第54章:遺言(後編)
はい、どーも。作者です。最近また執筆ペースが上がり始めております。何しろ親指の動きがレベルアップしましたから。これでまたストックが溜まりましたら、投稿の仕方を考えたいと思います。それでは本編をお楽しみ下さい。
前章で糞箱からもらった、今は亡きサミュエルさんの手紙と一枚の紙を持って、トルム会長のところを訪れた俺達は、これまた今は亡きタレーランさんの報告を終え、手紙をそこで開けてみることにしたのだった。
「中身を読んでくれ。」
会長は俺に言った。
「はい。えーと、なになに・・・」
俺は中に入っていた二枚ほどの便箋を取り出すと、ゆっくりとそれを読み上げた。
〜拝啓
暑さが厳しい季節になってきましたが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
糞箱の奴に
「もし僕が死んだらこれを渡してくれ。」
と頼んでおいたので、これを皆さんが読んでいるということは、僕はもう死んでいるということになるでしょう。自分が死んでいるという仮定の下に書くのは非常に大変ですが、稚拙な文章にしばらくお付き合い願います。
思えば組織を抜け出してこちら側につくのには最初少し抵抗がありました。いくらガラクトス一味のやっていることが悪いとはいえ、組織においてそんなことをするのは重罪であると言えるからです。それでも今は素晴らしい仲間と出会えたと共に、将来の伴侶となり得る存在と再会できたことを嬉しく思っている次第です。
さて、君と中濱君には三つお願いがあります。
一つは
「ガラクトス一味を壊滅させること」です。アナハイムはこの僕が倒したとしても、十二魔将は後六人(正確に言えば七人)残っているわけです。恐らく一人一人が今頃君達を倒す方法を血眼になって探していることでしょう。それに負けずに、最後まで戦い抜いてほしいと思います。
二つ目は
「もう一人仲間を増やすこと」です。これは僕も正直かなり悩みましたが、やはりこれからの戦いを考えると、もう一人入れておいても問題はないと思います。
そして三つ目は
「マリ・クレールの計画を打ち破ること」です。いきなり何を言い出すんだ、と思うかもしれないけれど、彼女は今の騒ぎに乗じて、ガラクトス一味を乗っ取る作戦をあれこれ研究中のようです。彼女はどちらかというとやる女なので、今後の行動によく注目するようにしていてください。よろしくお願いします。
それから、一緒に『船紙』が手元に来ていると思います。
どんなものかは以前説明した通りです。
これは後々重要になってくるかもしれません。
以前からガラクトスの奴が『新エンジン』を搭載したがっていて、技術班総出で作成途中らしいです。
多分もうすぐ完成するので、今の五倍近いスピードで地球に接近することが見込まれます。どうやら相当君達の命を早いところ絶って、他の星の侵略に向かいたいようです。そうなったときのガラクトス一味はどんな手を使ってでも、なりふり構わず攻め込んでくる傾向があるので、十分警戒を強めてください。
それからトルム会長、ご無沙汰いたしております。以前お伺いしたときには大変無礼なことを申し上げてしまい、非常に不快な思いをさせてしまったことに対し、心から深くお詫び申し上げます。しかし、僕の中ではああすることしか考えつかなかったんです。わかって頂けると僕の方としても非常に幸いです。
最後になりますが、皆さんお体に気をつけて、必ず、あのガラクトス一味を壊滅させてください。よろしくお願いします。
敬具
ガラクトス一味 十二魔将 サミュエル
俺はここまで一気に読み上げた。彼が言いたいことは大体よくわかった。それからまず彼が文の後半で言っていた
「船紙」を広げてみた。確かにあのとき見たときと同じように、少しずつ地球に近づいてきている。今既に冥王星を過ぎて、海王星も過ぎようかというくらいの感じで進んでいた。
ただ俺にはその点で一つ不可解な点があった。
「おい、中濱。これをよく見ろ。」
俺は船体の描かれた絵を指さした。
「何だよ、そんなに血眼になって・・・あっ。」
・・・どうやら彼も気付いてくれたらしい。そうである。船がなんだか蛇行して進んでいると同時に、なんだか心なしか船体がスリムになっているように見えるのだ。
「おそらく新エンジンの開発の都合上、だと思う。そうすると早い内にエンジンが完成出来て、そのエンジンに負担をかけずにスピードを上げることができるんだろう。そうなると、多分今の五倍、いや、それ以上のスピードで進むことが可能になるな。」
俺は大方の予想を立てながら答えた。
さて、随分厄介なことになったものである。今よりも速いスピードで地球侵略しようなんて考える奴は、ガラクトスの奴以外に誰がいるだろうか。いや、確実にいないだろう。
「うーん。なかなかあやつらも必死のようじゃのお。」
トルム会長は立派な髭を直しながら言った。
「そんな悠長なことは言ってられませんよ、会長!」
中濱が言った。
「まあ・・・とりあえず『船紙』に関してはこれでいいだろう。次は『新しい仲間』についてだ。いきなり言われてもな・・・。誰を入れたら良いと思う?」
中濱が話を俺に振ろうとしたその時だった。
「私がいるわ。」
その声の主は、ルルーだった。
「なっ・・・!ルルー!?」
ガタッ!
俺達はほぼ同時にソファーから立ち上がった。
「そうよ。私だって戦えるんだから!良いでしょ?私もこの戦いに参加させてよ?」
ルルーは彼女なりの悩殺ポーズでおねだりしてきているようだが、残念ながら全く興味などない。
「ダメだ。」
そしてこの三文字を一番早く発したのは、意外にも彼女と恐らく一番親しくしているであろう、中濱だった。
「・・・え?ねえ、どうしてダメなの?」
ルルーは少し困惑気味の様子だ。
「当然だ。女子供をあんな危険な場所に連れていけるかよ!」
中濱の目の色が変わった。普段は静かな黒い目をしているのだが、今日の中濱の目はいつになく紅く燃え盛っているように見えた。
ちなみにこの目をしているときの中濱は、喧嘩でもほぼ無傷で30人くらい薙ぎ倒す程の力を発揮するのだ。俺も何度か見たことがあるが、あれは正しく
「不動明王」、もしくは
「毘沙門」レベルの強さだった。
「ぅ・・・。」
いつもならここで食ってかかるルルーも流石に少し後ずさりする。
「・・・私だって・・・。」
彼女は唇を噛み締めながら小声で言い返す。
「え?」
「私だって中濱の力になりたいんだからぁ!もう知らない!ガラクトスにボコボコにされちゃえばいいんだからぁ!バカァ!」
ダッ!
ガチャッ!
バタァン!
彼女はもう半ベソ状態だった。そして零れ落ちそうな涙を振り払うかのように、会長の部屋から全速力で出ていった。
「あ、おい、ルルー!?ちょっとま・・・」
ガシッ。
中濱が彼女を追って走りだそうとするのを、俺が彼の腕を掴んで阻止する。
「おい離せよ!聞いてんのか!」
中濱は俺の手を振りほどこうとした。しかし俺は首を横に振った。ここで彼に彼女を追わせても、何の意味もないことを知っていたからである。
「おい!ふざけんじゃね・・・」
「いい加減にせんか!」
ブアッ!
ドゴオオオッ!
中濱の体がいとも簡単に吹っ飛んで、後ろの壁にたたき付けられた。流石トルム会長!でも生身の人間相手にはちょっとやり過ぎな気がする。
「いいか?ルルーだって御主の力になりたいんじゃ。ずっと言っとったからの。『私だってもっと中濱を助けてやりたい』ってのお。それを御主、一体何を言っとるんじゃ!女子の心を踏みにじる行為は男として実に情けない!もう少し頭を冷やせぃ!」
会長はそこまで言うと、いつもの温かい笑顔に戻って、
「まあとにかく、三人目が見つかったらワシのところに連れてくるがよい。このワシ直々にみっちりと修行を積ませてやるぞ!ガハハハハ!」
彼は堂々と高笑いしていた。
「分かりました。それじゃあ今日はこの辺で失礼します。」
「おぉ、そうか。また来るがよい。」
こうして俺達は会長の部屋をあとにした。
「なあ、中濱。」
「何だ?」
「・・・行かなくてもいいのか?」
俺は軽く切り出した。
「行くって・・・どこへ?」
中濱はどうやら状況が飲み込めていないらしい。
「どこへってお前、ルルーのところに決まってんだろ?俺の目に狂いがなければ、彼女はお前にホの字だな。」
俺はさらりと話を繋げてみた。
「・・・へぇ。」
中濱は予想以上に反応が薄かった。
「ちょっ、おい!何だよその超無気力な返事は!?」
「だって、お前の目って狂いだらけだもん。そう何度も信じられるかよ!」
う・・・。言われてみれば確かに図星だ。過去に三回ほど同じ手口で彼をはめたことがあったからである。
「まあ、あの反応を見てるとどうやらただ事ではなさそうだからな。行ってみるか。」
そう言って中濱が進路を変えたその時、
「あ、そういえば中濱さあ。」
俺は肩を軽く叩いた。
「?どうした?」
「いや・・・、まあいいや。また後で言うわ。」
「そうかぁ?じゃあまた後で。」
「おぉ。」
中濱は小走りでルルーのいる部屋へと向かっていった。
実はこの時俺は以前サミュエルさんとタレーランさんの話を盗聴したときも使った、滝口流盗聴器二号を仕込んでおいたのである(一号については第30章参照)。一号器はサミュエルさんに弓矢で虐められた時にパーツを一部損壊させてしまったのである。しかし、今度は抜かりはない。滝口と議論を重ねて、ついに耐久性の向上に成功したからである。今のモノなら並大抵の攻撃じゃあ壊すことは不可能である。
あとはばれたら危険なので、俺はトイレの個室に篭り、ヘッドホンと親機を取り出した。今回は
「親機」が使える点も非常に便利である。
ザザ・・・ザー・・・。
む。どうやら上手く電波が引っ掛かったようだ。
※ここからはより臨場感を出すために、中濱の視点でお楽しみください。
コンコン!
「ルルー?いるか?」
俺は
「侵入禁止!」と大きく書かれた看板のかかった扉をノックした。
「ぅ・・・、ひっぐ。ひっぐ、えっぐ。」
彼女はまだ泣いていた。どうやら俺の一言が余程応えたらしい。
ドンドン!
「ルルー!?俺だよ、中濱晋也だよ!」
俺は更に大きな音でノックをして尋ねる。
「入って・・・来ないで・・・。」
彼女は静かに答えた。
「え?おい、いきなり何を・・・」
俺は少しびっくりした。いくら女子の部屋だからといって、普通に拒絶されたことに驚いたからである。
「もぅ!いいから早くあっちに行きなさい!」
ルルーは声を荒らげた。
「わかった、わかった!俺が悪かったから、中に入れてくれ!ちゃんと話がしたいんだ!」
俺は彼女が見えないのを承知で頭を下げた。
「・・・入りなさいよ。」
ガチャッ。
そう言って、彼女はようやく中へ招き入れてくれたのだった。
「さて、本題に移ろうと思うんだけど・・・。」
中に入って、少し他愛のない話をした後で、俺は話を切り出した。
「・・・何?」
「俺がここに来た訳は大体見当がついてると思うけど、さっきの話の続きをしたいんだ。いいだろ?」
俺は精一杯の笑顔を取り繕った。
「いい・・・けど。」
彼女も何だか無理矢理笑顔を作っているようだった。さっきまで泣き続けていたのだろう。目の回りが少し腫れていた。
「ルルー。お前には悪いかもしれないけど、やっぱりこの戦いには参加させられない。確かに気持ちは凄い嬉しいし、心強くもある。でもやっぱりお前が傷つくのだけは俺は避けたいんだ。仲間なら俺の腐れ縁どもがいる。だから気にすることは何もない。」
俺はできる限り彼女を傷つけないように説明した。
「うん・・・。」
彼女は少し哀しそうな表情を浮かべたが、
「そう・・・だよね。中濱、きっと生きて帰ってくるよね!?」
再び明るい顔をして尋ねてきた。
「ああ、もちろんだ!」
ギュッ。
俺が笑顔で答えた途端、彼女が俺に抱き着いてきた。
「・・・約束だよ。」
そして彼女はそっと俺に言った。
さて、サミュエルさんからの指令、
「三人目」は一体誰に!?
To be continued...




