くなった。どうしたの?」
「おお、食事中すまぬ。キルよ、説明せよ」
「はい。昨晩、リヒテフント帝国領、アスノリエ防衛都市方面より、我がコッポリ平原に少数の侵入者が入ったと周辺魔族から連絡がありました。行き先は、ゴール洞窟だと思われます」
「誰だろう?」
「冒険者じゃ。人数や装備から間違いない」
ルシフルエントは腕組みをして答える。
「はい。人数は6人。戦士風3人、魔導師1人、盗賊2人の構成です。これぐらいのパーティだったら、ゴール洞窟は経験を積むにちょうど良い場所ではあります」
「どんな魔族が出るの?」
「クップメント元帥率いる死霊系魔族の土地ですから、もちろんアンデット及び死霊系魔族です」
「妾達の領土とリヒテフント帝国の接する所は全てクップメントが支配しとる地域じゃ……あまり波風を立てたくないのう。ハァ~」
ルシフルエントは溜息をつく。
「クップメントに?」
「そういう単純な話ではない。例えばじゃ、クップメントが配下を使って、冒険者を殺すとどうなると思うか?おまえ様」
「……アンデットになる」
「か~!可愛いのう!おまえ様よ!!じゃが、領主としては落第点じゃ……正解はリヒテフントと戦争になりうるじゃ」
顔に手を当て、唸るルシフルエント。
「え!なんで!!」
俺はビックリする。
「前提として、冒険者がリヒテフントの国民という事も必要じゃがの……ほれ、よくある話じゃ、自国民保護のため出兵するってやつじゃ。特にあの帝国はよくやる手じゃ」
「そうなの?」
「過去50年で5回その理由で、周辺国に出兵しとる。ほれ、アルシュタインの父親が亡くなった話も、20年前、帝国が難癖つけて出兵した戦争のせいじゃ。まあ、多くの犠牲を払って撃退したがの」
「そうなんだ」
「正直、冒険者なぞ、殺すことは簡単じゃが、それを理由に出兵されると今の妾達は非常に困る。魔族の協力が得られんと、やられるかもしれん」
「だったら、追い返せば?」
「冒険者を殺すことは簡単じゃが、追い返すことが非常に難しい。魔族がするとなおさらな、ありもしない出鱈目を報告した挙げ句より多くの冒険者が洞窟に来襲することになる」
「あ~、たしかに。困難なダンジョンにお宝を求めて冒険者は群がるもんなぁ」
俺は、勇者時代の冒険者達を思い出した。
「さらにややこしいのが、クップメントの支配地域だという事じゃ。妾が魔法を使えばすぐに感づいて反感を買うじゃろうし……」
顎に手をあて、考えるルシフルエント。
「じゃあ、ルフェちゃんは居残りで。そして、俺が普通の装備で行けば大丈夫なんじゃない?元勇者だし、名前は一応通ってると思うよ」
「6対1じゃぞ!負けることは無いじゃろうが、怪我でもしたらどうする!!」
机に思いっきり叩き、反論するルシフルエント。
「う~ん。じゃあ、ゼロちゃんをつれてく?」
「はぁ?……ああ、あいつか、しかしのう~、死んでしまわんか心配じゃのう、冒険者の方が」
「まあまあ、メラダーの炎も防げるシールドもあるんだし、防御メインで行動してもらえれば大丈夫でしょ?追い返すだけなんだし、話し合いだけで終わるかも」
「それは楽天的すぎると思うのう……しょうがない、キルよ、ゼロを連れて参れ」
「はい!」
キルは部屋を出る。
そして、メイド服のゼロを連れてきた。
「お呼びですか?マスターの奥様」
無表情で優雅に挨拶し、答える。
「おまえに頼みたいことがある。よいか?」
「マスターの命令であれば」
「なに?妾の言葉が聞けぬというのか?」
「マスターの命令以外は聞けません」
「なにーー!助けてやった恩を忘れたか!!」
「あなたに助けてもらってません。マスターに助けられました」
「むきーーー!!」
地団駄を踏むルシフルエント。
「まあ、まあ、先に進まないから俺が話すよ。ゼロちゃん、それでいいかな?」
「はい、マスター」
かしずいて聞くゼロ。
「俺はこれから危険な任務に就くんだ。だから、守って欲しい。いいかな?」
「この身に代えましても守り抜きます。マスター」
「しかも、相手には攻撃もできない。それでも大丈夫?」
「問題ありません。『そうせよ』と言って頂ければそうします。マスター」
真っ直ぐな翡翠色の瞳が俺を真っ直ぐに見つめた。
『ああ……頼もしい』
俺は素直にそう思った。
年端もいかない外見の少女にこんな頼みをするのは間違っていると思うが、あのメラダーとの戦いを思うと頼もしいことこの上ない。
『あの時……こんな風に仲間だったら……』
少しだけ心が痛い。
しかし、全力を出して散った仲間に失礼だと思い、考えるのを止めた。
「おまえ様よ。妾もマウントシュバッテンを通してリヒテフントに抗議を出す。場合によっては出向く」
「そうだね。属国だもんね。こういう時は利用しないと」
「それにな……おまえ様よ。怪我をする前に撤退しても良いからな!クップメントには良いように言うから……妾が側に居らんから心配で心配で」
母親のようにオロオロとするルシフルエント。
『……可愛い。今度、喧嘩したときはこの手を使うか?』
ルシフルエントのオロオロする様子に新鮮な感動を覚えた。
「はは!俺はこれでも元勇者だよ。大元帥ホホロンを倒せたんだからそれより厳しい戦いなんてそうそう無いだろ?」
「そうじゃがなぁ……万が一と言うこともある!!」
「その為のゼロちゃんだから。じゃあ、急いだ方がいいっぽいから準備しよう。いい?ゼロちゃん」
「もちろんです。マスター」
「よろしくお願いします」
キルが深々と頭を下げる。
「う……うむ、本当にすぐ帰って来ても良いからな!」
いまだにオロオロとするルシフルエント。
「はは!よし!じゃあ、行ってくるよ!」
俺とゼロは部屋から出て、準備に出かけた。
そして、準備を行い、転移魔方陣を使って、ゴール洞窟へと向かった。




