第50章:愛(後編)
前章でサミュエルさんとガラクトスを置いてきた俺達四人だったが、突然タレーランさんが彼のところへ行きたいと言い出したのだった。
これに中濱は平手打ちを食らわすなどして激しく反発。依然、激しい対立状態が続いていた。
「いいですか?何度も言いますけど、あなたまで助けにいって足手まといとかになったらどうするんですか?サミュエルさんは愛するあなたを護りたいから闘っているんでしょう!?それなのにそれじゃあ全く無意味じゃないですか!」
中濱が熱弁した。
「いいえ、私は行くわ。たとえ何があっても。サミュエルさんに常に付き従って闘うのが、『妻』としての使命でしょ?だから私、行って彼を助けたいの。お願いだから行かせて!」
タレーランさんはそれでも一行に譲ろうとしない。かれこれこんな状態が10分近く続いていた。
「いいえ。それでもダメですね。そう簡単に女を戦場にっ・・・!」
プスッ。
ドサッ。
突然中濱が地面に倒れた。一体何が起きたんだ、と思い辺りを見回してみると、タレーランさんがちゃっかり麻酔銃を仕掛けていたのだった。意見が通らないからといって武力行使は良くないだろ。
「あれ?どうしたの、中濱君?もう眠くなったとか?」
「いやいや、タレーランさん。あなたが使ったんでしょう、麻酔銃。」
「ええ、そうだけど・・・何か?」
彼女はこちらにも銃を向けたかと思うと、
プスッ。
いきなり俺の首筋に打ち込んできた。あまりにもタイミングが早過ぎたので、俺は避けそこねてしまった。
「しまっ・・・!」
クラッ。
や、やばい。段々眠くなってきた。
「ごめんなさいね。こうでもしないと私を出してくれないでしょ?」
ここまでは聞こえたが、俺はそのまま意識を失った。
※ここからはサミュエルさんの視点でお楽しみ下さい。
キィン!
俺の放った矢はことごとくガラクトスの張る結界に弾かれる。
「はぁ・・・はぁ・・・、くそっ。まるで当たりゃしねえ・・・。」
そうである。背中に沢山用意してきた矢は、もう残り僅かになっていた。しかも奴の結界のせいで一本も当たっていない。これは予想を上回る強さだった。
「フハハハ。どうした?さっきまでの威勢が感じられないぞ?」
ガラクトスは俺の無様な姿を嘲笑うかのように言った。
「じゃあこれならどうだ!必殺、『五稜郭』!」
俺は一本の特殊加工が成された矢を取り出すと、狙いをグッと定めた。ここで普通は定石でいくと利き足を狙って動きを止めるか、動くものを見る左目を狙って、目を潰してしまうかするのが普通だ。
しかしここでそんなことをしても、ガラクトスに軌道を読まれて、数少ない矢を止められるに違いない。ここが勝負だ。ここで外したら俺の命はないものと考えてもいいかもしれない。
実はこの技、俺が使うのは二度目だった。一度実戦で使ったことがあったが、その時は大きく外してしまい、当時の教官から大目玉を喰らった。
カタカタカタカタ・・・
緊張からか手が震える。冷や汗が止まらない。でもここで引き下がってはいられなかった。俺はここで目の前にいる強大な壁をぶち壊さなくてはならないのだから。
俺の作戦は決まった。
ピシュッ!
シュルルル・・・
俺の矢は音を立てて進んでいったかと思うと、
グググ・・・
少し地面に向かって曲がり始めた。ここまで計算済みだ。感情の炎、
「ネガティブ」には周りの空気より重い、という特殊効果がある。だからそれを気付かれないような微量を乗せてみたら、見事に成功したのだった。
「フハハハ!そんな子供だましの手でワシに傷を負わせられると思うな!」
そう言ってガラクトスは高く飛び上がろうとしたその時!
ピシィッ!
一筋の黒い影が奴の足を止めたのだ!
「くっ・・・!」
そこは絶好のチャンスだ。こんな願ってもないチャンスを逃してたまるか!
「『五稜郭』、発動!」
ビシュウッ!
俺の一声に呼応するかの如く、その矢はまるでかつて地球について読んだ本の中に出てきた『五稜郭』のように、星形に分裂したではないか!
「いっけええええ!」
ドドドドドッ!
「がはあっ!」
その黒い影のお陰で、ガラクトスの野郎が飛び上がる前に矢を突き刺すことができた。
「ぐうっ・・・!ちっとは成長したではないか・・・!効いたぜ・・・。」
彼はとぎれとぎれの声で言った。
「そこの人!誰だかは分からないが助かったぜ!ありがと・・・っておいいい!」
俺は途中までお礼を言ってびっくりした。なんとそこには中濱とかと一緒に逃がしたはずのタレーランが立っていたのだ!
「サミュエルさん!助太刀に来たわよ!」
彼女はこっちに向かって手を振ってきた。おいおい、一体何を考えているんだよ。
「おや、サミュエル。何でここにお前の奥方がいるのかな?」
ガラクトスは俺の方をただじっと見つめている。
「お、奥方?ま、まあ・・・、ここを抜けたらそうなるわな。」
俺はタレーランの方をちらっと見た。彼女は彼女で頬を薄赤く染めている。
「おい、タレーラン!聞こえてるか?」
「ええ、聞こえてるわ!」
「来ちゃったもんは仕方ないから、今ここで奴を仕留めるぞ!」
「もちろんよ!」
俺の呼びかけに、彼女はしっかりと答えてくれた。
「それじゃあ早速行かせてもらうか!いくぞ、タレーラン!」
「はい!」
俺達はそう言ってガラクトスの懐に詰め寄ると、一気に肉弾戦に持ち込むことにした。こっちの方が一番厄介な廼瞿鄲黶系の技を打たせないで戦うことができるからだ。あの技は周りの重力を吸収して大きくなるから、近距離の方が受けるダメージが少ないのだ。
「やあっ!」
ピシッ!ピシッ!
タレーランの鞭が奴の体を的確に捕らえる。
「おらあ!」
ガッ!ドウッ!
俺の拳が奴のガードをかい潜る様にぶつかる。
「くっ、甘いわ!」
ドガアッ!
「ぐああっ!」
俺の体を奴の右足が吹き飛ばす。思いっきり丸太をぶつけられた時以上の衝撃だ。一撃の重さが有り得ない。
「サミュエルさん!」
「人の心配をしとる場合か!」
ゲシッ!
「あうっ!」
タレーランも彼の攻撃に大きく跳ね飛ばされた。
「タレーラン!大丈夫か?」
俺はゆっくりと体を起こしながら尋ねた。
「え、ええ。なんとか・・・ね。」
彼女もまた体を起こして答えた。
しかしなんという強さだ。あれだけ攻撃を食らわせたというのに、全く倒れる気配がしない。さっき与えた
「五稜郭」のダメージももはや彼の自然治癒能力で傷口が塞がりつつある。
そこまで考えて俺ははっと気がついた。作戦が読まれていたではないか!こんなに間合いを取られたら・・・!
「ハハハ。ようやく気付いた様じゃな!これでも食らうがよい!」
ヴヴヴヴヴヴ・・・。
奴の腕だけでない。全身からあの悍ましい黒い物体が出てきていた。まずい。これは今まで見たことがない。
「それではいかせてもらおうか!奥義・『縉賻堊膩醫』!」
ゴゴゴゴゴゴ・・・!
奴の体に纏っていたエネルギーはぐんぐん大きくなると、そのまま奴の頭上高く上っていった。
「むぅん!」
ズアアアアアアッ!
奴の放った一撃は地面を激しく疾駆し、そのままタレーラン目掛けて突っ込んでいった。
「キ、キャアアア!」
「危ない!」
俺は彼女のほうに走り寄ると、彼女を全力で突き飛ばした!しかし俺が出来たのはそこまでだった。目の前の景色がゆっくりと、それでも確実に真っ暗になっていった・・・!
※ここからは再び主人公の視点でお楽しみください。
ハッ!
俺は嫌な予感がして目が覚めた。それにしてもなんで寝ていたのか・・・?そうだった。タレーランさんに麻酔銃を打たれたんだった。彼女のことだ。間違いなくフィアンセのところに行っているだろう。
「おい、中濱!起きろ!」
俺は隣でいびきをかきながら熟睡している中濱をたたき起こした。
「むにゃむにゃ・・・。おいおい、まだ食い足りねえぞ・・・。」
中濱はどうやら物凄い勢いで食ってる夢でも見ているらしい。こういう夢を見ているところ悪いが、今はそれどころではない。
ゲシッ!
俺は日頃のことも込めて脇腹に蹴りをかました。
「痛って!・・・おい、お前!今せっかく幻の三田牛を食いまくって、やっとヒレまでたどり着いたのに、なんで起こしたんだよ!」
中濱はハイスピードで起き上がり、俺につかみ掛かってきた。夢の中の話なのに、とんだとばっちりである。
「お前なあ!今夢の話をしてる場合じゃないんだよ!いつまで寝ぼけてんだよ!」
ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!
俺はここぞとばかりに奴を蹴りたくった。
「ちょっ、落ち着けって!寝ぼけてないから!痛い!」
「よし、起きたな。」
俺はちょっと気分がすっきりしたので、蹴るのをやめてやった。
「いや、とっくに起きてたよ!?もう嫌がらせだよね?」
中濱がつっこむ。
「うん。」
「そこで即答すんなよー!」
「さあ、遅くなったが本題に入ろうか。タレーランさんが勝手にサミュエルさんのところに行っちゃった。」
俺は簡単に中濱に説明した。
「お、おい。お前は止めなかったのかよ!?死ぬぞ?」
中濱は再び俺につかみ掛かってきた。
「落ち着けよ、中濱!俺もお前も麻酔銃で眠らされていたんだから。それでどうやって止めろと?」
「え・・・、超能力?」
「寝てて使えるかバカ!」
ゲシッ!
「わ、分かった!分かった!早く助けに行きゃいいんだろ?」
中濱がようやく主旨を理解したらしい。
「よし、ようやく分かったな。いくぞ、中濱!」
「おお!」
こうして俺達が走り出そうとした時だった。
「あ、ちょっとタイム。」
中濱が急に立ち止まって言った。
「何だよ!?」
俺は一刻を争う状況だったので、そんなことを言ってる場合ではないと思っていた。
「あの人どうすんの?」
彼は未だ意識を取り戻さないまま眠っているアナハイムを指さして言った。
「怪我人を置いたまま行けないだろ、今は生身の人間なんだし。」
「うーん、そうだな。あ、そうだ中濱。あのホログラムキーって、別の物質をテレポートさせることってできるか?」
俺は中濱に尋ねた。
「え?やったことないから分からんけど、ルルー(どんな奴なのかは第41章周辺を参照)のことだから、そのくらいの能力は搭載してると思うよ、あらかじめセットしておくとか何とかすれば。」
中濱は首を傾げた。
「分かった。じゃあできるな。ちょっと貸してくれ。」
俺は中濱からキーを受け取ると、チャンネルを入れ替え(普通にやると俺が飛ばされてしまう)、座標を普段俺が外出中に糞箱の野郎(最後に出てきたのは第20章)
のところにセットし、スイッチを入れた。
カチッ。
シュオオオオオオ!
BOMB!
「ケホッ、ケホッ!全く何や何や?いきなり飛ばされてきてしもうたで・・・ってわわっ!」
糞箱の野郎がいつものテンションで現れた。
「おお。久々の登場、ご苦労さん。」
「おおきに・・・ってコラア!ワイの存在は忘れられてたんかいな!一応始めは主要キャラっぽく出てきたのに、今は何や!?忘れられすぎやろ!作者のせいやな!?なあ、そうや・・・」
「『作者』とか言ってんなよ!お前はここでそいつの面倒でも見てろ!」
ゴスッ!
「いたぁ!」
俺はアナハイムの方を指さすと、それに一発げんこつを叩き入れ、二人で全力で駆け出した。
「いやっ、ちょっと待ってえなあ!」
果たして二人は間に合うのか!?そしてガラクトスとの対決の結末やいかに!?
To be continued...




