第70章:spindle(後編)
前章でスピンドルの超高速攻撃に弾き飛ばされた俺だったが、それを見ていた井伊が奴に参戦を告げた。更にその頃、ウエーデルンはマリ・クレールが要請し、ヴォルグとの手合わせを行っていた。
「おい、井伊?さっきの見てただろ?」
中濱が彼を止めにかかる。
「ああ、見てた。お陰で簡単な攻略法を見つけたよ。」
井伊はいつもの様にストレッチをしながら返事を返す。
「まあ、お前も見とけよ。ちゃんと回復しながらな。」
俺を見てそう言うと、彼は荼色の
「精霊」カプセルを取り出し、口に放り込んだ!
カッ!
「Hey!たとえ変身の種類がchangeしたからと言ってthe same thing!同じことなんだよ!俺のPanchを食らいやがれ!」
そうしてスピンドルは素早く一歩踏み込んできた。
シュン!
ドガッ!
しかし彼はなんと、彼の一発目を体で受け止めたのだ!
「・・・そんなあまっちょろい攻撃、俺の鋼の肉体には通用しねえよ!はあっ!」
バシュウウウウウウ!
「!?ぐおああああ!?」
ドゴオオオオオン!
今日の井伊は容赦なかった。受け止めたと思ったらいきなりフルパワーでの靉荼閼儺鏤・黼落鑄だ。体から発せられた龍が彼の体を確実に捉え、その攻撃で彼の体は反対側の壁まで吹き飛ばされた。
「ぐ・・・う・・・。な、なかなかやるじゃないか、Boy。今の攻撃には若干respectしちまうぜ。」
彼は飛ばされて体の上に乗っかっていたテーブルやら椅子やらをはねのけ、ゆっくりと立ち上がると、大きく深呼吸をしてから構え直した。
「But!俺には帰りを待ってるwifeとbabyが毎日ドキドキしながら待ってるんだ。俺はその人達の為にhomeに帰らなくてはならないんだよ!・・・いいか?護りたい人のいる者の強さ、冥土の土産によぉくunderstandしておくんだな!矚鐔豎鶇・霸麼樶醫弩齲拳!」
シュン!
「まずい!井伊!その攻撃だけは喰らっちゃダメだ!死孔を突く技なんだ、それは!くそっ・・・間に合え!」
俺は井伊の回りにバリアを張ることにした。しかしさっきの流れからして、今のバリアの力じゃ破られるのがオチだ。何とかして彼を救わなくては・・・!
ピタアッ!
「WHAT!?一体何が起きてるんだ?」
それはこっちが聞きたい。何があったらさっきまで全速力で突っ込んできていた奴の動きが完全にストップしてしまうのか。
「はっはっは!俺の存在を忘れて貰っちゃ困るんだけどな。」
俺達の目線の先には、間違いなくルルーから渡されてきたであろう、妨害電波装置が握られていた。ルルーよ。お前はどんだけ中濱の肩を持つのか?
「中濱、それは?」
「ああ、奴が体に機械を使っていることが分かったからな。この妨害電波装置で機械に誤作動を起こさせて、動きを止めたって訳。」
彼は物凄い得意げに答える。しかしよく考えろ、中濱。それはどちらかというとお前の手柄じゃなくて、完全にルルーの手柄ではなかろうか。
「さあ、井伊!思いきり奴の顔面をぶっ飛ばしてやれ!」
中濱が叫んだ。
「言われなくても分かってるよ!いくぜ!おらぁ!」
ミシイッ!
井伊の右拳が奴の顔面を綺麗に捕らえた!
ズドオオオオオ!
そして奴はそのまま、さっき掻き分けたテーブルと椅子の山に舞い戻される。いくつかのテーブルはその一撃で真っ二つに割れたり、酷いものは跡形もなく粉々になってしまったりしてしまったものもあった。
「ぐ・・・う・・・。な、何と言うteamworkなんだ・・・。You達は本当にstrongな地球人達だな・・・。」
ブイイイイイイイン・・・。
「何をしようとしてるんだい、スピンドルさんよぉ?どうせ油断させといて、とか言う作戦なんだろ?そんな誰でも分かりそうな幼稚な手なんかに引っ掛かってたまるかよ!」
・・・ここは俺の動きの方が一歩だけ速かった。漸くエネルギーを溜め終えたので、普段なかなか使わない強力バリアを張ってやったのだ!どうだ、ざまあみろ!・・・とは言っても彼をやっとこさで閉じ込められる程度の大きさでしか作れなかったが・・・。
「・・・くっ!う、動けねえ・・・。これはかなりのpowerだ!バリアを破壊するには相当な力が必要なんだが・・・、さっきのelectric waveでまだ言うことを聞いてくれねえ・・・!」
キイイイイィィィ・・・
その時、井伊の脚に強力なエネルギーが溜まる音がした。そして中濱も麒麟となって、全身に雷を溜めている。
バチッ!バチッ!バチッ!
パリパリパリパリ・・・
中濱が溜めている電圧があまりにも大きかったので、辺りの鍋やら寸胴に反応し、気味悪い音を発している。
「なっ・・・!?お前達、一体何をする気だよ!?」
俺は彼らの突然の行動に驚きと動揺を隠せなかった。
「・・・」
しかし井伊は俺の質問に答えず、ただ静かに目を向けている。その目から、俺は彼らがやりたいことを悟り、その作戦に全てを集中することにした。
「さぁ、いくぜ、スピードバカ!これが本当の『雷●シュート』だぁ!」
彼は以前スローインをやったときの様に中濱をボールに見立て、普段彼が鍛えに鍛えぬいている右足を思いきり振り抜いた!
ドッ!
バチッ!バチッ!
バシュウウウウウウッ!
彼の右足から放たれた中濱が、弾丸ライナーで、俺が作ったバリアのせいで身動きの取れないスピンドル目掛けて突き進む!
ここで俺がやることはたった一つ。彼がバリアに当たるぎりぎりのところでバリアを解除することだった。これが俺の最大の任務だった。成功するか否かで奴を倒せるかどうかは大きく異なることになる。俺は目を閉じて集中した。
ギュルルルルルル!
中濱が物凄い勢いで回転する音が耳に飛び込んでくる。
バチッ!バチッ!バチバチバチッ!
その回転力から新たな電圧が発生し、更に威力が高まっていく。そこで俺はカッ、と目を見開いた。
グル・・・グル・・・グル・・・
始め俺は目を疑った。中濱の動きが物凄くゆっくりに見えるのだ。俺はまるで映画のスローモーションでも見ているのか、と思ったが、すぐに違うことに気付いた。そうか。これはそれだけ集中できている証なんだ。これだけゆっくり見えればバリア外しなんて朝飯前だ。
グル・・・グル・・・グル・・・
中濱がバリアまで少しずつ近づいていく。バリアまであと5センチ!4・・・3・・・2・・・1・・・、今だ!
パッ!
ズガアアアァァン!
俺がバリアを外したその刹那、一瞬辺りが明るくなったかと思うと、スピンドルの体に強烈な雷が叩き込まれた。ましてや中濱の超回転付きだ。彼の角が彼の右肩に思いきり突き刺さっている。
「ギャアアアアアアアア!」
ボン!ボン!ボン!
奴の体に付いている機械達がその電圧に耐えられず、一つ一つ勢いよく爆発していった。
「が・・・はあっ!?」
ドサッ。
そして奴は力無く崩れ落ちた。
「ぐ・・・完敗だ。お前達・・・、いいpowerと・・・frendshipを持ってるな・・・。負けた側としては申し訳ないんだが、一つ頼みがあるんだ・・・。OK?」
奴は震える声で俺に尋ねてきた。
「カミさんと子供のことだろ?分かってるよ。ちゃんと黙っといてやるから。」
中濱は笑顔で言った。よくこの状況で笑顔でいられるな、おい。・・・まあ、そっちの方が気持ちが楽なのかもしれないな。
「YES・・・。よく、understand・・・してるじゃない・・・か・・・。敵に頼むのは・・・俺として・・・は・・・Sorryなのだが・・・。まあ・・・、とにかく・・・助かる・・・わ・・・。Thank・・・」
サラサラサラサラ・・・
フッ・・・。
そこまで言うと奴は静かに消えていった・・・。
「ぬぅん!」
ギイイィィン!
ウェーデルンの剣が腕一本で弾かれる。
「・・・」
そこに立ち尽くしているのはマリ・クレールが手合わせを申し込んだヴォルグである。
「・・・。なかなかやるではないか。コイツはかなりの強さだな。しかしそれもこれまで!」
ウェーデルンは彼の自慢の刀、覩駑挧豐剣を再び構え直した。
実際ここまでの戦いで彼は全くダメージを受けてはいなかった。何度ヴォルグが攻撃を仕掛けても、全てそれを見切っていたからである。
しかし彼には腑に落ちない部分があった。こちらがいくら攻撃を仕掛けても、彼は全て受け止めるのだ。しかしその割にはダメージを受けているそぶりが見られない。さっきの攻撃もそうだ。奴への防御は、ひょっとして何か物凄い攻撃を仕掛ける前兆なのでは・・・?
「フエッフエッフエッ!さあ、ヴォルグ。もうお前に任せたよ。思いきりやっておしまい!」
「・・・イエス、マスター。」
その時、ウェーデルンはヴォルグの眼が真っ赤に、しかし冷酷に光ったのを感じた。いかん、これは危険だ・・・!彼の長年の勘がそう告げたその次の瞬間だった!
シュン!
「ちいっ!」
ドガガガガガガガガ!
ヴォルグの冷徹な拳が一つ一つ、いや、一挙一動が確実にウェーデルンを捕らえる!
「ぐぅ・・・むむ・・・温いわぁ!」
カッ!
ドゴォン!
「!?データ解析不能・・・!?」
彼が体内から弾き出したエネルギーを暴走させ、ヴォルグを弾き飛ばしたのだ。
「ハッハッハ!貴様の攻撃など今まで死線を越えてきたワシの肉体にはかすり傷にしかならんなぁ!出る杭はきっちり打たれておけ。いくぞ!鵞譌蟇鑒霤鞴鵁劍!」
キュオオオ・・・
彼の劍に物凄いエネルギーが集約されていく!
「食らえ、若造!」
「全く・・・井伊。何だよ、『雷●シュート』って。キャプ●ン翼パクってることくらい分かるっての!」
俺はすっかり回復を済ませ、体を起こした。
「・・・誰の技?」
井伊がボソッとつぶやく。
「えっ?えっと・・・岬君?」
正直俺は翼と岬と石崎しか知らない。翼はドライブシュートとか持ってるし、石崎はそんな技使えないしオウンゴールしまくるし・・・だから最後の賭で岬と言ったのだ。
「お前、ダメだな。正解は日本ジュニアユース時代の日向小次郎だよ!」
井伊は恐ろしいまでのキャプ●ン翼オタクだ。
漫画はもちろん全巻持ってるし(最新刊ももちろん)、しっかりファンクラブにも入ってるし(会員No.09999)、普段あいつがなかなかやらないゲームですら全部持っているらしい(俺が知ってるのはPlayStation2の最新の奴。彼はめちゃくちゃ強い。)ちなみに彼が好きなキャラは日向と若林(S.G.G.K)とシュナイダー(西ドイツのストライカー)なのだそうだ。俺には全くついていけない。
「知らねえよ!日向ってあれか!あの腕まくりしてる、段々ベ●ータみたいにキャラが丸くなるあいつか!?」
「他に誰がいる!」
井伊が若干怒っている。
「井伊!ビクトリーノがいる!」
中濱が彼をなだめようと言葉を付け足した。
「バカヤロー!グラフィックは確かに似てる、というかスーファミの辺りの作品だともはや一緒だけど、奴はアルゼンチン代表なんだよ!」
・・・逆効果。
「あ、そうだ、井伊。本題に戻すけど、『雷●シュート』って元はどんな技なんだ?」
そこで俺は無理矢理本題に戻して話に没頭させ、その間に眠らせて先に進もうとか考えていた。
「ああ、あれ?あれは日向が編み出した必殺シュートで、利き足を思いきり芝にこすりつけるように振り抜いて蹴るシュートだよ!あまりにボールスピードが速過ぎてキーパーは反応できないし、ネットは物凄い勢いでちぎれるし、あ、そもそも・・・」
この後井伊はキャプ●ン翼談義を小一時間続け、話は日向が小学校時代に所属していた明和FCの話とか、タイガーショット開発秘話とかを滔々と聞かされたのだった。
「さてと、次はどこに行こうかな・・・。」
ガラッ!
「あれ?・・・誰もいないのに・・・?」
果たして、この謎の扉の開き方は!そしてウェーデルンvsヴォルグの結末やいかに!?
To be continued...




