赤の宮
ルシフルエントと共にミレに言いに行くと、明日、赤の宮に部族の主要な面子を集めるのでそこで言って欲しいと言われた。
俺とルシフルエントはかなり疲れていたので、温泉に入りに行くことにした。
「生き返るのう!」
風呂の中で座ったまま、背伸びをするルシフルエント。
湯船からは、巨大な褐色の果実が二つ、ぷかぷかと湯面を揺らし、主張していた。
背伸びしているため、腋から横乳に付随する部分が露わになり、非常に見るのをためらう構図だ。
正直、湯あたりするような熱いものがこみ上げてくる。
俺は火照った顔に、ぶつけるようにお湯をバシャバシャとかける。
「おや?おまえ様……どうしたのかえ?」
ニヤニヤと不敵に笑うルシフルエント。
「何でもないよ!」
俺はなぜか焦る。
「そうかえ?本当に大丈夫か調べんとなぁ……」
そう言いながら笑みを深め近づいてくるルシフルエント。
そして、捕まってしまった。
風呂の中で俺にまたがり、座るルシフルエント。
俺は壁に追い込まれ動けない。
そして、抱き付かれた。
耳に吐息がかかり、たわわに実る胸が俺に押し付けられる。
「おやおや……元気なようじゃな」
俺からの感触で妖艶に笑うルシフルエント。
「……ごめんなさい」
俺はなぜか謝罪した。
「なぜ謝る?妾が魅力的じゃからこうなったのであろう?それは嬉しい事じゃ……楽しみじゃのう、おまえ様?」
耳たぶを甘噛みしながらささやくルシフルエント。
「その通りです……ルフェちゃん」
俺はルシフルエントに身を任すことにした。
次の日。
ルシフルエントと魔法の壺を持って、赤の宮に向かう。
そこにはミレを始め、獣魔族の主要な面子が集まっていた。
「みなの者……すまぬ。妾がついていながら、メラダーは逝ってしもうた」
ルシフルエントは寂しそうに俯く。
「戦いの中で死ぬことは魔族の本懐……お気になさらないでください」
ミレたちは口々にそういってルシフルエントを慰める。
「それで、化け物は?」
「俺が切った。そしたら爆発し死んだ。これがその証拠だ」
俺は魔法の壺の残骸を見せる。
「オオ―!」
獣魔族たちから感嘆の声が漏れる。
「ミレよ。メラダーは最後に、おぬしに部族長を継ぐと言っておった。そして、あの化け物を屠った勇者を魔族の長と信頼し、逝った。この意味を汲んでくれるか?」
ルシフルエントは俺の肩をポンと叩きながら言う。
「はい。誠心誠意、魔族の長たるカール様にお仕えすることを申し上げます。部族をまとめ、より一層貢献できるよう努力いたします」
頭を垂れて、恭しく言うミレ。
「みなの者!聞いたか!!部族長であるミレの言葉じゃ!しかと心に刻め!!」
ルシフルエントが叫ぶ。
「オーーーー!」
赤の宮全体が獣魔族の雄たけびに包まれる。
俺は、嬉しかった。
場所を移動して、メラダーと最後に語った部屋に入る。
「ルシフルエント様、カール様、私は古の習わしに従い部族長としての修業期間に入ります。ひと月ほど留守にしますが、御用の場合このメルに申しつけください」
ミレは頭を垂れてそういった。
後ろには同じような体躯で真っ赤な毛皮を纏った獣魔族がいた。
「おお、メルとは久しぶりに会うのう?命名の儀以来じゃから……50年ぶりか?」
「はい。その節はお世話になりました」
頭を垂れるメル。
その声は少し女性のような感じがある。
「命名の儀って?」
「今後はおまえ様もやらんといかんから知っておいて欲しいが、特別に強い者や部族長などは魔族の長たる者が名前を授ける儀式がある。それが命名の儀じゃ」
「魔族は名前が無いの?」
「基本的にはな。大体種族名を通り名としておる」
「そうなんだ」
「メルはメラダーの娘。そして、ミレの嫁じゃ。しかし、さすがはメラダーの娘だけあって総合的な戦闘力は飛びぬけておる。よって、50年前に命名の儀を行った」
「お褒めに預かり恐縮です。カール様も今後ともよろしくお願いします」
俺の方を向いて頭を垂れるメル。
「ああ。よろしく」
「ところでミレよ。ゲーニッヒ山脈には鉱物資源が多く産出すると聞く、妾はそれを使って今後交易を行う予定じゃ。協力せよ」
「仰せの通りに。ただ、我々は手を持たぬ部族であるので、庇護のドワーフに申し付けておきます」
「ちなみにどんな鉱物が取れるの?」
「ドワーフ達が申していたのは、非常に硬い……アダマンタイト?とかいう金属中心に取れるようです。我々は使わないので興味はありませんが。……そして、この地で産出する金属は、マナの祝福のおかげで全て魔力を帯びている金属と言っておりました。貴金属も産出するようです」
「ほう。ではドワーフに協力させ、産出物の一覧や産出量などの詳細な情報を報告させよ」
「……ルシフルエント様、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「なぜじゃ?」
「現在我ら部族の数体が現状を聞き取りをしている最中ですが、ドワーフ達も、先の化け物騒動で疲弊しています。元々数も少なく、全てを段取りするには酷ではないかと」
「無理せずともよい。準備はゆっくりで構わん。じゃが、情報だけはすぐに欲しいのう」
「わかりました。最善を尽くします」
「情報はキルに報告せよ。くれぐれもドワーフ達の体調が最優先じゃ。憂慮せよ」
「はい。……では、私もすぐに修行に入ります。お名残り惜しいですが、ここで失礼を」
「ああ。ご苦労。頑張れよ」
「ありがとうございます」
ミレは頭を垂れて挨拶し、部屋の外に行った。
「では、メルも留守中よろしく頼む。何かあればギルムアハラントに報告せよ」
「はい」
「では、おまえ様。一旦ギルムアハラントに戻ろう」
「ああ。そうしよう」
俺達は立ち上がり、転移魔方陣へ向かった。
ギルムアハラントに戻ると、膨大な量の書類が待っていた。
それは、大人の背丈ほどの大きさまでうず高く積まれ、壁の様に6つの束で分けられていた。
いうなれば、書類の壁だ。
「法令や、認可などの決済です。今日中に目を通してサインをお願いします」
アルシュタインはにこやかに答える。
「なあ……ハンコみたいなので代用できないの?」
俺はあっけにとられながら一応聞いてみた。
「代用できるものもありますけど……基本自筆署名が原則ですので」
困ったように苦笑いをするアルシュタイン。
「そうか……」
俺は覚悟を決めた。
その日はたっぷりと書類仕事に精を出した。
「剣を振り回して、冒険をしてるときの方が楽だったなぁ……」
愚痴を呟きながら腕がパンパンになるまで署名を書き続けた。
9月30日炎の宮→赤の宮に変更




