第51章:愛故に・・・
果たして、サミュエルの運命やいかに!?
前章で、俺達に麻酔銃を使ってまでサミュエルさんのところへ向かったタレーランさんを追い掛けるために、俺と中濱は久々の登場となる糞箱の野郎をアナハイムの看病に付けて、避難していた洞穴から駆け出した。
タタタタタ・・・
俺達は焦っていた。いくらなんでも無理がある。一歩間違えれば二人とも命を持って行かれるだろう。そんなことはあってはならないのだ。そんなことは・・・!
「なあ。」
「ん?どうした、中濱?」
「今凄い足が痛いんだけど・・・。」
「知るか。もう少し我慢しろ。さもないとペースあげるぞ。」
「・・・」
こんな切り返しはよくある話だ。俺達(特に俺)は再び前を向いて走りだした。
※ここからはサミュエルさんの視点でお楽しみください。
俺の目の前が黒くなりかけた時、景色がゆっくり動いていた。これがいわゆる
「走馬灯」ってやつか。死ぬときって世界がゆっくり動くって本当なんだな・・・。
ピシイィッ!
俺が諦めかけて目を閉じたその時、何かが目の前の暗黒を横切った!
グ・・・
一瞬ガラクトスの放った黒い物体の動きが止まった。
バッ!
俺はそれを見た途端に、咄嗟に飛び上がっていた。
ギュルルル!
ボゴオッ!
再び動き出したそれは空しく地面に落下していった。
「いくぜ!これが俺の必殺!バックトマホークだ!」
俺は素早く体を反転させると肘から奴の鳩尾目掛けて飛び込んだ!
ドッ!
決まった!我ながら良いところに入った気がする。
「さらにいくぜ!スピニングドロップ!」
ガッ!
俺は両足を奴の足にかけ、空中に飛び上がると、大きく一回転して地面にたたき付ける・・・はずだった。
ブワッ!
スタッ。
なんと奴は俺の反転を利用して何事もなかったかのように立ち上がった。
「フハハハハ!そんな攻撃が効くと思っておるのか!そっちが肉弾戦を仕掛けてくるなら、こちらからも行かせてもらうぞ!食らえ!ダークグレネード!」
バッ!
ガラクトスは大きく体を捻りながら空中へと飛び上がった!
ガシッ!
俺は奴のかけた関節技に身動きが取れなくなってしまった。動こうとするたびに、俺の体がギシギシという音を立てる。
しかし掛け方が問題なのだ。奴の頭上で関節をしっかりとキメられ、このまま落下すれば確実に俺の全身は砕けて、使い物にならなくなってしまいそうだ。
ギシギシ・・・。
「!?ぐああっ!」
奴はさらに俺の体を締め付ける!
「どうじゃ?まだまだじゃのお。今楽にしてやるよ!」
グワッ!
ここで奴は体を反転させ、逆の状態になった。まずい。このままでは激しく地面にたたき付けられておだぶつだ。何か手はないものか・・・。
「ちょっと!サミュエルさんを離しなさいよ!」
ヒュアッ!
バチイッ!
タレーランが鞭を振るうも、用意周到に張られていた結界の前に全て跳ね返されている。
とそこで俺はふと思い出した。そういえば懐にホログラムキーが入っていたはずだ。今それでテレポートをかければ抜け出せるかもしれない。
俺にはもうこの策しかない!俺は静かに目を閉じた。
キュン!
バチイッ!
「!?」
俺は驚いた。抜け出そうと瞬間移動を始めたのに、なぜかまだ関節をキメられたままだった。
「フハハハハ!サミュエルよ。貴様は知らなかっただろうが、この結界には特殊な呪縛がついておったんじゃよ!この結界は魔法の全てを超越する!」
「な、何だと!?」
最初はふざけてるのか、と思った。しかしこれは疑いのない現実なのだ。そんな結界を使われたら、この状態で出せる技などあるわけないではないか!
ギシギシ!
「ぐああっ!がああっ!」
奴が俺の身体に更なる負荷をかける。危険だ。このままでは確実に折られてしまう・・・!
「さあっ!今楽にしてやるからのお!はあっ!」
グワッ!
ガラクトスは突然体を反転させると、そのまま俺を地面にたたき付けようとした。その状態でも、どうやら抜け出せそうにない。
ゴオオオオッ!
物凄い勢いで加速している。今度こそダメだ。流石にかわせない。
ガシイイイイッ!
その時地面から二メートル弱くらい離れたところで何かに受け止められた。そこではなんと、タレーランが俺を受け止めているではないか!
「タレーラン!?」
「うぅ・・・。」
彼女は、俺がそのままたたき付けられまいと必死に支えている。
「おのれぇ・・・。どこまでもワシの邪魔をしおってー!まあよい。貴様もまとめて仲良くあの世に葬ってくれるわ!」
そこまで言うと、ガラクトスはまた大きく体を捻った。どうやら彼女もろとも力で捩伏せるつもりらしい。
ググググ・・・
「くっ・・・う・・・。」
彼女の膝が段々崩れていく。
「うぅ・・・んあぁ!」
ググググ・・・
しかし彼女も意地と言わんばかりに押し上げる!
「何っ!?こんな細い女のどこに力が・・・?」
グラッ。
奴の体が少し傾く。
「決まってるじゃない。こういうのをラブパワーって言うの・・・よ!」
グワッ!
ドズウン!
彼女は俺もまとめて、ガラクトスを地面にたたき付けた。
「ぐはっ!」
ピシッ。
彼の右腕の義手に亀裂が入る。
「まあ・・・、あなたには一生分からないかしらね。」
彼女はサラっと言った。気持ちは有り難いが、こっちにもダメージはある。一緒に落とされたせいで、更に腰の痛みが悪化した。
「お、おい、タレーラン?俺も食らってるんだけど・・・?」
「え!?ああ!ごめんなさい!ホントごめんなさい!その・・・大丈夫ですか?」
「まあ・・・、一応なんとかなっ!?」
ズキッ。
「!?ぐうっ・・・!」
俺が起き上がろうとした瞬間、突然腰に激痛が走った。元々あまりよくはなかったが、まさかこうも簡単にダメージを貯めてしまうとは・・・、つくづく俺も老いぼれてきた感じがする。
「ちょっと、大丈夫?」
「ああ・・・。ところでタレーラン。非常にすまないのだが・・・。」
俺は全てを悟った。コイツには勝てない、と。かけっぱぐれの技でこのダメージだ。今のままでは九割方命を持って行かれるだろう。そんなところを男として彼女に見せられるはずもない。
「今からちょっと荒業をしかける。下手すれば・・・この世には・・・いなくなるだろう。」
俺は言葉を噛み締めて言った。
「え・・・?ちょっと、いきなり何を言い出すのよ?」
彼女は明らかに動揺していた。無理もない。いきなりそんなことを宣告されたから。
「すまない・・・。約束を守らない男なんて・・・最低・・・だよな。」
腰が痛い。動くにも重い負担を感じるくらいだ。歩くのも無理そうだ。
「ねえ!そんなこと言わないでよ!私は信じてるわよ!どんな無茶をしてきたからって、必ず帰ってきてくれるって!そうでしょ!?」
彼女は俺の体を激しく揺さぶりながら問いかけてきた。俺の体が揺れる度に腰が痛む。
「そうか・・・。俺のことを信じてくれるんだな?」
「ええ。」
「わかった。それじゃあちょっと暴れてくるからな。」
「・・・いってらっしゃい。」
俺は後ろ髪を引かれる思いもあったが、心を鬼にして、勝負をかけることにした。
「天界の七龍達よ、今我にその力を示せん・・・。」
出来ればこの技を使いたくなかった。一度これを使って死んでいった仲間をみたことがあったから。これを使えば俺の命は燃え尽きてしまうことだろう。でも奴を倒すために残された手はもうこれしか残っていないということは火を見るよりも明らかだった。
「いくぞ、ガラクトス!まず壱の龍、炎龍、『サラマンダー』!」
俺は奴の背後に回り込むと、強烈な火炎を浴びせた!
ゴオオオオ!
「くっ・・・!」
「続けて弐の龍、水龍、『リヴァイアサン』!」
ドザアアアア!
俺は更に巨大な水球を奴の腹に直撃させた!
「ぐおおっ!?」
ドゴオオオオン!
後ろの壁に激しくその巨体がたたき付けられる!
ピシッ。
その勢いからか、奴の義手に更に大きな亀裂が走った。
「まだまだ!参の龍、雷龍、『ラ・テンペラ』!」
ズガアアアアン!
奴の全身に激しい雷が駆け巡る!
「ぐあああっ!ああっ・・・」
さっきの水も相俟って、更に威力が上がっていたらしい。
「おらおらあ!続けて四の龍・・・!?」
ドクンッ。
「・・・かあっ!?」
突然俺の全身に激痛が走った。思わず血を吐き出す。そうか。そういうことなのか。これは段々と命を擦り減らしながら威力を上げていく技なのか。
「おお・・・、どうした。もう・・・バテやがったのか?若造などにこのワシが負けるわけには行かないんじゃよぉっ!」
ダッ!
ガラクトスはゆっくりと立ち上がると、一気に走り込んできた。
「くそっ・・・!四の龍、地龍、『バジリスク』だぁ!」
シャアアア!
ドウッ!
「・・・ぐはあっ!」
俺の手から飛び出した大蛇が、奴の喉元に食らいつく!
「更に・・・いくぜ!伍の龍・・・、暗黒龍、『タランティーノ』!」
ヴヴヴヴヴ・・・!
俺の腕からガラクトスの必殺技であるはずの廼颶鄲黶が飛び出した!
「な、何だと!?何故その技を使える!?」
ドゴオオオオッ!
当惑するガラクトスの体に、強烈な一撃が直撃する!
「ぐおおおっ!?」
ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!
更にその塊は激しいドライブ回転を始め、奴の体から肉をえぐらんばかりの勢いで回転を続けた。
「がはあぁっ!ぐあああっ!」
奴の口から血が飛び散る。
ドクンッ。
「!?ぐっ・・・!くそっ、またかよ・・・。でも・・・、ここで負けてたまるかよぉっ!」
ザッ。
俺は倒れそうな、崩れ落ちてしまいそうな体を両足でしっかりと支え、腕を大きく振り上げた。
「食らえ!第六の龍、聖龍、『オチェアーノ』!」
その台詞と同時に、俺は腕を前へと押し出した!
ゴパアッ!
一本の巨大な光の筋となって、奴の体をまだえぐっている廼颶鄲黶ごと吹き飛ばす!
ズドオッ!
「ごほおっ!?」
ドズウゥゥン!
パキィン!
体についていた義手ごと奴を押し潰す!
「ぐあっ・・・!まさかこれを壊されるとは・・・!随分と成長しおったな・・・。ウェーデルンの奴でも・・・これを・・・壊せなかったというのに・・・!?」
キリキリキリキリ・・・
「はあ・・・、はあ・・・。これで・・・終わり・・・だな。これで・・・、とどめだぜ・・・。」
俺は飛びそうな意識を保ちながら、愛弓、蠡鑼碼醫鶲鵐麌拉黴弖臺を構えた。これが最後の一本である。
「頼む・・・、カミーチェ、ラグーン、力を貸してくれ!」
俺は霞む目で奴のど真ん中を構えた。
シュウウウウ・・・
全身に今までにない力がたまる。今ならコイツを仕留められる、いや、仕留めなきゃならないんだ!
「とどめだ!第七の龍、天龍、『ドラゴン・ドライブ』!」
ピシュッ!
俺は全身の力を弓に集め、限界まで張り詰めていた矢を放った!
グワアアアッ!
矢の周りに全ての龍達が集結する!
サラマンダー、リヴァイアサン、ラ・テンペラ、バジリスク、タランティーノ、オチェアーノ・・・。六体の龍が激しく重なり合い、ガラクトス目掛けて、突っ込んでいく!
「な、何故だ!何故このワシが、こんな若造に〜!」
ズンッ!
ドサッ・・・。
ガラクトスは声を上げることもなく倒れた。
「へへっ・・・。やっと・・・、勝てた・・・ぜ・・・。」
ドクンッ!
あ・・・、もう・・・ダメだわ・・・。我が本懐、今成就せり・・・!
はたして、サミュエルさんはガラクトスを本当に倒したのか!?残されたタレーランさんの運命やいかに!
To be continued...




