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番外編1 はじまりの出会い

19年前。グレートアルメラント王国、辺境地域、某男爵領コロン村郊外。



「ルシフルエント様!あまり私に迷惑をかけないでください!!」


野生のリュンゴの実が成る、木の根元で一人の背の高い執事が木の上に向かって叫んでいる。


木の上には、ルシフルエントと呼ばれる赤毛の褐色の美女が実をもぎ取り食べていた。


「ホホロンは心配性じゃのう?父君の様に早死にするぞ?」


「そんな話ではありません!!目当ての盗賊団たちに見つかって逃げられたらどうするんですか!?」


「心配せんでも今は何処から見ても人間じゃ、気付かれもせんじゃろう。そうカリカリせず、どうじゃ?ホホロンも一つ食べんか?」


「いりません!!」


ホホロンと呼ばれる背の高い執事は腕を組み怒った様だった。


「おお……ホホロンが怒ったぞ。珍しい」


「私はリュンゴが嫌いなのです」


「ほう?初耳じゃな」


「いま嫌いになりました!」


「…プフッ!アッハッハ!なかなか良い冗談じゃ。まるで子供のよう!アッハッハ!」


盛大に笑うルシフルエント。




その光景を遠目で見ている子供がいた。


「うん?だれじゃ?」


ルシフルエントがその子供を見つける。


その様子を見てみると、どうやらリュンゴの実を食べたそうだとわかった。



「ほっ!」


ルシフルエントは食べごろの実を一つもぎ取り、飛ぶ。


見事に子供の前に着地した。



「……食うか?」

笑顔でリュンゴの実を見せるルシフルエント。


「うん」

子供は満面の笑みでリュンゴの実を貰った。


子供は夢中でかぶりつく。


「うまいか?」


ルシフルエントの問いに、子供は食べながら頷いて答える。


「そうか」

ルシフルエントも微笑む。


「やっと降りてこられましたね……こう言っては何ですが、あまり人間とは……」

ホホロンはゆっくりと歩いてきて文句を言う。


「良いではないか。可愛い子供じゃ。……名前は何というのじゃ?」

ルシフルエントは目線を子供に合わせて話す。


「かーる」

子供は端的にそう言って、リュンゴの実を再び食べだした。


「そうか、カールか。良い名じゃ。いっぱい食べて、強く、大きくなれよ!」

ルシフルエントはカールの瞳をまっすぐ見つめ笑顔で答える。


カールは食べながら頷いた。


「うんうん。素直で可愛いやつじゃ」

ルシフルエントは頭を撫でた。


「……」

ホホロンは周りを警戒し、遠くを見つめていた。


「なあカール?明日もリュンゴを食べたいか?」


「うん」


「そうか。では、明日も同じ時間にまた会おうぞ。約束じゃ」

ルシフルエントは小指を突き出す。


カールも真似て小指を突き出した。


ルシフルエントは小指を絡ませる。


指を軽く振り、約束の儀式は終わった。



ルシフルエントは立ち上がる。


「帰るぞ、ホホロン」


「は!」


「また明日な……カール」

ルシフルエントは笑顔で手を振る。


カールは見よう見まねで手を振った。




次の日、ルシフルエントは同じ木の上で待っていた。


今日のホホロンは木の下で静かに待っている。



カールは走ってきた。

ハァハァと荒い息遣いをしていたが、ルシフルエントを見つけると、大きく手を振った。


ルシフルエントはすぐに見つけ、飛ぶ。


そして約束通り、リュンゴの実を渡した。



口いっぱいに頬張るカール。


ルシフルエントは微笑みながら頭を撫でていた。



「はぁ~……可愛い。可愛いぞ!カールや」

ルシフルエントは目を輝かせながらカールを見つめる。


「ルシフルエント様……ちょっと」

ホホロンは耳打ちする。


「なんじゃ?鬱陶しいのう」

ルシフルエントは渋々立ち上がった。


「目標を見つけました。あの森でこちらを観察しているようです」

ホホロンは呟く。


「そうか。魔族を利用し、あまつさえ盗みに利用するなど言語道断じゃ……しかし、カールが居るからのう。どうしたものか?」


ホホロンは溜息を吐く。


「だから言ったじゃないですか……私が始末しましょうか?」


「いや……もう少し待て。もうすぐカールも帰る。それから行動じゃ」


「は!」

ホホロンは短く返答し、軽くお辞儀をする。



ルシフルエントはカールの元にまた戻る。


カールはちょうどリュンゴの実を食べ終わった。


「さあ、カール。妾たちはもう帰らねばならん。お前もお家に帰るのじゃ」

ルシフルエントは笑顔でそういった。



カールは立ち上がり、ルシフルエントに小指を突き出した。


驚くルシフルエント。


「あした……あしたもリュンゴ食べたい」

カールはハッキリと言った。


「ハハ!そうか!そうじゃったな!!妾は忘れとったぞ!本当にカールはお利口さんじゃな!」

ルシフルエントは目を輝かせ抱きしめる。


そして、抱き上げて、小指を絡ませた。



「約束じゃ。明日もこのリュンゴの木の下でな?」


「うん」

ルシフルエントとカールは笑顔で約束した。




次の日。


リュンゴの木の下ではガラの悪い男たちと、ホホロンとルシフルエントが対峙していた。


ガラの悪い男たちは頭から血を流しながら怒り狂っていた。


「貴様ーー!よくも!!よくも仲間をーーー!!」


「盗人猛々しいわ。まったく。盗賊なぞと言う、下衆な人間とは話したくないものよのう?」


「左様でございます。お嬢様」


半ば呆れたような口調で、怒声を受け流すルシフルエントとホホロン。


「くそ!!アレを連れてこい!!」


「はい!!」


首領格の男が、手下に命令する。


「とうとう、出てくるな。一体どうやって使役したのじゃ?」


「調査によれば、人間の開発した魔道具で『魅了の水晶』というのがあります。魔力反応から、おそらくは間違いないかと」


「ふん。迷惑なことだ」


「左様で」


ルシフルエントとホホロンは冷静に語る。



「グエエエェェエエ!!」

森の奥から空気を切る、獣の叫び声がする。


姿を現したそれは、翼竜であった。

大きさは大人の背丈の3倍はあるような大きさだ。


「どーだ!!魔物だぞ!!恐ろしいか!!」

首領格の男がルシフルエントに向かって意気揚々と語る。


しかし、反応は芳しくない。


「はぁ~。翼竜か。報告だとロードドラゴンという話ではなかったか?」


「住民の情報だとそのような話でしたが……まあ、魔物をあまり見ていない人間の話ですから、翼竜を見間違えた可能性が大きいですね」


「まあ、なんにせよ、人間ごときに悪用される、弱い魔物は部族の掟どおり処刑じゃ」


「は!お任せください」


冷静に語り続ける二人。



「クッ!無視しやがって!!やれ!」


首領格の男が叫ぶ。


翼竜は飛び出し、戦闘態勢に入った。



その時、男の子の声がした。


「やめてーーー!おねーちゃんをいじめるなーーーー!!」


ホホロンとルシフルエントは焦り、振り向く。


声の主は、カールだった。



「まずい!!」

ルシフルエントが走り出す。


しかし、翼竜は凄まじいスピードで降下し、ルシフルエントより先にカールを吹き飛ばした。


ボフッ!という、乾いた音が響き、カールの体は宙を舞った。


「カーーール!!!」

ルシフルエントは悲痛な声で叫んだ。


吹き飛ばされたカールは長い滞空時間をかけて、飛ぶ。


ルシフルエントはカールが地面に落ちる前にうまくキャッチできた。



「ゴフ!」

抱き上げたカールは様々な骨が折れ、口から血を吹き出す。

目は虚ろで、死に体だった。


「カーーール!!。死ぬな!!いま回復させてやるからな!!」


ルシフルエントは魔法を唱える。



「ハァ…ハァ」

何とか息を吹き返したカール。

しかし、血を流して苦しそうだ。


ルシフルエントは焦る。



「どうしてじゃ!?」


「お嬢様!魔力回路が未熟な子供は治りが遅いです!お気を確かに!!」

ホホロンは叫ぶ。


「ゴチャゴチャうるさい!!一緒に片づけてしまえ!!!」

首領格の男が叫んだ。


「グェエエエエエ!!」

翼竜が降下を始める。


「許さん!!!許さんぞーーーー!!!」

ルシフルエントの髪が逆立つ。


同時にルシフルエントの周りに魔法陣が展開し、凄まじい量の魔力放出が起こる。



「ブラック…ホール!!」


ルシフルエントがそう言って、手を翼竜に向ける。


その瞬間、翼竜の周りに魔法陣が展開し、空間の圧縮が始まった。


「グエ!グェエエ!!」

翼竜の断末魔と共に空間は小さくなり、消えた。


「ヒィ!!」

盗賊たちは一様に驚き、腰を抜かした。


「ホホロン。あとを頼む」

ルシフルエントは呟いた。


「は!」


ホホロンはそう返答した。その直後、服は破け、体が大きくなる。

体だの大きさは大人の3倍程度ではあるが、腕が4本あり、それぞれに、種類様々な武器を持っていた。


体は黒く、筋骨隆々の大男。

特徴的なのは頭部に生えた角で、太く円錐形に尖っていた。

鬼人……そう呼ぶに相応しい魔族だ。



ホホロンは一足飛びで盗賊たちとの間を詰める。


「た!たすけ……」


首領格の男の首が、言葉を最後まで言いきる前に地面に落ち始める。

ホホロンが切ったのだ。


ビクビクと痙攣する首のない死体。

首からは噴水の様に血が噴き出していた。


余りの早業で、他の盗賊があっけにとられている。



「死ね」

ホホロンは短く呟き、無双する。


瞬きする時間で、盗賊団全員の首や、胴体が体から離れる。

ある者は、脳天から真っ二つになった者もいた。


一様に血が噴き出し、即死する。


「アースホール」

ホホロンが短く呟く。


盗賊団の血だまりや死体が転がっていた場所に穴が開き、全てが落ちた。


穴が塞がると、そこには何も無かったように元通りになる。


ホホロンはまた人間に変身し、魔法で服を作る。


そして、ルシフルエントの元に急いだ。



「カール!!妾がいま治してやるからな!!頑張れ!頑張るんじゃぞ!!」

ルシフルエントは何度も何度も回復魔法をかけていた。


「ルシフルエント様!あまり魔法はかけてはいけません!!」

ホホロンが到着し、言う。


「なぜじゃ?少しづつではあるが回復しておるぞ!!」


「特に人間の子供は魔力回路が未熟で我々の回復魔法がかかりずらいのです。しかも無理にかけると、魔力回路が異常をきたして死に至ることもあります」


「なに!?」


「マナの祝福を受けていないこの地では、我々の魔力は毒にもなり得るのです」


「しかし……しかし!!」


ルシフルエントはポロポロ涙を溢す。


「おね……ちゃん……なか……ない…で」

カールは弱々しく目を開け、呟いた。


「大丈夫か?痛くはないか??」


「だい…じょうぶ。ぼく……ゆう……しゃ、みたい……だった?」

にっこりと微笑むカール。


「ああ!!勇者じゃ!おぬしはっ!!妾の勇者じゃ!!カールよ!」

泣きながら答えるルシフルエント。


「よかった……また…………リュンゴ……たべようね?」

そういうと、カールは目を閉じる。


「カール!?カール!!嫌じゃ!!魔力転移をする!絶対に生き返させる!!」


ルシフルエントは立ち上がる。

そして、魔方陣を展開した。


「いけません!!魔力転移は禁断の秘術!どんなペナルティが出るかわからないのですよ!!」

ホホロンが焦りる。


「わかっておる!その代わり、死者をも蘇らせる禁断の秘術じゃ。妾は約束したのじゃ!!一緒にリュンゴを食べると!!ホホロン!そこをどけい!!」


ルシフルエントは鬼のような形相で叫ぶ。


ホホロンは戸惑うが、何も言わず一歩引いた。



「すまぬホホロン。あとはよろしく頼む」

ルシフルエントはそう言うと、カールに魔法陣を展開する。



魔方陣内は魔力の閃光が起きる。


「くっ!カール!妾の勇者よ!!目を覚ませ!!」



ひときわ大きな閃光が起こり、辺りは光に包まれた。



光が収まると、カールは地面に落ち、ルシフルエントも倒れた。


その場に立っていたのはホホロンのみだった。


「ルシフルエント様……貴方は本当に、先代魔王様そっくりですね…あなたの父親は、死にかけたあなたの母親に同じことをしたんですよ」

ホホロンは倒れたルシフルエントに言うように呟いた。


「さて……カール君は…………無事に生き返ったようだな」

ホホロンは呼吸を確かめる。


「一応、バッドステータスなんかも調べておくか……」


ホホロンはカールに手を当て魔法を唱えた。


「……!!何?全て回復?まさか!?魔力回路も形成され、ステータスが……上級ゴーレム以上だと!!この年でか!?馬鹿な!!」


ホホロンは驚く。


「魔力転移の影響か?しかし、このまま成長すると……ワシでも太刀打ちできんようになってしまう。これは脅威だ。いっそ、殺すか?」


ホホロンは焦り何処からか、武器を取り出す。


そして、一度は振りかぶるが、少し考え止める。


「いや……ルシフルエント様の意思だ。生かさなければならぬ。しかし、記憶は消させてもらおう。もし対峙してしまったとき、お互い躊躇せぬように」


ホホロンは頭に手を当て、魔法を唱えた。



ルシフルエントにもステータスを調べる魔法を唱えるホホロン。


「なに!?ルシフルエント様のほうが事態は深刻だ。まさか……攻撃魔法が全て使えなくなるとは」


ホホロンは驚く。


しばらく考えていたが、ついにルシフルエントを担ぎ上げた。


『致し方ない。ギルムアハラントまで戻り、ルシフルエント様のご回復を待って事情を話そう』

ホホロンはそう思い、担ぎながら帰路についた。


「さらばだカールよ。願わくば敵として我々の前には出てくれるなよ」

ホホロンはカールをその場に残し立ち去る。



その後、騒ぎを聞きつけた大人達が、倒れているカールを見つけ帰宅する。


……ルシフルエントやホホロンの事は一切忘れて。

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