第77章:最強の敵(3)
前章でいよいよ完全漂衣に成功した俺は、十二魔将No.1の実力を誇ったウェーデルンですらダメージを与えられなかったヴォルグに、僅かながらもダメージを与えることに成功したのだった。そしてその頃中濱と井伊は例によってキャプ●ン翼の数々を披露し、最後は
「フレ●ムフ●ッシュ」を決め、THE・タラソテラピーの連中に大ダメージを食らわしたのだった。
そんな三人が熱戦を繰り広げている頃、オニキス本部では物凄い勢いでトルム会長が走り回っていた。
「どうなされたのですか、会長?」
そんないつになくハイテンションな会長を見て、不審に思ったリオ爺が嫌な予感を無理矢理心に閉じ込めて声をかけた。
「おぉ、リオ爺か。ちょっとウォーミングアップじゃよ。何しろ久々に体を動かすからの。」
会長はその声を背中で受け止めながら答えた。昔完璧に作り上げた鋼のような肉体を確かめるかのように、ぐるぐると肩を回している。それを見て、彼は嫌な予感が的中してしまった、と思った。
「・・・まさか、あの中濱殿達三人のところに増援に向かうとでも?」
彼はそれでも焦りをぐっとこらえ、冷静を装いながら確認を促した。
「おぉ、よく分かってるな!元はといえば兄弟喧嘩から始まったようなもんだからな。部外者にケリを付けさせちゃいかん。ワシが最後の砦じゃからのお。」
会長は明るく答えようとはしているものの、実際の心境はそんないいものではない、ということくらいはリオ爺でもすぐに感じ取ることができた。
「ちょっと会長!?御冗談もほどほどに・・・」
「冗談ではない!」
ビリビリビリビリ・・・
会長の怒声に辺りの壁が振動している。どうやらさっきのワードは地雷だったらしい。
「いいか、リオ爺。今は地球の危険が物凄い勢いで迫っているんじゃ。地球の軍程度の力ではどうにもならないくらいのな。それを奴らが止めようと命を賭して戦っておるんじゃ。若者の命を無下に落とさせる必要もなかろう?それに・・・」
そこまで言って会長は少し顔を曇らせた。そして満面の笑みを浮かべて、
「それに中濱の奴にはうちの愛娘を幸せにしてもらわなければならないからな。」
と言った。
「か、会長!知ってたんですか!?」
リオ爺も流石に驚いた。ルルーにはそのことを黙っておくようきつく言ってあったし、中濱本人にも一応口止めをかけておいた筈だったんだが・・・。
「おいおい。ワシがそんなに鈍感だと思っておったのか?ガハハハ!いくらワシでもあそこまでいちゃついてたら気付くわい。」
会長はかなり無理矢理笑い声を上げていた。そうでもしないとやはり抑えられない感情があるのだろう。
「さ、左様でございますか・・・。それも確かにそうでございますね・・・。」
リオ爺も少しばかりその感情に同情出来る気もする。
「・・・まあよい。さあ、ウォーミングアップも済んだことだし、行ってくるとするかの!ホログラムキーを持ってきてくれ。」
「会長。」
「ああ。」
二人にはこの短い会話で事足りてしまうくらい強い主従関係以上のものがあった。会長ならきっと何とかしてくれる。そこが大きな信頼を生んでいるのだろう・・・。
「おい。一体奴らはどこに行ったんだ?」
夏休みの部活でこう尋ねてきたのは俺の担任である。
「確か合宿がどうのこうの言ってましたよ。」
その質問に田鍋が答える。
「合宿だぁ?また何か悪巧みしてんじゃねえのか?」
担任も呆れた表情で一回軽く竹刀を振る。昔一度だけインターハイに出たことがあるらしい担任のその振りは、まるで何か嫌な予感を断ち切るかのようだった。
「悪巧みですか?確かにあいつらはバカばっかやってますけど、部活を休んだりしてまでそんなに綿密に考えたりする輩じゃありませんよ。きっとどこか体の調子が悪いとか、そんなんだと思いますけどね・・・。」
田鍋は笑いながらもなぜかしっくりこない表情で考え込んだ。
「ん?どうした?そんなに深く考えたりして?」
担任の目がギロリと動き、彼の方をじっと見つめている。
「あ、何でもないです。ただちょっと心配なだけです、はい。」
彼の方も一瞬慌てたように首を横に振った。
「そうか。なら大丈夫だが・・・む!お前ら!全員静かにしろ!」
このパターンは大体担任の必殺技、
「超聴力」発動の為に周りを黙らせるパターンだ。彼の聴力は陰で自分の悪口が叩かれていないか確認しようとするために異常に発達し、遂には1キロ先の車がブレーキをかけて止まる音まで(しかもタイヤの種類まで)区別できるようになってしまったかなりのつわものなのだ。
キイイイィィィ・・・
辺りにまるで超音波のような音が響いている。一体何の音だろう?
「むむむ!こっちだ!」
そうすると担任は道場を物凄いスピードで飛び出していった。
「・・・いいのか、止めなくて。」
部員の一人が呆れて田鍋に尋ねる。
「いいよ。そのうち帰って来るだろうよ。それまでちゃんと稽古しようじゃないの。」
そう言って彼は防具のあるところへ戻っていった。
「ちょっと。ちょっと起きなさいよ!」
会長が久しぶりに戦おうというころ、ルルーは唐沢の家に忍び込んでいた。
「う・・・ん・・・。一体誰・・・キャッ!」
突然の来訪者に訪ねられた方はたまったもんじゃない。彼女も当然跳び起きた。
「ちょっと、どちらさまでしょうか・・・?」
彼女はあまりにも唐突な出来事に困惑を隠せない様子だった。
「え?私?私の名前はルルー。THE・ブラッドオニキス、トルム会長の曾孫で、中濱の将来のマドモアゼルなの。」
ルルーは自己紹介をしたが、相変わらず一言余計だ。
「マドモアゼル・・・え!ちょちょちょっと、私達、まだそんなことを考えるような年齢じゃ・・・。」
唐沢は名前とか組織名とかよりも、そっちの方で焦っているらしい。それはそれで問題だが、もっと前に心配することがあるだろうと思う。
「なぁに言ってんのよ。日本の法律ならもう結婚したって何の問題もないんだから!あなただっているんでしょう?私みたいに結婚とか言ったりするのはひとまず置いといたとしても、好きな人が。」
ルルーは困惑している唐沢を更につっつく。
「え!わ、わ、わ、わわ、私にそんな人がい、い、いい、いるわけないでしょ?」
・・・声が震えているのでまる分かりである。これじゃあいるということが疑われても文句は言えまい。
「・・・図星なんでしょ。んもう、素直になっちゃいなよ!」
ルルーはここぞとばかりにとどめの一撃をぶつけた。そういったところはトルム会長そっくりだ。
「う、うん・・・。」
彼女が恥ずかしそうに布団に隠れたのを見て、ルルーはすかさず追い打ちをちくちくかける。
「んで、だれだれ?クラスの人?あ、でも晋也は私のだからそれ以外でね。」
しかし全く見ず知らずの人間にそういうアホみたいな真似をする奴はいないだろ。
「な、何で初めて会った人にそ、そんな私事をしゃ、喋らなくてはな、な、ならないんですか!とにかく今日は帰って下さい!」
彼女は至極ごもっともな言葉を言い切ると、布団を被って中から出てこなくなってしまった。
「ふぅん・・・まあいいわ。あなたとは何となく仲良くなれそうな気がしなくもないわ。気が向いたらここに来てみなさい。面白い話をしたげる。」
ルルーは一枚のメモ用紙を唐沢の勉強机に置くと、彼女の振る舞いを見て何となく納得したのか、彼女は屈託のない笑顔を見せ、オニキス本部に帰っていった。
「くっそ!これならどうだ!」
グアッ!
ドドドドドド!
チッ。
バチイッ!
そんなほのぼのとした話が行われていたころ、俺は完全漂衣でどうにかヴォルグを押し切れそうな様子を見せていた。
奴の攻撃が止まって見える。
まるでテレビで最近よくやっているウルトラスロー動画の映像を見ているようだ。左拳を上げて殴りに行くと見せ掛けた羽攻撃で何とか脇腹の一部を掠らせて軽いダメージを加える。しかしおかしい。このパターンだったらまたパワーを上げて俺を潰しに来るはずだ。それにしては大人しい。さっき与えた腕へのダメージがそんなに深刻なものなのか・・・?
「何をやっているんだい、ヴォルグ!こんな若造、さっさとやっておしまい!」
俺達の戦闘があまりに激しすぎるので、魔法でバリアくらい張れるはずのマリ・クレールは、柱の陰に隠れながら激を飛ばす。
「イ、イエス。マスター。」
ヴォルグは首を縦に振りながらも俺の攻撃に対応しながら返事をするのはやはり厳しいらしい。
ガガガッ!
ドウッ!
お互いに一発避け損ない、重い一撃に思わず軽く後ろに身じろぐ。
「ぐっ・・・!」
ズバン!
ブシュウッ!
しかしそこは機械人間だ。すぐに立て直して俺に強烈な手刀を浴びせる。手刀のはずなのに俺の体からは激しい鮮血が飛び散る。
「があっ!」
ユラ・・・
ドウッ。
予想以上に深手を負った俺は力無く地面に倒れた。白いカプセルは飲んでないので変身解除はないが、集中力は落ちているので当然漂衣率も落ちてきていた。
「くそ・・・!」
頭では体を動かそうとしても実質体がついてきてくれてはいなかった。もがこうとすればするほど、悔しさが増すばかりだった。後少し、後少し早く攻撃を加えることができたなら・・・!あそこで俺が我慢して攻撃に出られたら・・・!そんな悔やみきれない悔しさが俺の心に少しずつ満ち溢れてきていた。
「よくやったよ、ヴォルグ!さあ、早くこの地球人にとどめをさしてしまいな!」
マリ・クレールが手を叩いて喜んでいる姿が朧げに見える。
「・・・。」
ここで不思議なことが起きた。今までなら迷わず俺を殺しに来るはずなのに、初めて奴の命令に従わなかったではないか!
「コラ、ヴォルグ!私の言うことが聞けないのかい!?さっさとこの地球人にとどめをさすんだよ!」
あまりに突然の事態に奴の表情が一瞬だけ凍り付く。
「・・・ノー、マスター。」
しかしヴォルグの方は全くもってその場をぴくりとも動こうとしない。しかも俺が聞いている中で初めて『ノー』と言ったのである。これには驚いた。機械に改造されてはいても、やはり人間は人間なのだ。心があるのだ。ウェーデルンを殺めてしまった時も、どこかしらで人知れぬ悩みと葛藤を繰り返して来ていたのかも知れない。
「だったらもういいよ!あんたみたいなのにはほとほと愛想が尽きた!もう用済みだよ!この場で消えちまいな!」
ズズズズズズズズズズ・・・
ズズズズズズズズズズ・・・
しかしクレールはその生命の神秘ともいえる奇跡をけんもほろろに消し去ってしまおうと、強烈な魔法を繰り出そうとしているではないか!極悪非道とは正にこのためにある言葉なんだ、と少しずつ薄れ行く意識の中で感じていた。それと同時に激しい怒りを覚えていた。ふざけるな・・・!人の命はそんなに軽いもんじゃないぞ!
トクン・・・
その時、俺の心の中で何かが目覚めた。体の中で自分の中に流れている血と全く別の血が体に流れ始める。
『な・・・なんだ、この物凄いパワーは!?腹の底から沸き上がっているような激情は!?この私でも抑え切れないような力の暴走は!?』
あまりに突然の出来事に流石のシルベスターも驚きを隠せないでいる。
「ウガ・・・ガア・・・ガル・・・」
俺の中に激しい力が流れ込んでくる。まさかこれは久々の白きケモノなのでは・・・?
「フエッフエッフエッ!さあ、これで死んでしまいなぁ!『耙鰄派鐚・繪櫑驅礪黐綉瞿・媽鵐』!」
ドシュウウウッ!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!
あまりの高電圧にヴォルグの体の電子機器がやられそうだ。この野郎・・・!どうやら倒す順番を間違えていたようだ。全力でお前から仕留めてくれる!
フッ。
シュン!
バチイッ!
ドゴォ!
その時体がフワッと浮かび、気がつくとさっきの電気玉を弾き飛ばしていた。
「なっ・・・!アタシの超魔術が簡単に・・・?」
「ガルルルルルル・・・ウガアアア!」
果たして、白きケモノとなった少年とマリ・クレールとの戦いの結末は!?そして今回は唐沢と担任は一体どんな行動に出るのか!?
To be continued...




