遺された者
書神 ローレライでブランシュたちが研究している王朝の物語です。かなりファンタジーな物語になっています。
今、一人の英雄がその生涯を閉じようとしていた。
彼女は、ある一人の女帝に人生を捧げ、女帝と共に戦乱を駆け抜けた。
カレン・フィーユ・アルドン
紅華の影姫の二つ名を持ち、ヴォルティエ王朝記を制作した者である。
死が私を迎えにきた。
思えば、大変な人生だった。
私がいた場所は、大概は戦場。
平穏とは、程遠い場所ばかりにいた。
ファルニア様とエクシード様とアリーレイス様と……。
懐かしい情景がそこにあった。
『カレン!大変よ !!』
何が大変なんです?ファルニア様
『西で疫病が蔓延中!!』
……ファルニア様、それは私ではなくエクシード様に相談することです。
いくら、私が優秀な相談役でも医学は専門外です。
『疫病だとっ!カレン 、手伝え!!』
ですから、私は医学は専門外ですって。女王と王が城を空けるのですから、私はアリーレイス様と留守番して老骨どもの面倒をみてます。
『そっか…。じゃあ、リアノ行こうぜ!!』
エクシード様、女王の幼名を大声で呼ぶものじゃ…… 嗚呼、行っちゃった。
――― いつか、いつかまた、皆で…エクシードもアリスンも笑って幸せになれるかな?全部終わった後で……。
ファルニア様。
女王の職務と自分の価値観の間で揺らぎ苦んだ方。
皆で笑って幸せに、の言葉に残念ながらご自身の幸せはありませんでした。
全て終えたら、というささやかで切実な願いは運命によって掻き消されました。
ヴォルティエ王朝史上、一番悲劇的な王でした。
――― 何で!! 何であいつなんだ!? 何故、俺達だった!!?
エクシード様。
誰も…、神々ですらその叫びには応えませんでした。
エクシード様もまた、ファルニア様同様数奇で悲劇的な運命に翻弄された方です。
それでも、エクシード様はファルニア様を夫として、また別なものとして支え続けました。
胸のなかにあったであろう悔恨と無力さを噛みしめて。
――― 私は悪人として、後世に名を遺すわね
アリーレイス様。
アリーレイス様は女の身で軍師となった方でした。
女王も王も国も、全て護ろうとしましたが、その小さな手、細い腕では、あまりに大きく、あまりに重すぎました。
アリーレイス様は心を捨て去り、「軍師」に為られ
ました。
この御三方は、望んで高位の地位にあった訳ではありません。
心を押し潰し、役割に己を染めて、戦っておりました。
私は側で見ているだけで何も出来ませんでした。
カレンは己が記した記を想った。
あの記には、三人の感情に関係するものは一切記していない。
記せなかった訳ではない。
あの英雄たちの生々しい感情は、同じ時代を生きた者にしか知ることは出来ない。
それは、カレンにとって最も大切で愛しい、恋にも似た
特権だ。
意識が沈んでいく。
伝わってくれるだろうか。
百年先も、千年先も。
――― カレン、いこう!!
光の中、かつての仲間達が手を伸ばす。
はい、ファルニア女王、エクシード王、アリーレイス軍師…。
英雄カレンは人生の大半を一緒に過ごした仲間たちに手を伸ばした。
ヴォルティエ王朝、最後の英雄カレン・フィーユ・アルドンは、その生涯を閉じた。
最初は「死」で始まりました。
彼女は姓で分かるとうり、ブランシュのご先祖様です。
どうして、王朝が滅んだのでしょう?
いや、最初から滅んでいなかった?
それとも―――。