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第73章:甲板へ

前章で見事、ガス爆発と粉塵爆発のWパンチのおかげでラングラーを倒した俺達三人は、後片付けもそこそこに、作戦通り甲板に向かっていた。中濱のテレビショッピングの宣伝みたいな懸念により、(中濱だけが)大量に貰ってきたルルーキットの内の一つ、宇宙空間に耐えられるようにするための錠剤を口に入れていた。


「そういえば中濱?」

「何だ?」

「お前だけ大量にルルーキットを貰ってきてるみたいだけど・・・、その軽装のどこにそんなに物を収納するところが?」

そうである。今の中濱の格好は、Tシャツにジャージ、あとは・・・なさそうだ。

「・・・お前な。その点に関しての抜かりは一切ないぜ。ほら、これだ。」

そう言って彼はポケットからホログラムキーに似たものを取り出した。

「あぁ〜!それは!」

井伊が思わず声をあげる。

「そんなに驚かなくてもいいだろ?」

俺にはいまいちよく解らなかったが、井伊に言わせると、中濱が持っているのはオニキスの連中が荷物をしまっておくのに使う、簡易式のホログラムキーなのだそうだ。中に入ったりはできないが、中から自由に必要なものを取り出すことができるらしい。でも、そんなもんを何故、部外者である中濱が持っているんだ?


「ってかさ、中濱。それって確か、部外者に貸すのは禁止だとかじゃなかったっけ?」

井伊が更に尋ねる。

「ああ。リオ爺が特別に貸してくれたさ。『会長には話を通しておきますから、どうぞ持って行ってください。』って。」

あの人か・・・。

「それでさ、ルルーに戦いで使えそうなものをあれこれ詰めてもらったって訳。それがあいつ心配症でさ・・・」


スパン!


「あいた!何すんだよ!」

「お前とルルーのイチャイチャ話なんか聞きたくねえよ!全く・・・ポルってんじゃねえぞ!」


ここで説明を加えておきたいのだが、先程井伊が言った

「ポルってんじゃねえぞ!」というのは

「Power Of Love」の略語で、人前で彼女とイチャイチャする、及びそれに準する行動のことを指す。基本的に今回みたいな悪いときにしか使われないが、たまにいいときにも使われる。


「えぇ!?いいだろ?別にちょっとした話なんだから!」

中濱が井伊の平手に対して文句を言う。

「お前の『ちょっと』は凄い長いんだよ!また足止め食らうのは嫌だからな!なあ。」

井伊は俺の方を見て、賛成を促すような目つきをした。さっきまでキャプ●ン翼談議を延々としてた奴がよく言うよ。・・・と本心を言うとまた話が面倒なことになるので、

「異議な〜し。」

とめちゃくちゃ呆れたように答えてやった。

「ほらみろ!コイツもそう言ってるだろ!」

しかしそれをしめた、と思ったらしく、ここぞとばかりに畳み掛ける井伊。

「な、何だと!お前だってさっき食堂で延々とキャプ●ン翼談議してたせいでまたラングラーとやる羽目になったんだろうが!」

それに対して言い返す中濱。遂に俺が言ってほしくなかったワード、

「キャプ●ン翼」を出してしまった。

「うるせえ!お前のポルってる話よりもよっぽどキャプ●ン翼の方が有意義かつ文化的なんだよ!」

「どこがだよ!キャプ●ン翼なんて時代遅れのサッカーマンガにハマリやがって!今の時代はエリアの●士なんだよ!」

ああ、中濱よ。何故お前はそんなに彼を刺激することばかり言うのか。

「あのマンガのどこが時代遅れなんだよ!謝れ!高橋●一と、今までそのマンガを読んで育ってきた全てのサッカー選手に謝れ!」

あぁあ、火がついた。

「知ったことかよ!俺は剣道人だから関係ありません〜!」

「剣道人だろうがなんだろうがキャプ●ン翼を侮辱する奴はこの世に存在価値なんてねえんだよ!」

「やるか?」

「おお、やってやろうじゃねえか!」


プチッ。


「いい加減にしやがれ!」

あまりに頭にきたので俺の理性という名の抵抗が壊れた。

「!?」

「全くよぉ。大の高校生がそんな価値の低いもんで争うとか、みっともねえとか思わねえのかよ!今はそんなんで争ってる余裕のないことくらい分かってるだろうが!気付け!いっそのこと気付け!」

もうこうなった俺は奴らが黙るまで止まらない。それでもうるさかったら当然武力行使だ。まあ、だから戦争は無くならないのだが。


「・・・なんかすいませんでした・・・。」

二人はその状況に気付いたのか、一旦顔を見合わせると、深々と頭を下げた。実際彼らは俺が激昂するところなどなかなか見たことがないわけで、それなりにインパクトはあったらしい。ってか俺、怒ると喋り方が若干極道っぽくなるんだ・・・。


そういう訳で漸く黙った二人を引き連れて、一路甲板へと歩み始めた。




「あぁ〜、暇だわ〜・・・。」

その頃十二魔将の一人、ミクスチャーはガラクトスに化けたまま、船長室で思いきりくつろいでいた。

彼女最大の特殊能力はズバリ、変身能力である。

というか能力はこれしかない。

ただこの能力の凄いところは、指紋から体温、もちろん声や姿、更にはその人の技までコピー出来るところだ(ただし威力は10分の1)。

今彼女は冷凍保存されているガラクトスが復活するまでの間、この坐り心地のいい椅子に座っているように、ウェーデルンから命じられていたのだが・・・何しろあるのは大きな機械と侵略状況を示す地図くらいだ。彼女にはそんなもんに縁など何も無いので、ずっと敬遠し続けてきたのだった。しかも誰も来ない。飽きてきた。


「あぁ〜・・・、一回変身解いちゃおうかな・・・。」

彼女は近くにあった梅こぶ茶の筒をくるくる回しながら椅子にもたれ掛かり、大きくため息をついていたその時だった!

「た、大変です!ガラクトス様!」

一人の下っ端が部屋に飛び込んできた。

「な、な、何・・・じゃ?」

声は真似できても口調だけは気をつけなくてはどうにもならない。あまりに突然の報告だったので、一瞬たじろいでしまった。

「今諜報班から報告書が届いたのですが、ウェーデルン様がマリ・クレールが改造したヴォルグにやられました!」

「何じゃと!?」

あまりの驚きに危うくそのまま椅子から転げ落ちそうになったが、それはどうにかこらえた。

「それで、今状況はどんな・・・?」

「ハッ!例の地球人三人組が船内に侵入してから、早くも二名の十二魔将の生命反応が消され、これでウェーデルン様を加えると、残りの十二魔将の方々は4名になりました。ガラクトス様がお目覚めになられた今、地球人と逆賊を同時に伐てるチャンスが出てきたかもしれません。」

隊員は割と淡々と状況を語ってくれた。


「そうか。それなら心配は要らないぞ。のぉ、ミクスチャーよ。」

「もしかして、その声は・・・?」



さて、甲板をめざして階段を上っていくところで俺達は興味深い話を聞くことができた。

「なあ、お前知ってるか?ガラクトス様がようやく冷凍保存装置から復活された、っていう話!」

「ああ、その話はあれだ。ウェーデルン様の指示で代わりにミクスチャー様がガラクトス様の格好で船長室に待機されているだけなんだぜ?」

「マジで!?それは知らなかった・・・」


ガッ!


「ほお。それは実に興味深い。ぜひとも話を聞かせて貰おうか?」

こういうことを真っ先に仕掛けるのは中濱だ。彼は船員の一人の胸倉をしっかりと掴むと、物凄い笑顔で尋ねた。こういう時の笑顔は下手な動きをすれば確実に殴り飛ばされること間違いなしだ。ましてや中濱だし・・・。

「ヘッ!誰がお前らなんかに教えてやるかよ!」

あ、コイツぶっ飛ばされたな。

「そうか・・・」


バキイッ!


・・・やっぱり。

「もう一度聞こう。さっきの話は実に興味深い。詳しく、事細かに話を聞かせて貰おうか?」

彼は彼の眼前に拳をちらつかせながらもう一度尋ねた。

「は、はい・・・。」

あんな勢いでぶん殴られたらそこで否定できる人間などそうはいない。その船員は首を一生懸命縦に振っていた。




「で。今船長室に待機しているのはミクスチャーという、変身能力が使える奴だと。」

「はい。」

「そいで、本物のガラクトスは冷凍保存装置で医療班の保護を受けながら回復を待っている状態であると。」

「はい。」

「それから?」

「はい?それから、と申しますと?」

「聞き返す必要はないだろう?他に俺達にとって有益な情報を持っているのか、と聞いているんだ。」

「い、いえ。他に話せる情報はありません。あったとしても、これ以上は組織を裏切ることになるので、申し上げることはできません。」


スパァン!


「いたっ!」

「言え。さもなくば百叩きでは済まさぬぞ!」

「ひ、ひいっ!分かりました!喋ります!喋ります!」

「それでよい。」



こうした中濱の拷問というか蹂躙により、オニキスが調査してくれたり、糞箱の野郎が集めてきた情報よりも遥かに深いところの情報を得ることができた。しかも幸いこの憐れな船員がちょうど諜報班の一人だったので(当然それも吐かせた)、他の船員が絶対に知らないような情報まで教えていただいた。俺はこの憐れな船員に同情と同時に憐れな気持ちを抱かずにはいられなかった。

「さて、先に行くとしようか。ご苦労だった。」

中濱はその船員に言い残すと、くるりと向きを変えて、再び甲板へと向かい始めた。



「なあ、中濱。あれはちょっとやり過ぎじゃなかったか?」

甲板までの最後の階段を上っているときに、さっきの行動を不審に思っていたらしい井伊が話を切り出した。

「え?あ、ああ。でもあそこまでしないと奴らは口を割らないと思ったんだ。だから心を鬼にして言ってみたんだ。」

中濱の表情が若干曇る。

「まあ・・・、それは確かにそうだな。ああでもしなかったら確実に俺達が危なかったしな。」

俺は静かに頷いた。

「おっ、そんなこと言ってる内に甲板にもうすぐ着くみたいだぜ。」

彼が指さした先には階段の上にある大きな扉があった。

「お前ら、さっきの宇宙服の錠剤は飲んだな?」

「あ、ああ。」

「あれに関して一つ、謝らなくてはならないことがある!」

「あ、謝らなくてはならないこと?」

「あれはただの胃腸薬で、実際はこっちが正しかったのだ〜!」


ドカッ!

バキイッ!

スパァン!


「今頃になって言うんじゃねえよ!っぶねえな!俺達、宇宙空間で黒焦げになるところだったじゃねえか!」

「いや、勢いに任せて言えるタイミングをずっと待ってたんだから仕方ないだろ?とにかく謝るから!すみませんでした!ホントごめんなさい!頼むからそんなにボコボコ叩かないで!ちょっ、いたっ!」

あまりの中濱のドアホな行動に対して、俺達二人の強烈な鉄拳制裁を加えてやった。彼はこのくらいしてやらないと分からない傾向がある。ましてや今回は俺達の命はおろか、地球人全員の命に関わることだ。念入りにやらない訳にはいくはずもない。


「イテテ・・・。と、とにかくこれが本当の宇宙服の錠剤だよ。早く飲め!」

上から目線というところに恐ろしいまでの憎悪と憤りを感じずにはいられないが、こんなところで喧嘩している場合ではないので、とにかく錠剤を受け取り、口の中に放り込んだ。一瞬体にむず痒い感じが襲ってきた後で、皮膚の周りに薄い膜みたいなものができ始めた。それは肉眼でも捉えることができ、全身を覆うようにくっついていた。

「どうだ?これなら外に出ても安心だろ?」

彼はまた得意げに言った。何度も言うようだが、これはお前じゃなくてルルーの手柄だろうが。

「まあ、多分な。」

「よし!扉を開けて、外に出るぞ!」

「おお!」

俺は扉のドアノブに手をかけた。


果たして、甲板より先で少年達を待ち受けている運命とは!?

To be continued...

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