第1章:始動
PROLOGUEで、いつもは通らない暗い森の中を歩くことに決めた俺は、早速鬱蒼と木々や草達が生い茂る森の中へ入っていった。
この森は、俺のすむ家のある丘の中程の所にあり、少し上りがきついものの、すぐに家に着けるという、物凄いスポットだ。
しかもここでは季節に応じて沢山の花が咲き、鳥が鳴き、虫が沢山いる、今となっては数少ない雑木林なのだが、俺が中学に上がる頃に、一部が区画整理に引っ掛かり、三割くらいが切り倒されてしまった。物凄い住民の反対があったのだが、結局どこかの土建会社が強行したとか言って、結構話題になった。それでも今も昔も虫や花の数は衰えていない気がする。
小さい頃にはよく、親父の数少ない休みにここに連れてもらってきて、チョウチョやカブトムシ、蝉とかをとりながら駆けずり回ったのが懐かしい。
そんなこんなで俺は森の中の道なき道を進んでいった。ところで、この森には二つ弱点がある。一つはこのめちゃくちゃ急な道のりだ。平らな所は全部区画整理でほとんどが住宅地になってしまった。だから道が物凄い急だということだ。正直いうと、部活の後でのこの坂はかなり応える。半分くらいは崖と言ったほうが正しい。
そして二つ目は・・・。
ぷ〜ん・・・。
ピシッ!
ぷ〜ん・・・。
ピシッ!
ぷ〜ん・・・。
「あぁ〜うっとうしい!何とかなんねえのかよ、これはよ!」
そうである。
この森には物凄く蚊が多いのだ。それも物凄いまとわり付く。うっとうしいったらありゃしないのだ。崖みたいな所を登ろうとしてるときに、うじゃうじゃこられたらもう何かどうでもよくなってくる。もうどうぞ吸って下さい的な感じにすらなる。そのくらい数が多いのだ。あ、何か段々そんな気がしてきた。
しかしながら、今日はそんなめっさウッザイモスキート(蚊のことだよ)どもに構っている暇などない。もっと重要な任務があるからだ。それは・・・。
MISSION:素早く家に帰って膨大な量の宿題を片付けて、徹夜を回避せよ!
♪テーッテッテッテッテーッテ・・・
・・・やめよ。何か空しくなってきた。ちなみに今のはミッション・イン●ッシブルのテーマだ。誤解その他別の音楽を考えてもらいたくないので、一応説明しておきたいと思う。
そうである。俺がこのきつい道を通ってまで帰りたい理由・・・それは、今日の宿題の課題の多さにある。
どれだけ辛いか分かって貰うために、順を追って紹介したいと思う。
国語:漢字練習5ページ
歴史:資料に関するレポート三枚
数学:問題集一冊(大体20ページくらい)
理科:実験に関する図と手順をノートに書き写す(実験3つ分)とレポート
英語:ワーク10ページとリスニング用のワーク5ページ
ちなみに非常にどうでもいい豆知識だが、理科に書いた宿題は筆者が経験済みだ。中学のときの理科担当、通称白塗りによく出されたそうだ。文は比較的平気だ。問題は全て絵の方にあった。筆者は絵心が皆無に等しかったので、物凄い時間がかかってしまうのだったそうだ。
それにしても何度考えても多い、多過ぎる。順番にやる順番を考えよう。英語のワークは答えを書き写せばばれない。だから3〜40分もあれば両方片付くだろう。後はごまかしが効かないのである。
今ここで数学は写せるんじゃないの?と思った方がいるかもしれない。
その方々、考えが甘いですよ。
なぜならば、ワークの答えには、本当に答えしか書いてないのだ。
しかし実際のワークには考え方まで全て書かなければならない。
そこをごまかすことは不可能なので、真面目に考えるしかない。恐らくこれだけでも2時間は確実にかかる。後の時間を入れると・・・ダメだ。どう考えても、天地がひっくり返っても不可能だ。猫の手も借りたいくらいだ。といっても親父もお袋も今日は夜勤で、家に帰っても誰もいないという辛い現実が待っている。それだけでも俺は非常に悲しい。
とか言ってるうちにようやく平らな道に出た。これを真っすぐ行って、小さな階段を上れば、念願の我が家、つまりゴールが見える。
「よっしゃあ!やっとあと少しのところまできたぞ。ここまで来たら一気に行くぞ!」
と俺は気合いを入れて、少し走り始めた。
ダッダッダッダッダッ・・・
誰もいない森に俺の足音だけがこだまする。
ダッダッダッダッダッ・・・
ガッ!
やばい。何かにつまずいた。俺の体が一瞬宙に浮いたのが分かったが、もう遅かった。
ズザザザザザザザッ!
俺はまだ舗装されていない土の道にヘッドスライディングしてしまった。しかも昨日雨が降っていたこともあり、路面はぐちゃぐちゃだ。俺の制服は見るも無残なほどどろどろになってしまった。
「あーあ、やっちまったよ・・・。トホホ。」
俺は半ば無茶だったが泥を払い落とし始めた。落ちない。むしろ手が汚れ始めた。だから俺は仕方ないので、そのまま歩き出そうとした。
しかし俺は一つだけ気になった。この何もない道で、俺は一体何につまずいたんだ?いや、単なる小石か何かだろう。よくある話だ。別に気になることは・・・いや待てよ。それだったらいくら走ってたとはこんなにも中途半端にどろどろになるはずはない。
そうである。俺の制服はなぜか上半身しか汚れてないのだ。不思議すぎる。いくらなんでも非現実的だ。だからこそ俺は物凄く気になって、後ろを振り向いた。
そこには俺の膝丈くらいの結構大きめの箱が転がっていた。そしてそこには・・・
「この箱開けるべからず。いや、開けるな。」と書いてあった。
二度も念を押す必要がどこにある?俺はそう思った。
その時俺は、妙にこの箱を開けたくなった。こうやって二度も念を押しているということは、よっぽど大切な物が入っているに違いない。俺はそういうのはどんどん開けたがる性分だ。
だから俺はその箱に近づこうとしたが、それをぐっと堪えた。開けたい!けれども開けてる時間を無駄にしたくない!理由は簡単だ。このままでは宿題が終わらない!早く家に帰って課題を始めなくては、ミッションコンプリートにならないではないか!そこしか俺の頭の中には入っていなかった。
だから俺は箱を開けたい気持ちをぐっと堪え、家の方向に駆け出した!
ダッダッダッダッダッ・・・。
俺の目の前に小さな階段が見えてきた。家はもうすぐである。
ダッダッダッダッダッ・・・。
俺は階段を猛スピードで駆け上がった。それはもう自分の中では神懸かっている気分でさえあった。世界記録も夢じゃないぜ!俺は不思議とそう思えてきたのだった。
ザザッ。
つ、着いた・・・。こんなに短時間で家に着いたのは初めてかもしれない。そのくらいこの状況は奇跡に等しかった。だから俺は感慨に浸りそうになった。
しかしミッションはまだ終わってなんかいない。ここからが大事なのだ。感慨に浸ってる暇などない。この中間マージンを少なくしなくては、徹夜が見えてくる。
俺はドアに近づきながら、家の鍵をかばんのポケットから取り出して鍵を差し込んだ!
ガチャッ!
ギイイイイィィィィ・・・。
この音も俺が小さい頃から続いていて、よく怖くて泣いたものである。すごい懐かしい。
「ただいま〜!」
誰もいない部屋に俺の声がこだまする。壁に反響したせいで、不思議と切なくなった。
だから俺は家の鍵を閉めようと(昔から両親によく言われていて、今でも忠実に守るようにしている)扉のドアノブに手をかけ、ドアに鍵をかけようとしたその時だった!
ガッ!
あれ?いくら壊れかかっているとはいえ、閉まらなかったことはない。俺は必死にドアを閉めようとした!
ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!・・・
だ、ダメだ。どうやっても閉まらない。それにしてもさっきからこんなにガッ!ガッ!ってひっかかるモノは一体何なんだ?
不思議に思った俺は扉の周りを見て回ることにした。一秒で見つかった。
扉の閉まる部分の所に、なぜかさっきの箱が挟まっているではないか!何でこんなでかい物体に気付かなかったんだよ!
しかしこの不思議な箱との出会いが、壮絶な戦いの始まりとなることを俺はまだ知る由もなかったのだった。
To be continued...




