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第31章:協力

前章で、恐らくいてはならない状況にいてしまった俺は、時間も遅かったので、帰路についていた。



しかしそれにしても、面白い会話をすっぱ抜くことができた。あの彼女の暗い過去に立ち会っている存在が生きていたということももちろん驚きだったが、それがサミュエルさんだったことにはもっと驚いた。だから彼は幹部職に就きながらも、敵である俺達の味方をしてくれていたのかもしれない。それは俺も重々承知していた。



しかし、そんなことを考えていた矢先の出来事だった!


ドズウウゥゥゥン!


敵が現れたことはすぐに分かった。しかし今回は音が明らかに違う。しかもあまりにも凄まじい衝撃だったので、俺は思わず尻餅をついてしまった。

「アイテテテ・・・。なんだ!?いきなり地震でも起きやがったのか!?」

俺は辺りを見回した。




「地震じゃないんだなあ。オラの着地なんだなあ。」

激しい砂煙の中から出てきたのは、肉の塊としか表現が見当たらないような、超巨大な魔物だった!




「え?お前は一体何者なんだよ!俺に用事でもあるのかよ!」

俺はそいつが敵だということはすぐに分かったので、彼の顔を見上げながら聞いた。

「んあ?オラはデリンジャって言うんだなあ。こんな体でも、立派な十二魔将の一人なんだなあ。」

彼はゆっくりと言った。

デリンジャといえば、確か持ち前の脂肪で物理攻撃の全てを跳ね返すとかいう奴だった気がする(第8章参照)

「でも、今日は君に用事は一つも無いんだなあ。」

奴は汗をダラダラかきながら言った。俺は少し驚いた。

「どっ、どういうことだよ!お前ら、俺の命を狙ってるんじゃねえのかよ!」

俺はいきり立って奴に聞いた。

「それもそうだけど、今日は裏切り者のサミュエルを仕留めに来たんだなあ。お前達と組んでることは、もう諜報班のお陰でバッチリ分かってるんだなあ。」

奴は自信満々に答えた。

俺はそれを聞いて頭の中で何かが弾けた!


確かにサミュエルさんはガラクトスサイドから見たら完全な裏切り者であることに違いはない。ただ、俺はここをどいてみすみすサミュエルさんが殺されるかもしれないような状況を作り出す訳にはいかない。俺はゆっくりとファイティング・ポーズをとった。


「ん?どうしたんだなあ。今日はお前には用事はないと、さっきちゃんと言ったんだなあ。」

デリンジャは不思議そうに言った。

「悪いけど、俺はここを通すわけにはいかないんだよ。サミュエルさんを必要としている人間は、お前らの他にもいるからな!」



そうである。その必要としている人間というのは、紛れも無くタレーランさんだ。タレーランさんは間違いなくサミュエルさんに僅かでも好意を寄せている。これは恋愛など一切したことのない俺でさえ分かる。

サミュエルさんはタレーランの過去に対する心の痛みを知っている。だから彼は彼女の気持ちを考えて接してあげられる。彼女は今は恋愛対象として見ていなくても、Fall in loveするのも時間の問題であるといえよう。だからこそ、俺はここを通すわけにはいかなかった。

「それじゃあ仕方ないんだなあ。通してくれるように、お前を捩伏せるまでなんだなあ!」

奴の体から激しく汗が滴り落ちてきた!どうやら俺を殺る気満々らしい。




俺は箱から今日はオレンジ色のカプセルを取り出して、一気に口に放り込んだ!

シュゴオオォォォ!


俺は今日この戦いで試したいことがあった。

「フォーム・アドベント」である。まだ修行ではかすかすの一撃しか出ていなかったが、俺は今がそれを試す最高のチャンスだと思ったからだ。しかし、まずは奴にダメージを与えてからやることにした。


カッ!



完全漂依に成功した俺の体は、なんか甲羅がついた、巨大な亀になっていた。奴には物理攻撃が効かないから、恐らくこれは最悪の噛み合わせであるのは容易に想像できた。間違いなく泥仕合だ。けれども今このタイミングで白いカプセルを飲んだら、確実におだぶつだ。だからとりあえずはこれで頑張ることにした。




「いくぜ!」

俺は殻にこもると、半ばやけくそで体当たりをかました!


ボスッ!

ボヨ〜ン!


しかし案の定、俺の攻撃は奴の大量の皮下脂肪に跳ね返されてしまった。これではどうやっても通用するはずがないではないか!

「んあ?今の攻撃は何なんだな?痛くも痒くもないんだなあ。」

奴は腹を摩りながら言った。そんだけ皮下脂肪があれば当たり前だろ、と俺は奴に言ってやりたかった。けれども完全に分が悪い俺がそんな挑発をしたところで、余計こっちの分が悪くなるのは目に見えていたので、流石にやめた。


「くそっ!まだまだあ!」

ギャルルルルルルルル!

俺は更に回転数を上げた!奴の腹にめり込ませる作戦だ。これで効かなかったら、また別の作戦で押し切ればいい。俺はもうそれしか考えていなかった。

「いくぜ!媽鶫麈鵁蠧(ぼっしゅうと)!」

ドシュウウゥゥ!

俺はその激しい回転力を維持したまま、奴の腹に直撃してやろうとした。しかしそれだけでは効かなさそうだったので、俺は一つ、趣向を凝らすことにした。



ギャギャギャギャギャ!



俺は素早く右に方向転換すると、そのまま奴の右脇腹目掛けて突っ込んだ!




ドスッ!

ギャルルルルルルルル!

ボヨ〜ン!


しかし俺の攻撃はそれでも奴の皮下脂肪に跳ね返されてしまった!



「うぐううう!いくらなんでも汚いんだなあ!横から攻撃するなんて、卑怯なんだなあ!オラ、もう怒ったんだなあ!」




・・・どうやら奴に少しばかりのダメージを与えたらしい。脇腹が赤くなっているのが見て取れた。ただ問題なのは完全に相手を怒らせてしまったことだ。

プシュウウウ・・・!

奴の体がみるみるうちに赤くなっていき、しかもなんか湯気が出てきていた!これはデブが怒るとよく起こる、汗の蒸発現象の強化版ではないか!それはいくらなんでもやばいぞ!


「いくんだなあ!」

ドスドスドス!

・・・動きが遅い・・・と思っていた矢先の出来事だった。


ピシュウ!

ズドオッ!


「がはぁっ!」

ドゴオオオォォン!


突然奴の体が消えたかと思うと、いきなり俺の体が宙に飛び、後ろの巨大な木にたたき付けられた。



俺はこの世にいてはならないものは二つあると思っている。一つは、腹立つくらいモテる男。そしてもう一つは言うまでもない、身軽なデブである。身軽なデブほど戦闘でやりにくい奴はいない。十二魔将にいるのも何となく分かる気がする。


「どうしたんだなあ?手応えがなさすぎるんだなあ!」

デリンジャは俺を見下ろしながら言った。しかも顔には明らかな勝利の笑みを浮かべている。こういうのは物凄く腹が立つ。だからこういう奴を確実に仕留めないと、俺は気が済まないのだ。



「へっ!HO☆ZA☆KIやがれ!お前に今からスゲーもんを見せてやるよ!」

俺はゆっくりと立ち上がりながら言った。亀だから立ち上がれないというのは偏見も甚だしい。幸い腹の方から落ちるのに成功したので、何とか立ち上がることに成功したのである。


そして俺は白いカプセルを取り出して、口に放り込んだ。

ヒュッ!

俺の体からあっという間に甲羅が消え、元の状態に戻った。


「あれ?一体何をしてるんだなあ?降参でもするつもりなんだなあ?それじゃあ遠慮なくこの場で死んでもらうんだなあ!」


プシュウウウ・・・!

奴の体から更に湯気が出てきたかと思うと、腹の皮下脂肪をへっこませ始めたではないか!


ボン!


しかもそのまま奴の両腕が、なんとマッチョになっているではないか!さながらボディビルダーのようだった。


「え?え?これは一体どういうことなんだ?」

俺は本当に困惑した。目の前の状況があまりにも信じられなかったからだ。

「んあ?オラの腹は皮下脂肪で出来ているんじゃないんだなあ。大量の血の海で出来ているんだなあ。だからこうやって腕に血を集めると、筋肉が増幅してパンプアップの状態になるってわけなんだなあ。あ、ちなみにさっき速かったのは、脚に血を集めたからなんだなあ。」

奴は自慢げに説明した。なるほど。だからさっきみたいな速さが・・・って納得している場合ではなかった。



「それじゃあ、改めてこの場で死んでもらうんだなあ!」

そう言いながら奴はゆっくりと深呼吸をした。


一方の俺もこの場をどく気はなかった。ここでどいたら間違いなく、裏切り者のサミュエルさんを殺しに行くだろう。そうしたら俺も辛いが、タレーランさんはもっと辛いだろう。恋をするってそんなものなんだろう。まあ、俺は一切そんな思いはしたことないけれど。

俺は神経をたった一つに集約した。俺は過去にもそのパターンで乗り切ったことが多々あったからである。俺の心の想いは、

「ここを絶対にどかない!」!ただそれだけだった。



グッ!

俺は今までの厳しい修行の成果を出すべく、しっかりと足を踏み込んだ。そしてただじっと集中した。




ピシュウ!

奴が俺の懐に飛び込んできた!今だっ!


ヒュオオォ・・・



ズドオオオォォッ!


キイイイイィィ・・・



ドゴオオォォォッ!



俺は何も考えなかった。ただ真っすぐに右腕をぶつけただけだった。そしたら・・・できていた。なぜだかしらないけれども、見事に

「フォーム・アドベント」が発動しているではないか!

右腕を見ると、確かに太くて逞しいイフリートの腕が漂依していた。しかし、役目を終えたかのように、すぐに消えてしまった。



「あ・・・なんで地球人が『フォーム・アドベント』を出せているんだなあ・・・?これは一旦引き返して、ガラクトス様に・・・報告するのが良さそうなんだなあ。それじゃあ、これで失礼・・・」


ガッ!

立ち上がってその場から立ち去ろうとするデリンジャを、俺はしっかりと掴んだ。


「するんだなあ、とは言わせないぜ?」

俺は気迫の篭った声で言った。奴は震えている。

「お前には罪を償って貰わにゃならないからなあ。当然、断罪を下してやるぜ!」

俺は右腕を振り上げた。そして・・・




ズッ!




奴の首筋におもいっきり突き立てた!奴は断末魔の悲鳴をあげながら、そのまま消えていってしまった。




その瞬間、俺は我に帰った。そしてすぐに、俺の中に激しい困惑が沸き起こった。俺はあいつらと、何も変わらない行為をしてしまった・・・!いかなる理由があるとはいえ、感情だけで人を殺すのは良くない。

俺はただじっと、その場に立ち尽くしていた・・・。







この何でもないような戦いが、後に大きな陰謀の渦へと巻き込まれていく・・・!

To be continued...

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