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ガドリニウム(5)

前章で『ブリッツ』を使うも、ガドリニウムの分身にことごとくかわされ、更に高圧の雷まで返され、絶体絶命のピンチに追い込まれていた。もう打つ手立ても何もない。そう思っていた頃だった。


「ちょっと待ったぁ!」

ビシュッ!


キィン!


「ぐっ!?」

麒麟の姿で走り込んできた中濱と、それに乗ってきた井伊が、何とか奴の攻撃を阻止していた。

「井伊!中濱!」

「おいおい。何だ、その様は。こんな簡単なトリックも見破れなかったのか?」

そう言って井伊は俺に『ウルトラ治療虫』の入った瓶を俺に振りかけた。

「簡単なトリック・・・?」

俺には彼の言葉が全く分からなかった。こんな幻術紛いの技に、トリックなんて隠されているのだろうか。

「まあ、見とけよ。中濱、あの技いくぞ!」

井伊は中濱から降りると、中濱を頭の上まで持ち上げた。

「お手柔らかに頼むぜ、井伊。」

中濱は半ば冷や汗ものだった。

「さあ、スローインだ!」


ブオン!


そう言って井伊は、何と中濱を敵とは全く違う方向に投げ付けたではないか!

「おい、井伊!?一体どこに投げて・・・?」

「待って!そっちはダメよ!分身達、阻止しなさ・・・」

俺の言葉を遮る様にガドリニウムが叫んだのだが・・・

「遅い!」

「オラアアァァ!」


ドズウウゥゥン!


バチバチバチバチ!


パリイイィィィン!


中濱が回転しながら何かにぶつかったかと思うと、亜空間の壁ではないはずの部分が割れた。


ズズズズズズ・・・


そして今まで猛威をふるっていた分身達はどこかへと消え去っていった。


「なっ・・・!何てことなの・・・。私のこの技が破られるなんて!」

「残念だったな。今の俺にはそういう魔法による幻術の類いは全て手に取るように解っちまうんだぜ?」

井伊が得意げに言った。あいつ、いつの間にそんな特殊能力を・・・!


「おのれ、おのれえぇぇ!」

ガドリニウムの顔は血が上りすぎて真っ赤になっている。


「まあまあ、そんなに怒らんでも。シワ、増えるぞ?」

あ、バカ!いくら相手が男だからとはいえ・・・

プチィッ!

あ、やっぱりキレた。

「まあっ!その言葉は女性に対してはタブーだって習わなかったの!?もういいわ!まとめて葬り去ってあげる!」


ヴヴヴヴヴヴヴ・・・


奴が突然体の周りから黒い霧みたいなモノを出し始めた。


フッ。


「だから言ってるだろ?今の俺にはそういうのは通用しないって。」

井伊が呆れながら答えているが、実際は恐ろしいことが起きているのだ。何と、発動途中の技が途中で止められたのだ。一体何をどうしたらそのような技が使えるというのか。


「すげえ・・・、凄すぎるぜ、井伊!」

俺は思わず感嘆の声を漏らした。今彼がやっていることは俺達も長々と修行を重ねてきたが、全くもってできた試しがなかった。それを彼はいとも簡単にやってのけているのだから驚きだ。


「さあ、どうだ?傷は治ったかな?」

中濱が俺に尋ねた。

「ああ。どうにか大丈夫そうだ。」

俺は立ち上がりながら答えた。確かに時間を稼いでくれたおかげでダメージは大幅に回復していた。

「よし。それじゃあ三人で行きますか!」


「我ら、生まれた場所は違えども!」

井伊がゆっくりと構えながら叫んだ。

「生きるも死ぬも運命は同じ!」

中濱もそれに続く。

「いざ。」

俺は麒麟から侍に戻り、紅を抜いた。

「まあいいわ。全員まとめてかかってらっしゃい!」



1番最初に攻撃したのは中濱だった。

「っけぇ!」


バチイッ!

一瞬強い電流がガドリニウムの体に流される!

「ぐっ!?」

奴もほんの少しだけ動きが止まる。

「これを喰らいやがれぇ!」

そう言って中濱の角が突き上げられる!


ガッ!


「何!?」

一瞬止まったはずの奴への攻撃は、突き刺さるぎりぎりのところで受け止められた。

「そのくらい!」


ビュン!

ドガアアアッ!


「かはっ!?」

更にそこから地面に投げ付けられた中濱は受け身がとれず、まともにそれを受けてしまった。


「次は俺だ!」

そうして俺は大上段に振りかぶり、大きく振り下ろした!


ヒュン!ヒュン!ヒュン!

キィン!キィン!キィン!


しかしそこから繰り出された瞬間三段斬りも全て、俺が放った雷を跳ね返したあのバットみたいなモノでガードされる。

「まだまだ!『白龍劍』!」

俺が刀を構えると、そこから精悍な龍が現れ、ガドリニウムを縛り付けた。

ガッ!

「フッ。白龍は動きを止めるため!そしてこれが俺達の一撃だぁ!」

「達ですって?そんなことが・・・」

「あるのが俺達なんだよなあ。」

再びガドリニウムの言葉を遮ったのは井伊だった。


「いけえ!靉躱閼糯鏤・黼落繻(エターナル・フラッシュ)!」


ドシュウウゥゥゥ!


「秘劍・『金龍』!」


俺が紅を八相に構えながら、右から切り下ろすと、更に無数の金色の龍が奴の体を襲う!


グアアアアッ!


しかもそのひとつひとつが大きくなっていき、流星の如く降り注ぐ!


カッ!

チュドオオオオォォォォン!


三つの強大な力がぶつかり合い、物凄い爆発を生んだ。

「うわああっ!」

「ぬあああっ!」

俺と井伊も思わず足に力を入れて踏み止まる。


「くっ・・・!ど、どうだ!これなら参った・・・!?」

奴の戦闘力は俺達の予想を遥かに超えていた。俺は自分の眼を疑った。なんと奴は、あれだけの攻撃を喰らって立っていたのだ!しかも・・・無傷で!


「なっ・・・!?あれで無傷だと!?」

おかしい。いくらなんでもそれはおかしすぎる。あれだけの攻撃を無防備に近い形で喰らっておきながら無傷だなんて、俺が死んでも許さない。もうただの反則じゃないか!

「ヨホホホホ!温いわねぇ。そのくらいの攻撃で私を倒せると・・・」


ドッ。


「思っ・・・!?て・・・。」


ドサッ。


「・・・るやつがここにいるんだよな。」

「中濱!」


そうである。さっき吹き飛ばされたはずの中濱が俺達の攻撃に気を取られている隙にこっそり近づき、ちょうど隙ができた今、奴の心臓部めがけて角を突き立てた、という訳のようだ。なんという抜目ない作戦なのだろうか。


「あ、あなた・・・。一体いつから後ろに・・・?」

ガドリニウムは息も絶え絶えに尋ねた。

「いつから?あの爆発の終わった次の瞬間くらいからかな?」

中濱はあっけらかんとしている。

「そう・・・。そんなことに気付かなかったなんて・・・、私も修行が・・・足りなかった・・・わね。」

奴の眼はもう焦点が定まっていない。命の灯が消える一歩手前の証拠だ。

「あばよ。出る杭は打たれるんだよ。」

中濱が吐き捨てる様に言った言葉を聞きながら、奴はぐったりとなった。


サアアァァァ・・・


そしてそのまま奴は灰となって風に消えていった・・・












「・・・ガドリニウムも墜ちたかい。フエッフエッフエッ。ワシも修行を強化せねばのぉ。さて、計画の方は順調に進んでおるようじゃ。なあ?ヴォルグよ。」

「・・・イエス、マスター。」

「そろそろ奴らもこちらに攻めてくることを考え始める頃じゃ。ワシらも準備しておかねばのぉ、ヴォルグよ。」

「・・・イエス、マスター。」

「フエッフエッフエッフエッフエッフエッ!ガラクトスよ。お主のような青二才には分からない世界の差を見せ付けてくれようかのぉ。」




「・・・やったみたいだな。」

俺は膝から地面に倒れた。

「・・・ああ。どうやらな。」

「俺のおかげだろうが。・・・なんかセコい気もするけどな。」

残りの二人も地面に倒れ込んだ。しばらくは立ち上がれなさそうだ。


「そういえば中濱。さっきは何故心臓部に角を?」

俺は体を起こそうとしながら尋ねた。全身が激しい筋肉痛でもはや動くこともままならない。

「ああ、あれは勘だ。」

中濱は飄々と答えた。

「勘・・・?」

「ああ。お前らがあそこであれだけの攻撃をかました後で、『もしかしたら』と思ったんだ。『奴は弱点を的確に突かないと死なない』ってことをさ。それでとりあえずあの位置を、とやってみたら大当りだった、って訳。」

彼が簡単に説明してくれた。

「おい。だからってあそこで外れてたらどうすんだよ!死ぬだろ、間違いなく!」

井伊が少し語気を強める。

「井伊・・・。これからの相手は多少無理しないと勝てないんだ。お前はそんなこと分かってるから、聞かなくても大丈夫だろ?」

中濱が俺に話を持ちかけてくる。俺は静かに頷いた。

井伊の話もあながち間違ってはいない。

確かにしくじっていたら確実にやられていた。

でもこの戦いでは中濱の意見の方が通ることは目に見えていた。少なくとも俺と中濱はこれまでにも何度も命の瀬戸際を味わってきた。だからこそあの場面であんなことをしようと考えつくし、実際に行動するのだ。そこが歴戦の俺達と、ここまでの壮絶な戦いが初陣という井伊との大きな差だと思う。俺は一つ大きく深呼吸した。


「さて、とりあえず手繋ぎ鬼に戻らないと。早くしようぜ。」

そう言って井伊が立ち上がった。流石アスリート。回復速度が一般人の俺達と桁が違う。

「おい・・・。お前のようなアスリートと俺ら一般人と一緒にするなよな・・・。それにお前、戦いに参加したのが・・・俺らより遅かっただろうが。」

中濱が呆れながら言った。

「仕方ないだろ?安全なところまで唐沢を避難させてたんだから。」

井伊はゆっくりと体を伸ばしながら言い返す。

「・・・何もしてないだろうな?」

中濱が更に汚らわしいものを見る眼で反駁する。

「・・・バカ。あ、そのかわり小さな飴を一個貰ったよ。『助けてくれたお礼に』って。」

あ、井伊も失言した。奴らしくもない。そんなこと言ったら・・・

「何!?テメー!」

・・・ほら。奴の回復力が異常なまでに上昇するんだよ。危険ったらありゃしない。



とか言う無駄な悶着は割愛させていただきまして・・・


「よし!やっと俺も回復!」

漸く俺も立ち上がることができる様になった。

「さあ、帰ろうか。」


カチッ。

シュウウゥゥゥ!




「もう、中濱君!?一体さっきまでどこ行ってたのよ!私をこんなに待たせておいて!」

そんな甲高い声の主は俺のクラスの女子A(話に特に関係がないため。個人情報は大切に)だ。

「え?あ、ああ。悪かったな。ちょっといろいろと取り込んでたもんで・・・。」

・・・すげえ。あの中濱が女子に頭下げてる。なんつー光景なんだ。

教室にかかっていた時計を見てみると、俺達がガドリニウムを亜空間に引きずり込んでから5分ほど経っていた。向こうの時間に直すと10時間である。思えば随分長く戦ってたもんだ。

「まあ、いいわ。それよりももうすぐロング終わるわよ。」

女子Aは俺達をとりあえず、終了後に集まることになっている、ロータリーに戻ることにした。


何はともあれ、楽しいとは言えなかったものの、ロングは無事に終了した。

一つ気になったのは、なぜか瀧口がいつも以上に女子から白い目で見られていたことだ。あいつのことだ。あの言えないようなプロマイドのことがばれたのだろう。そうなってしまえば、いくら瀧口が無実を訴えたところで、あいつには勝ち目は微塵もない。そりゃああんなコレクションやら盗聴器やらの犯罪紛いの行為に手を染めているのはもはや周知の事実であろう。


「あの・・・。」

俺達が教室に帰ろうとした時、後ろから小さな声がした。振り返ると、そこには正気に戻った唐沢が立っていた。

「ん?どうした?」

もう何かついている心配はないので普通に話しかける。

「えと・・・、ホントにありがとうございました。私、ここに転校することが決まってからずっと何かが・・・くっついてた気がしていたんです。それから解放してくれて・・・その・・・ありがとうございました!」

彼女はもじもじしながらお礼を言ったところで、顔を真っ赤にしつつ、全速力で向こうに走り去っていった。


俺達は彼女が走っていくのを見送ってから教室に戻った。しかし俺達はまだ気付いていなかったのである。マリ・クレールの陰謀によって踊らされていることに・・・


果たして、マリ・クレールの

「陰謀」とは!?そしてヴォルグは一体何者なのか!?

To be continued...

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