第52章:不死身
前章でサミュエルさんがかけた大技にガラクトスは打ちのめされ倒れたが、彼もその技の代償として命を落とす瀬戸際にいた。
※ここからはタレーランさんの視点でお楽しみください。
「サミュエルさん!」
私は彼のところに駆け寄った。彼は依然地面に突っ伏してはいたが、一応呼吸はしていた。どうやらまだ生きているらしい。
「あ・・・、タレーラン・・・か。見ろよ・・・、俺が・・・倒した・・・ん・・・だぜ・・・?」
彼は虫の息ながらも言葉を繋いでいた。
「・・・ええ、見てたわ。最後まで目を離さずに。」
私はただただ頷いた。私ができそうなことはそれくらいしかなかった。
「そうか・・・。どうだ?情け・・・ないだろ?」
彼はうっすらと微笑んで尋ねてきた。
「いいえ、そんなことないわ。私を守ってくれたんですもの。今も、昔も・・・。」
思えば彼との出会いは私がガラクトス一味に捕まった時だった。彼の優しさは嬉しかった。もし彼があの時私を助けてくれなかったら、今こうして彼とまた巡り会うこともなかっただろう。
「本当・・・か?へへっ・・・、そりゃあ・・・嬉しい・・・ぜ・・・。」
彼は少し残念そうだった。
サラサラサラサラ・・・
すると、彼の足が灰となって少しずつ消えていくではないか!
「ちょっ・・・!サミュエルさん!?」
私は彼を抱き抱えた。
「おっと・・・、そろそろ・・・お迎えの・・・時間が・・・来たみ・・・たいだ・・・な。」
彼は少し驚いた様ではあったが、大して心配している様子はなかった。
「ねぇ、お願い!そんなこと言わないで!?私、あなたを愛してるのよ!?そんな簡単に私の前からいなくならないで!」
私は怒った。彼の口からそんな言葉を言ってほしくなかったから。
「そうか・・・。こんな・・・俺でも、愛して・・・くれてる・・・のか。」
「ええ、そうよ!」
「そりゃあ・・・ありが・・・とうな・・・。」
サラサラサラサラ・・・
気が付いたらもう彼の体は下半身が灰となって消えていた。
「あ・・・、そうだ、タレーラン。最期に・・・、ここに・・・キスして・・・くれないか?」
彼はそう言って、自分の唇を指差した。
「ねえ、お願いだから最期なんて言わないで・・・、うっ・・・。」
私は自然と涙が流れてきた。
泣かないつもりだった。彼を悲しませないために。私がもっと強くなっていて、そんな簡単に捕まったりしなければよかったのに、また私が足を引っ張ってしまった。それが私には悔しくてたまらなかった。
「おいおい・・・、泣くんじゃ・・・ねえよ・・・。」
彼は消えそうな指で、私の涙を拭った。そして・・・。
「えっ・・・?」
彼から私の唇にそっとくちづけをした。
「へへっ・・・。これで・・・もう俺に悔いはねえ・・・。あばよ・・・!」
サラサラサラサラ・・・
フッ・・・。
そう言い残すと、彼は青空へと溶け込んでいた。
「ちょっ、サミュエルさん!?ねえ!・・・嘘でしょ?そんなこと・・・ないわ。グスッ・・・そんな・・・あるわけ・・・。うわあああああ!」
私は声をあげて泣いた。涙が枯れそうな勢いで泣いた。むしろ声も枯れそうだった。
私は止められなかった。とめどない涙を。後から浮かんでは消えていく思い出を・・・。
※ここからは主人公の視点でお楽しみください。
ダダダッ!
「サミュエルさん!タレーランさん・・・ってあれ?」
俺と中濱が到着したときには、もう既に戦いが終わっていたようだった。しかし、何か状況がおかしい。ガラクトスは義手の方の腕がもげて、地面に倒れているし、サミュエルさんはサミュエルさんでどこにも見当たらない。
「ちょっと、タレーランさん!?サミュエルさんは・・・?」
俺は素早く彼女のところに駆け寄った。
「・・・」
彼女は黙って首を横に振るだけだった。そして涙でくしゃくしゃになった顔で俺達の方を見ると、
「うわあああああ!あああああ!」
再び火がついたように泣き出した。
俺はそれで全てを悟った。彼女の夫になる筈だったヒト、サミュエルさんは、もうこの世にはいないということ、彼がガラクトスをここまでダメージを与えたということ。そして、タレーランの夢がここで潰えたこと・・・。
俺は黙ってタレーランさんを抱きしめた。俺じゃダメかもしれないけど、涙が乾くように。
「まあ、タレーランさん。とりあえずこの場を離れましょう。まずは俺達で奴にとどめをさしますから、早くここから退散した方が・・・。ささっ。」
そうして俺達が彼女をその場から逃がそうとしたその時!
ドスッ。
「え・・・?」
ドサッ。
なんと、タレーランさんの右脇腹に深々と黒い剣が突き刺さっているではないか!
「ちょっ、タレーランさん!?一体何が・・・」
そこまで言いかけたところで俺は気がついた。まさか・・・!
「ふぅ・・・。まったく・・・危なかったわい。」
俺が振り返ったそこにはなんと、さっきサミュエルさんが命を賭して倒したはずのガラクトスが立っているではないか!
「んなっ・・・!お前、何故普通に立っていられる!?」
「なに、普通ではないわい。流石に死んだと一度は思ったんじゃが、運よく生き残ってしまったようじゃな。フハハハハハ!」
見ると、確かに奴の片腕が失くなっていた。確かそっちは義手の方だったかな・・・?
「中濱!とりあえずタレーランさんを頼む。俺はちょっとばかし戦ってくる。」
「わかった。ささっ、タレーランさん。こっちへ・・・。」
中濱に導かれるがままに彼女はその場をあとにした。
「さて、早速お前にサミュエルさんの敵討ちだ!」
俺はカプセルを取り出そうとした。
「まあまあ、そんなに焦るでない。手負いを倒したところで御主は満足するのか?」
「えっ?」
ボムッ!
俺が一瞬考えようとした途端、小さな爆発と煙が上がった。
「うわっ、畜生、煙玉だよ!」
煙が晴れたときには奴はもういなくなっていた。そのかわりになんか小型のボールが一つ落ちていた。そのボール曰、
「フハハハハハ!引っ掛かったな!?御主も修行が足りんのお。またどこかで会おうではないか!」
・・・だそうだ。どうやらまんまとはめられたらしい。
「あ!この野郎、待ちやがれ!」
気付いた時が既に遅かった。
しかしやってしまった。中濱達になんて説明したらいいのだろうか。こんなマヌケな話をしたら、間違いなくぼろくそに言われるだろう。しかもあることないこと言われて、非常にどうしようもない空気になっちまうだろう。
それでも今はそんなこと言ってられない。とりあえず俺は中濱とタレーランさんのところに向かうことにした。
タタタタタ・・・
「はあっ、はあっ。」
俺は走った。まずは一度あの洞穴に帰ってみることにした。そこならいるかもしれない。
そうして俺が進路を変えようとしたその時だった。
ピリピリピリピリ!
俺の携帯が鳴り始めた。ポケットから取り出して画面を見ると、中濱からのようだ。
ピッ!
「もしもし?」
「もしもし。おお、すまん。なるべく早く来てくれ!タレーランさんが大変なんだよ!」
中濱はどうやら焦りの色が隠せない様子だ。
「な、何だって!?わかった、すぐ行くけど、今どこにいる?」
「えーと・・・近くにどでかい松の木があるとこ。」
「百年松だな?わかった。」
ピッ!
俺はもう一度携帯をポケットに押し込むと、急いで百年松の下まで向かった。
百年松は俺が暮らしてる山の中で恐らく1番でかい木だ。この木は山のふもとから見ても一際目立っている。だから当然道のりも全部頭に入っていた。
「中濱!」
俺が百年松の下にたどり着いたのは、連絡を受けてちょうど5分後のことだった。
「おぉ、お前か。」
中濱は治療虫をタレーランさんに施しながら答えた。
「ピーピー!」
治療虫達は総動員で傷口の処理に当たっているらしいが、一行にペースが上がらない。
「中濱?なんか傷口が塞がっていない気がするんだけど・・・?」
確かに彼らは一生懸命に働いてはいるものの、傷口の黒い部分が少しずつ傷を押し広げているらしかった。
「そうだよ。一行に塞がらねえ!そうだ、お前も治療虫持ってたろ!?貸してくれ!」
「ああ、分かった!」
俺は普通の治療虫と強化治療虫の瓶を取り出すと、栓を開けて次々と傷口に向かわせた。
タレーランさんはどうやら気を失っているらしい。治療虫はめちゃめちゃ痛いのに(どのくらい痛いのかは前に出てきたはず)、痛がる気配がないからだ。
ズズズズ・・・
黒い部分が徐々にタレーランさんの体を蝕んでいく。
「ピーピーピーピー!」
治療虫達は一致団結してその部分が広がるのを防ぐのが精一杯らしい。
「ダメだ・・・。これじゃあまだ足らない!」
中濱が珍しく真剣な表情だった。
「つっても、中濱。もう治療虫は残ってないぜ?」
「任せとけ。今からルルーに連絡入れるから。あいつから知恵を借りる。」
そう言って中濱は通信機器を取り出した。
ルルーとは俺達のホログラムキーを改良したり、タレーランさんの居場所を探し出したトルム会長のひ孫である(初登場は第40章)。中濱とはかなりいい仲の可能性が高いのだが、真相は謎のままである。
ピリリリリリ!
「はい、こちらルルー。」
「おお、ルルー。悪いんだけどちょっと聞きたいことがあるんだ。」
「何?」
「今ちょっとタレーランさんがガラクトスの黒い剣を食らっちゃってさあ。今治療虫を総動員で傷口を塞ごうとしてるんだけど、黒い部分が少しずつ広がってなかなか塞がらないんだ。どうしたらいいかな?」
中濱が身振り手振りで伝えようとしているが、それは見えないと思う。
「うーん。黒い部分が・・・か。ちょっと待って。」
ガタッ。
カタカタカタカタ・・・
ルルーはどうやら何か調べているらしい。
「中濱。一応調べてみたけど、治療虫だけじゃ無理ね。」
彼女は淡々と答えた。
「え?どういう事だよ!?」
「あのね、その部分に生物の活動を減退させる効果があるらしいの。治療虫も生物だからちょっと辛いかもね。」
彼女はやはりかなりの博識だ。さすがトルム会長のひ孫だけある。
「そうか。分かった。ありがとうな。」
「うん。じゃあね。」
ピッ。
「・・・という訳だ。」
中濱は通信機器を片付けながら言った。
「という訳っておい!お前、この黒い部分をどうやって浄化するんだよ!?」
ズズズズ・・・
そうこうしているうちに更に黒い部分が彼女の体を蝕んでいる。このままでは命の危険もあるのは火を見るよりも明らかだった。
「確かカプセルの中にミカエルのやつがあったろ。あれを使えばなんとかなるんじゃねえか?」
中濱が箱の中を探しながら俺に提案した。
「そうだな。それならいけるかも!」
「・・・いいわよ・・・、そこまでしなくて・・・。」
俺達が話している途中で、タレーランさんは気を取り戻したらしい。
「え?」
俺達は同時に聞き返した。
「だから・・・。私のことは・・・気にしなくても・・・いい・・・から・・・。」
彼女は息も絶え絶えに言った。
「ピー・・・、ピー・・・。」
治療虫達もどうやら限界らしい。明らかに動きが鈍っていた。
「ちょっ、いきなり何を・・・」
「・・・。」
ポンポンポンポンポンポン!
それと同時に治療虫達が力尽きてバタバタと倒れていった。
ズッ!
その途端、いきなり彼女の体を一瞬にして黒く染め上げたではないか!
「うっ・・・。いいのよ・・・これで・・・。サミュエル・・・さん・・・。今、会いに・・・行きま・・・す・・・。」
フッ。
彼女の目から生気が・・・消えた。
「ちょっと、タレーランさん!?タレーランさん!?・・・ダメだ。死んでる・・・。」
中濱はがっくりと肩を落とした。
こうして二人は向こうで結ばれていることだろう。そうであって欲しかった。
「くそっ・・・。」
それでもできればこっちの世界でなんとかさせてやりたかった。だから尚更悔やまれてならなかった・・・。
はたして、ガラクトスは本当に
「不死身」なのか!?この秘密は最終決戦で明かされる!
To be continued...




