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プロローグ

魔王城ギルムアハラントの応接室。


比較的豪華な応接セットに魔王ルシフルエントが対面に座り、反対側に俺と相棒の魔導師ココが座っている。


魔王は女性魔族であり、毒々しい紫色のドレスを着ている。

しかも、そのスタイルは抜群で、大きくはだけた胸元からは褐色のたわわに実る胸元がこれでもかと溢れんばかりに主張していた。


赤髪、赤眼、眉目秀麗な顔立ちに健康的な褐色の肌が特徴的だったが、彼女の頭からは小さな黒い角が生えている。

その点のみが彼女が魔族であろうと推測できる特徴であった。


正直、胸元が気になって、恥ずかしくて直視できない。



隣に座る相棒の魔導師ココはとんがり帽子に、黒いワンピースの魔導師によくある格好だ。

肩口まで伸びた黒髪を左右にまとめており、身長も低く、顔立ちも幼い。

体型も非常に細くスレンダーと言えば聞こえが良いが、幼いとしか言いようのない体躯をしている。


深く、複雑な年輪をしている不思議な杖を肌身離さず持っており、その表情は緊張しているようだった。



「先ほどとはうって変わって緊張しとるようじゃのう?妾の勇者よ」

ルシフルエントは足を組み、妖艶な笑みを浮かべ答える。


「まあね。でも、改まって話をするんだから何かあるんだろう?」

余裕を見せるため無理して笑う。


「そうじゃ……改めて言おう。妾と婚約し婿養子となれ……勇者よ」


「だーかーらー!なんでそんな話になるのよ!!子孫繁栄とかカールじゃなくても良いじゃない!!」

ココは身を乗り出しくってかかる。


「だまれ!ロリ魔導師。今は真面目な話じゃ」


「俺からも頼むよ、ココ。なんだかさっきとは雰囲気が違う」


「ぎゅにゅにゅ~!」

奥歯を噛みしめ座るココ。


「流石は妾の勇者じゃ。話がわかるのう」

両手を合わせて嬉しがるルシフルエント。


「さあ、なんで俺がルフェちゃんと婚約しないといけないんだい?」


「確認すると、王からの命令は妾を倒し、この地を平定する事じゃろう?」


「ああ。その通りだ」


「じゃが、断っておくと、妾を倒したところでこの地は平定できん。逆に争いが起こり、人間世界がそのいくさに巻き込まれる……それを全て勇者と魔導師2人で抑えきれるかえ?」


「それは……なかなかハードだね」


「ちょっと!単なる脅しよ。そう言ったら倒さないって踏んでるのよ!」

ココが俺に呟く。


「強い者がいなくなれば、次の強い者がでてくる。それは人間も魔族も同じことじゃ。まあ、人間世界とほとんど交流を持たなかったのだから、魔族のことわりを知らんのも無理ないのう」


「魔族のことわり?」


「魔族は序列が全て。それは根源的な力で決まる。序列2位の大元帥ホホロン亡き今、妾まで倒されるとこの地の序列が大幅に狂うことになる。それは次期魔王を決める権力闘争を生み、争いが起こることは必須じゃ。その争いは人間世界にも波及するじゃろう」


「よくあるシナリオね……ホント人間みたい。まあ、謀略や暗殺とか無いだけこっちの方がクリーンって感じかしら?」


「まあ、とにかく、そのような混乱を生じさせたくないし、人間世界に災いを持ち込むのも妾の本意ではない」


「本当かしら?」


「ロリ魔導師よ。玉座の間で言ったとおり、妾の半分は人間の血が流れておる。この姿もまことの姿。他の魔族のように変身メタモルフォーゼしとる訳ではないし、妾は人間に恨みなどない」

真顔でハッキリと言うルシフルエント。


「あれだけ魔族を倒されたら恨みぐらいあるでしょ?」


「お互い死力を尽くして戦ったのじゃ。恨むなぞ失礼に当たる。それは魔族共通の認識じゃ」


「……要約すると、ルフェちゃんを倒すと、討伐はできるけど、平定はできずに戦乱が起きて結果的に王の目的とは違う結果となる……という事かな?」


「そうじゃ。じゃから、妾は平和的解決のために婚約を提案する」


「そんな事せずに、このまま私達が帰れば良いだけの話じゃない?王様に失敗しました!って言えば今まで通りよ?」


「ロリ魔導師はやはり馬鹿じゃな?王がそれで許すと思うか?そんな優しい性格の王では無かった気がするがのう?」


「うっ……」

ココは押し黙った。


フローレンス7世は気分屋で知られていて、依怙贔屓なども酷い。

貴族や兵士がえん罪で処刑させられたという噂もあり、評判は凄く悪い。

ココはその事を思い出したのだ。


「じゃから婚約じゃ!そうして、妾が魔族の長を引退する」

ふふんと得意げにハッキリと言った。


「い!引退!!」

カールとココは驚く。


「婚約すれば、おぬしが妾の後見としてこの地を引き継げる。妾が引退しても大義名分の元この地の統治を行うことができる。これで、王の命令である平定という役目も果たせよう?他の魔族からは多少反感は買うが、妾が生きていれば、権力争いは起きん。それが第1の理由」


「第2の理由は?」


「第2の理由に、妾の勇者が婿養子としてくれば、四六時中、妾の傍で監視できる。これは実質、妾を倒したようなモノじゃ。それに……」


「それに?」


「妾は勇者と結婚したい。どうじゃ?一石三鳥じゃろう?」


「……なんだか冗談みたいな話ね。本音は何処にあるのかしら?」

ココは呆れながら言った。


「妾の本音は最後のみ……妾は勇者が好きじゃ。じゃから結婚したい。全てを捨ててもな。じゃが立場はそれを許してくれぬ。そこで、策を弄したという訳じゃ」

カールにウィンクをするルシフルエント。


俺は少し顔が火照って来た。


「なによ!あんたが好きでもカールは好きじゃないかもしれないじゃない!!他に……好きな人も……いるかもしれないし」

急に歯切れの悪くなるココ。


「おぬしのようにかえ?」

いやらしく笑うルシフルエント。


「バッ!違うわよ!!」

大げさに叫ぶココ。


「ふん!素直でないのう……まあ、たとえおったとしても告白したのは妾が初のはずじゃ。それに、受ける受けないはカール次第じゃ……のう?妾の勇者よ?」

カールを真っ直ぐ見つめて言うルシフルエント。


「う……たしかに」

頬を少しだけ掻いて答える。


しかし、どうにも引退だとか婚約だとか話が色々なところに飛んでいて論点がわかりずらい。

俺は少し考えたが、どうもよく整理できなかったので、たとえ話を持ち出した。



「告白を受ける受けないはともかく……婿養子に入って、代わりに領主になれっていう認識で間違ってないかな?」


「人間風に言えばそうじゃな」


「そんなこと、ぜーーたい王様が許すわけないじゃない!?馬鹿言ってんじゃないわよ。まったく」


「それもそうだな……普通に考えれば魔王と勇者の結婚を認めるなんて王様が許してくれるかな?あと、領主になるのも……」


「その点も心配無用。なぁに、人間とは利のある話に弱いからのう……必ず食いつく。試しに魔王の嘆願とかなんとか言って、この書状を渡してみよ?ダメなら諦めれば良いだけの話じゃ。悪い話ではあるまい?」

微笑をたたえ厳封した書状を見せるルシフルエント。


「というか!婚約の話がもう進んでるじゃない!!騙されちゃダメよ!まだ、魔王を討伐するっていう選択肢もあるんだからね!!」

ココが立ち上がり叫ぶ。


「チッ!いけすかんのう……これは、妾と勇者の話し合いじゃ。部外者は口を挟むでない!」

ルシフルエントは小さく舌打ちをして、俺の傍らに移動してきた。


「く~~!言わせておけば!……やっぱり魔族は信用ならない!!この場で消し炭にしてやるーー!!」

ココが間合いをとって杖を構える。


「おいおい!ココ!やめろって!!」


俺が立ち上がると、ルシフルエントは背中にピッタリと張り付いたように密着する。

背中にはたわわに実った柔らかい二つの胸の感触が伝わり、驚いた。


「いっ!な!なにしてんの!?」


「妾の勇者よ……助けてりゃれ?」


驚いて振り向くと、涙を溜めた瞳に、愁いに満ちた表情で服を掴むルシフルエントがいた。


『ぐ……可愛い』

おもわず顔が火照る。


「あーーー!また色仕掛けでっっ!ちょっと胸がでてるからって何よ!!カールのスケベ!!」


杖が発光しだした。

魔力が杖に集中している証拠だ。


「まてまて!俺だって聞きたいことがあるんだから!二人とも座れって!!」


俺は一生懸命叫ぶ。

そして、大げさな身振り手振りでココを静止した。


一瞬の緊張した間があったが、最後にはココが「ハァ~」と溜息をついて杖を下ろした。

そして、ブツブツと聞こえない声でココが席に戻り、俺も座る。

そして勝ち誇った顔でルシフルエントも席に戻る。


「で?何かえ?妾の勇者よ?」

何事もなかったかのように優雅に足を組みながら言ってくる。


「前々からの疑問なんだけど、なぜ魔族はグレートアルメラント王国に侵攻しないんだ?いや……王国だけでなく、帝国などにも?世界征服を企まないのか?」


魔界は大きく、境界線を有しているのはグレートアルメラント王国だけでなく、リヒテフント帝国も有しており、お互い魔族の脅威にさらされている。


しかし、小規模な小競り合いなら何度かあったが、魔族が大規模に攻めてきたという話は聞かない。


魔族が序列による組織があるというのなら人間の様に攻め込んでも不思議な話ではないはずだ。


「世界征服?そんな事をして誰が喜ぶ?魔族も人間も多くの者が犠牲になり、復讐の連鎖が起こるだけじゃろう?難民、孤児、貧困。大規模侵攻なぞ厄災以外何物でもない。まあ、コレは妾の個人的な見解じゃ」

ハッキリ言うルシフルエント。


俺はその言葉を聞いて安心した。

ルシフルエントはとても理知的で話の分かる魔族だと思った。


「他の魔族もそんな考えなの?」


「大多数の魔族は興味がないと言ったところが本音かのう?」


「興味がない?」


「魔族は長命だが、個体数は非常に少ない。この地だけでも十分に広くて手に余る。人間なぞ奴隷でもいらん」


「そうなんだ」


「……まあ、妾は一人だけ人間が欲しくて欲しくてたまらんがのう?」

ニヤニヤと笑うルシフルエント。


「ただ一人?」


「おまえ様じゃ!何度も言わせるな!恥ずかしい」

頬を染めて拗ねたように言うルシフルエント。


俺は意味が解って顔が火照ってきた。

ココは呆れたように溜息をつく。


「ま……まあ、ともかく、婚約の話は保留という事で、王様に事情を説明しないか?ココ」


「えーーー!信じるの!」

ココが叫んだ。


「正直に言うと俺達で判断できる話じゃないし……もちろん、王様のところまで一緒に来てもらうけどいいよね?」


「もちろんじゃ!……ああ!嬉しいのう!初めて妾の勇者と外出できるぞ!!何を着て行こうかのう!?」

満面の笑みで喜ぶルシフルエント。


俺はその姿を見て少しだけ頬が緩む。

告白されたからなのかもしれないが、俺は彼女を急に意識してしまっていた。

『理知的で、裏表もなさそうだし……こういう、無邪気なところは可愛いよね。とても魔族とは思えない』

無邪気に笑うルシフルエントはとても悪い存在だと思えなかった。


「あーーー!また魔王を見てる!ちょっと胸が出てるとすぐこれなんだから!!」

ココが俺の心を読んだように叫んだ。


「いや!違うって!そんなところは見てないって!!」


「ほう?妾の魅力的な体は罪じゃのう~。もっと見てもいいぞ!ほれほれ!」

ルシフルエントはそう言うと体を密着させてきた。


「こらー!取るなーー!!」

ココも俺の体にしがみ付いて来た。


「勘弁してくれー!」

俺は泣きそうになった。


何だか、本当に緊張感がない。


これで本当に良かったのか俺は自問自答したが、しかし魔王と戦わず済んだことは幸いだったと思う。


俺達はこんな調子で、王に事情を説明するために王都に向かった。

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