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喧嘩1

「はわわ~、忙しいですぅ~」

アルシュタインは今日も忙しそうにギルムアハラントを駆け回っている。


俺はいつもこの玉座から眺めている。


「アルシュタイン様……この政策がキル様よりダメ出しがありまして……」

秘書官の一人がアルシュタインに言う。


「何処ですかぁ~……ああ、確かに彼らの生態では難しいかもしれませんねぇ~……でも、基本形は壊したくないのでぇ~……ここを、こう変えたらどうでしょうか?」

アルシュタインは書類に直接書き込み、見せる。


「なるほど……ちょっと、キル様に見せてきます。よければ公示文書の作成に入ります」


「はい~。お願いしますぅ~」

アルシュタインは可愛く返礼をした。


当初は言動的に色々思う所があったが、アルシュタインが優秀な人材であるというのは間違いない事実であった。


何よりも柔軟性が飛びぬけて高く、矢継ぎ早に政策を提案しては改良し、魔族に合わせた内政を実施していた。


アルシュタインは今度、魔族初の人口統計を取る予定だ。

そのデータを元に、税制等の全ての政策が動くので必ず成功するように細々と夜遅くまで各魔族と打ち合わせている。


朝早くから夜中まで姿を見ない日はない。

しかし彼女は休まないし、誰に対しても受け答えは丁寧だ。

正直、彼女でなかったら魔族もここまで協力的ではなかっただろう。


最初は筆頭執政官がメイド服というのはどうかと思っていたが、今では彼女のトレードマークとなっている。


それは、王様から派遣された30人の秘書官は全員王宮ルックでわかりずらい事この上ないからだ。

体型も似たり寄ったりで、カラーバリエーションも多くなく、服装が被ることもしばしば。

しかし、アルシュタインはメイド服であるため探しやすくわかりやすい。


『この服装も理にかなってるよね』

最近はそう思えるようになってきた。




昼休み。


彼女は一人書面に目を通しながらウンウンうなっていた。


俺は差し入れをすることにした。


調理場まで行き、軽食と飲み物を持って戻る。



「お疲れ様」


「ひゃうっ!!……あ!カール様でしたかぁ~ビックリしましたぁ~」

アルシュタインは集中していたので俺の接近に気がつかなかったようだ。


「ごめんごめん。ご飯まだでしょ?軽く食べれる物持ってきたから……食べないと倒れちゃうよ?」


「ありがとうございますぅ~。助かりますぅ~。実は3日連続でお昼を忘れててぇ~」

アルシュタインはエヘヘと恥ずかしがる。


「いま倒れられたら大変だから気を付けてよ。食事を持ってくるぐらいだったらしてあげるから言ってよ!」


「領主様にそんなこと頼めません~!」


「遠慮なく言って欲しい。俺は今のところ仕事がないからさ」


「ありがとうございますぅ~!カール様はお優しいですね!!」

上目使いのまま、目を輝かせ笑顔で言うアルシュタイン。


『……可愛い』

これが眼鏡メイド服効果だろうか?


「どうかされましたぁ?カール様ぁ?顔が赤いですよぉ?」

アルシュタインはキョトンとする。


「いやいや!何でもない!!気にしないで!!」

俺は慌てて否定する。


「気になるのう……何故鼻の下が伸びとるのかのう?」


後ろから殺気がする。


「いえ!そんなことありません!!」

俺は振り返り、敬礼する。


そこには腕を組み、仁王立ちをしながらジト目でこちらを見るルシフルエントがいた。


「まったく……おまえ様よ。ちょっと、よいか?」


「ああ。それじゃあ、午後も頑張ってね。アルシュタイン」


「はい!粉骨砕身で頑張りますぅ!」

アルシュタインも立ち上がり敬礼した。


俺はルシフルエントに連れられて違う部屋に行く。


小さな部屋だが、机が置いてあり、机の上には珍しく大陸地図があった。


しかし、部屋に入って扉が閉められると、凄い勢いで壁に押しつけられる。


ドン!

そんな、俺に壁ドンをかます、ルシフルエント。


「おまえ様……元気なのは結構じゃがの、もう少し自重せぬか?」

ルシフルエントは顔は笑っているが怖かった。


「な……なんのことでしょう?」


「アルシュタインに色目なんぞ使いおって……惚れたらどうするつもりじゃ?」


「え!そんなつもりじゃ……」


「おまえ様がそんなつもりがなくても、女は勘違いするものじゃ。おまえ様は領主。行動は気を付けんか!」


「でも……ただ、食事を取っていないアルシュタインに持っていっただけだよ」


「それがいかんのじゃ。そう言うときは魔族なり、人なりを使え!領主が手ずからに持っていくなぞ特別待遇過ぎる。勘違いの元じゃ」


「そんなもんか……ごめん。気を付けるよ」


俺はまだまだ庶民感覚が抜けていない。

領主という物はホントに難しい。


「いいか?アルシュタインは間者じゃぞ?その事をゆめゆめ忘れるでない!」


「なあ、ルフェちゃん……」


「なんじゃ?」


「その認識は違うんじゃないかなぁ?」


「何を言っておる!それ以外あるまい!!」


「彼女は魔族のために食事も忘れて頑張っているんだよ?」


「それは……王の租税の為じゃろう?」


「でも、無理のないように、公平に、各魔族の合意をしてから政策を進めようとしている。これって凄いことだよ。ホントに王様の為だけだったら強制的に進めて終わりだよ」


「……じゃが、あやつは王の手先じゃ!信用ならん!」


「そう……じゃあ、俺は信用する」


「そんな!おまえ様!」

ルシフルエントは悲しい顔をした。


「信用してあげようよ?魔族のために頑張って仕事してる人に失礼だよ」


「……クッ!ホントにわからず屋じゃな!もう知らん!!勝手にせい!!」


ルシフルエントは怒って出て行った。


「参ったな……」

一人取り残された俺は、とりあえず机に向かう。


「おっ!大陸地図だ。珍しい……しかも、諸国や都市が詳しく書いてある!へ~こんな地図あったんだ!」


地図を作るのは大変労力がかかる。

俺たちのような一般庶民は口伝を書き写したようなとてもアバウトな物しか持っていない。


地図上ではこぶし一個分の距離の都市間が、馬で1日かかる膨大な距離だったと言うことは往々にしてあった。


しかし、この地図は違う。


色々な線が等間隔に書かれていて、実際に見てきたように精巧に都市や山々などが記入されている。

しかも、魔族の地まで極めて緻密に書かれていた。


「ん?なんだ……この絵や記号は?」


地図には沢山の絵や記号も書かれていた。

筆跡からルシフルエントが記入した物で間違いないだろう。


「話しづらいけど……話さないと何も解決しないな。よし!ルフェちゃんを捜すか!!」


俺は気合いを入れ直した。

そして、部屋の外に出て探しに出かけた。

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