アルシュタイン
書類仕事を片付け、夕食を取り、体を清め、部屋に戻ろうとする途中でアルシュタインと会った。
夜も更けていたため、お互い寝巻だった。
アルシュタインは少しフリルのついた可愛いワンピースタイプの寝巻で少しドキッとした。
「あ!カール様ぁ!お疲れ様ですぅ」
深々とお辞儀するアルシュタイン。
「……ああ、本当に疲れたよ」
俺はワザとらしく怪訝な顔をして腕をプルプルと振った。
「え!……申し訳ありません」
かなり驚いてシュンと俯くアルシュタイン。
「ウソウソ!冗談だって!」
俺は驚いてすぐに笑顔になる。
「えーー!酷いですぅ!」
アルシュタインは少し怒ったように頬を膨らませ、俺の胸をポカポカと叩く。
『……可愛い』
ルシフルエントとは違った反応で、ほんわかする。
「もう!カール様ったらぁ!」
攻撃は止むも、まだ頬を膨らますアルシュタイン。
ぷいっと横を向いて怒っているようだった。
「ハハ!ごめんごめん……お詫びと慰労をこめて、少し飲まないか?」
「えぇ!いいんですかぁ!!」
満面の笑顔になり喜ぶアルシュタイン。
「ああ。まあ、冒険者時代に貰った果実酒だから大したものではないけど」
「はい!いただきます!!果実酒は大好きですぅ!!」
アルシュタインは目を輝かせる。
俺は軽い気持ちで居室に誘った。
俺の居室につく。
そして、冒険者時代の魔法の道具袋から果実酒を入れた酒瓶と適当なアテを取り出した。
俺とアルシュタインは、部屋に置いてある応接用のテーブルセットに座り、飲み始めた。
「おいし~い!」
アルシュタインは大げさに喜ぶ。
「味がだいぶまろやかになってる……寝かせたおかげかな?」
たしか、貰ったのは魔王討伐の途中だったはずなので1年ぐらい前だったか?
果実酒は当時飲んでいたよりも味のカドが取れてまろやかになっており、非常においしくなっていた。
「仕事の方は順調?」
「はい!とても速い進捗状況でびっくりしてますぅ。魔族さんたちも非常に協力的で、キルさんも非常に優秀な方で助かってますぅ」
「……それであの書類の山になるわけね」
俺は苦笑いを浮かべる。
「はい……カール様にはその点でご苦労をおかけしますがお願いしますぅ」
アルシュタインも苦笑いを浮かべる。
「そういえば、北の大地にはやっぱり特殊鋼があるみたい。今度その報告がくるみたいだよ」
「本当ですか!!それは朗報ですぅ!」
アルシュタインは両手を叩き嬉しがる。
「これでいっぱい取れればいいんだけど」
「カール様ぁ……特殊鋼取引はそんなに簡単ではないんですよ」
少し困った顔をするアルシュタイン。
「どういうこと?」
「特殊鋼も貴金属と同じで需要と供給で値段が決まるんですぅ。今は、需要が過多で供給極小なので値段が高いんですぅ」
「つまりは、いっぱい供給すると値段が下がるってわけ?」
「はい~。しかも、現状では魔族討伐が終わり、需要も減りつつあるので直近価格が下がり気味なんですぅ」
「そうか……いっぱい売ればいいって話でもないんだ」
「そうなんですぅ……ただ、平和な時期なので、貴金属需要が伸びてますので、貴金属も取れれば安定すると思いますぅ」
「う~ん難しいねぇ」
俺は腕組をしながら目を瞑り、唸る。
「そうじゃのう……おまえ様にとっては難しい話じゃのう」
俺はその声を聴いて驚き目を開く。
いつの間にかルシフルエントがアルシュタインの横に座って果実酒まで飲んでいた。
隣のアルシュタインも驚いているようで両手で口を押えている。
「おまえ様よ……これはどういう状況じゃ?」
顔は笑ってはいるが、心なしか視線が冷たい。
「これはね……日頃の慰労を兼ねて…誘っただけだよ。……ついでに…北の大地の…話をしていたんだ」
俺はしどろもどろ答えた。
「ほう…妾は前にも言わんかったかのう?……それで喧嘩にもなったような?」
ルシフルエントの言葉が冷たい。
「ごめん……そこまで考えてなかった」
ルシフルエントの言葉で状況が理解できた。
俺はまた庶民感覚で軽率な行動をしてしまったことに後悔をした。
「アルよ……手籠めにされる覚悟でこの部屋に来たのではないのか?」
ルシフルエントは真顔でアルシュタインを問い詰める。
「……はい」
アルシュタインは顔を真っ赤にしながら短くハッキリと答えた。
「……え?」
俺は唖然となる。
「何をヘンテコな顔をしておるのじゃ?おまえ様よ。アルは宮仕えが長い。宮廷でそのような話になればそういう事じゃろう?」
ルシフルエントがハッキリ言った。
そう……俺だけがそこまで考えが至っていなかったのだ。
後悔の念が溢れてくる。
俺は一気に果実酒を飲み干した。
そして、椅子から降りて土下座する。
「申し訳ありませんでした!」
それはもう一世一代の土下座だった。
静寂が場を支配し、一瞬の間があった。
「はぁ~。まあそうじゃろうと思っとった。……そんな下品な謝罪など求めておらん。座れ。おまえ様よ」
ルシフルエントは呆れながら言う。
俺は、静かに座った。
そして、果実酒を注ぎ、口に含む。
「アルも手籠めにするつもりでそのような格好でウロウロしとったのであろう?全く……おまえ様もつくつぐモテるのう」
ルシフルエントのトンデモ発言が飛び出す。
ゴキュッ!
「げほ!げほ!」
焦って器官に入って咽る。
俺は涙目になりながらもアルシュタインを見る。
顔を真っ赤にして両手をあて、俯いていた。
どうやら、真実の様だ。
「……いつから見ていらしたのですかぁ?」
「ウロウロしとって不審に思ってなぁ。よく見ればとんでもない下着を身に着けておるではないか。誰を探してるかと思えば、おまえ様が来て、嬉しそうに居室に入った……そう考えるしかあるまい?」
「とんでもない下着?」
俺はつい思っていることが口に出た。
「こーーーんな下着じゃ!!」
ルシフルエントがいきなりアルシュタインのワンピースを思いっきりたくし上げる。
そこには真っ赤で、スケスケの、通常の3分の1ほどしかない布が腰のあたりに着けられていた。
『こんなの初めて見た』
俺は思考が止まった。
「きゃーーーーーー!」
アルシュタインが思いっきりスカートを押さえる。
涙目になりながら上目遣いで俺を見つめるアルシュタイン。
「……見ました?」
「ああ……しっかりと」
「ふぇっ!……ふぇ~~ん!!」
顔を真っ赤にしながら両手で目を押さえながら泣き出すアルシュタイン。
俺は何も言えず苦笑いを浮かべるしかなかった。
「どうするんだ……ルフェちゃん?」
「どうするもこうするもない。妾を出し抜こうとした罰じゃ」
腕を組み、目を瞑りながらハッキリ言う。
「……」
俺はジト目で抗議する。
「……そんな目で見られても知らん。妾は罰するときは徹底的にするのじゃ」
ルシフルエントは、アルシュタインを見つめる。
「??」
俺はどうなるか予測できなかった。
ルシフルエントはアルシュタインの両手を無理やり顔から引きはがし、キスをした。
「むーー!むーーーー!」
それはもう大胆に、音が響くほど絡ませ合いながらディープキスをする二人。
俺は両手で顔に隠し、指の間から覗き込んだ。
しばらくすると、アルシュタインも抵抗を止めて、恍惚の表情を浮かべる。
ルシフルエントは唇から離れた。
「妾はアルも認めておる……おまえ様に娶らせやっても良いとも考えておる。どうじゃ?アルよ」
「はぁ!?」
俺はルシフルエントのトンデモ発言に思わず素っ頓狂な声をあげる。
当のアルシュタインは「ファーストキスが……ファーストキスが……」と虚ろな目をしながら呟いていた。
「ふむ……返事はまた今度か、ではいくかの」
ルシフルエントはアルシュタインを担ぎ、席を立つ。
「あの……ルフェちゃん?」
「安心せい、おまえ様。妾は女を襲うような趣味は無い……少しだけあの下着には興味あるがの。ちゃんと部屋に送り届ける。では、さらばじゃ」
颯爽と部屋を出るルシフルエント。
「何がどうなってるんだ?」
俺はとりあえず、残った果実酒を飲み干し、ベッドに潜った。




