第75章:最強の敵(1)
前章で十二魔将の一角、
「THE・タラソテラピー」と甲板で遭遇した俺達三人は、このウザったい二人を井伊と中濱に任せ、俺は船長室に向かっていた。その途中、俺は更に十二魔将の一角、マリ・クレールと、何だか明らかに改造されてる奴とばったり出くわした。
「あ、お前は!」
「フエッフエッフエッ。どうやら気付いてくれたようだね。私はマリ・クレール。天下の大魔導師じゃ。フエッフエッフエッ。」
・・・こういうことを自分で言う奴ほどたいしたことはない。むしろ危ないのはそっちよりもその横にいる機械人間だ。体は明らかに機械で出来ているし、何よりも眼が物凄い無機質だ。笑み一つ浮かぶ気配がない。完全に奴の言いなりに改造されているらしい。
「さあ、ヴォルグ!この地球人をやっておしまい!」
「・・・イエス、マスター。」
その
「ヴォルグ」と呼ばれた機械野郎は、眼の色一つ変えずに、少しずつ、しかし確実に俺の間合いに迫っていた。
カシン、カシン、カシン。
俺は相手の出方を伺っていた。十二魔将No.1のウェーデルンを倒したのだ。はっきり言って実力は相当なものだろうし、勝ち目はかなり薄い。しかしもう後には退けない。こいつを倒して前に進むだけだ。
俺は侍に変身し、紅を中段に構えた。これなら奴がどこから来ても対応がきく。
カシン、カシン、カシン、カシン。
奴が俺の間合いに入った。俺は体を素早く捌き、右に開いて叩き斬る作戦に出た。この技は実際の剣道でも俺が得意としている技だ。これならダメージの一つくらいなら与えることだって可能だろう。
ヒュッ!
ブアッ!
パシイイイッ!
俺が刀を振り下ろした途端、一瞬俺の背筋が凍るような気がした。背中に大きな獣にくっつかれたような感覚に襲われ、俺は刀を奴から外そうとした。しかしダメなのだ。俺の紅は奴の右手の指二本でしっかりと止められ、抜こうにも抜けないのだ。
「くっ!」
キュピイィン!
フオッ!
バチイッ!
一瞬奴の眼が光ったかと思うと、左足が旋回するかのように飛んできた!俺もすかさず変身を解き、カーバンクルに変身し直し、きっちりとバリアを張る。間合いを取らないと危険なので、バリアを張ったまま後ろに下がる。
しかしその時だった。
スッ。
キュン!
パリィン!
ブシュッ!
奴が俺に人差し指を向けたかと思うと、一筋のレーザー砲が飛んできた!慌ててバリアを張ったが、そんなバリアが通用するはずもなくあっという間に割られ、俺の肩口を掠めていった。
「ぐあっ!」
しかし驚きだ。
掠っただけでこのダメージだ。
まともにもらっていたら間違いなくあの世行きだろう。
これならウェーデルンとか言う十二魔将No.1が殺されることにも納得がいく。理不尽なまでに強い。間違いない。コイツは俺が今まで戦ってきた敵の中で最強の敵だ。これは何とかしてこの機械人間を葬ってやろうか。・・・仕方ない。ガラクトス戦に取っておこうと思っていたけど、これを使って切り抜けよう!
俺はカプセルケースの奥の方から銀色のカプセルを取り出すと、口の中に放り込んだ。このカプセルは使用禁止の金色のカプセルを除くと、史上最強のカプセルなのだ、と糞箱の野郎から度々聞かされていた。ただし力があまりにも強大なので、並の人間ではコントロールすることすらままならない、という代物らしい。けれども、
「あれだけ死にそうな特訓を積み重ねてきたあんさんなら絶対に使いこなせる。心配せんでええ!」
と糞箱の野郎は豪語していた。はっきり言って期待は全くできないが、ここはやるしかない!
俺は意を決し、口の中にカプセルを放り込んだ!
ギュルルルルルル!
いつもの様に体が光に包まれ始めたその時だった。
トクン・・・。トクン・・・。
突然辺りの景色が真っ暗になったかと思うと、どこからともなく心臓の鼓動が静かに聞こえてきた。
『余を呼び覚ますのはお前か・・・?』
「誰!?な、何者?」
俺は辺りを見回した。しかし見えるのはただ真っ暗闇だけだ。
『私はシルベスター。かつて全ての宇宙を統べていた・・・。しかし訳あってこのカプセルに封じ込められ、今に至る・・・。汝は何故私を呼んだのだ?』
シルベスター、と名乗るその声は温かい声で俺に尋ねてきた。しかしここで不思議に思ったことがあった。この声、どこかで聞いたような気がしなくもないような・・・?
「俺は・・・、俺はついこの間までこんな戦いがあるなんて知らなかった。いや、地球の人達は中の事情に精一杯で、外で起きてることなんて気にもかけてないと思う。だから知らない間に俺達が救わなくちゃならないんだ!今の俺には仲間がついている。だからここで俺は逃げずに戦いたいんだ!頼む!力を貸してくれ!」
俺は大声で叫んだ。
『ほお・・・。いい面構えだ。それになかなかいい眼をしておる。しかし、私は汝をどこかで見たことがあるような気がしておる・・・。一体何故なんだ?』
それに応えるかのように、辺りの景色がほんのり明るくなった。
「い、いや、俺に聞かれましても・・・。」
俺は動揺した。間違いない。この声は絶対に聞いたことがある!
『フッ・・・、まあよい。それはそのうち分かることだろう・・・。面白い。汝に私の力を授けよう。ただし、使いこなせるかどうかはさっぱり解らんがな!』
トクンッ!
今まで同じようなリズムを刻んできた鼓動が、その瞬間だけ一際大きく聞こえた。そして、辺りの景色が一気に開け、目の前には直立不動で立っているヴォルグと、それを影で見つめるマリ・クレールの姿があった。
「『弾風』!」
ボヒュウッ!ボヒュウッ!
「『焔龍』!」
グオオッ!
「へっへぇ!そんな何のチームワークもない攻撃が俺達に効く訳無いだろ?なぁ、タッピー!」
「そうだよな、ラッピー!そんな攻撃で他の十二魔将がやられてきたのが不思議なくらいだぜ!」
スッ。スッ。スッ。
二人のまるで隙が見られない攻撃が、見事な連係プレーでかわされていく。あるときはタッピーがラッピーの背中で飛び上がったり、ラッピーがタッピーを投げ飛ばしたりして、敵側にも一縷の隙もない。
「くっ!まあ器用に避けやがるなぁ!中濱!あれやるか!」
井伊が更に『弾風』を打ちながら中濱に作戦決行を促す。
「あれって・・・『雷●シュート』とか言う奴のことか?」
中濱は以前ガドリニウムにダメージを与えたときの技を思い出した。確かにあれならこいつらにもかなりのダメージを与えることができるはずだ。
「いや、それじゃねえよ!」
しかし井伊は首を横に振る。
「じゃあ他に何があるんだよ!?」
もう一方が炎の壁を呼び出しながら口を尖らせる。
「だからあれだよ!カー●・●インツ・シュ●イダーだよ!」
井伊も焦りからか、かなり躍起になっている。
「あぁ、分かった分かった。あれか。しかしそれをやるんだったらお前、その変身で大丈夫なのか?」
「ああ。風の能力を応用すれば代用がきく。」
「おっとぉ!そんな攻撃はさせないぜ?」
二人の攻撃の間を縫ってラッピーが突っ込んできたかと思うと、右拳を振り上げた!
「ちいっ!」
二人がそれを見て後ろに下がったその時だった!
ドガアッ!
ビシッ!
「はい、残念でした〜!」
下がったところにタッピーがいて、後ろから強烈な回し蹴りを放ったのだ。
「なっ・・・、いつの間に!?」
攻撃をもろにもらった中濱は少し前のめりになる。
「まだまだ!『●天』!」
シュバアッ!
「ぬおおお!」
ズザザザザ・・・
井伊が隙を見て放った防御技が、タラソテラピーの二人を軽く弾き飛ばす。パクり、とか、こんなお店どこかになかったか?とか言う意見は全てシャットダウンでお願いしたい。
「井伊・・・?お前、いつの間にそんな技をマスターしたんだ?」
中濱が驚きと尊敬の目で彼を見ている。
「え?ああ。ちょっとだけこの能力の原理を応用したんだ。原理は後で分かりやすく説明してやるよ。」
井伊はもう一度敵方二人の方を向き直した。
「つまりは、その原理が早く聞きたいのなら、さっさとこいつらを倒せ、と。」
中濱もそれを悟ったのか、ゆっくりと構え直す。
「そうに決まってるだろ?」
「よし、いくぞ!」
「よっしゃ!勝負だ、ヴォルグ・・・ってあれ?」
目が開いたところで俺は意気揚々と構えたが、そこであるとんでもないことに気付いた。漂衣率が低い、いや、低すぎるのだ。普段なら軽く変身したとしても八割くらいの漂衣率は出すことが出来るのに、簡単に見積もっても一割いってるかどうか・・・。そんな漂衣率で勝負になると思っていやがるのか?あのシルベスターとか言う野郎は!
「フエッフエッフエッ!何だい、そのみすぼらしい格好は!それで私の最高傑作が倒せるとでも思っているのかい?とんだ冗談はよしてくれよ。フエッフエッフエッ!さあ、ヴォルグ。あの無謀な挑戦者を讃えて、全力で闘ってやりなさい!」
「イエス、マスター。」
マリ・クレールが高らかに命令すると、至って無機質な声がそれに応じる。
俺は集中した。奴が懐に入るまでに1%でも漂衣率を上げなくてはならない。さすがにシルベスターとか言う野郎がいくら強そうだからといえ、こんな漂衣率で勝てるはずがあるわけがない。集中、集中・・・、concentration・・・今だ!
ガッ!
ガガガガ!
キィン!
ズドォン!
俺も一瞬目を疑った。も、と書いたのは当然相手が驚いていたからである。俺は目を開け、奴の右拳を左腕で受け止めていた。恐ろしい位技が止まって見える。これがシルベスターの力・・・!
そしてすかさず攻撃してきたヴォルグの拳を全てあっさりと受け止め、奴がレーザー砲を打とうと一瞬腹ががら空きになったところで、右脇腹にミドルを叩き込む。明らかにどんぴしゃりだったので、ヴォルグも一たまりもなかったようだ。勢いよく体が左に吹き飛んでいったかと思うと、
ガチャガチャチャガ!
という無機質な音を立てて地面に転がった。
それにしても凄まじい強さである。漂衣率が1割にも満たないのにこの威力。まだ肉弾戦しか出来ないが、これがもし完全漂衣までいくと、それはそれで悪夢だと思う。一体どれだけの威力になるのだろうか?俺にもまだ予想がつかない。
「・・・マスター。この地球人。かなりの戦闘力を確認。あれの発動を要請。」
ヴォルグが急に片言で喋り始めた。さっきの攻撃でリミッターがいかれたらしい。
「あれかい?もう少し頑張ってからにしなさいよ、ヴォルグ。まだまだお前の力は1%も出てないからねえ。フエッフエッフエッ!」
マリ・クレールのその言葉を聞いて俺は慄然とした。1%も出ていないだと?そんなはずがあるわけがない。今ので1%に満たない戦闘力とか、冗談はほどほどにしといてほしいものである。
「ではマスター。いかほどに致しましょうか?」
ヴォルグがまともな言葉を喋るようになってきた。それだけクレールの魔法がこなれてきたのだろうか。さっきより強い洗脳は感じられない。一体どんな魔法をかけたのだろう?
そんなことを考えていたその時だった!
「10%。」
彼女の声が辺りに重く響く。するとその瞬間!
トトトトトトトン。
ドガガガガガガガ!
「ぐああああ!?」
突然体の回りを軽く叩かれたかと思うと、強烈な痛みが全身を襲った!あまりにも攻撃が速過ぎて、痛みの感覚よりも先に攻撃を完遂した、という離れ業をやってのけ始める。しかしそれでいて一撃の重さが半端ない。今まで他の人間が全力でうたないと出ないようなダメージが何度も来た。いくらなんでもそれは反則である。しかもこれが10%だぞ?一体本気はどんな攻撃をしてきやがるんだ?
「フエッフエッフエッ!これが私の最高傑作、ヴォルグの実力だよ!あんたみたいな地球人にコイツが倒せるはずがないでしょう!フエッフエッフエッ!」
マリ・クレールの高笑いには物凄く腹が立つ。しかし俺には更に腹が立つ部分があった。しかしそれはヴォルグではなくてもう片方に与えるとして、一体俺はどうやってこの
「最強の敵」を倒せばいいのだろう・・・?
果たして、少年はこの正念場を乗り越えて、ガラクトスのもとにたどり着けるか!?そして残り二人の運命やいかに!?
To be continued...




