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メラダー元帥2

「そう睨むでない。メラダーよ。言ったであろう?妾の夫でもあるのだ」

ルシフルエントが少し強い口調で言う。


「私は人間を魔王にするなど断固反対です」

目を伏せ、静かに答えるメラダー。


「魔王ではない、魔族の長じゃ。束ねる……代表のようなものであれば人間が仕切ってもよかろう?」


「反対です。寿命も短い、脆弱な人間にその役目が果たせるとは思えません」


「ほう?こいつはあの大元帥ホホロンを倒した人間じゃぞ?人間界では光の勇者とも呼ばれておる男じゃ。戦ってみるか?メラダーよ」


「……是非に」


おいおい!話が違うぞ。話が!!


「ちょっと待った。ルシフルエント。話が違うんじゃないのか?」


「……」

腕を組み、頬を膨らますルシフルエント。


「ルシフルエント?」


「魔王様?」

俺もメラダーも不思議に思う。


「ルフェちゃん?」


「なんじゃ、おまえ様!」

キラキラした目で答えるルシフルエント。


俺は頭を抱えた。

よく見たらメラダーも怪訝な顔をしているような気がする。


「公式の場だろ?」


「妾にとって、公式も非公式もない。そして、ルフェちゃんと言う響きは可愛い。よって、可愛い奥さんを目指す、妾にとって、ルフェちゃんと呼ばれない限り、返答するつもりはない」


「魔王様……ホホロン様が聞いたら嘆きます」

メラダーが堪らず言った。


『ああ……ホホロンと言い、メラダーと言い、常識人……いや常識魔族と言うべきか?』

思わずそんなことを思ってしまった。



「死んだ者は何も言わん。諦めよ」


「……しかし」


メラダーの言葉を遮り、ルシフルエントは語る。


「しかし……なんじゃ?メラダーこそホホロンが認めた男を認めんではないか?なぜ認めん?どうすれば妾の夫を認めるのじゃ?」


「……」

メラダーは押し黙る。


「なあ、メラダーさん」


「なんだ。ホホロン様を殺した人間」


「ルフェちゃんの気持ちも汲んでやってくれないか?ホホロンを殺した俺が言うのもなんだけど、今は魔族同士が争うときではないと思う。只でさえ減ってる魔族が争ってたら人間の思う壺だぜ?そんな、争いで領地を奪われた日には、それこそホホロン達に顔向けできないんじゃないかな?」


「……お前に言われなくても分かっておるわい」


「そうか……出過ぎたことを言った。すまない」

俺は深く頭を下げて謝る。


「人間」


「なに?」


「魔族と人間……争っていたらどちら側につく?」


「ルフェちゃんの方につくよ。俺は旦那だからね。それで、両方と闘うことになるなら本望だね」

俺は笑いながらハッキリ言った。


「おまえ様……」

ルシフルエントが少し涙ぐんでいる。


「そうか……魔王様の旦那か。はぁ~」

何かを達観したかのように溜息をつくメラダー。


「では、試させてくれ。いいか?」


「任せてくれ」


「北にある鉱物資源がよく取れるゲーニッヒ山脈と言う活火山帯がある。そこには、私達が庇護するドワーフたちが居るのだが……実は何者かに捕まってしまった」


「なに!!なぜ報告せん!!ゲーニッヒのドワーフ達と言えば、この地一番の鍛冶集団ではないか!!」


「申し訳ありません。ただ、相手が正体不明かつ、退位だなんだと混乱していたものですから……」

メラダーは頭を垂れる。


「ルフェちゃん……話が進まないから怒るのは後にしてくれる?」


「そうじゃな……おまえ様の言う通りじゃ。メラダー。おまえ様に感謝せい」

ルシフルエントはそう言うと静かになった。


「その正体不明の奴らを倒せばいいの?」


「ああ。できるか?」


「やるしかないさ。でも……こんなところまで来る集団なんて珍しいね。他の魔族と言う線は無いの?」


「それはありえん。マナに祝福された魔族同士が話し合いもせずに問題を起こすなど言語道断じゃ。メラダーが滅する前に妾が滅する!!」

珍しくルシフルエントが激高する。


「そう……わかった。ありえないっていうのはわかったから」

俺は苦笑いを浮かべなだめる。


「……魔王様の言う通り、魔族はありえないが、奴らは魔法を使う。しかも我らの不得意な氷属性の魔法だ。なかなか手ごわい。数は多くないが詳細は不明だ。それでもやってくれるか?」


「ああ。もちろんだ」

俺はハッキリ言い放つ。


「そうか。では、明日にでも案内しよう。……今日はもう遅い。折角魔王様も来ていただいているので、今晩は泊って欲しい。魔王様もよろしいですか?」


「ああ!もちろんじゃ。ついでに綺麗な所に案内せい。ここら辺の観光がしたい」


「承知しました。ミレに案内させましょう。魔王様と人間は、我が部族の背中にお乗りください」


「うむ。よろしく頼む」


俺達は食事の支度ができるまで、観光をすることにした。



ミレの案内で、ゲーニッヒ山脈が近くに見える高台まで来た。


「あのマグマを出しながら噴煙を上げているのがポポロッサ山です。もう少し暗くなるとマグマの赤色が映えて美しいですよ。噴煙による雷なんかも不規則に走っていて幻想的です」


『ふむ……確かに躍動感の中にも色が力強さを醸し出して良いなぁ』

俺は、噴き出すマグマを見ながらそう思った。


「もう少し暗いときに見たかったのう……おまえ様、どうじゃ?」


「ああ。確かにそれは同感だが……なんか、マグマが噴き出す力強さって良いね」


「そうじゃのう!妾も好きじゃ!」

笑顔で答えるルシフルエント。


『無邪気で可愛いなぁ』

ルシフルエントの顔を見てそう思った。


「お褒めに預かり光栄です。では、次に参りましょう」

ミレがそういって走り出した。



次に来たのは、湯気が多く立つ温泉だった。


「此処は湯治場です。傷にすごく良いので、我らの部族のみならず魔界一円から傷を癒しに来ています」


「おお!気持ちよさそう!入っていい?」


「ええ。もちろんです。ただ、我々の言う通りの場所に入ってください。熱いですから」


「了解、了解!」


俺は急いで温泉に向かった。



「ふ~。生き返るなぁ」

指定された温泉に入る。


そこは、乳白色の珍しい温泉だった。


泉質がよく、ヌルヌルしていて心地がいい。


「おまえ様ー!入るぞ~!!」

入口からそんな声が聞こえる。


「ええ!!」


俺は驚いた。

そして、ルシフルエントの裸体を見て、顔がさらに火照ってくる。


「何を赤くなっとるのじゃ?妾たちは夫婦じゃ。気にするでない」

堂々と俺の隣に入ってくるルシフルエント。


俺はドキドキする。


「ふふ!可愛いのう。そんな反応されると撫でたくなるのう」

ルシフルエントは頭を撫でてきた。


俺は思わず湯船に口まで浸かった。


「しかし、おまえ様……一体だれがドワーフを捕まえておるんじゃろうか?」

ふいに真面目な質問を呟くルシフルエント。


俺も、顔を上げる。


「さあ……でも、魔族じゃないなら人間しかないだろう?しかし、メラダーが手こずる氷の魔法の使い手なんて限られてくると思うんだけど。集団でとなると国家規模じゃないと集められないよ」

俺は天を仰ぎながら呟いた。


「たしかにそうじゃのう。妾でもちょっと見当がつかん。姿や紋章などでも見えれば特定できると思うが……」

ルシフルエントは顎に手を当て考える。


「まあ、食事しながらでも考えてみようよ?ちょっとのぼせてきたから先に上がるね」

俺は興奮したせいでのぼせてきたので先に上がることにした。


「……妾も一緒に上がる」

ルシフルエントは当然ついてきた。


「そうか、じゃあ、滑らないように……」

俺は手をつなぐ。


「ひゃう!いきなりなんじゃ?危ないじゃろう?」

ルシフルエントは少し驚く。


「裸は良いのに、手をつなぐのはまだ緊張するんだな?」

俺はニヤニヤしながら言う。


「意地悪じゃのう……嬉しいが」

ルシフルエントが顔を真っ赤にして俯きながら言う。


「はは。じゃあ行こう」


「ああ。おまえ様」


俺達は急いで着替えて、メラダーの待つ食事会場に向かった。

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