ひとりぼっちって寂しい
2話です
詩乃ちゃんとお父さん
2
3年が経って、
私は小学6年生になった。
最高学年、という響きが新鮮で、
6年生、と何度も一人でつぶやいていた。
「行ってきます」
「………」
“行ってらっしゃい”はない。
もうずっと、当たり前のようになっていたから、
今更傷つくこともなかった。
昨年、父さんの書いた小説がベストセラーになり、
我が家はかなりお金持ちになった。と思う。
それに伴って新しい家が建てられた。
前よりずっと大きくて、
今度は家族みんなの部屋があった。
だけど、私がリビングにいることはやっぱり許されないみたいで、
変わらず自分の部屋に篭って、
でも広い部屋は余計に悲しくて
…ちょっとだけ、泣いた。
「ねぇ、詩乃。」
「何?萌。」
萌は、五年の時からの友達だ。
「最近さ、お父さん、どうなの?」
「どうって?」
「ちゃんと優しくしてくれてる?」
萌は、私の家でのことを相談にのってくれている。
「んー、あんまり?」
「自分の気持ち、ちゃんと伝えなよ。寂しいってさ。」
「んー…」
今のかあさんと彩が初めてこの家に来た時から、
私は知らず知らずのうちに感情を殺すようになっていた。
“私は父さんに愛されてないわけではない”
それは十分解っていた。
誕生日にはケーキを買ってくれるし、授業参観も来てくれた。
ただ、私が父さんに注ぐ愛情よりも、
父さんからもらうそれが
極端に少ないことは感じていた。
“愛されてない”なんて思っていない。
だけど、“寂しい”と感じたことはある。
でも愛されているだけで満足したかった。
我儘になりたくなかった。
欲張りになって、
捨てられるのが怖かった。
だから“寂しい”を殺したんだ。
お母さんは私達を捨てた。
私の小学校の入学式の日、
「もう帰りません」
という手紙とともに、お母さんは家を出て行った。
「何で」
自分が私や母さんに暴力を振るっていたくせに、
悔しさを
目にいっぱい溜めて呟いた父の姿が痛々しくて、
“もう誰もこの人を傷つけないで”
とまで思った。
父は寂しい人だと思う。
それが私を傷つけていい理由にはならないけれど、
私は父を受け入れようと思うんだ。
昔は、父が独りにならないように。
今は、私が独りにならないように
きらきらさせたい